毒舌刑事が凶悪犯を追いつめる!「毒島刑事最後の事件」

中山七里さんの文庫新刊「毒島刑事最後の事件」読了。
「作家刑事毒島」の刑事時代の物語を描く。
七里先生、何を読んでも面白い!

大企業が並ぶ大手町で起きた連続射殺事件。

ミステリー新人文学賞を主宰する大手出版社を
狙った連続爆破事件。

婚活中の女性を狙った連続硫酸ぶっかけ事件。

緊迫した捜査会議で、上位陣の捜査方針に
NOを唱える毒島。
彼の人を小馬鹿にしたような態度に上位陣、
さらに彼の属する班の班長・麻生は冷や汗ものだ。

しかし、理路整然とした彼のプロファイリングに
上位陣はぐうの音も出ない。
管理官らは、毒島の軽妙な語りによって
毒気を抜かれてしまう。

そして、事件の犯人たちは、毒島のずば抜けた
推理力と捜査能力であっけなく逮捕される。
犯人たちを追いつめ、自白させる過程で、
毒島は、こんな承認欲求をこじらせた
ガキみたいなやつらが、これほどの犯罪計画を
たてられるはずがない。
絶対に「黒幕」がいる・・・と確信する。

弱者を踏みつけても平気でいられるような、
エリート意識に踏み固められ歪んだ自尊心を
持つ犯人たちを、毒島は皮肉と揶揄を含んだ
毒舌で極限まで追いつめる。

彼の執拗な聴取と、脅しともとれる追いつめ方に
犯人たちのメンタルは粉々に砕け散ってしまう!

こんな刑事と対決することになったら、絶対に
勝ち目はない。

毒島刑事!恐ろしい。けれど凄い奴。
自分の欲求を満たすだけの殺戮を毒島は決して
許さない。
犯人たちを追いつめる過程は、清々しいほど!

「ドクターデスの遺産」「切り裂きジャックの告白」など
犬養隼人シリーズの犬養刑事が毒島刑事のバディ
として登場しているところも面白い!!

『毒島刑事最後の事件』
著者:中山七里
出版社:幻冬舎(文庫)
価格:¥781(本体¥710+税)

深層心理をえぐる!究極の恋愛小説「傲慢と善良」。

「人生で一番刺さった小説」ということで
話題の恋愛ミステリー、辻村深月さんの
「傲慢と善良」(朝日文庫)を読了。

読んでいる間中、ずっと自分自身どうだったのか?
と自身を顧みながら読みました。
面白いし、こんな恋愛小説、読んだことが
なかったので、ずしんと心に響きました。

婚活アプリで知り合った女性・坂庭真実と、
きちんと付き合って2年。
未だに結婚を言い出せず、悩んでいた西澤架の
元へ切羽詰まった真実から電話がかかってきた。
「あいつが部屋にいる。怖い!助けて!」
真実は、ストーカーに付きまとわれていた。

架は、それをきっかけに真実との結婚を決め、
準備のために同棲を始めた。
ところが、結婚式の相談をしようと家に帰ると、
真実の姿が忽然と消えていた。

ストーカーに拉致されたのでは・・・と
警察に事情を話すが相手にしてもらえず、
架は、真実の両親から彼女の過去を聞き出す。

何事も両親の言いなりだった真実。
最初は母親が見つけてきた相手とお見合いをする。
しかし気に入らず2度目は自分が選んだ相手
に会うがうまくいかなかった。
架は、どちらかが真実を拉致しているのでは?
と疑ったが、会って話を聞くとどちらも
そんなことをするような人ではなかった。

そして真実のお見合いをセッティングした
結婚相談所の女性社長から、架は人間の
本性について聞かされることに・・・。

それを聞いた架は・・・・。
真実はなぜ姿を消したのか?
真実は生きているのか?

「恋愛」と「結婚」について深く深く
考えさせられる。

愚鈍なまでの善良さ・・・
自己評価が低いくせに自己愛が半端ない・・

グサッと刺さる言葉にメンタルをやられそう
になるが、どれも現代社会に生きる人たちの
姿を見事に表現していると思う。

そして、否が応でも自分の過去や
生き方、恋愛観に向き合わされる。

ありのままの自分をさらけ出せない、
どうしようもない生きづらさが伝わってくる。

恋愛も生き方も、がんじがらめの自分を
解放して本当の自分で生きる!
それが一番幸せなことなのだと思った。

『傲慢と善良』
著者:辻村深月
出版社:朝日新聞出版社(文庫)
価格:¥891(本体¥810+税)

