吉川英梨新シリーズ登場!「新東京水上警察 波動」

吉川英梨さんの「女性秘匿捜査官・原麻希」シリーズから
「警視庁女性犯罪捜査班警部補・原麻希」シリーズと
女性刑事が主人公の警察小説が非常に面白く、
夢中になって読みました。

その吉川さんの新刊が、「新東京水上警察 波動」です。
海上を舞台に様々な事件を追いかける水上警察の活躍を描く、
とても熱い警察ドラマ!

波動

東京湾警備拡張のために新設された「五港臨時警察署」。
2020年東京五輪に向け設置された水上警察だ。

警視庁刑事部捜査一課の若手刑事・日下部峻は、
本部で上り詰めるという野心を隠そうともしない、
上昇志向の強い刑事だ。
だが、新設部署へと異動が決まった。

その新設部署、五港臨時署刑事防犯課強行係を束ねる、碇拓真警部補は、
現場一筋の熱血刑事だ。犯人逮捕のためには手段を選ばないふてぶてしさは、
上には少し不評だが、同僚や部下からは信頼されている。

そしてその新設部署には、美しい海技職員、有馬礼子もいる。
実は、周りには秘密にしているが、日下部の恋人だ。
だが、そんな二人の関係も、碇に早々にばれてしまう・・・。

水上観閲式をまじかに控えたある日、人間の小指と思われるものが発見された。
それは男性老人の小指で死後に切りとられたらしい。
早速、碇たちが動き始めるが、さらに無人島の第六台場で白骨死体が発見された!
切りとられた小指とその死体に何らかの関係があるのでは?
しかし、全く別人のものだった。
小指の方から捜査を進めると、ある介護付き老人ホームへとたどり着いた。
そして、その介護施設の職員の怪しい行動に気づく。
さらに白骨死体は、その事件に絡み暗躍する半グレ集団に行き当たる・・・!

老人ホームで何が起こっているのか?
認知症と思われる女性から得た怪しい情報・・・・
事件は急展開に!

強烈なキャラに彩られた警察小説。
犯人逮捕に情熱を燃やす熱血でありながら、心に深い闇を持つ、碇警部。
碇警部に対する日下部刑事の激情と嫉妬・・・。
日下部の恋人でありながら、碇に心を動かされる礼子。
そして、新東京水上警察に深い因縁を持つ謎の男の影・・・。
様々な事情を持った人物の登場で、どんな物語に発展してゆくのか・・?
シリーズに期待してしまう。

また、本部と所轄の軋轢や、チーム内の不協和音など、
リアルな警察組織の事情、さらには現代日本が抱える社会問題も
鋭く抉り、それを事件に絡ませつつ犯罪を暴いてゆく!
まさに、臨場感あふれる正統派の警察小説だ。

こんな警察小説を待ってました!!
次回作は1月発売です!
タイトルは「Wの撃鉄 新東京水上警察(仮)」。
乞うご期待!

『波動 新東京水上警察』
著者:吉川英梨
出版社:講談社(文庫)
価格:¥720(税別)

本の学校、2016年海外ミステリミニフェア展開中

本の学校今井ブックセンターの「はまさきミステリー」コーナーで
2016年海外ミステリーフェアを展開中です。

2016海外ミニフェア①

「このミステリーがすごい 海外編 2017版」の1位は「熊と踊れ 上下」。
実際に起こった銀行強盗事件を描く。
著者はアンデシュ・ルースルンド。共著は、なんと
この銀行強盗事件の犯人の兄弟の一人である、ステファン・トゥンベリ。
ステファン以外の兄弟たちがなぜ、犯行に及ぶことになったのか?
父との関係、兄弟の絆・・・。事件を描きつつ、家族に焦点を充てた作品。
「三秒間の死角 上下」は、「熊と踊れ」の著者アンデシュ・ルースルンドが
元服役囚のベリエ・ヘルストレムとタッグを組んで描いた、
刑務所を舞台にした迫力あるミステリー。

