海外ミステリーの醍醐味!「ハリー・クバート事件」

以前から読みたいと思っていた海外ミステリー。
2014年の「このミス海外編」にランクインした、
「ハリー・クバート事件」。
この週末にいっき読みしました。

小説なのに、読んでいるとドキュメンタリを
読んでいるような錯覚に陥る。
斬新な手法を用いて最後の最後まで読者を翻弄した
凄いミステリー。

ハリー上巻

ハリー下巻

デビュー作が大ヒットし、若くして巨万の富と名声を手にした新進作家・マーカス。
次回作も期待され、ゆっくりと構想を練るはずだった!
しかし、半年たっても、一年が過ぎようとしても一向にアイディアが浮かばず、
マーカスは窮地に陥ってしまう。
そんな彼は、大学生の時に人生の師として仰いだ、
大作家・ハリー・クバートの元へ向かった。
ハリーはオーロラという小さな田舎町の大学で教鞭をとっており、
地元の皆から尊敬され、愛されていた。

2作目が全く書けず、このままでは出版社から
契約を切られそうなマーカスをハリーは暖かく迎えた。
マーカスはハリーの元で2作目を描こうと決意する。

そんなとき、ハリーの自宅の庭から33年前に行方不明になっていた
少女の死体が発見される!
そしてハリー・クバートは逮捕された。
マーカスはハリーの無実を信じ、33年前に何が起こったのか?
独自に調査を開始する。。

ハリーはず~っと独身で通していた。その理由は驚くべきものだった。
ハリーの自宅の庭から発見された遺体は、失踪当時15歳だったノラ。
そしてハリーの恋人だったのだ。
33年前、ハリーは30代前半で、15歳の少女に恋をした。
それは許されない恋だった。
だが二人は深く愛し合い、当時マーカスと同じようにライターズ・ブロックに
陥っていたハリーをノラはひたすら励まし、ハリーの事だけを想っていた。
しかし、ハリーは15歳のノラを愛してしまった自分を責め、
二人の関係に終止符をうつべきかどうか葛藤していた。
かたや、ノラの方はハリーとの暮らしを夢見ていた。
結局、二人は別れることなど出来ず、誰も知らない場所で暮らす計画を立て
町を出ることにした。
そして、二人が落ち合うその日にノラは失踪する。
なぜノラは約束の場所に来なかったのか?
何かあったに違いない。自分だけを愛したノラは決して裏切るはずはない。
そう信じて、ハリーはただひたすらノラを待ち続けた。33年間ずっと・・・・。

マーカスに地元警察の刑事が加わり本格的に捜査をすると、
33年前には明らかにされなかった事実が次々と浮上!
疑惑の人物もあがってきた。
だが、疑問が次々と浮かび上がってくる・・。
ノラが失踪当時なぜ警察はもっと深く捜査しなかったのか・・・?

上巻はハリーとマーカスの関係、ハリーとノラの純愛が
描かれる。さらにマーカスたちが調べ上げた事実が、
物語のあちこちに張り巡らされる。
下巻は、張り巡らされた事実が、時系列に整えられ
やがて真相に繋がってゆくという斬新な手法。
2転3転どころではなく、暴かれた事実にさらにかぶせるように
次々と新事実が暴露される。
一体誰がノラを殺したのか・・・・?本当に最終章までわからない。

最終的に真犯人がわかるまで、これほどワクワクして読んだミステリーはない。

『ハリー・クバート事件 上下』
著者:ジョエル・ディケール/橘明美(訳)
出版社:東京創元社
価格:上下各¥1,600(税別)

本当に邪悪なのは誰・・?「邪悪な少女たち」

海外のイヤミス界に新星登場!?とあとがきで紹介されています!
アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞を受賞した
アレックス・マーウッド『邪悪な少女たち』。

「言葉にならない結末 圧倒的、哀しさ」という帯の文言に
惹かれ思わず手に取りました。

読み終わった後、なんと切ない・・・なんと苦しい、
こんな結末があるのか!?とやりきれない思いになってしまいました。

邪悪

11歳の時、4歳の少女を殺害した二人の少女、アナベルとジェイド。
アナベルは裕福な家で育ち、名門学校に通っていた。
片やジェイドは貧困家庭に生れ、読み書きができない。
そんな二人は偶然出会い、悲劇に見舞われたのだ。
だが、二人は前代未聞の邪悪な少女たちのレッテルを
貼られ、親兄弟たちからも見捨てられる・・・。
そして二人は、別々の矯正施設へと送られる。
やがて、成長した二人はそれぞれ別の人生を歩むことになる。

