芦沢央さんの「カインは言わなかった」。
最初はプルーフで読ませて頂きました。
芦沢央さんと言えば、昨年「火のないところに煙は」が
ミステリー・ホラーいずれのファンからも高い支持を受け、
本屋大賞にノミネートされました。
「火のないところに煙は」はホラーミステリー
として申し分ない面白さでした。
新作「カインは言わなかった」は、
その濃密な人間描写に絶句しました。
生身の人間の感情の波がもろにぶつかってくる!
そんな感じを受けました。
カリスマ演出家・誉田の新作公演、その開幕直前に主演ダンサー
の藤谷誠が失踪をした。誉田は失踪した誠の代わりに
誠とライバルの尾上数馬を指名し、レッスンを開始した。
和馬は開幕まで、誉田のパワハラと厳しいレッスンに耐えた。
舞台美術を担うのは、藤谷豪。誠の弟だ。
男性でありながら美し過ぎる容姿。
演出家のパワハラ、カンパニー内での熾烈な主役争い。
主演ダンサーとその弟を巡る女性たちのどろどろの恋愛劇!
今回の作品のモチーフである、ダンス、絵画、そして恋愛。
いずれにしても、人間の心の奥に潜む感情の全てが表に
現れるものだと思う。
嫉妬・怒り・絶望、それらの感情が登場人物ごとに
見事に描きわけられ、やがて殺意に変わってゆく。
冒頭の殺人は誰が犯したのか?
登場人物の誰が殺意を抱いてもおかしくない。
そんな風に描かれてゆく過程が緻密に練りあげられている。
そして想像だにしなかった犯人。
さらに、ダンサー失踪の裏で何が行われていたのか?
その真相に人間の冷酷さを見たような気がした。
それでも、これほど暗い闇、そして暗い激情
が迸った作品なのに、絶望の先には希望が
あるという結末にものすごく救われた。
『カインは言わなかった』
著者:芦沢央
出版社:文藝春秋
価格:¥1,650(税別)