圧巻のトリックで迫る!オカルトミステリ「亡者は囁く」。

元刑事の探偵・槇野と捜査一課の「鉄仮面」刑事・
東條有紀が、島根と東京を舞台に「幽霊画」にまつわる
連続猟奇殺人事件を命懸けで暴いた、「可視(み)える」に
続き、二人がまたもやオカルト的事件に巻き込まれる、
シリーズ第2弾「亡者は囁く」を読みました。

「25年前に一度だけ会った女性を探して欲しい。名前は深水弥生」・・。
盲目の天才女性バイオリニストの依頼を受けた、探偵・槇野は、早速
捜査に乗り出す。

25年前、そのバイオリニストは盲導犬を引き取りに行こうとした。
ところが台風にあい足止めされた。仕方なく宿泊した宿で
同じように足止めされた女性と相部屋になった。
その女性こそ深水弥生だった。
弥生に自分がここにいると恋人のサタケユウスケという男性に
伝言してほしいと懇願されたが、犯罪に巻き込まれるのでは?
という恐怖心から、深水弥生との約束を反故にした。

調査を進める内に、深水弥生の恋人・サタケユウスケが
4年前に起きた平和島の事件で殺害されたことを突き止めた
槇野は、その事件の詳細を調べ直すために、警視庁捜査一課の
東條有紀に協力を求めた。

平和島の事件は犯人が自殺したことで、終わっていた。
深水弥生を探すべくさらに調査をすすめた結果、
平和島事件の犯人と似た状況で自殺していた人物が浮かびあがってきた・・・。

シリーズ2作目にして、登場人物のキャラ設定も完成されていて
読んでいて安心感がある。
探偵・槇野のぶっきらぼうな態度の裏に隠された優しさに
心が癒される。槇野と妻とのやりとりは、凄惨でオカルト的
展開を見せる本作品の中で、唯一心安らぐシーンだ。

そして今回目を瞠るのは、謎の提示方法とトリックだ。
バイオリニストに依頼された人探しと平和島事件。
この二つの接点が合わさった時、何か見えてくるのでは?
と期待しつつ読むが、なかなか事件が見えてこない。
これほど事件の概要がつかめないミステリも珍しい・・・。
だから、どう転がるのか?眠るのももったいないと
思うくらい読み続けたくなるのだ。

圧巻は、謎の回収と事件のカラクリに迫る殺害方法の
トリックを見破ったあたり!
え!?こんなトリックだったのか!と息を呑む。
凄い。誰も思いつかない!絶対に。

怒涛のクライマックスはいきなりやってくる!
覚悟して読んでほしい。

『亡者は囁く』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂(本格ミステリー・ワールド・スペシャル)
価格:¥1,800(税別)

心をざわつかせる、衝撃度MAX!サスペンスミステリ「代償」

生きている内に絶対に出会いたくない邪悪な心を持つ人間。
伊岡瞬さんが描く、「代償」にはそういう人間が登場する。

優しい父と美しい母に育てられ、人を疑うことを知らない
純粋な心を持つ少年・圭輔は、遠縁にあたる達也という
同学年の少年と出会った。

小学生の時の不幸な事故をきっかけに、達也の家族と
暮らすようになった圭輔。幸せに過ごした頃から一転。
過酷な思春期を送った。
そんな圭輔だったが、成長してから弁護士となった。
ところがある日、とうの昔に忘れ去っていた
達也から、弁護の依頼が舞い込んだ。
無実の罪で逮捕されたので弁護してほしいとの旨が
記されていた・・・・。
弁護を引き受けざるを得なくなった圭輔・・・。
しかし、そこには巧妙な罠が仕掛けられていた・・・。

うわべは人懐っこく優しいが、一皮むけば
モンスターへと変貌する邪悪な人間。
自分は一切手を下さず、人の心をざわつかせる言葉を吐き
相手を追いつめる・・・。

人の心を弄ぶ悪魔のような人間と、平凡な青年との対比。
そして、追いつめられ崩壊寸前の圭輔の心理が、
臨場感たっぷりに描かれていて、読んでいると心が
冷えてゆくような感覚に陥る。
自分はこんな人間に出会えばどうなるだろうかと
想像してしまう。しかし本当にこんな人間は
存在するのだ。

こんな人間をいかにして追いつめるのか・・・?
ラストに用意されたまさかの展開に息を呑む!