アンバーは遊園地の清掃部の責任者で、恋人と同居中。
清掃部の部下とも円満。毎日の出来事の中で多少不満はあるが
過去を鑑みると、充分幸せと言えた。
一方、カースティは新聞記者。愛する夫・ジムと二人の子どもたちに
囲まれ充実した日々を送っている。
時に、記者仲間と飲み過ぎ、夫に怒られて自己嫌悪に陥ることはある。
失業中の夫にこれ以上心配事を増やさないように断酒を誓う日々だ。

ある日、アンバーが働いている遊園地で少女の変死体が発見された!
第一発見者は、アンバーだ。
だが、アンバーは発見者になるのを極度に恐れた。
また、同じ頃、アンバーの部下で美人のジャッキーが
ストーカーに付きまとわれていた。
そんなジャッキーをアンバーは自宅に匿うことに。
しかし同居するアンバーの恋人・ヴィックはあまり良い顔を
しなかった・・・。

新聞記者のカースティは、この少女殺害事件を取材するために
遊園地へ赴く。
そして、そこでアンバーと出会ってしまったのだ!

二度と会ってはならない二人が少女殺害事件を機に再び出会ってしまった!

過去を捨て、別人として生き直していた二人。
過去は絶対に誰にも知られてはならない。
宿命を背負った二人にやがて再び訪れる悲劇。
悲劇へと向かう二人の女性の心の葛藤!
その心理描写には舌を巻く。
彼女たちの鼓動、吐息、慟哭が手に取るようにこちらに伝わってくる・・・。
そして二人の過去の物語は、衝撃的な少女二人の逮捕劇から
始まり、やがてなぜ4歳の女児を死なせることなったのか?
が巻き戻されて真相に繋がってゆくのだ。
二つの悲劇がひとつに重なった時、さらなる悲劇を呼ぶ!

つらい、苦しい、罪を犯したものは絶対に許されない!
そんな著者の叫びが聞こえてきそうなほど胸を締め付けられる!

このイヤミスを読むには相当の覚悟がいりますよ。

『邪悪な少女たち』
著者:アレックス・マーウッド著/長島水際訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
価格:¥1,100(税別)

幻の名作!究極のホラーミステリー「血の季節」

この度、幻の名作として復刊された『血の季節』の著者は
あの名作ミステリー『弁護側の証人』の著者、小泉喜美子さんだ。

『弁護側の証人』は、強烈な大どんでん返しで、
古今の読者の度肝を抜いた法廷ミステリー。
これの初出は、昭和38年。著者のデビュー作でもある。
小泉さんはこのあと、女流ミステリー作家として活躍!
さらに、海外のミステリ作家(P・Dジェイムズなど)
の作品の翻訳も手がけた。

『血の季節』はなんと、吸血鬼伝説がテーマになっている
ホラーミステリーだ。
ホラーと言ってもそれほどの恐ろしさは無く、
むしろ、切なくなると言った方が良いかも知れない
女性ならではのタッチが素晴らしく、格調高い。

血の季節

昭和五十×年、女児殺害の容疑で一人の男が逮捕された。
男は、まじめで知的、凶暴な面はなく、罪を逃れる
ために嘘をついたりしない、物静かに刑の確定を
待っていた。男の弁護士は何とか死刑だけは
免れさせてやりたいとの気持ちで、精神科医の権威に
男の再鑑定を依頼した。
弁護士は「どうもどこか正常ではないと思われるのに
どこがどう正常でないのか説明がつかず、医学的にも
法律的にも実証し得なかった」と言った。

そんな男に興味を持った精神科医は、その男が語る物語を静かに
聞きはじめる・・・。
40年前、男が小学生だった頃、ある国の公使館で金髪碧眼の
兄妹と交遊した非日常の想い出。
美しくはかなった彼らの母の死、そして、その母に
想いを寄せた、公使の部下。
やがて中学生になった男は、成長する友の妹の美しさに
惹かれ始める。だがある夏、彼らは避暑に出掛けたきり
帰国したらしくその後二度と逢うことが出来なかった。

戦争中に青年期を過ごしたと男は、奔放な友人の話に
はっとする。
友人は、男が子供の時通いつめた公使館の前を通ったら、
白い服の女性に抱き着かれ、いきなり首筋をかまれたという。
男はその友人に激しい嫉妬を感じた。
しかし、その友人は空襲で焼け死んでしまう・・・。

彼の語る物語は、狂気に満ちていた・・・・。
一体どこまでが本当なのか?それともすべて幻想なのか?
やはりこの男は頭がおかしいのか・・・?

