記者&刑事異色コンビの活躍!シリーズ第5弾「オフマイク」

今野敏さんの記者と刑事が「たまたま」(?)
同じ事件を追うことになる人気シリーズの
文庫最新刊「オフマイク」を読了。

警視庁捜査一課特命捜査係継続捜査班の
黒田は、捜査二課の同期の刑事から、
二十年前に起こった大学生の自殺案件
について再捜査して欲しいと頼まれる。
その死に大物政治家の贈収賄が関わって
いる可能性があると言われる。

秘密裏にと念を押された、黒田と相棒の
谷口は自殺した大学生の周辺から調べ
を進めることに。

一方、TBNの報道番組のデスク鳩村は、
「ニュースイレブン」が打ち切りになるかも
しれないと言う噂を遊軍記者・布施から
聞かされる。

布施は飄々としていて、他人に警戒心を
抱かせない。誰とも容易く距離を縮められる、
そんな性格で、大物と呼ばれる人物などと
交友があり、とても人脈が広かった。
IT長者の藤巻とも交友があり、番組
打ち切りの噂の元は、藤巻だと判明する。

そして、藤巻の過去を調べたことで、
大学生自殺事件との関連が明らかになる。
事件のキーマンは藤巻だと黒田は推理
するが・・・。
そこで新たな事件が起こってしまう・・・。

布施の情報が黒田の事件と結びつき、藤巻の
過去を暴く。
すると、二十年前の大学生自殺事件の真相は
意外な様相を見せ始める・・・。

布施の機転と、黒田の推理。
このコンビネーションが埋もれていた事件を
明らかにし解決に導く。

異色のコンビの活躍に、いつも心
踊らされる!
さわやかなラストに感動!

『オフマイク』
著者:今野敏
出版社:集英社(文庫)
価格:¥902(¥820+税)

比嘉姉妹シリーズ初の中篇集!「さえづちの眼」

霊能者・比嘉姉妹が登場するシリーズ。
今作は中編が3篇が収録されている。
どの作品も読むとゾワッと背筋に
戦慄が奔る。

貧しくて諍いの絶えない両親。母親からの呪縛。
それに耐えきれず、犯罪に手を染めるように
なったタクミは、フリースクール
「鎌田ハウス」に預けられる。
子どもたちからおっさんと呼ばれる
男にタクミは次第に心を許し、成長してゆく。
ところが、ある日タクミはおっさんと
「鎌田ハウス」の秘密を知る。
恐ろしい何かが憑いたこの家で子どもたちを
襲うものとは何なのか・・・!?
タクミを助けて欲しいと、比嘉真琴に依頼
してきた少女はかつて真琴が助けた少女だった・・・。
【母と】

子どもの頃にUFOを見たと証言した男の子二人。
当時、雑誌やテレビ取り上げられ、町も
彼らも有名になった。巴杵池(はぎねいけ)事件。
その男の子の一人は大人になり、母と一緒に
旅館を経営していた。ある日そこへ子供つれの
母子が宿泊する。
もう一方の男は、その事件を根に持ち旅館に
やってきて大騒ぎをした。
その翌日、巴杵池で男の死体があがった・・。
当時のUFO事件の真相は、想像を絶するもの
だった。
【あの日の光は今も】

昭和30年代、町の大きな屋敷・架守(カガミ)家に
やってきた家政婦は、その家で起こる奇々怪々な
出来事を家政婦紹介所の所長あてに手紙で送っていた。
廊下に響く何かのはい回る音、深夜に光る赤い目、
やがて架守家の一人娘が失踪。
数十年後には当主が不可解な言葉を残し絶命。
この家は何かに祟られていると感じた
若き当主は、架守家への祟りを鎮めるために
霊能者・比嘉琴子に依頼する。
【さえづちの眼】

得体の知れない強烈な悪意を放つ者と
比嘉真琴との壮絶なバトルシーンが
圧倒的迫力を持って描かれる!

UFO事件の裏にあった予想外の真実。
男性の遠い記憶から当時の事件の
真相に迫る、ミステリー。真実が徐々に
明かされる過程の推理が際立っていると思った。

これは完全にホラーだと思って
読んだら完全に騙される。
人間のどす黒い闇と比嘉琴子の駆け引きが
たまらなく面白かった。

『さえづちの眼』
著者:澤村伊智
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥836(¥760+税)

役者で刑事!?新たなヒロイン誕生!「アクション捜査一課刈谷杏奈の事件簿」

榎本憲男さんの新作「アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿」読了。

榎本さんの描く警察小説シリーズは、
「巡査長真行寺弘道」をはじめ、
「DASPA吉良大介」「相棒はJK」シリーズなど、
主人公はみなくせ者刑事揃い。
本当に魅力的な登場人物ばかりだ。

そして今度の主人公は、女優であり刑事という
二足の草鞋で事件と向き合う、かっこいい
女性刑事が登場する。

捜査一課の刑事・刈谷杏奈は、趣味で映画製作と
女優業に励み、警察では少し浮き気味だ。

ある日、山奥で女装した男性の首つり死体が
見つかった。

捜査一課では、LGBTについて問題発言を
し炎上騒ぎを起こした女性議員が、演説中に
男二人に襲撃された事件で
ローラー作戦の指示が出ていた。

刈谷ももちろんローラー作戦に参加できると
思っていたが、上司から別の事件の捜査を
命じられる。
それは、山奥で首を吊って死んだ男の
捜査だった。

上司からあきる野署に勤務する内藤刑事
を訪ねるように指示された刈谷は早速動く。

首つり事件について刈谷は、検屍報告から
得た情報で事件性あり判断。しかし内藤は、
調べもしないで、「自殺」と断定する。
刈谷は内藤のことを事なかれ主義の
無能刑事だと感じた。

