日本人探偵とアメリカ人刑事が活躍!異色の「バディ」もの。

堂場瞬一さんの「over the edge」と「under the bridge」
を読みました。

NY市警緊急出動部隊の分隊長、モーリス・ブラウンは、
大手IT企業のCEOから、日本へ派遣した上級
副社長・ホワイトの捜索を依頼される。
ホワイトとブラウンは戦友だったが、しばらく
連絡をとっていなかったので、ホワイトが日本へ
行ったことも知らなかった。そのホワイトと
突然連絡がとれなくなったらしい。
表向きは日本の警察の視察という名目で来日
したブラウンは、秘かにホワイトの捜索を始める。
しかし、動き始めた矢先、何者かに襲われる。
それを助けたのは元刑事の探偵・濱崎だった。

日本でのホワイトの失踪に事件性をかぎつけた
濱崎は、ブラウンを手伝うと言った。
ただ面白いからという理由に反感を覚えた
ブラウンだったが、外国で自由に動けない
こともあり、いつのまにか二人は手を組む。
「over the edge」

マンハッタンで発生した立てこもり事件。
日本人女性が人質になったが、無事に救出された。
その事件について上層部から捜査を依頼された
NY市警のブラウンは、事件を追うことに。
一方、日本を脱出しNYに潜伏した探偵・濱崎は、
解放された人質が旧知のヤクザの情婦だったことを
知り、その立てこもり事件には裏があるとにらみ、
濱崎とブラウンの二人は、今度はNYで同じ事件を
追うことに・・・。
「under the bridge」

ヤクザとの不敵切な関係を指摘され、警察官の
辞め、探偵になった濱崎は、何でも屋のような
仕事で日々暮らしている。
片や、軍隊で厳しい訓練に耐え、その後NY市警の刑事に
なったブラウンは、まじめでちょっと融通が効かない。
そんな二人が仲良く捜査をできるわけがない。

友人同士にもなれない、お互い分かりあえないが、
なぜかお互いを放っておけない。
そんな微妙な距離感を保ちながら、事件を追う二人。

警察小説としての面白さが十分に堪能できるうえ、
まじめなブラウンと斜に構えた皮肉っぽい濱崎の
異色の「バディ」ぶりがとてもかっこよく思える。
二人の軽妙な会話も楽しめる!
ハードボイルドタッチのミステリー。

①『over the edge』
②『under the bridge』
著者:堂場瞬一
出版社:早川書房
価格:①¥800 ②¥820(いずれも税別)

火龍の悪夢が再び江戸を襲う!『狐花火 羽州ぼろ鳶組』

じっくり味わって読んだ7巻「狐花火」。
とても切ない物語が心に響きました。
じわっと泣けました。

天才花火師と謳われた秀助。
しかし、花火の事故で愛娘を失いその衝撃で
最愛の妻は自ら命を断った。

事故の原因になった怠惰な江戸の火消に
復讐を誓い、秀助は江戸を焼いたのだった。

二年前、秀助は新庄藩火消頭取・松永源吾
と対決!捕えられ火刑になったはずだった!

しかし、今また秀助の仕業と思わせる火事が江戸で頻発。
水では消えない炎、噴き出す炎、そして自然発火…。

「火」を自在に操れるのは、秀助だけだ。
もしや秀助は生きているのか・・・?
誰もがそう思ったが、秀助は両腕を切りとられている。
一人では絶対に火付けはできない。
では、秀助の技を習得した者がいたのか?

松永たちは、江戸を守るため必死で下手人を探す。

そんな頃、番付狩りが横行していた。
江戸の火消したちに次々と降りかかる災厄。
また、麹町定火消・日名塚要人の怪しい動きが
松永たちを苛立たせる。

そして、秀助の手口と酷似した大火災が江戸を襲った!

秀助の後継者にまつわる謎、
日名塚要人の真の目的とは何か?
大火災はなぜ起こるのか?
数々の謎に向き合いながら、松永たちは、大火災と闘う!