男が語る物語があまりにもミステリアスで幻想的!
怪しい魔力に満ちていて、とても面白い!!
吸血鬼伝説をものの見事に現代の犯罪と結び付け、
さらに社会派の事件として描いた!
まさに、「吸血鬼+サイコパス+警察小説」(恩田陸)!

1982年に発表され、復刊希望が相次いだ、
幻の名作と言われたホラーミステリーの大傑作!復刊。

『血の季節』
著者:小泉喜美子
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥660(税別)

今度の捜査は命懸け!?『特捜部Q カルテ番号64』

デンマークの大人気警察小説シリーズ「特捜部Q」。
シリーズ第一弾「檻の中の女」第二弾「キジ殺し」の
二作品はすでに映画化され、本国デンマークでは大ヒット!
第三弾「Pからのメッセージ」も映画化されるだろうと思う。

このシリーズは、迷宮入りとなっている事件を、
コペンハーゲン警察のやっかいものだが超優秀なカール・マーク警部補他、
謎めいたアラブ人アシスタントのアサド、多分、多重人格が疑われる
女性アシスタント・ローセの三人がとことん捜査し真相を解明してゆく警察小説。

そしてシリーズ第四弾は『特捜部Qカルテ番号64』。

特捜部Qカルテ上
特捜部Qカルテ下

1980年代に起こったナイトクラブのマダムの失踪事件。
アサドとローセがこの事件を調査すると、ほぼ同時期に
5人もの行方不明者が出ていることが判明する。
カール・マーク警部補らは、大事件の可能性があると
判断し、本格的に捜査を開始した。
やがて、壮絶な過去を持つ一人の老女と新進政党の関係者が
浮かび上がってきた・・・。

1985年、一人の女性が失意のどん底にあった。
ある人物によって、不妊手術を施された女性は
愛する夫にその事実を知られ、夫から離婚を
迫られた!だが車内で言い争いをした時
交通事故を起こし夫が亡くなってしまう。

不幸のどん底に突き落とされた女性は、自分を
このような目に合わせた人物とその関係者に
復讐する計画を立てる・・・・。

1950年代、スプロー島には、‘ふしだら’あるいは‘軽度知的障害’
という理由だけで社会から排斥された女性たちを収容する‘監獄’があった。
島を出るには不妊手術を受けなければならない。
その制度に乗っかり、優生保護法を武器に次々と
不妊手術を繰り返す一人の婦人科医。
やがて、極度の選民思想を持つ、危険な思想集団の
トップに上り詰め、極右政党を立ち上げる。

カール・マーク警部補らは、失踪事件を追ううちに
この極右政党に突き当たる。
そしてアサドとローセはその中核へと迫ってゆく。

物語は、カール達が失踪事件を追う現代の物語と
女性の壮絶な過去の物語が交互に描かれる。
そして二つの物語は最後に一つとなり真相へと繋がってゆく。

スプロー島の収容所の壮絶な物語は現代から言えばありえない事実。
これほどの過去があるならば、復讐したいと思うだろう。
その理由に納得してしまうくらい酷い過去だ。
事実に基づく物語であるために説得力が半端ない。

そして、3人のチームワークは巻を重ねるたびに深くなってゆく。
今回は、極右政党の秘密を探る内にアサドが命の危険に
さらされる!それを悲しむローセの優しさに胸を打たれる。
色々と軽口をたたいている3人だが、すでに固い絆、
信頼関係で結ばれているようだ。

シリーズ4作目にして、最高傑作と言って良いと思う。
とても面白く、また悲しく切ない警察ミステリー。

『特捜部Q カルテ番号64』
著者:ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田薫訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
価格:上下各¥780(税別)

警察内部の巨大な闇との闘い「クランⅢ 警視庁公安部・区界浩の深謀」

[警察内部に巣食った巨大な闇と
警察の正義を全うしようとする、
密命チームとの激烈なる闘いを
描いた、「クラン」シリーズ第3弾。
「クランⅢ 警視庁公安部・区堺浩の深謀」。