今年も、北欧のミステリー作品がミステリー界を席巻した!
この二作品を中心に以下の作品群で肉付けした。

数年前にこのミス海外1位にランクインした、
スティーブン・キング「11/22/63 上中下」も文庫化された。
アメリカではドラマ化され、大ヒット中。
また、数年前にこのミス海外編にランクインした、
「ハリー・クバート事件」が今年文庫化された。
クライマックスに真犯人がわかるまで、ワクワクし通しだった。

今年、文春ミステリー海外編で1位になったのが、
「傷だらけのカミーユ」ピエール・ルメートル。
文春ミステリーでは、ルメートル作品が3年連続で1位になった。
凄い!この作品は、ヴェルーヴェン警部シリーズの完結編でもある。

初めて読んだ、オーストラリアの警察小説「邂逅 シドニー州都警察殺人捜査課」
キャンディス・フォックス著
からっと晴れた印象が強いオーストラリアだが、作品は闇と謎が多く、
そのギャップが面白かった。シリーズ化されているので、次の発売が楽しみだ。

北欧の警察小説言えば、「刑事マルティン・ベック」シリーズだ。
新訳になり、今年は「ロセアンナ」、「煙に消えた男」の2作品が
発売。絶対にはずせない。
さらに、アーナルデュル・インドリダソンの
エーレンデュル捜査官シリーズの第2弾「緑衣の女」も
文庫化された。「湿地」以上に悲しい女性の過去を
突きつけられ、事件の真相そのものよりも、女性の
物語に胸を打たれた。

ドン・ウインズロウの「失踪」は、元刑事が命懸けで
失踪した少女の行方を追う、ハードボイルドミステリー。
主人公がタフで男気にあふれ、愛情深いという申し分ないキャラ。
そのキャラが際立っていた。ウインズロウの隠れた傑作だと思う。

女性向けには「イヤミス」を準備。
「邪悪な少女たち」アレックス・マーウッド
「氷の双子」S・K・トレメイン
「視える女」べリンダ・バウアー
「ガール・オン・ザ・トレイン」
「コピーフェイス 消された私」
など女性が主人公。様々な事件にあい、
転落してゆく様、罠にはまりつつ復活してゆく様を
サスペンスタッチで描いていて面白い作品ばかり。

年末年始、長いお休みに海外ミステリーを堪能してはいかがでしょう?

オーストラリア発の警察ミステリー「邂逅」が面白い!!

今年も海外ミステリーは北欧の作品が強いですが、
その中で1点、オーストラリアの警察小説に眼が止まり、読んでみました。
初めて読む、オーストラリアミステリー。
「邂逅 シドニー州都警察殺人捜査課」キャンディス・フォックス著
オーストラリア推理作家協会賞受賞作の注目作品。
すでに本国ではシリーズ化されているようです。

この作品、英米、北欧のミステリとはまた違った味わい。
あの大陸が舞台なので、登場人物など明るく、おおらかな感じなのかな
と思いましたが、猟奇的事件を背景に、その事件を追いかける刑事など
複雑な人間模様が描かれていて、グイグイと物語に惹き込まれて
いきました。

邂逅

冒頭は、いきなりショッキングなシーンから始まる。
ある男の元へ子どもの死体だと思われるものが2体届けられる。
移植用の臓器を取り出すために、子どもを誘拐し殺害し金に換える
犯罪者グループの仕業だ。しかし、子どもたちに騒がれ、その
子どもたちの目の前で両親を射殺。さらに子どもたちにも手をかけてしまった。
その事情を聞いていた男は、犯罪者の一人に、この所業に関わったものたちの
名前を書かせ、静かに拳銃を構えるとその犯罪者を殺害する。
男は死んだ犯罪者の始末をつけると、子どもたちが包まれたシートを見た。
そして女の子の方の指が動いているのに気がつく。

シドニー州都警察殺人捜査課に異動してきたフランク・ベネットは、
新しい相棒の女性刑事・エデンと共にシドニーのマリーナで発見された
少女殺害事件の謎を追う。
スチール製の収納ボックスには、傷だらけの少女の遺体が収納され、
同じようなボックスが20個も見つかったのだ!