松永たちが火付の下手人を追う現在と
秀助の過去が交互に描かれるが、その過去の物語が
切なすぎて心に突き刺さる。

『狐花火 羽州ぼろ鳶組』
著者:今村翔吾
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥760(税別)

「虚構推理」の世界がもっと楽しめる!「虚構推理短編集」

以前、タイトルに惹かれ手に取った、長編「虚構推理」。
鉄骨を振るい人を襲う亡霊「鋼人七瀬(こうじんななせ)」
のミステリーを一眼一足の美少女が解決するという
奇想天外な設定に驚愕した。

その「虚構推理」の短編集を発見!
一眼一足の美少女・岩永琴子の推理が存分に楽しめる!!!

怪異たちに知恵を与える巫女になった、
一眼一足の美少女・岩永琴子。
怪異たちからおひい様と呼ばれる、一風変わった女の子だ。
そんな彼女には心強い相棒がいる。
永遠に死なない恋人・桜川九郎だ。

岩永のもとへは、妖怪や幽霊たちから相談が持ち込まれる。

例えば、何百年生きる水神の大蛇から、自分が棲まう沼に
他殺体を捨てた犯人の動機は何か・・・?とか。

うなぎ屋で、店の客の一人に妻殺害の真相を暴いたり・・・。

孫を交通事故で失った男の怒りと無念の心が、
木の人形に宿り、その人形の暴走をとめてとの依頼。

日本に一台しかないギロチン台から、持ち主の
殺人の謎を解いて欲しい!?

山奥で化狸がつくるうどんを食べたために、
たまたまアリバイが出来ちゃった殺人犯に
嘘の真実を創ることになったり….。などなど。

琴子は、これらの事件や相談事を完璧なロジックで
解明し、最善の方法で導く凄い巫女。

そして綺麗に収まる話もあれば、背筋が凍る
ラストが待っている短編もある。

全て虚構の世界のお話なのに、いかにも
現実にありそうっぽく描いている。そこにとても惹かれる。

なんだか妖怪、怪異たちの方が人間らしく
描かれているところがとてもユニークだ。

私たちが普段見ている世界は、この世のほんの
一部分で、この虚構と言われる世界が
実はあるのではないか?と思ってしまう。

琴子の九郎の距離感の描き方もとても素敵。

もっと「虚構」の世界を堪能したいと思わせる短編集だ。

『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』
著者:城平京
出版社:講談社(タイガ文庫)
価格:¥720(税別)

驚愕のトリックに瞠目!「扼殺のロンド」

「十三回忌」がとても面白く、探偵・海老原の
キャラに惹かれ、続いて「扼殺のロンド」を
読みました。

小島先生の作品は、非常に凝ったトリックが
随所に散りばめられているので、読み進める
のが楽しい。

倒産した自動車工場で壁に激突したと思われる
車があり、その中から男女の変死体が発見された!
女性は腹から胃腸を抜き取られ、男性は高山病で
死んでいた。
鍵のかかった工場内、車の方はぶつかった衝撃で
ドアも窓も開かない。
犯人は如何にして犯行に及んだのか?

静岡県警の小沢刑事と笠木刑事らが捜査を
進めると、死んだ二人は姉川家のいとこ同志だと判明。

そしてその後も、姉川家の親族が次々と「密室」で
不可解な死を遂げていく。

その不可解さに刑事たちはもうお手上げ状態だ。
いったいどうやって・・・・。
そんな時、海老原が笠木のもとへやってきた。
難事件が起きた時、どこからともなく現れる、
風のような探偵だ。

そして、海老原は「密室」のトリックを
暴いてゆく…。

これでもかというくらい「謎」が仕掛けられ、
さらに凝ったトリックに圧倒される。
この謎とトリックの着想は、ひときわ異彩を
放っている。
ほんとに凄いミステリー小説!