クラン③

渋谷駅を襲ったテロ事件で、晴山はまたしても部下を失う。
助け出されたあとも、そのショックから抜け出すことが出来ずにいた。
一方、渋谷南署のベテラン刑事・岩沢は、テロ襲撃時「神」の声を
直接聞いていた。そんな岩沢に、密命チーム「クラン」の
区界が接触してきた。だが、警察上層部を信じられない
岩沢はクランへの参加を固辞する。

クランには公安部・区界、鑑識の綾織、晴山刑事、若き女性分析官の
ほか、なぜかアメリカのFBI捜査官も参加していた。
しかし、晴山と岩沢の微妙な対応に、一枚岩とも思われたチームの結束
に微妙な綻びが出始める・・・。

「神」と呼ばれる黒幕はテロ現場から姿をくらますが
その姿を目撃した人物がいた。
それは、岩沢の部下、足ヶ瀬巡査だった。
警視庁公安部の区界を中心にした捜査の末、
「クラン」の面々は「神」への足がかりをつかむことに成功する・・。
だが彼らの元に、再び恐ろしい事件の気配が―。

次々と起こる事件に、さすがの区界も敵の思惑を図れない。
焦る「クラン」チームにさらなる試練が!
チームの要、千徳光宣警察庁長官官房首席監察官のある決心だった!?

警察内部の巨悪VS密命チーム「クラン」との一進一退の攻防が
物語の面白さをMAXに押し上げる!!

「神」と呼ばれる人物の神業も気になるところ!!
「神」とは一体何者なのか?
次回、第4弾に期待!!!!

『クランⅢ 警視庁公安部・区界浩の深謀』
著者:澤村鐡
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥740(税別)

女性なら誰でも共感!芦沢央「今だけのあの子」

芦沢央さんは、「罪の余白」でデビュー。
デビュー作は映画化されました。

「罪の余白」は中学生のいじめがテーマ。
いじめにあい、学校のベランダから転落死した娘の
復讐を遂げようとする父親と、自分の罪をひた隠しする、
小悪魔な美貌の中学生との心理的攻防を描いたサスペンス。
人間の心に潜む深い闇をリアルに描き、読者を震撼させた。

そんな著者が描いた本作は、女性の友情の陰に隠れた想いを
情感あふれる筆致で描き、思わず共感、そしてハッとさせられる!
秀逸な連作短編。

「届かない招待状」
親友だと思っていた友人の結婚式に呼ばれなかった恵。
サークルの仲間にも真実を告げず、招待されなかった
結婚式に出席する決心をする。
自分以外のサークルの仲間はすべて招待されているのに
なぜ自分だけが呼ばれなかったのか・・・・?
なぜなぜなぜ・・・!!!疑心暗鬼は募り、その焦りは
自身の夫へも向かった。
この作品はすべての女性が一度は経験ありなのでは?
心の中で次第に膨らむ親友への憎しみ。
しかし、あまりにも予想外の真相でひっくり返る。
その真相が泣ける。

「帰らない理由」
中学生の喜多見瑛子と北見くるみは同じ卓球部。
切磋琢磨する二人は、ライバルでもあり大の親友だった。
全国大会の1回戦で強豪校にあたってしまったくるみを
瑛子は必死で応援した。だが、その応援席の写真を撮った
新聞部の悪意で、瑛子は裏切りものとレッテルを貼られた。
誤解を解きたい、くるみと仲直りをしたいと思っていた矢先、
くるみは交通事故で亡くなってしまう。
瑛子が後日くるみの家にお悔みに行ったとき、くるみと
つきあっていたという男子生徒と鉢合わせをする。
二人はお互いの胸の内を探り合う・・・。
二人には誰にも言えない秘密があったのだ。
思春期の女子中学生の心の襞を繊細な心理描写で綴る。
意外過ぎるラストにホッとする。

「答えない子ども」
評判のお絵かき教室に通う、直香と娘の恵莉那。
直香は娘の描いた絵を必ず写真に撮って残している。
それが親ばかと言われようと気にしない。
そのお絵かき教室には直香が苦手な母子がいた。
母親の方はかなり若く、雑であまり場の空気を
読まない、息子はその母に似てちょっと乱暴な所がある。
そんな母子と関わりを持ってしまうことに・・・・。
若干、神経質な母の苦悩が描かれる。
ママ友同志の関係に悩んでいるなら、かなり共感できる。