この猟奇殺人事件の捜査を進める内に、フランクはエデンと親しくなってゆくが、
驚くほどの美貌の持ち主なのに、男顔負けの強さと、どんな現場でも
パニックを起こさない鋼のメンタル、鋭い感と明晰な頭脳に圧倒され、
時に自己嫌悪に陥った。

エデンには同じ警察官の兄・エリックがいた。
このエリックはやたらとフランクにちょっかいを出す困った奴だった。

だが、エリックとエデンが二人でいると、何かを抱えているように見える。
フランクは二人には秘密があると感じていた・・・。

猟奇殺人事件を捜査する現在の物語と、冒頭の事件の犠牲者である子どもたちと
男の触れ合いが交互に展開してゆく。
なぜか、男と子どもたちの物語に強烈に惹かれてゆくのだ。
残虐な猟奇殺人事件が背景にあるが、このシーンだけは、男が子どもたちに向ける
無償の愛が感じられるからだと思う。
この子たちはまともに育つのだろうかと、気をもんでしまう。
しかし、男は、子どもたちを心から愛すると同時にある目標を課す・・・。

読み進めると、誰が猟奇殺人犯のかわかってくるのだが、この作品は、
そう簡単には終わらせてくれない。
最後の最後にそれこそ、目ん玉が飛び出る!くらいの衝撃的展開が
待っているのだ。

さすが推理作家協会賞受賞しただけはある!
このシリーズ、お宝発見かも!

『邂逅 シドニー州都警察殺人捜査課』
著者:キャンディス・フォックス/冨田ひろみ訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,100(税別)

いつもラストにハッとさせられる。長岡弘樹さんの新作『赤い刻印』

長岡弘樹さんの短編「傍聞き」の印象が強く残っている。

新刊「赤い刻印」(双葉社)が「傍聞き」の母子が登場する
ということで、読んでみました。

日常の中の何気ない一瞬が、実は重要な意味を持つということに
気づかされる。

赤い刻印

「赤い刻印」
「傍聞き」に登場した刑事の母と娘の触れ合い。母には育ての母と
生みの母がいると知らされた娘は、祖母に会いに行くことに。
祖母のぶっきらぼうな態度に面食らう娘だったが、いつしか
絆が深まってゆく。刑事の母の方は、時効が近い過失致死の
事件を追っていた・・・。

「秘薬」
薬学の勉強をしている女子医大生は、試験前に頭痛で倒れてしまった。
脳神経外科の医師からは頭に血腫が出来ており投薬で治すと言った。
女子大生にとっては、感じ悪いオヤジにしか見えなかった。
そして、毎日日記書かされる。実は女子医大生は、倒れて以降
一日しか記憶が続かなくなっていた。その事実に衝撃を受ける。

「サンクスレター」
学校で飛び降り自殺をした息子の父親は、何が起こったのか
きちんと調査しない学校側に腹を立て、とうとう強硬手段に出る。
子どもを人質に学校に立てこもってしまったのだ。
飛び降り自殺をした児童の担任だった女性教師は、本当の理由を
知っていたが、それはどうしても言えなかった。
しかし、人質にされた子どもたちを助けるために女性教師がしたことは?