次は「武家屋敷の殺人」(講談社文庫)に挑戦!

『扼殺のロンド』
著者:小島正樹
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥694(税別)

知念実希人さん幻のデビュー作!そして原点「レゾンデートル」

今や人気シリーズもあり、著作多数。医学系の
ミステリー作品がほぼベストセラー入り!
そんな知念実希人さんのデビュー作「レゾンデートル」
を読みました。

読み始めてから、その衝撃的な内容に驚愕
しながらも、場面展開のうまさにぐいぐい
引き込まれ、気がついたら読み終わっていた!
そんな感じでした。
主人公たちの切なく悲しい運命に、泣けて
しまいました。

「レゾンデートル 存在理由」。
悲運の主人公はそれを手にすることが出来ただろうか。

末期癌を宣告された医師・岬雄貴は、自暴自棄に
なり、酒浸りの日々を送っていた。ある日、何気なく
ぶつかった不良たちに因縁をつけられ、暴行を
受ける。雄貴はその復讐のためだけに生きようとした。
そして、復讐を遂げるが、現場には一枚のトランプが
残されていた。

そのカードは、世間を騒がせている連続殺人鬼
「切り裂きジャック」のものと同じだった。
その後、切り裂きジャックと名乗る男から
ある依頼を受けた雄貴。ジャックとの奇妙な関係が始まる・・・。

家出同然で上京した南波沙耶は、風俗系のカメラマン佐川の
モデルをしていた。
ある日、親友の恵美からペンダントを預かる。
その後、佐川の他殺死体が見つかり、親友の恵美も何者かに
殺されてしまう!

切り裂きジャックによる連続殺人、カメラマンと少女の死。
雄貴と沙耶。
そして、事件を追う刑事!

パズルのピースのように、バラバラだった事件がやがて
ひとつに繋がったとき、ありえない真実が姿を現す!

デビュー作とは思えない傑作!

『レゾンデートル』
著者:知念実希人
出版社:実業之日本社(文庫)
価格:¥759(税別)

女の恐さを思い知る!「ウツボカズラの甘い息」

検事・佐方貞人シリーズの他にも、女性を主人公
としたサスペンス作品を描く、柚月裕子さん。

美しくなりたい、男性から良く思われたい、
お金持ちになりたい!他の誰よりも幸せだと
思われたい!など女性の欲求は果てしない。

家事と育児に追われ、自分自身を顧みることが
出来なかった専業主婦の文絵は、ある日
趣味で応募していた懸賞に当たり、ある大物
タレントのディナーショーへ行った。

そこで中学時代の同級生・加奈子に再開する。
中学時代は地味で目立たなかった加奈子だったが、
美しく変貌し、文絵は全く気づかなかった。

文絵は幼いころ、太っていたためいじめにあい、
中学校進学と同時に転校。そのために必死に
ダイエットをし、近所でも評判の美少女になった。
イジメの過去を知らない中学校の同級生たちは、
文絵の美しさを褒めた。

加奈子に再会し、高級化粧品のビジネスに誘われた
文絵は、中学校時代の自分に戻るべく美しさに
磨きをかける…。
家事育児以外にも生きがいと大金を手にした文絵。

しかし、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として
突然逮捕されてしまう!

無実を訴える文絵だったが、事情を知る加奈子は
姿を消し、さらに詐欺容疑もかけられてしまう。

全ては文絵の仕業なのか?それとも?

あくなき欲望に身を捧げ、破滅へと向かう女性。
人を騙し続け、自身が生き残るためならば
手段を選ばない女性の恐ろしさを描く!

柚月さんには珍しい、嫌ミスの傑作!

