周囲の人の推理力がアップする驚愕展開!「ワトソン力」

大山誠一郎さんの
ドラマ化された『アリバイ崩し承ります』。
時計屋の女性店主が鮮やかにアリバイを
崩し、事件解決に導いた短編が収録され
とても楽しめた。

それに続く最新刊は、彼がそこに
いるだけで、周囲の人の推理力が
驚異的にアップする、異色の
推理短編!『ワトソン力』!

自分が監禁されていることに気づく
主人公。誰が?何のために?

警察官の和戸栄志は、
目立った手柄をたてたわけでも
ないのに、なぜか警視庁
捜査一課に所属している。

それは、和戸に周囲の人間の
推理力を大幅にアップさせる
不思議な力「ワトソン力」が
備わっているからだ。
彼のおかげで捜査一課の事件の
検挙率は100%!

孤島の館で起きた主人殺人事件
の気になる真相!

暗闇の展示会場で起きた彫刻家
殺人事件。犯人は来場者の中なの?

富豪の令嬢を巡るパーティーで
プロポーズする男性の一人が
毒殺された!誰が青酸カリを
ワインに混入したのか?

雪の日の不可能犯罪。

飛行機内での不審死。

推理劇の脚本家が倒れた。
彼が入院中に、劇団員たちは
未完成の脚本の推理を始める!

バスジャックされたバス内の
死体。バスジャック犯の仕業
なのか?

そして、監禁された和戸は、
自身でその謎を解き明かす
ことが出来るのか?

たまたま事件現場に居合わせた和戸。
彼が刑事だとわかっても、周囲が
勝手に推理を繰り広げる。
その過程が非常に面白く、ワクワク!

緻密に練られたクローズド
サークルで起こる殺人事件。
見事なまでの伏線回収で、
思わず「なるほど!」と膝を
打ちたくなる!

推理好きにはたまらない、
異色の短編集!

とても面白かったです!

『ワトソン力』
著者:大山誠一郎
出版社:光文社
価格:¥1,500(税別)

天久鷹央シリーズ長編第4弾「火焔の凶器」に唖然!

天久鷹央シリーズの長編第4弾
「火焔の凶器」を読みました。

前作「甦る殺人者」に続き、
この作品も超難事件ですよ~。

天医会総合病院の統括診断部で
働く小鳥遊(たかなし)優は
またしても、上司の天久鷹央
が興味を持った事件に巻き
込まれてしまった!!!
天才的頭脳を持つ女医・天久は、
謎が大好き。真相を明らかに
しないと気がすまない。
解決するまで付き合わされる。

今回の事件は、平安時代の
陰陽師・蘆屋炎蔵の墓を
調査した大学准教授が不審な死を
遂げたことから始まる。

翠明大学日本史学科教授・室田が
「陰陽師の呪いを解いて欲しい」
と天医会総合病院の統括診断部
部長・天久のところへやってきた。

陰陽師・蘆屋炎蔵の墓の調査
をした他の准教授たちが、次々
と不審な死を遂げたのだ。
室田は次は自分が死ぬのではないか
と不安におののいていた。
実際に、墓の調査をした後から
体調不良に悩まされているらしい。

小鳥遊は呪いなんかあるわけない、
と思うのだが、天久は興味深々で
とうとう陰陽師の墓を調査する
はめに・・・・。

その後、体調を崩した室田が
救急搬送されてきた!
当直だった小鳥遊は、室田を
診察するが、その最中いきなり
室田の体から炎が上がり、室田
が焼死してしまう!

警察から殺人の容疑をかけらる
小鳥遊を何とか救おうと、天久が
必死に調査をする。

人体がなにもなくいきなり発火する
わけがない。何かある。
しかし、天久はなかなかその原因を
突き止めることができない。
明らかにこれは殺人・・・?。
いったい、誰が、何のために?
陰陽師の呪いが真実であることを
証明するためなのか?
怪しい人物が次々と現れる中、
天久はとうとう真実を突き止める。

しかし、その真相はあまりにも
切なく悲しいものだった。

呪いの裏にある真実と
人体自然発火という前代未聞の殺害
方法に眼を見張る!