「手に手を」
母の介護と障害のある弟の面倒を何年も看ている、初老の女性。
その女性を気遣う、町医者。
介護する時に、重要な事を忘れないように医者のアドバイスを
きちんと録音する日々。だが、毎日の介護で疲れ果てた女性は、
階段を踏み外したり、餅をのどに詰まらせたり、お風呂でおぼれ
そうになったり・・・。やがて弟に疑いを抱く・・・が。

4編の短編に込められた、人の優しさ。それが謎を解くキーに
なっている。

特に、「秘薬」と「サンクスレター」は明かされた真実が
胸に沁みてくる・・・。

人の心の闇も、その人を思う誰かの優しい心遣いで
ハッとさせられる。それは主人公もだが、読者もそうだ。

これほどの巧みな構成は他にないだろうと思う。

『赤い刻印』
著者:長岡弘樹
出版社:双葉社
価格:¥1,200(税別)

心に沁みるミステリー「staph スタフ」

道尾秀介さんの新刊「staph スタフ」を読みました。
「獏の檻」からしばらくぶりに読んだ作品。

今までの作品と微妙に何かが変わっていたような気がした。

スタフ

旦那の浮気が原因で離婚した夏都は、旦那が立ち上げた移動デリを
意地になって、一人で切り盛りしていた。
マンションには、中学生の甥が同居している。
甥の母親は息子を妹の夏都に預けて、貧しい国で小児科の
医者をしている。なかなか帰国できず、夏都も甥のことが
少し可哀そうな気がしていた。
しかし、当の甥と言えばいつもパソコンで何か
している。そして、たまにしか会話をしないのに、
妙に人の気持ちが読めるような子どもだった。

夏都の移動デリは2か所で営業している。
だが、一か所で問題が生じた。
突然、夏都の移動デリに食品衛生局と名乗る男たちが
乗り込んできた。
そして移動デリの車ごと夏都は男たちに拉致された!?

彼らに連れてこられた場所には、美貌の少女とその
親衛隊らしき妙な若者たちがいた。
そして、美貌の少女が夏都に向かっていきなり命令した。
「メールを削除してください」と・・・・。

夏都はまったく何のことか理解できず、まず事情を聞くことにした。
それにしても、夏都は美貌の少女に見覚えがあった。
そうだ!!!甥の部屋に隠されていた、ブロマイドの少女だ。
何だ・・・?
結局、夏都は人違いで拉致されたことを知る。

少女の事情を聞き、放っておけなくなった夏都は、
甥の塾の講師に相談。
その塾講師も巻き込み、少女が抱える問題解決に乗り出す。

少女が抱えた事件を解決してゆく過程をユーモアたっぷりに描いて
読んでいると楽しい。物語の着地点が見えないのもワクワクする。
そんな展開は、いつも通りの道尾節炸裂。
だが、読ませる手管は今までの作品を超えてしまっている!

主人公夏都は、ダメンズの元夫に思いを残しつつも
絶対頼らないと心に決め意固地になってしまうキャラ。
女性ならばついつい共感してしまう、リアルな女性像
として描かれている。これも今までの道尾作品には
あまり登場しなかったのでは?

また、まじめすぎる謎めいた塾講師が、夏都に淡い
恋心を抱くが、意外な探偵役に徹していてその設定もとても面白い。
さらに、ミステリアスな甥の動きにも注目だ!

夏都たちの動きで事件自体は解決するが、その後に
待ち受ける衝撃展開!!!
この物語の本当の狙いはこれだったのか!という驚愕!
その、あまりのストーリー展開の上手さに唖然とする。
そしてどんでん返しの本当の真相に涙を誘われるのだ!
このラストを読んで、泣けない人はいないだろう。
胸を締め付けれるほどの切なさだ。

一皮も二皮も脱皮した道尾作品がここにある。
今までにない傑作に心を打たれた。

『staph スタフ』
著者:道尾秀介
出版社:文藝春秋
価格:¥1,600(税別)