「願わない少女」
必ず合格すると思っていた名門校の試験に落ち、
不本意な高校に行くことになった、奈央。
教室で一人ぼっちは絶対に嫌だと思ったとき、
漫画家を目指す悠子と出会い意気投合する。
悠子と仲良くなりたくて自分も漫画を描いていると
嘘をついた。悠子に嫌われたくない一心で、必死
で漫画を描けるようになった・・・
ところが進路を考える時期になって、悠子の様子が
変ってきた。不安を覚える奈央・・・。
同性に対する羨望。そして嫉妬。裏切り・・・。
あらゆる思いがこの一編に凝縮されている。

「正しくない言葉」
夫と二人で入った老人ホーム。夫は活動的で
周囲の人たちと何かしら楽しんでいた。
そんな夫が亡くなった。亡くなる前、夫は妻に
「君とは絶対に相性がいい」と紹介してくれた親友。
その親友の息子とその嫁が何だか言い争っている。
嫁が言った「お義母さんとはもうやっていけない」
という一言が聞こえ、思わず声をかけてしまった・・・。
親友の息子の嫁の話をじっくり聞くうちに様々な事を
思い出してしまった。
熟年の女性同士の友情とはなんと心が温かくなるのか。
亡くなった夫への思慕が心にじわ~っと沁み込むような短編。

いずれの作品も、身近に起こる日常がテーマ。
だが、この著者にかかると、大事件に発展する!?
緻密で繊細な心理描写と大胆な構成力!で読者を物語の
世界に惹き込んだ行く。
読み始めたら止まらない!連作心理ミステリ。

『今だけのあの子』
著者:芦沢央
出版社:東京創元社
価格:単行本¥1,650(¥1,500+税)
   文庫¥814(¥740+税)

「撃てない警官」柴崎令司シリーズ初の長編「広域指定」

安東能明氏は『撃てない警官』に収録されている『随監』で
日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞。
その後、『撃てない警官』の主人公、キャリア警察官・柴崎令司を主人公に
『出署せず』・『伴連れ』と3作品を描きシリーズ化。
上記の3作品はいずれも秀作揃いの短編集だが、新刊の『広域指定』は初の長編。
このシリーズの長編、待っていました!

広域指定

出世街道まっしぐらだった柴崎令司は、部下の拳銃自殺の責任を
問われ、所轄の綾瀬署の警務課に左遷された。
その後は、所轄で事件が起こる度に呼び出され、捜査員のまね事を
させられる。捜査経験ものないのに便利に使われている状況だ。
女性署長の下、多少やりにくい面はあるが、信頼はあつい。
柴崎は洞察力が鋭く、そこいらの刑事と比較しても
事件の本筋を見極める眼を持っているようだ。

正月明けの10日、午後9時頃、綾瀬署に「小学生の娘が帰って来ない」
との一報が入った!
柴崎はすぐさま、高野朋美巡査らを現場に急行させた。
行方不明になった女児はまだ9歳。
事件か?事故に巻き込まれたのか?いったいどこへ消えた!?

そんな中、貴重な情報がもたらされた。要注意人物がこの管内に
住んでいるというのだ。その人物とは、5年前千葉県で女児誘拐殺人事件を
起こし、一度は自白したが一転否認。人権派弁護士とマスコミが
味方に付き、起訴されずに釈放された人物だった。

女児の早期保護を目指し、捜査の指揮を執る坂元真希署長は、
千葉県警に5年前の事件の資料を依頼する。
だが、千葉県警はこの未解決事件に触れてほしくない。
さらに、警視庁捜査一課が事件の主導権を奪おうと画策!
警察の面子にこだわり、肝心の女児保護が遅れると判断した
坂元署長は強硬手段に出る!

そして捜査の本線から外された柴崎と高野は、事件に奇妙な
違和感を感じ独自の捜査を始める。

女児保護のために、警察の正義を全うしようと
奮闘するリーダー、坂元真紀署長。
そして、被害者家族に寄り添う高野朋美刑事。
今回は女性刑事たちの活躍が目覚ましい!
しかし、管轄をまたぐ県警同士の軋轢や、上層部からの
横やりなど、警察内の暗部もリアルに描かれていて、
警察小説としての面白さが際立っている!
さらに、事件の真相はどんでん返しの様相で、
本格ミステリーのような面白さをも加味されている。

警察小説ファン、ミステリーファンも楽しめる
読み応えたっぷりの「超」傑作!!!

『広域指定』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥590(税別)