人間の激情があふれ出す!「カインは言わなかった」

芦沢央さんの「カインは言わなかった」。
最初はプルーフで読ませて頂きました。

芦沢央さんと言えば、昨年「火のないところに煙は」が
ミステリー・ホラーいずれのファンからも高い支持を受け、
本屋大賞にノミネートされました。

「火のないところに煙は」はホラーミステリー
として申し分ない面白さでした。

新作「カインは言わなかった」は、
その濃密な人間描写に絶句しました。
生身の人間の感情の波がもろにぶつかってくる!
そんな感じを受けました。

カリスマ演出家・誉田の新作公演、その開幕直前に主演ダンサー
の藤谷誠が失踪をした。誉田は失踪した誠の代わりに
誠とライバルの尾上数馬を指名し、レッスンを開始した。
和馬は開幕まで、誉田のパワハラと厳しいレッスンに耐えた。

舞台美術を担うのは、藤谷豪。誠の弟だ。
男性でありながら美し過ぎる容姿。

演出家のパワハラ、カンパニー内での熾烈な主役争い。
主演ダンサーとその弟を巡る女性たちのどろどろの恋愛劇!

今回の作品のモチーフである、ダンス、絵画、そして恋愛。
いずれにしても、人間の心の奥に潜む感情の全てが表に
現れるものだと思う。

嫉妬・怒り・絶望、それらの感情が登場人物ごとに
見事に描きわけられ、やがて殺意に変わってゆく。

冒頭の殺人は誰が犯したのか?
登場人物の誰が殺意を抱いてもおかしくない。

そんな風に描かれてゆく過程が緻密に練りあげられている。
そして想像だにしなかった犯人。
さらに、ダンサー失踪の裏で何が行われていたのか?
その真相に人間の冷酷さを見たような気がした。

それでも、これほど暗い闇、そして暗い激情
が迸った作品なのに、絶望の先には希望が
あるという結末にものすごく救われた。

『カインは言わなかった』
著者:芦沢央
出版社:文藝春秋
価格:¥1,650(税別)

平安時代の京の都を舞台にした異色の歴史コミック!「応天の門」

フリーペーパーに紹介するコミックを
探していたら、面白そうな作品を見つけました。

灰原薬さんの「応天の門」です。
1巻を読んだらはまってしまいました。
今、11巻まで発売中。

平安時代、京の都では貴族たちが華やかな
暮しをしている。
しかし、何か事件が起こるとそれは物の怪、妖怪
呪い、祟りといった人間の力の及ばないものに
原因があるとされ、そういう世の中で陰陽師は
絶大な力を持っていた。

だが、どの時代も人間ほど恐ろしいものはない。

藤原氏が朝廷の権力を掌握しようと目論んでいた時代、
京の都では藤原氏の屋敷から、夜ごと下女が行方不明に
なるという事件が起こっており、貴族たちの間では
その噂で持ちきりとなっていた。
彼らは「鬼の仕業」ではないかと疑う。
その噂は帝の耳にも届くようになり、都の守護を務める
在原業平に事件解決の命が下った!

ところが、犯人探しの途中、業平の縁者である、紀長谷雄が
下女誘拐の犯人として捕縛されてしまう。

その時、長谷雄の学友だという一人の少年と出会う!
彼の名は菅原道真と言った…。

口は悪いがめちゃめちゃ頭が切れる天才少年・菅原道真と
京随一の歌人でありプレイボーイの在原業平、
身分も生まれも違う20歳差の二人が、
都で起こる怪奇事件・難事件の謎を解き明かしてゆく!

権力を嫌い、バカを嫌い、豊富な知識と機転で
事件を解決に導く、天才少年・菅原道真。
守護職にあり、都の治安を守る在原業平。
歴史上の非常に有名な二人が生き生きと描かれ、
そのバディっぷりが小気味良い!
物語の展開もテンポ良く進み、読み始めると続きが
気になってしまう。

また、物語の合間に挿入される、歴史の雑学ネタが非常に
面白い。解説を書いているのは、東京大学史料編纂所教授の
本郷和人先生。ためになります!

まだまだ物語の最初の方だが、続けて読みたい!
痛快!異色の歴史漫画、平安クライムサスペンス!

『応天の門①』
著者:灰原薬
出版社:新潮社(BUNCH COMICS)
価格:¥580(税別)

とにかく面白くて、凄い!本格ミステリ「ジェリーフィッシュは凍らない」

遅まきながら、第26回鮎川哲也賞受賞作
市川憂人さんの「ジェリーフィッシュは凍らない」を読みました。
凄く面白かった。ミステリーが好きなら絶対に読むべき!!