『ウツボカズラの甘い息』
著者:柚月裕子
出版社:幻冬舎(文庫)
価格:¥770(税別)

新たな妃嬪登場!『紅霞後宮物語 第十幕』

後宮小説でいま一番ハマっているシリーズの
最新刊、「紅霞後宮物語第十幕」を読みました。
第九幕より新章に突入し、後宮内での新たな
展開にワクワクしています。

司馬氏が追放され、新たな政敵が動き出す前に
文林の政権を確固たるものにする。
そのために、小玉が育てた鴻が皇太子となった。

だが、司馬淑妃の息子・鳳についてある噂が
囁かれていた….。

皇族である、琮尚書の引退が決まり、新たな
皇族の官吏を登用する必要があった。
そこで十数年前に引退した茹王を復帰させた。
併せて彼の長女も後宮に入ることになった。

しかし、長女は病弱だったため、後宮入りを
前に亡くなってしまう。
その代わりに庶子である妹の茹仙娥が新たな
妃嬪として迎えることになった。

病弱な姉を親身になって看病を続けたという
逸話を聞かされ、小玉はじめ、紅燕や真桂も
感動する。しかも後宮では何事もそつなくこなす
仙娥に他の妃嬪たちから一目置かれるが…。

仙娥の出現で、後宮はどう動く?
さらに、仙娥は小玉の味方になるのか?
敵にとなるのか?

波乱含みの展開に、続きが気になる!

益々面白くなる、後宮小説の傑作シリーズ!

『紅霞後宮物語 第十幕』
著者:雪村花菜
出版社:富士見L文庫(KADOKAWA)
価格:¥600(税別)

お祓い師・鬼龍光一&安倍隆景と少年事件課の富野刑事が活躍!『呪護』

今野敏先生の大人気警察小説シリーズの最新刊「呪護」です。

お祓い師・鬼龍光一&安倍隆景と警視庁少年事件課の富野刑事が
常識では考えられない事件を解いてゆく、オカルト系警察小説。

シリーズも「陰陽」「憑物」「鬼龍」「豹変」(角川文庫)
番外編で「パラレル」(中公文庫)が発売されていて、
とても面白いシリーズ。

さてさて新作「呪護」も相変わらず面白い!

都内の私立高校で、傷害事件が起きた。
男子生徒が、男性教師を刺したのだ。
身柄はすぐに拘束され、男子生徒は取調を受ける。
男性教師と女子生徒が淫らな行為を行っている
ところを目撃した男子生徒は、女子生徒が襲われて
いると思い、思わず教師を刺したと言う。

警視庁少年事件課・富野刑事は、現場に居合わせた
女子生徒に事情を聞くと、男子生徒の供述とは
違う奇妙な話をした。

富野の中に違和感が生まれる…。

刺された男性教師が入院している病院へ向かう富野の前に
お祓い師の鬼龍光一と安倍隆景があらわれた。

この二人がいるということは、この事件は常識では
解決できない事件ということだ….。

富野はまたしても、ありえない事件に首を
突っ込むことに….。

このシリーズの最大の魅力は、祓い師の鬼龍と安倍の
漫才のように軽妙な会話。そしてその二人に振り回される
富野刑事というキャラ設定だ。
さらに、事件の背景が陰陽師系の裏歴史にまつわる
もので、表に出ている歴史好きにも非常に興味深く
読ませる、今野先生の博識さが際立っているところだ。

祓い師の二人曰く、富野はナガスネ彦やアビ彦のトミ氏の
末裔で、二人より位が上で、こんな事件を呼び寄せて
しまうのだという。

今回の事件も、背景には陰陽師系が絡んでいるようだ。
江戸幕府と平将門伝説の関連性、北斗七星と魔法陣、
さらに山手線の秘密など、わくわくする要素が
盛りだくさん。
そしてこの要素が事件とどう繋がってゆくのかが
最大の読みどころ。

そして今回やっと、富野刑事を理解する刑事が現れる。
この手の話に目がない、強行犯係の橘川だ。

新たなキャラも加え、規格外の面白さで迫る
オカルト系警察ミステリー!

『呪護』
著者:今野敏
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,700(税別)