現役医師だからこそ描ける、本格医療
ミステリ、思う存分堪能できます。

『火焔の凶器 天久鷹央の事件カルテ』
著者:知念実希人
出版社:新潮社(新潮文庫nex)
価格:¥630(税別)

誘拐事件に巻き込まれた被害者家族を支援!「警視庁犯罪被害者支援課7 空白の家族」

堂場瞬一さんの警察小説シリーズの
中で特に好きなシリーズ。
7作目に突入しました。

今回は、人気子役が誘拐されたことで、
壊れた家族の苦悩が浮き彫りになる。

人気子役の少女が誘拐された。
しかし、少女の父親は10年前に起こった
大規模な未公開株詐欺事件で有罪と
なった男だった。
村野は支援課に配属になる前に
その男と対峙したことがある。
自分が助かりたいために仲間を
全部警察に売った男。
村野は男に嫌悪の感情しか抱けなかった。

男は詐欺事件を起こしたことで、妻とは離婚。
妻と娘は、妻の父親の家で暮らしていた。

男は娘が誘拐されたことを知り、
娘の家までやってきていた。
村野は男に帰るように説得するが・・・。

村野は、その経緯を知っている、上司・
芦田に誘拐事件の支援から外される。

杉並中央署管内で火災が発生し、
一人暮らしの女性が亡くなった。
村野は杉並中央署の依頼で、被害者
家族の支援に入った。
夫に連絡したが、妻とは関係ないと
言い張っているらしい。
息子に間に入ってもらい、父親の説得を試みた。
女性は、息子が自殺したあとから
新興宗教にのめり込み、夫と別居することに。
頑なに妻を拒む男。

村野は、バラバラにになってしまった
家族に接し、果たして支援と言えるだ
ろうかと思い悩む・・・・。

一方、誘拐の方は犯人からの連絡が
途絶え、家族はもとより警察も
焦りが募っていった。

シリーズを重ねるごとに犯罪被害者支援課
メンバーの苦悩は増してゆくようだ。
様々な理由で壊れてしまった家族の姿が
描かれ、胸に迫る。

そして、誘拐事件の捜査の末にたどり着いた、
あまりにも哀しい真実・・・・。
読んでいて辛くなった。

この回で心が癒されたのは、
「アナザーフェイス」シリーズの
大友刑事が村野を励ますシーン。

犯罪被害者家族に寄り添う、支援課の
面々の活躍が今後も気になる!

『警視庁犯罪被害者支援課7 空白の家族』
著者:堂場瞬一
出版社:講談社(文庫)
価格:¥840(税別)

事故の隠蔽を命じられた元刑事の苦悩!「事故調」

以前から気になっていた作家さん。
伊兼源太郎さん。
実業之日本社「警視庁監察ファイル」
シリーズを読んで、とても面白ったので、
文庫新刊「事故調」も読みました。

組織の原理と己の正義のはざまで
苦悩する元刑事。
彼の葛藤が胸に迫りました。

自分の不注意で尊敬する先輩刑事を
死なせた過去をもつ、元刑事の黒木。

そんな過去を背負いつつ志村市職員
として再スタートした。

ある日、人工海岸を散歩していた親子を
悲劇が襲った!
散歩中、砂場がいきなり陥没し、10歳の
少年が落ちた。
救急搬送されたが、意識不明の重体に。

事故調査を任された黒木だったが、
市のトップから事故の隠蔽を命じられる。

そんな市には市民からの苦情が続々と入る。

黒木は、当時の人工海岸工事の担当者
に聴取するが、他人事で逃げられる。
さらに工事関係者を調べるが、
責任のなすりあいに終始。

黒木は忖度と怠慢にまみれた市政の
腐敗に眼を閉じ、組織に従おうとする。

しかし、刑事時代に同期だった男から、
逃げるのか?と指摘される。
黒木は、組織の原理と自分の矜持の間で
心が激しく揺れ動く。

市は、砂場が陥没することをずっと
前からわかっていたのではないか?
市に責任はないのか?

そんな黒木の逡巡する心に正義の灯
をつけたのは、被害者家族の切実な
想いだった。

そして、黒木は自らの手で市への
信頼を回復させる決意をする。

組織の腐敗に立ち向かうヒューマン
ドラマであり、誰が真実を知って
いたのかという、犯人探しも描かれた
社会派ミステリーでもある。

あらためて、自分はどうだろうと
考えさせられる。

『事故調』
著者:伊兼源太郎
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥780(税別)

話題の探偵コンビ再び登場!!「その裁きは死」

一昨年、様々な海外のミステリーランキングで
7冠を達成した「カササギ殺人事件」。
衝撃的面白さでミステリーファンを狂喜させた。

さらに、ホロヴィッツ自身が作品に登場
し、元刑事の偏屈探偵・ホーソーンと
コンビを組んだ「メインテーマは殺人」。
この作品も昨年ミステリー業界に旋風を
巻き起こした。
誰もが、このコンビの続編を待ち望んだ!