この作品は、小栗旬主演でドラマ化されています。

『代償』
著者:伊岡瞬
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥800(税別)

アニメ化大好評!バチカン奇跡調査官シリーズ最新作「二十七頭の象」

アニメ化され、大好評の「バチカン奇跡調査官」。
シリーズ最新作は、ロベルトと平賀のほかに、
イタリア警察のカラビ二エリ・アメデオ大尉&
美貌の心理捜査員・フィオナが登場!!
今回は、フィオナの魅力が全開です。

アメデオ大尉とフィオナが悪魔が絡む事件を追う!
結構、怖かったです・・・・。

バチカン美術館にある絵画の前に、マリア様が
現れて、予言をするらしいとの噂が囁かれていた。
ロベルトと平賀は、早速その真偽を確かめるよう
命じられた。
2人はその噂の元を手紙でバチカンに知らせてきた女性に
会いに行った。
彼女のスマホに謎のメールが映像添付で送られてきていた。
その映像は、バチカンの2人が見ても目を瞠るほどの
衝撃の内容だった!

一方、ローマ郊外の町では不可解な事件が頻発していた。
十字路に描かれた奇妙な紋章の上で連続して変死体が
見つかったのだ。
カラビニエリのアメデオは、必死で捜査をしていた。
その現場で、心理捜査員のフィオナと出くわす。
フィオナの行動が全く把握できない、アメデオは
警戒感を抱くが、二人で捜査を進める内に、
事件が起きる前に「悪魔のようなもの」を
見たと証言する目撃者が現れた。
オカルト的な現象が全く信じられないアメデオは、
またまた、難事件にぶち当たったと頭を抱えた。

マリア様の予言と連続変死事件。彼らが抱える
2つの謎は、やがて世界を混乱に陥れてゆく・・!

とうとう本物の悪魔の登場か!?

今回は、フィオナの変人っぷりが面白くて小気味よい!
また、ぶっきらぼうなアメデオが意外と家族思いで
子どもたちにものすごく優しいということがわかる。
さらに、ローレン失踪の真相が明らかに!!

面白怖い!シリーズ最新作です。

『バチカン奇跡調査官 二十七頭の象』
著者:藤木稟
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)

胸がしめつけられるほどの感動!「神(カムイ)の涙」

「神(カムイ)の涙」を読んで、アイヌという言葉を
久しぶりに耳にした。
自然を顧みず、便利すぎる生活を謳歌する私たち。
本当に人間らしい生き方ができているのだろうか・・・?
アイヌの人のその潔い生き方に感銘を受けた。

北海道、屈斜路湖に暮らすアイヌの木彫り作家・平野と
中学3年になる孫の悠。
平野が山に籠っているときに、若い男が訪ねてきた。
尾崎と名乗る青年は、平野に弟子にしてくれと懇願する。
平野は断固拒否していたが、周囲に説得され尾崎は通いの
弟子になる。
料理の腕前も良い、しっかり働く尾崎に悠はすっかりなついてしまった。
尾崎を警戒していた平野も信頼を置くようになる。
そして、彼ら3人は平和な日々を送っていたが、ある日突然破られる・・・。

尾崎は何のためにここにやってきたのか?
尾崎には誰にも言えない秘密があった。

尾崎の過去を振り返りつつ、現在の物語と交互に
描かれている。時計の針を戻しながら尾崎の秘密が
あばかれてゆく。

アイヌが差別されていると、この本で知った。
アイヌのプライドを持って、自然を敬い自然と共存する平野。
自分のルーツを捨て去りたい、孫の悠。
自らのルーツをたどる尾崎。

差別とは、家族とは、いまを生きることとは何か?を問う。

自然と神を崇拝し、今、自分に与えられた試練を
受け入れる。自分を信じる。身体に流れている
血を信じる。人は変われるんだ・・・。

クライマックスは著者流のバイオレンスな展開が待ち受けうるが
読み終わると涙が止まらなくなる。

こんなに泣けるサスペンスは久々に読んだ。

『神(カムイ)の涙』
著者:馳星周
出版社:実業之日本社
価格:¥1,600(税別)

圧倒的臨場感!まるで映画!「新東京水上警察・朽海の城」

吉川英梨さんの「新東京水上警察」シリーズ
第3弾は「朽海の城」。

日本が誇る、超豪華客船「セレナ・オリンピア号」
の処女航海中に起きる事件!

五港臨時署の熱血警部補・碇拓真らが
東京湾を舞台にハリウッド映画さながらの
活躍を見せる。

超豪華客船「セレナ・オリンピア号」が
世界一周のクルーズを終え、神戸で東京都知事・
鷲尾賢一郎を乗せ、最終寄港地・横浜へ
向かう頃、警視庁五港臨時署に衛星回線で匿名通報が
届いた。「そこに死体が浮かんでいる」!?

