格調高いミステリー「開かせていただき光栄です」の続編「アルモニカ・ディアボリカ」

皆川博子さんの「開かせていただき光栄です」があまりにも
面白かったので、続編があると知り早速読みました。

「開かせていただき光栄です」で姿を消した
エドのナイジェルの消息もわかります。

アルモニカ

18世紀の英国。愛弟子のエドとナイジェルが姿を消して5年が経過した。
ロンドンの病院で外科医として働くダニエル・バートンは、いまだに失意の
日々にいた。ダニエルを敬愛する、弟子のアルたちはダニエルに
気遣い、他の仕事に就いていた。
アルは、盲目の判事・フィールディングに依頼され、
「ヒューアンドクライ」という犯罪情報紙の編集者になっていた。
創刊号が刷り上がり、フィールディングのもとへ届けようとした
そのとき、広告掲載を依頼する男が訪ねてきた。
その男は、逓信大臣・ダッシュウッドの遣い、勲爵士の
ジャガーズと言った。
広告掲載の内容は、閉鎖した坑道のなかで発見された屍体の
情報を求めるものだった。
そして、その屍体の胸には「ベツレヘムの子よ、よみがえれ!
アルモニカ・ディアボリカ」という謎の暗号が印されていた。
それは、別れ別れになった、かつてのバートンズの仲間たちへと
繋ぐ、恐るべき事件の幕開けだった・・・。

衝撃的な物語の幕開け、随所に張られた伏線、
美しい音楽と虐げられる人々。
人の優しさ、それとは真逆の人を人とも思わない
恐ろしい輩が登場する。
それらが見事に絡み合い、前作を凌ぐ面白さだ。

日本人が描いたとは思えないほど、18世紀の
英国ロンドンとそこに息づく人びとを活写。
素晴らしい本格ミステリー。

『アルモニカ・ディアボリカ』
著者:皆川博子
出版社:早川書房
価格:¥1,900(税別)

人はこうして壊れるのか!?「ロウフィールド館の惨劇」

ルース・レンデルの作品はあまり多く読んでいないけれど、
この「ロウフィールド館の惨劇」を読んだ後の
衝撃は忘れられない!

追いつめられた人間がいかに恐ろしいかを、サスペンスの女王
と言われたレンデルが、丁寧な心理描写で描く傑作!

ロウフィールド館

ユーニス・バーチマンは、有能な家政婦だ。
だが彼女に絶対に人に知られたくない秘密があった。
彼女はその秘密が奉公先の家族に知られ、家族全員を惨殺する・・・。

彼女の仕えるカヴァデイル家は、典型的な英国の支配階級だ。
有能なユーニスは家族から信頼されていた。
だがユーニスは自分の秘密がいつばれるかと心配し、
日々追いつめられていた。

そんな時に出会ったジョーン。
ジョーンを嫌悪しながらも、奇妙な友情を築く二人。
ユーニスはジョーンと出会ったことで、次第に
今まで耐えていた負の感情が表に現れるようになる・・・。
そして、ささいなことがきっかけで、ユーニスは凶行に及ぶ!

彼女の凶行の動機は今の日本では考えられないもの!
その動機を著者は冒頭で暴露している。

しかし、冒頭の衝撃が過ぎ去ると、いかにその秘密を
隠し、家族の中で演技をしていたのか?がぜん興味が
わき、夢中で読んでしまう。
冒頭の動機と凶行から遡って読んでいくと、ユーニスが
いかに壊れて行ったのか?また、人間が壊れ行く過程が
丁寧に淡々と描いてあり、とても恐い。

海外ミステリーの醍醐味が味わえる、さらに衝撃の
展開は読みだすととまらないいっきに読める
超!傑作!
フランスで映画化されている。

『ロウフィールド館の惨劇』
著者:ルース・レンデル
出版社:角川書店(文庫)
価格:¥552(税別)

面白さグレードアップ!法医昆虫学捜査官シリーズ最新作!「水底の棘」

『よろずのことに気をつけよ』で江戸川乱歩賞を受賞した川瀬七緒さんの
大人気警察小説シリーズ『法医昆虫学捜査官』は、早くも3作目に突入しました。
タイトルは「水底の棘」です。

シリーズ3作品中一番面白いです!