暗号ミステリの最高峰、このミス1位にふさわしい傑作『涙香迷宮』

このミステリーがすごい2017年のランキングが
発表されました。
国内編1位は竹本健治さんの「涙香迷宮」です。

ミステリーファンと言いながら初めて読む作家さんです。
暗号ミステリーということで、少し苦手意識があったのですが、
ものすご~く面白かったです。

涙香迷宮

若きイケメンの囲碁棋士・牧場智久は、囲碁の試合会場で、
顔なじみの刑事に出会った。彼も囲碁をやるらしく、牧場を
とてもリスペクトしている。さらに以前、ある事件で牧場に
世話になったらしい。そんなとき、殺人事件発生の知らせを受け、
牧場はその刑事とともに現場へ向かった。
殺された男は、囲碁をさしている最中に背中から鋭利なもので
刺されたらしい。その周りには夥しい数の碁石が散らばっていた。
牧場は碁石の数が多すぎると指摘。
男の身許がわからず、謎だらけで迷宮入りが懸念された。

その夜、近くで開催されたミステリナイトに顔を出した
牧場とガールフレンドの類子。麻生という男性に声をかけられる。
麻生は、明治時代に活躍した黒岩涙香の熱心な研究者だった。
黒岩涙香とは、作家でジャーナリスト、「萬朝報」という新聞を発行し、
江戸川乱歩が活躍する以前から、海外ミステリの翻訳ものを日本に
紹介。さらに囲碁やかるたなど様々な遊戯に通じる非凡な才能を持った人物だった。

麻生は以前から、涙香の隠れ家を捜索していたが、翌日
その隠れ家らしき遺跡が発見されたとのニュースが入った。
牧場と麻生はすっかり意気投合。ガールフレンドとともに
その隠れ家の地下に眠る、涙香の資料の発掘調査に同行する。

その発掘現場で、地元のミステリマニアの男女、
パズル作家、ゲーム研究家、涙香研究家らを紹介される。
彼らは早速、発掘調査を開始する。
そこで彼らが発見したものは、十二ある部屋の四方の壁に
刻まれた詩のようなもの。それは47文字を一度づつ全部使って
作られる「いろは」だった!?
彼らは夢中でそのいろはを読んで行く・・・・。

牧場は、IQ208の頭脳を持つ天才だ。
彼はあるヒントで、殺された男の身元を明らかにした。
その後、囲碁の試合に出かけ、発掘現場に戻る途中、
落石にあい大怪我を負った。
命に別状はなかったが、なぜか疑惑が残った・・・。
そして・・・台風のため、彼らは発掘現場で足止めを喰らってしまう。
そんな中、第二の事件が起こった・・・・!!!

冒頭の殺人事件から一転、いきなりの発掘現場に足止め?
クリスティの「そして誰もいなくなった」的な展開に衝撃だ!

発掘現場に次々現れるいろは48首。
そのいろはの素晴らしさと解説に唸る・・・!
このいろはを読み進んでいくと、いかに日本語が美しいか?
奥が深いのか?改めて知らされる!鳥肌物の衝撃だ。
さらに、明治の鬼才・黒岩涙香についての半端ない薀蓄!
囲碁の知識!!!

殺人事件の謎の解明と涙香がいろはに託したもの?
涙香が仕掛けた空前絶後の大暗号を解読できるのか?
2つの謎に、牧場が挑む究極の頭脳戦。
超絶技巧の謎解きに悶絶すること間違いなし!

『涙香迷宮』
著者:竹本健治
出版社:講談社
価格:¥2,200(税別)

ゾワッと鳥肌が・・・「怪談のテープ起こし」

三津田信三さんの「怪談のテープ起こし」を読みました。
装丁、恐い・・・・!!!