そして9月!ホロヴィッツ&ホーソーン
コンビが「その裁きは死」で再び登場!
ひゃ~待ってました!!!

ホロヴィッツは、自身の脚本のドラマ撮影
に立ち会っていた。本番撮影中、無遠慮に
タクシーが止まりホーソーンが降りてきた。
ホロヴィッツは彼の無神経さに怒り心頭!
ホーソーンはそんなことおかまいなく、
ホロヴィッツを無理やり事件に巻き込んだ。

離婚専門の弁護士リチャード・プライス
が殺害された。
被被害者は、自宅で顧客から贈られたワイン
の瓶で頭を殴打された後、割れた瓶を喉に
突き立てられて死んでいた。
現場の壁には乱暴に描かれた数字「182」。
被害者が殺される直前に残した謎の言葉。

被害者は不動産業者の離婚した元妻と
資産分配について揉めていた・・・。

早々に犯人と思しき人物が登場するが、
二人が関係者に聴取してゆくと、疑わしい
人物が次々と現れ、複雑な様相を呈してくる。

そして、いつものことながらホーソーン
は秘密主義を通し、ホロヴィッツは彼に
翻弄され続ける。
その間、ホロヴィッツは事件を担当する
女性警部に脅されスパイになれと強要されたり、
大変な思いをすることになるのだ。

緻密に配置された数々の謎。
それらが徐々に回収され事件の輪郭が
浮かび上がった時、予想をはるかに
上回る真実に唖然とする!

周囲の空気を全く読む気がない「超」
KYだが、卓越した推理力で事件の真相を
暴く探偵・ホーソーンとミステリドラマの
人気脚本家でありながら、自虐と思わせる
ほど作中で無能さをアピールするホロヴィッツ。
この魅力的なコンビの活躍にはまる!
最高級の面白さで迫る犯人当てミステリーの
傑作!

次の作品があれば、早く読みた~い!

『その裁きは死』
著者:アンソニー・ホロヴィッツ著/山田蘭訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,100(税別)

美少女が次々と呪われる!?「うるはしみにくしあなたのともだち」

「ぼぎわんが、来る」「ずうのめ人形」
「などらきの首」など比嘉姉妹シリーズ
で話題になった、澤村伊智さんの新刊
「うるはしみにくしあなたのともだち」
を読みました。

美少女が呪われ、顔がくずれていく!
学園を舞台にした、切ないホラーミステリー。
女子ならこの気持ち少しわかる?

四ツ角高校三年二組中、一番の美少女で
人気もあった生徒・更紗が突如自殺を遂げた。
いじめを疑われたが、更紗に限ってそんな
ことは一切ない。
遺書もなく、更紗を崇拝するクラスメートが
真相解明に動き始める。

しかし、更紗の死をきっかけに、美少女で
人気のある女子生徒が見えない力によって、
次々と容姿を傷付けられていく・・・・。

担任の小谷舞香は、クラスを恐慌状態に
陥れたこの異変の真相を探るうちに、
この地域に伝わる「ユアフレンド」という
奇妙なおまじないの存在を知る。
自身の教育に対する思いを反省すべく、
事態の収拾を図ろうとするが・・・!

クラスカースト上位に君臨する美少女に
対する呪いの復讐劇。
マウンティング最下位の女子の仕業なのか?

残酷な怪異現象とおまじないという
ホラー小説の怖さと、二転三転する犯人像、
巧みなミスリードなど犯人当てミステリー
小説の面白さが相まってグイグイと
読ませられる!!