特殊技術で開発された、小型飛行船
「ジェリーフィッシュ」。
開発者のファイファー教授ほか技術開発メンバー
6人は、新型のジェリーフィッシュに乗り込み、
長距離の航行性能最終試験に臨んでいた。
しかし、航行試験中、閉鎖状況の艇内でメンバーの
一人が死体で発見される。
パニックに見舞われたメンバーたち。
そんな彼らをさらに悲劇が襲った!
自動航行システムが暴走!そして飛行船は雪山に
不時着した。脱出不可能となった状況下で
次々とメンバーが死んでゆく….。

飛行機の代わりに、飛行船が進化した
パラレルワールドが舞台。
そして、極寒の雪山に不時着し、脱出
不可能となった「ジェリーフィッシュ」の
艇内という斬新でオリジナリティあふれた
クローズドサークルの設定が一番の魅力!

また、切れる日系人刑事とグダグダの女性上司との
バディぶりが、この作品をよりいっそう面白いもの
にしている。

彼らの捜査の過程と、交互に描かれる艇内の殺人事件。
その流れで次第に真相が明らかになってゆくが….。

メンバー全員は殺されたのだ。一体誰が犯人なのか?

うひゃ~!!その真相が凄すぎて、何度も
行きつ戻りつしながら読んだ。
これは、再読必須です。

『ジェリーフィッシュは凍らない』
著者:市川憂人
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥780(税別)

北海道警シリーズ最新作が切ない!「真夏の雷管」

大好きな警察小説シリーズです。佐々木譲さんの
「北海道警・大通警察署」
「笑う警官」から、シリーズ8作品目は「真夏の雷管」。

夏休みに入った。
いつもの場所で、憧れの列車・特急スーパーおおぞらを
見送った少年。
そこで一人の男性と出会った。彼は鉄道好きらしい。
その男性は、小樽の鉄道博物館に連れていってくれるという。
夏休みだし、少年は嬉々として男性の提案に従った!

大通署生活安全課の刑事・小島百合は、老舗の
模型店で工具を万引きした男子小学生を補導した。
妙に冷めた小学生だ。
署で話を聞こうと連れて行ったが、ちょっと目を離した
隙に逃げられてしまう。

一方、刑事課の佐伯宏一は、園芸店の窃盗犯を追っていた。
盗まれたものは爆薬の材料にもなる化学肥料の袋だった!

男子小学生の万引き事件、園芸店の窃盗事件。
二つの事件は交錯し、想像をはるかに超えた
危険な方向へと動き出してゆく!

必死に生きようとする人たちを絶望の底に追いつめる。
貧困・育児放棄・孤独、社会からの隔絶…..。
現代社会が抱える闇が、いくつも浮かび上がる。

そこから導き出された事件の真実があまりにも切なすぎる!
心に沁みる傑作。

『真夏の雷管 北海道警・大通警察署』
著者:佐々木譲
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥720(税別)

怪談実話!超短編だからこそ怖さが増幅!「忌み地」

こんなに暑い夏は、クーラーをガンガンに
効かせた部屋で、一人怪談集を読む!
すると、さ~っと身体が冷えてくる。

土地にまつわる「怪談実話集」。

怪談社の糸柳寿昭氏と上間月貴氏が全国各地の
忌み地、いわくつきの物件を中心に取材した。

二人の取材を元に作家の福澤徹三氏が、
小説風に書きおこした、前例のないちょっと
珍しい怪談実話集。

糸柳さんと上間さんが、事故物件が集中
している場所で不思議な現象が相次いで
いることに遭遇。
その件は読むとほんとに怖い。

50編弱の短編だが、怖さや衝撃を狙った
描き方ではなく、取材したことが淡々と
描かれていて、その語り口がよりいっそう
読んだ時の恐怖感を際立たせているような
感じがする。

物語のようにすべてスッキリ回収されて
いなかったり、これどういう意味なのか?
と思ったりするけれど、そこが実話なのだ
からと改めて認識させられる。

特に怖かったのは、「うなる男」
挿入されたイラストが怖すぎた!
そして、「封印されたアパート」。

怪談好きにはたまらない、百物語。

『怪談社奇聞録 忌み地』
著者:福澤徹三/糸柳寿昭
出版社:講談社(文庫)
価格:¥600(税別)

頭取並・鳥越新之助大活躍!『玉麒麟 羽州ぼろ鳶組』

シリーズ第8巻「玉麒麟」がめちゃめちゃ面白かった!
今回は、頭取並の鳥越新之助に焦点を絞った作品。

侍火消として順調に成長し、今や頭取並!
剣の腕前は府下十傑に数えられる、新庄藩の
鳥越新之助!

新之助は、豪商一家惨殺及び火付け事件の現場で、
娘を人質に、火消したちに剣を振るったとして、
その下手人にされてしまった。

現場で新之助に気づいた、加賀鳶の三番組組頭・
一花甚右衛門は、何かあると直感。
彼を逃すことに…。

凶悪事件の下手人として手配された新之助だったが、
火盗改めや、新庄藩の活躍を妬む江戸の火消したちの
包囲網を次々と打ち破り、逃走を続けた。

彼に一体何があったのか!