三津田さんの作品は刀城言耶シリーズを読んだり、
怪談ものを読んでみたり・・・。
好きなのですが、夜眠れなくなるくらい恐いので
控えめにしていたのです。
が・・・「怪談のテープ起こし」は吸い寄せられてしまいました。

障りがないと良いのですが・・・
三津田さんもこの本の中でしきりに読者を心配していらっしゃいます。

テープ起こし

かなり、ノンフィクション的な手法を使っているので、
実際に本当に起こったことなのでは・・?と思ってしまいます。
「水」がからむ怪談の連作短編。

「死人のテープ起こし」は自殺者の最期の声を起こしたものですが、
最初は自分の状況を嘆いたりする声なのが、次第に不気味な音が
入り混じってくる。

一番恐いと感じた「留守番の夜」はバイト代につられて
ある大きな洋館で一晩留守番をする女性の話。
3Fに夫婦の伯母が同居していて、顔を合わせなかったら
大丈夫だと念を押される。そしてその夫婦が出かけた後、
3Fからやたらともの音が!同居の伯母はすでに亡くなっている
と妻の方から聞いていたのに・・・。
広い洋館にたった一人留守番する恐ろしさに鳥肌が・・・。

「集まった4人」、友人の誘いで登山ををすることになった青年。
だが、駅に行くと友人はおらず、その友人から誘われたらしい
登山者たちがいた。そこで青年の携帯に自分は行けないが
リーダーとして他のものを連れて行って欲しいとの連絡が入った。
見知らぬ人たちとの登山が始まった・・・。
そして、不気味なメールが入る。そのメールが届いてから
他の登山者たちの様子がおかしくなり始める。
クリスティの「そして誰もいなくなった」を意識した創り。

「屍と寝るな」これも不気味な話。
不気味な老人の語る話がめちゃめちゃ恐い。
子どもの時に家のお使いで、香典を持って行かされたときに
祖母がコックリさんで占ってくれたら、
「しかばねとねるな」と出た。いったいどういう意味・・・?
老人の口から飛び出す意味不明の言葉がとんでもなく気持ち悪い。

「黄雨女」。大学生が出会った不気味な女。
雨が降っていないのに黄色い合羽を着込み,
長靴も黄色。全身黄色づくめの女。
その大学生の彼女が「黄雨女」と名付けた。
なぜ彼のもとに現れるのか・・・?

「すれちがうもの」は全く身に覚えなのない一輪挿しがマンションの
ドアの前に置いてあった日から、黒い人影が視えるようになった
OL。踏み切りの向こう側から毎日見える。それが次第に自分に
近づいてくるような気がする・・・。
一体なぜ??

最後の2編は怖すぎて、自宅に帰るのが恐くなったほどだ。
また短編の合間に挿入される、作家と担当編集者との
やりとりが、この短編集が実話なのかそうでないのか
という疑惑を持たせる。

どの短編もぞわ~っと鳥肌が立ってきて
こんなことに出会ったら絶対にイヤ!と思ってしまう。

『怪談のテープ起こし』
著者:三津田信三
出版社:集英社
価格:¥1,600(税別)

米澤穂信氏の話題のミステリー「真実の10メートル手前」

12月はミステリ好きにはたまらない月です!
師走で忙しいけれど、ミステリランキングが
もうじき発表され、わくわく!!ドキドキ!
待ちきれな~い。

このミス、文春ミステリなどいったいどれが1位になるの・・・?

はまさきは、絶対にこれはランキングに入ると思います。
昨年の「王とサーカス」に続く、ジャーナリスト・大刀洗万智シリーズ。
今回は短編集です。「真実の10メートル手前」。

真実の100m

「真実の10メートル手前」
福祉を目的とするIT企業を立ち上げた若い兄妹。
だが、経営不振に陥り、さらに起死回生を狙った
事業は詐欺だと責められた。
二人は誰にもわからない場所へと逃げた。
だが、会社の広告塔であった妹・真理は、もう一人の妹・弓美へ連絡をとった。
その電話に不安を掻き立てられた、弓美は、信頼できるジャーナリスト・
大刀洗万智に相談する。真理からの電話を聞いた大刀洗は
すぐさま行動を開始する。
大刀洗はたった1本の電話の会話から、真理の居場所と苦悩に辿り着く!!