発見された遺体には、頭に斧が突き刺さっていた。
匿名通報の発信元は、「セレナ・オリンピア号」の
船内からだった。
そして被害者の身元は、「セレナ・オリンピア号」で
働く技術者だった。

ところが、「セレナ・オリンピア号」でも乗客が
焼身自殺するという事件が起こっていた。
さらに、都知事の周辺に怪しい男の影がちらつく。
都知事を守るSPは、牧田警部補。
碇とは同期の警察官だ。牧田はその男をマークする。

美貌の海技職員で碇の恋人・有馬礼子が、
遺体に刺さっていた斧は、「セレナ・オリンピア号」が
進水式を行った時に使用された支鋼切断用の斧だと指摘した。

碇はすぐさま犯人のメッセージをつかんだ。
「セレナ・オリンピア号を調査しろ!」と。

物語は、冒頭の超豪華客船「セレナ・オリンピア号」
のセレブなシーンから、斧の刺さった死体という
まるで映画のワンシーンを彷彿させるほど、衝撃的だ。
ここでもう心が鷲掴みにされる。

碇たちが乗り込んだ「セレナ・オリンピア号」では
次々と事件が起きていた。
それは幾重にも仕組まれた陰謀なのか?。
碇たちの必死の捜査によって、真相が明らかになってゆく。

やがて、「セレナ・オリンピア号」は、犯人たちの
陰謀に従って暴走を始めた!
東京湾を舞台に、碇たちと犯人との攻防が続く。
そして海上では暴走した超豪華客船が何千人をも
巻き込む凶器と化していた!

映画化すれば、ハリウッド映画をも凌駕する
海上スペクタクルになると思う・・・。
「新東京水上警察」シリーズ第3弾は
とんでもなく面白い!シリーズ最高傑作だ!

『新東京水上警察 朽海の城』
著者:吉川英梨
出版社:講談社(文庫)
価格:¥740(税別)

「SROⅦ」シリーズ最新作!シリアルキラーの後継者

大人気の警察小説シリーズ「SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室」
第7弾が発売されました。
前回のⅥから待ちに待った最新作です!

Ⅵでは、SROの面々が命懸けで最強の
シリアルキラー・近藤房子を逮捕した。
SROの副室長である芝原麗子は、近藤の罠に
はまり顔に大けがを負ってしまった。
それでも、芝原は近藤に戦意を喪失させるほどの
ダメージを与えた。
そして、近藤房子は東京留置所特別病院に入院した。

新宿で闇金業者が殺害された。その現場から亀戸で
遺体となって発見された少年の指紋が見つかった。
SRO室長・山根新九郎は、法歯学の見地から少年の
発育に遅れがあったのだ知った。
なぜ、殺害現場に少年の指紋が残っているのか?
そしてその少年はなぜ殺されたのか・・・?
謎が深まる事件だ。
その事件の捜査のため、科警研の夏目を頼った。
SROチームの面々はそれぞれ個人的悩みを
抱えながら、捜査を続けた。

かたや、瀕死の重傷を負った近藤房子は
SRO室長・山根新九郎と芝原麗子から取調を受ける。
まだまだ傷の痛みが残っている近藤だったが、2人からの
取調をのらりくらりとかわしていた。
そんな状態の近藤が興味を持ったのは、毎日ひどく
落ち込んでいる一人の担当看護師だった。
シリアルキラーである近藤は、たくみに人の心に入り込む。
人の共感感情をくすぐり、自分の味方に引き寄せるのだ。
近藤は自分の後継者として、彼女にターゲットを絞る・・・。

今回の「SRO」のテーマはひどく重い。
児童虐待、ネグレクト、介護問題、詐欺、不倫・・・。
人の心を疲弊させる現代の日本が抱える大きな問題。
その苦しみや心の疲れが澱のようにたまると
殺意が芽生えてくる・・・。
身近に起こりうる社会の闇。
その闇にはまり光を見失った時、人はどうなるのか?
人は、感情の一線を越えると、こうまで歯止めが
効かなくなるのかと・・・・。
あらためてその恐ろしさに気づく。

冒頭の不穏なシーンの描写は、明らかに重大事件の予感。
そこからの展開に呑み込まれてしまう。しかも別方向からの
さらなる不穏のアプローチ!!
いったいこれはどう繋がるのか!?
いっき読み必須の警察ミステリ。

『SROⅦ 警視庁広域捜査専任特別調査室 ブラックナイト』
著者:富樫倫太郎
出版社:中央公論新社
価格:¥880(税別)