一方、幕府の命令で全ての動きを封じられた、新庄藩・
ぼろ鳶組の面々は、新之助に何があったのか?秘かに調査する。

これまでのぼろ鳶組の活躍や、新之助を良く知り、
今回の幕府のやり方に納得できない、江戸の火消したちは
新之助を、また、ぼろ鳶組を助けるために江戸中を奔走する!

江戸を襲う巨悪。それに翻弄される人間たち。
しかし、その中で、正義とは何かを知る者がたくさんいる。
ぼろ鳶組と反目しあいながらも、「江戸の庶民を守る」
という同じ目的のために、正義を全うする人たちのかっこよさ。

江戸の火消したちの熱き思いが物語中にあふれている!

そして、新之助の律義さ、優しさ、そして強さが前面に
押し出され、鳥越新之助ファンにはたまらない!

『玉麒麟 羽州ぼろ鳶組』
著者:今村翔吾
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥780(税別)

新たなシリアルキラー登場か!?『SROⅧ 名前のない馬たち』

富樫倫太郎さんの「生活安全課0係り」シリーズ
はテレビドラマ化され、人気を博している。
ちょっとコメディタッチで描かれた警察小説
なので、ドラマにはピッタリ!大好きなシリーズ。

そしてさらに面白いのがこの「SRO警視庁広域捜査専任
特別調査室」シリーズだ。
久しぶりに新刊が発売された。シリーズ8巻目は
「名前のない馬たち」。

東京留置所特別病棟に入院していた
最凶のシリアルキラー・近藤房子は、
担当看護師を殺害し、脱走した。
そして、近藤の魔の手は、その看護師の
娘に近づいていた。

同じ頃、SROのメンバーにも近藤の影響が広がっていた。
誰もが疲弊していた。

そんな中、SRO室長・山根新九郎は、友人と一緒に
行った乗馬クラブで妙な事件が続いていることを知る。

関東近県の乗馬クラブのオーナーが相次いで亡くなっている
という。いずれも死因に不審な点は見られないが、
そのオーナーと一緒に必ず馬が一頭死んでいるのだ。
そんなことはめったに起きないらしい。

山根の頭の中に新たな事件のイメージが広がる….。
山根の指揮のもと、独自に調査を始めたSROのメンバー。
やがて、北海道のある牧場にたどり着く。

最凶シリアルキラー・近藤の調教ゲームは続く。
新たな殺人鬼が生れるのか?

何かを誰かをとても大切に考えることは良い。
しかし、それがひとりよがりになってはいけない。
あまりにも一つの部分しか見なかったら….?。
恐ろしいことになるかも知れない….。

8巻も面白く、堪能できました!!

『SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室Ⅷ 名前のない馬たち』
著者:富樫倫太郎
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥820(税別)

本屋さんは大変だ!書店員が大活躍!『店長がバカすぎて』

あまりに面白かったので、ミステリー小説ではないけど
掲載しちゃいます。

でもミステリー的要素もありますよ。

武蔵野書店に勤務する契約社員・谷原京子は
28歳の独身。とにかく本が好きで、
文芸書の担当として一生懸命、本を売る日々。

店長は、山本猛という名前ばかりは勇ましい。
頼りになるのかならないのか・・・。
そんな店長の元、日々イライラが募り笑顔に
なれない日もある。
そんな京子の心の支えは、先輩書店員・小柳真理さん。
小柳さんに憧れて書店員になりたくて、武蔵野書店に
入ったようなものだ。
しかし、ある日小柳さんに、店を辞めることになったと言われ……。
京子にとってその衝撃ははかりしれない!!!

書店の仕事は、とても大変だ。
毎日送られてくる商品、検品、品出し、問い合わせ、注文、返品、
本は重いので、腰痛になる。だいたい書店員は腰痛持ち。

この作品にはそんな書店の仕事の「あるある」があふれている。
そして書店員の悩みが、憤りがあまりにリアルに描かれているので、
共感しまくりで、現場から長く離れていた私自身も
身につまされる場面が数々出てきた。

また、書店員がどれほど本が好きなのか?
それをいかにして読者に伝えようと日々悪戦苦闘
しているか?そのあたりを読むとじわ~っと
胸にしみてきました。

さらに、この店長!バカなのか、それとも凄い人なのか?
わからないくらいに、めちゃめちゃ面白い。
この作品の爆笑要素はすべてこの店長の面白さなのだ。
場の空気を読んでいるのかいないのか!
陰でバカよばわりされているこの店長さんこそがミステリー!

ほかにも謎めいた登場人物がいる!そんな人たちの
謎めいた行動もミステリアス~~~。
クライマックスはまるでミステリー小説の「大どんでん返し」
のようです!

面白いです!めちゃめちゃ面白かったです。

『店長がバカすぎて』
著者:早見和真
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,500(税別)