「正義漢」
ホームで人身事故が起こった!それを冷徹な目で観察する男。
一人の女性が、バッグからメモ帖を出し書き留めている。
さらに携帯でその事故の様子を撮影している!
男は、その女性に激しい憎しみを覚え、一歩踏み出した・・・。
だが、男はそこで何者かにとりおさえられる。
大刀洗万智は、人身事故が殺人事件だとわかっていた。
だから自分がおとりになれば、必ず自分の方に犯人がやってくる
と言ったのだ。そしてその通りになった。
大刀洗はなぜそれがわかったのか?大刀洗の洞察力が冴えわたる1作。

「恋累(こいがさね)心中」
ある高校で、男女二人の高校生が亡くなった。
遺書もあり、二人は心中したものと判断された。
男の子は橋のたもと、女の子は崖の下流で発見された。
だが、大刀洗はなぜ二人が離れた場所で発見されたのか不思議に思った・・・。
さらに二人が通っていた高校では、爆発騒ぎも起こっていた。
大刀洗は、二人の生徒が関わっていた教師に話を聞くが・・・。
高校生の心中事件の裏に隠された陰謀を暴く!

「名を刻む死」
中学生の男の子が通学路にある、老人宅を見た。
老人が寝ているように見える。次の日もまったく同じかっこうだったので、
少年は親を呼び警察に通報した。
老人は亡くなる前から一切食べ物を口にしていなかったらしい・・・。
少年は心の奥ので「いつかこんなことになると思っていました」という
言葉をずっと呑み込んでいた。そんな少年の前に大刀洗がやってくる。
不思議な雰囲気を持った女性に少年は心を開く・・・。
老人の最期の時にあった真実を、大刀洗は暴いてゆく・・・。

「ナイフを失われた思い出の中に」
17歳の男性が3歳になる自分の姪を殺害した事件。
その事件の取材に同行する羽目になった、ロシア人の男性。
彼の妹は学生の時、大刀洗の親友だったらしい。
何十年も前に妹の友人だった女性に会いに行くのはためらわれたが、
せっかく日本に行くのに会っておきたいと、ロシア人男性は思った。
妹が言う様に、大刀洗は謎めいた女性だ。事件の取材なのに何も語らない。
しかし、彼女は事件の真相に気づいているようだ・・・。
犯人は裸の女児にナイフを刺したと自供しているが、女児の体からは
繊維の一部が発見されていた・・・。
わずかな情報から、事件の全貌を解き明かす大刀洗・・・。

「綱渡りの成功例」
夏の台風の大洪水で土砂崩れにあい、老夫婦が取り残された。
たくさんの人たちが悲劇にあい、その老夫婦だけでも助かって欲しい!
その救助の模様はテレビで放送され、誰もが祈るように見守った。
無事に救助された老夫婦。しかしインタビューではなぜか、
申し訳ありませんを繰り返していた・・・。
なにを食べて生き延びたか?それは息子が持ってきた
コーンフレークを食べていたからだというニュースも入った。
そんなニュースが流れている中、大刀洗は現場にやってきた。
その地区には、大刀洗の大学の時の後輩がいた。
地元の消防団に入っていて、その老夫婦の救助にも参加したらしい。
彼の家は、その地区唯一の食料雑貨店。コーンフレークは
老夫婦の息子が後輩の家でその年の正月に買ったものらしかった。
微笑ましいニュースだったが、大刀洗はなぜか違和感を感じていた・・・。

事件の大小に関わらず、大刀洗はその真実を知るために取材を続ける。
フリージャーナリスト・大刀洗万智は、その鋭い洞察力と推理で
些細な情報から真実を見分ける眼を持っている。
この作品はそんな大刀洗万智の魅力を存分に味わうことのできる短編集だ。

「王とサーカス」に続き、フリージャーナリスト・大刀洗万智が
深く静かに事件の本質を見つめる・・・。

米澤穂信氏の傑作のシリーズです!

『真実の10メートル手前』
著者:米澤穂信
出版社:東京創元社
価格:¥1,400(税別)