水底の棘

警察捜査のお手伝いもしている、昆虫学者の赤堀涼子は
市の調査依頼を受けて江戸川区の河川敷の虫を捕獲していた。
ところが、虫の奇妙な行動に従い、東京湾の荒川河口まで
行くと、屍肉にたかるハエを見つける。!そこで、無残にも
虫たちに食い荒らされたと思われる男性の遺体を発見!
だが、その遺体は、虫だけでなく、動物による損傷も激しく、
身元特定は困難を極めた。
解剖医と鑑識は、絞殺後に川に捨てられたと推定。
しかし、赤堀はまったく別の見解を打ち出した。

岩楯警部補と相棒の鰐川はじめ捜査本部は被害者の
所持品から、赤堀は虫と微物からそれそれ捜査を開始した・・・。

今回は赤堀自身が遺体の第一発見者となった。
その責任感からなのか、いっそう調査に熱が入る。
岩楯警部補は冷めた目で見ているが、鰐川は妙に
赤堀になついている・・・・ように見える。
赤堀&岩楯警部補の絶妙のコンビネーションは変わらず!
毎回、相棒に変化をつけ、読者を楽しませてくれる。

虫たちだけなく、被害者の変ったタトゥーからも
捜査は行われ、詳細なタトゥーの取材が活きている。
さらに、赤堀を悩ませた微物。
虫の行動ならお手のものだが、どうしても微物の謎が解けず、
赤堀は頭を悩ませる・・・。

今回は珍しく赤堀&岩楯も決定打がなかなか出ず
最後の最後まで真相に行きつくことが出来ない・・・
だが執念の捜査でついに・・・。

捜査過程で、高慢な解剖医にNOをつきつけ、死因を
ひっくり返したり、その場の空気など読めない?読まない?
赤堀のしつこさが際立った調査方法はナイスジョブ!!
だが、岩楯&鰐川が命の危機にさらされることもあり、
クライマックスはジェットコースターなみの展開!

ストーリー&キャラクターの個性に益々磨きがかかった
とんでもなく面白い警察ミステリー!!!!

『水底の棘 法医昆虫学捜査官』
著者:川瀬七緒
出版社:講談社
価格:¥1,500

心霊探偵八雲シリーズ番外編の最新刊「祈り柩」

心霊探偵八雲シリーズの最新刊は「ANOTHER FILES 祈りの柩」。
このANOTHER FILESのシリーズは本編のとは違う味わいがある。

今回は後藤刑事の苦悩が描かれて、違う一面が
見られて嬉しい。

八雲祈りの柩

八雲のもとに、また幽霊騒動の相談が持ち込まれた。
町の外れにある泉で、水面から這い出てきた幽霊に遭遇して以来、
友人の女の子が謎の歌を歌い続けているというのだ。
早速、八雲と晴香はその女の子が入院している病院へ。
そこで八雲は彼女に霊が憑依していると判断するが、
憑依している霊からは何も感じ取ることが出来なかった。

一方、後藤刑事は警察関係者の孫が、悪霊から殺人予告を受けているという
案件を調べる中、ある人物と運命の邂逅を果たす。
その人物とはかつて後藤の相棒だった元刑事・桐野だった。
そしてそれをきっかけに明らかになる封印された後藤の過去。
さらに、教会で起こる密室殺人。
後藤の過去と事件の真相は、人々に何をもたらすのか!?
八雲に持ち込まれた幽霊騒動は、
語られることのなかった後藤刑事の過去へとつながっていく!

この、ANOTHER FILESは番外編のシリーズ。
前作は、石井刑事の物語がメインだった。
今回は後藤刑事の物語。
本編では誰に対しても怒鳴る!八雲にはバカにされる
ダメダメな暴力刑事の印象が強かったが、
この物語では、元相棒だった桐野との再会で
後藤の封印された過去が明らかになる。
そしてそれは後藤にあらゆる感情の変化をもたらすのだ。
その過程が非常に丁寧に描かれていて、後藤刑事ファンには
たまらない1冊と言える。

また、このシリーズでは脇役に徹する、八雲と晴香。
出会って1年くらいの期間が描かれているが、すでに
八雲が勝手に仮住まいにしている映画研究会の部屋で
安心してくつろぐ晴香の姿が微笑ましい。
さらに、いつもだったら霊の訴えを敏感に感じ取る八雲だが、
今回は霊との交流もままならない八雲の姿が描かれて
ストーリーも複雑。そんな謎解きも楽しめる。