美人の女の子に呪いをかけたくなるほど
辛くて、彼女たちに憎悪しか抱けない
女の子たちの気持ちや心の叫びが胸に
突き刺さる。

『うるはしみにくしあなたのともだち』
著者:澤村伊智
出版社:双葉社
価格:¥1,600(税別)

日本初の女性海保潜水士の勇気と挑戦を描く!「海蝶」

「53教場」「警部補・原麻希」「東京水上警察」
「十三階の女」シリーズなど大人気の警察小説
を描く、吉川英梨さんの最新刊
「海蝶」(講談社)を読みました。

女性初の海保潜水士「海蝶」の活躍と成長を描く物語。
2年にわたり、海上保安庁を取材。
この作品を描きたいという吉川さんの並々ならぬ
情熱が伝わってくる、熱い熱い作品です。

中学生の時、東日本大震災で母を失った忍海愛。
父親も兄も潜水士という家庭で育ち、
いつしか、海保潜水士を夢見るようになる。
しかし、父からも兄からも潜水士になることを
反対されていた。

だが、愛は決してあきらめることなく無事に
潜水士となり、周囲の期待に応える。

愛の理解者はただ一人、震災後に母を探し
求めていた時に出会った、海保潜水士・八潮。
チームの中で、唯一愛のバディを引き受けて
くれた。

メディアからも注目された、初の業務は、
沈没した漁船の捜査だ。
乗組員の女性はすでに救助され、愛の父の元で
保護されていた。
しかし、その女性は記憶喪失で
沈没の原因や船の名称などわからず、
海に潜って調べるしかなかった。

ところが、愛は潜水中バディの八潮に連絡する
ことなく勝手な行動をしてしまう。
そして、まだ完全に沈没しきっていない船の中に
閉じ込められてしまうのだった・・・。

男性ばかりの職場で、ただ一人女性が
働くということの厳しさや、そんな職場で
女性に対し戸惑う男性の姿も非情にリアルに
描かれていて、危険が伴う職場での
任務の厳しさよりがいっそう強く伝わってくる。

また、沈没船を巡る謎は、サスペンスミステリー
として読みごたえ満点で、終盤のどんでん返し
には目を見張る!

愛の勇気と覚悟、家族の絆、母の言葉
父の思い、兄の気持ち・・・。
そして潜水士としてのプライド。

読み進むごとに、涙があふれそうになり、
ラストシーンの素晴らしさは言葉にならない。

この本のテーマである「正義仁愛」の
の本質を描いた、この秋最高に感動する傑作。

『海蝶』
著者:吉川英梨
出版社:講談社
価格:単行本:¥1,760(¥1,600+税)
    文庫:¥924(¥840+税)

メイントリックが最初に明かされる!?「殺しの双曲線」」

西村京太郎さんの「華麗なる誘拐」に
続き、「殺しの双曲線」を読みました。

トラベルミステリーに移行する前に
描かれた、陸の孤島の密室殺人ものです。
アガサ・クリスティの
「そして、誰もいなくなった」に
挑戦した本格ミステリーで、
さらに、興味深いのはこの作品の
メイントリックは双生児であることを
利用したと最初に断っているところ。

通常ならネタバレになりそうですが、
推理小説のタブーである、双生児の
替え玉トリックを利用する場合は
読者に対しアンフェアになるため、
あえてそれを予告したということ。

どんな展開なのか?
ワクワクしつつ読みました。

差出人不明の招待状が6名の男女に届けられた。
それは東北の山荘への招待状だった。

不信感を抱きながらも、多少豪華な
旅行が当たったと思い、彼らは
その山荘に集まってきたのだ。
それは、美しい銀世界にたたずむ洋館。

ところが、彼らの到着直後から、
雪上車の故障、電話線の切断など、次々と
不運なことが襲い連絡手段の一切が断絶。
陸の孤島に閉じ込められてしまう。

そして、招待客は次々と何ものかによって
殺害されてゆく。
雪に覆われた山荘には、誰も近づくことも
逃げることも出来ない。
そうなると、誰が殺害の犯人なのか?
招待客の誰かが犯人ということに・・・。
彼らは互いに疑心暗鬼に陥る。

同じころ、東京では双生児による連続
強盗事件が発生していた。
犯人は明らかなはずなのに、決定的な
証拠がなく逮捕できない!
警察はその知能的犯罪に翻弄されていた。

双生児の替え玉トリックだと最初に
断っているにも関わらず、
犯人の目的、殺害動機、どんなトリックが
使われているのか?一向に見えない。
そして、双生児による強盗事件と
山荘の連続殺人・・・。
これらの関係は!?

あえてメイントリックを明かしたことで
読み手はさらに著者に翻弄されたのではないか?

簡単にはトリックの謎は解けない。
まんまと騙された、その快感がたまらない作品。

「華麗なる誘拐」に勝るとも劣らない、西村
作品初期の屈指の名作。

『殺しの双曲線』』
著者:西村京太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥800(税別)