しかし、ある状況から彼らの捜査は一変する。
上層部から首つり男は「自殺」と報告しろ
と言われるが、刈谷と内藤は何かと理由を
つけ、捜査報告書の提出を拒んだ。

それは、炎上した女性議員と男の繋がりを
入手したからだった。

男の正体とは?女性議員の真の目的は
何なのか?
刈谷と内藤は推理を展開する。

二人の推理は徐々に核心に迫ってゆくが・・・。
それはとても危険な推理だった。

今の日本社会、政治、ビジネスのあり方に
問題提起する、社会派警察ミステリー。

小説の中に出てくる「ある言葉」がグサッと心に
刺さる。
この作品を読んでいると、確かにこの言葉通りだ。
多分、これが一番言いたかったのではないかと
思ってしまった・・・。

榎本さんの作品を読むと、気づきたくないことに
嫌でも気づかされる。
でも気づかなければならないと思う。

『アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿』
著者:榎本憲男
出版社:幻冬舎
価格:¥825(¥750+税)

第64回メフィスト賞満場一致の受賞作「ゴリラ裁判の日」

選考委員満場一致で第64回メフィスト賞を受賞した、
須藤古都離さんの「ゴリラ裁判の日」(講談社)
読了。

2016年アメリカの動物園で実際に起こった
「ハランベ事件」をモチーフに描かれた、
人間と動物の境界とは何か?を深く
考えさせられる作品。

カメルーンにあるゴリラの研究所で、
アメリカ人の研究者によって教育された
メスのローランドゴリラ・ローズは
とても賢く、特別なゴリラだ。
手話を使って人間とコミュニケーション
がとれる。

あるIT企業のテッドが開発したグローブは、
手話が音声に切り替わるコンピューターを搭載。
それを両腕にはめたローズは、「声」までも
手に入れ、世界中の注目をあびることに。

そして、アメリカの動物園に招待されたローズ。
研究所のスタッフ以外で素敵な人間の女性と
友達になることもできた。

動物園では、ゴリラの仲間と暮らす。
そして、ゴリラ群れのリーダーに恋をした
ローズは彼の妻になる。

ある日、人間の子どもがゴリラの檻に落ちてしまい、
ローズの夫が子供を助けようとするが、
人間から見れば乱暴に振り回しているように見えた。

動物園側は人間の子どもを助けるためという理由で、
ローズの夫であるゴリラを射殺してしまう。
その処置をどうしても許せなかったローズは、
夫のため、自分のために、動物園側を
訴え、人間に対し闘いを挑んだ。

果たして裁判の行方は・・・?

ローズの放った「正義は人間に支配されている」
という言葉が、人間がいかに傲慢であるか?を
表現している。グサッと刺さる言葉だ。

人間とコミュニケーションが取れるゴリラの苦悩と葛藤。
ゴリラとしての自分と人間と認めてくれた
その社会に対する思い。ゴリラの複雑な心理描写が秀逸。

正義とは何か?人間と動物の境界とは何か?
奥深いテーマが心を揺さぶる

『ゴリラ裁判の日』
著者:須藤古都離
出版社:講談社
価格:¥1,925(¥1,750+税)

都市伝説が人の心を惑わす・・・「みどり町の怪人」

彩坂美月さんの「みどり町の怪人」
(光文社文庫)読了。

以前、「向日葵を手折る」(実業之日本社刊)
を読んで、それがとても素晴らしい作品だったので
他にも読んでみたいと思っていたら、この作品
に出会った。

七つの連作短編で綴られる。

舞台は、1990年代初めで、携帯電話も
スマホもましてやSNSなどない時代。

田園にかこまれた、どこにでもある
郊外の町「みどり町」には、
不気味な都市伝説があった。
雨でもないのにレインコート纏い、女・子ども
だけを殺す?
とても痩せていて、髪はボサボサで目がギョロ
っとしている、日本刀を持っているらしい・・。
「怪人」・・・・。
その大元は、20年前に実際に起きた凄惨な
事件が隠されていた。

そんな伝説があるこの町に引っ越してきた
若いカップル。二人にはある秘密があった。

姑の過干渉に辟易する嫁。夫が単身赴任に
なり、姑の娘と3人で暮らすことになったが、
嫁は、姑の行動に不審を抱くようになる。

ある日から、仕事場で机を並べている隣人の
視線が気になり始め、次第に恐怖を抱くように・・・。

担任の先生を巡る子どもたちの諍い
切ない展開。子どもたちの切実な思い。

大学生たちがみどり町の怪人の正体を
追うと意外な真実に行き着く。

閉塞感漂う、郊外の町で起こる事件の数々。
人の心の中にある不安やうしろめたさが
恐怖を増幅させ人々は疑心暗鬼に陥る。

物語を通じて「怪人」が登場する。
その都市伝説の大元になった事件の真相が
あまりにも切なく衝撃的・・・。

それぞれの物語は自分自身が作り
出した妄想の中で恐怖を感じるが、
真実は意外な形で明らかになり、ホッとする。

ひねりの効いた展開が面白い。

『みどり町の怪人』
著者:彩坂美月
出版社:光文社(文庫)
価格:¥770(¥700+税)