八雲と晴香、後藤と石井、いつものシチュエーションも
読めば何となくホッとする!大好きな八雲ファミリーです。

『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 祈りの柩』
著者:神永学
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥640(税別)

格調高い医学ミステリー「開かせていただき光栄です」

皆川博子さんの「開かせていただき光栄です」(早川書房)
を読みました。
2012年版「このミステリーがすごい!」国内3位!
第12回本格ミステリー大賞受賞
第16回日本ミステリー文学賞受賞 など
輝かしい記録を樹立した、傑作ミステリーです。

日本人でありながら、18世紀のイギリス・ロンドンを舞台に
登場人物もすべてイギリス人という設定。
海外本格ミステリーにまさるとも劣らない傑作ミステリー。

開かせていただき

18世紀ロンドンが舞台。
死体解剖専門の外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。
四肢を切断された少年と顔を潰された男。
戸惑うダニエルと弟子たちに、盲目の治安判事・フィールディングが
捜査協力を要請する。
捜査過程で遺体の少年は、夢を抱いて田舎から出てきた詩人志望の
ネイサン・カレンではないかと思われた。
そして、フィールディングは、背後に詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる
様々な思惑があったことを知る・・・。
さらに、ダニエルの弟子のエドモンドとナイジェルは、ネイサンと交流が
あったことを打ち明ける・・・。
フィールディングは、二人に疑惑の目を向ける。
解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。
そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む。

産業革命さなかの街の喧騒の様子が詳細に描かれ物語に引き込まれていく。
世間知らずで人の好いダニエル医師。彼に助けられた、エドとナイジェル。
そしてほかの弟子たち。ダニエルを思い、弟子たちが奮闘する姿が
切ない・・・。
その中で起こる連続殺人事件に巻き込まれていいく弟子たち。
早いうちから犯人として名乗りを上げた者たち。
しかし、フィールディングは納得しつつも謎多き点を追求する。
いったい真実はどこのあるのか?殺人か?自殺か?事故か?
すべては偽装なのか?様々に入り乱れる憶測・・・
しかし、クライマックスの衝撃と感動は半端ない!

文庫には前日譚を描いた短篇を併録。
表紙の美しさにもノックアウトされます。

『開かせていただき光栄です』
著者:皆川博子
出版社:早川書房
価格:¥1,800(税別)
   文庫版:¥900(税別)

女性刑事・原麻希、新シリーズ登場「警視庁女性犯罪捜査班」

「アゲハ」「スワン」「マリア」「エリカ」「ルビイ」の
「女性秘匿捜査官・原麻希」シリーズに新シリーズが
登場です!
タイトルは「警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希」
吉川英梨著。

女性刑事が主人公の警察小説でも群を抜いて
面白かった「女性秘匿捜査官」シリーズ。
5作品で終わってしまい、残念だなあと思っていたところへ
嬉しい新シリーズ。

今回は、女性だけの捜査班が誕生し、原麻希はそこで警部補となって
活躍する。
班長の蔵本織江を筆頭に、原麻希警部補、増岡亜矢子、星野夢美の4人。
猪突猛進の原麻希をチームの面々がサポート!

原麻希新

奥多摩で陶芸家の一家惨殺事件が起こった。
著名な陶芸家、妻、双子の娘が惨殺されたのだ。
姉の方は人気アイドル。
犯人は、アイドルの娘のストーカーか?
アイドルの姉を妬んだ妹の犯行か?
陶芸窯の跡取り争いなのか・・・?
容疑者が絞りきれないまま捜査は進む。
そんななか、麻希は捜査の進行状況が
真犯人によって仕組まれた方へと進んでいることに
気が付く。

女性犯罪捜査班に異動になった、原麻希。
愛娘の菜月も中学進学のための受験勉強で
忙しく、また反抗期に突入し益々気難しい。
そんな娘との関係で悩む麻希の姿も描かれ、
前シリーズからの自然な流れがファンにはとても嬉しい。

事件は真犯人のミスリードにより、捜査は停滞する。
そして捜査を攪乱するかのごとき原麻希の意見は
捜査本部と衝突!!
女性犯罪捜査班は窮地に立たされる・・・。
警察は、知能犯の犯人を追いつめることが出来るのか?

新たなシリーズでの原麻希の活躍がまたまた面白い!
そして真犯人と原麻希の対決は圧巻です!!

『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』
著者:吉川英梨
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥590(税別)