徐々に姿を現す、神!その正体は!?「クランⅤ警視庁渋谷南署巡査・足ヶ瀬直助の覚醒」

警察内部に巣食った巨大な闇と警察の正義を
全うしようとする、密命チームとの激烈なる闘いを
描いた、「クラン」シリーズ第5弾。
「クランⅤ 警視庁渋谷南署巡査・足ヶ瀬直助の覚醒」。

前回は、上郷の機転により渋谷スクランブル
交差点でのテロを防ぎ、事件に関わる警察官を
大量検挙した「クラン」。
神の前に素顔をさらし、彼らを挑発した上郷。
その暴挙に、神&警察閥はついに本格的な
宣戦布告を行使する。

アジトに残ったクランのメンバーは、上郷、岩沢、川内、晴山、
ワイズ、平津戸、そして足ヶ瀬巡査、彼を頼る少女ミチュ。
だが、ソンシが行方不明だった。

そんな中、上郷は残ったクランのメンバーの結束を
はかるため、自分自身の過去。そして「神」と警察閥の関係と
その恐ろしさを説く。
川内はその話をどうしても信じることが出来ない。
彼にとっては、身内同士で争うことこそ悪だと思って
いるからだ。正義はいったいどこにあるのか?

全ての黒幕である「神」の魔の手は、ついにクランの
メンバーへ迫る!
次々と消える仲間たち。そして敵にまわる日本警察!

追いつめられるクランの仲間たち。上郷一人が冷静に
事態を把握していた。
絶対説明の窮地の中、川内たちは敵の中枢に迫っていた。
次第に明らかになる警察閥の面々と、「神」の使徒・
裏理事官の正体!

だが抵抗もそこまでだった・・・。
またもや警察官が犠牲になったのだ。
誰が味方で誰が敵なのか?もう誰も信用できない・・・。

そして、今まで沈黙を守り続けていた、足ヶ瀬直助が
瀕死の仲間を抱きながら、ついに自分の使命に気づき
覚醒する・・・!
刑事たちに残された秘策とは?

最終局面に向け加速する次回、6巻に続く!

『クランⅤ 警視庁渋谷南署巡査・足ヶ瀬直助の覚醒』
著者:沢村鐡
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥700(税別)

今までにない展開!おぞましさ半端ない!「鬼を纏う魔女」

吉田恭教さんのオカルトミステリ、探偵・槇野&鉄仮面女性刑事・
東條刑事シリーズのスピンオフ作品「鬼を纏う魔女」を
読みました。

吉田恭教作品にすっかりはまってしまったのです。
「鬼を纏う魔女」は、鬼に魅入られ狂ってしまった
人間たちのおぞましさが描かれています。

婚約者に裏切られ、自殺を決意した美貌の女性は
富士の樹海に入っていった・・・。

山梨県警に死体遺棄事件の連絡が入った。
雑木林の中から地中浅く埋められた女性の遺体が発見されたのだ。
捜査一課の若き刑事、桐生は先輩刑事の宇津木らとともに
現場に向かった。
遺棄された遺体の身元はあっさり判明した。
その女性は東京の六本木でのクラブで働いていた。
桐生たちは早速六本木へと向かう。

一方、警視庁捜査一課の鉄仮面刑事・東條有紀は、
ヤク中による通り魔事件の捜査をしていた。
4人の被害者があったが、一人だけ生き残った。
病院に搬送されたが、生存の確率は5分5分。
若く美しい女性だが、その胸には、鬼の入れ墨が
施されていた。しかもその女性の持ち物は、
赤外線暗視スコープに携帯用GPS、ブラックライト。
この女性は何をしようとしていたのか?
東條は、この女性の身元を探ることにした。
まず、入れ墨からだ。彫師を探すため、
元組対刑事で現在は探偵業に励む、槇野に連絡をとった。
槇野から紹介された彫師に聞くと、女性の胸に
施された鬼の入れ墨は、その筋でも有名な彫師だった。
だが、その彫師はマンションから飛び降り自殺を図ったという。
東條は、女性の入れ墨と謎の持ち物、彫師の
自殺が偶然の一致でないと感じる。
東條は、さらに女性の戸籍を調べると不可解な記載に行き当たる。

鬼の伝説が意外なものと繋がり、おぞましい展開となる。
その恐ろしさは幽霊どころの比ではない。
狂った人間の所業こそ一番恐ろしいと言える。
その禁忌に焦点を充てたこの作品。
おぞましいけど、面白い。どんどん面白くなってやめられなくなる!!
しかし!!読み進むと、全身が総毛だちます!

『鬼を纏う魔女』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂
価格:¥1,800(税別)