犬愛が半端ないミステリー!「犬を盗む」

犬を飼っていない、私でもうるっときました。
愛犬家のミステリー作家・佐藤青南さんの
「犬を盗む」(実業之日本社)
読了しました。

高級住宅地で、80歳の老女が殺された。
警視庁捜査一課の植村たちは、老女の
周辺を捜査。
老女は愛犬家だったらしい、家の中では
殺害されるまで、犬を飼っていた形跡があった。
しかし、その犬が消えていた。
事件解決の手がかりを掴めるかもしれない。
植村たちは犬の行方を追うことに・・・。

一方、コンビニでアルバイトをしている
松本は、最近になって犬を飼い始めた。
そこで松本の後輩として接している鶴崎。
実は松本の過去を暴き、スクープを
ものにしようとするある雑誌編集部
から送り込まれたフリーの雑誌記者だった。

松本は少年時代、両親と飼い犬を殺害した
殺人犯だった。しかし、刑期を終え、
更生し名前変えて社会に復帰し片隅で生きている。

鶴崎は、松本が凶悪な事件を起こしたことを
不思議に思った。
穏やかな性格で、犬に対する愛情は半端ない。
自分がシフトの時は、鶴崎に散歩を頼む。
そんな松本が凶悪な事件など起こすだろうか?と。
そう思い始めると、松本の過去の暴露記事など
書けそうにない。しかし編集長からは催促の
連絡が・・・。

ミステリー作家の小野寺真希は、男が
犬を散歩させているところを見かけた。
あの犬は確か老女が散歩させていた犬だ。
なぜ男が散歩させているのか・・・?
不審を抱いた真希は、その男を調べると
信じられない過去にたどり着く。
犬を愛するがゆえに起こした行動が
自分自身の首を絞めることに・・・。

三者三様の動きが事件の謎を深めてゆく・・。
「犬」を巡り、刑事・雑誌記者・殺人という
過去を持った男・狂気に奔る女流ミステリー作家。
彼らが交差し、次第に事件の核心に迫ってゆく
過程は、読み応え満点で非常に面白い!

章の間に挿入される、犬目線と思われる
つぶやきによって、次第に犬が飼い主に
信頼を寄せてゆくところが凄く良かった。

クライマックス、仰天の真相に絶句!
さらに「犬」への愛情が凄すぎて
ホロっときてしまった。

『犬を盗む』
著者:佐藤青南
出版社:実業之日本社
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)

幻のデビュー作!「時計仕掛けの恋人」P・スワンソン

「そしてミランダを殺す」「ケイトが恐れるすべて」
「アリスが語らないことは」など、
予測不能で読者はいったいどこへ連れて
いかれるやら・・とドキドキしながら読み、
驚愕のラストでがつん!とやられてしまう展開が
クセになる、ピーター・スワンソン作品。
そんな彼のデビュー作「時計仕掛けの恋人」を
読みました。

ボストンで、出版社に勤める中年男性
ジョージは、元恋人で、今は仲の良い
女友達とバーで飲んでいるときに、
魅惑的な女性に目を奪われる。
彼女は学生時代に死んだはずの恋人・
リアナに似ていた。

元恋人と店を出て帰路についたジョージ
だったが、どうしても気になり再度
バーに戻ると彼女がいた。
そして、彼女の方からジョージに近づいてきた。

彼女は、やはり死んだはずのリアナだった。
何十年も会っていないのに、リアナは
ジョージに頼みごとをしてきた。
「ある男に狙われている、助けて欲しい」と・・。

詳細を聞いたジョージは、その依頼を
「それぐらいのことなら」と引き受けて
しまった。

大学時代にもリアナから手痛い仕打ちを
受けて傷ついた経験から、関わるべきではない
と知りつつ、リアナの言葉に引き込まれゆく。

しかし、リアナの依頼を受けてしまったことで、
リアナとジョージの周囲で殺人事件が起きる。
そして、ジョージも命を狙われることに・・・。

リアナは再び行方をくらまし、ジョージは
警察から容疑者として疑われる。

ジョージの目線で語られる、リアナという女性。
読んでいると、リアナに翻弄される
ジョージという構成に見えるが、
果たしてどうだろう?本当に悪女なのか?
それとも・・・?

最後の最後まで事件の真相もリアナの正体も
わからない。

予測不能かつ怒涛の展開がこの作品ですでに
確立されている。

読者を引き込む緻密なストーリー展開に
はまってしまう!

P・スワンソンの極上ミステリーを
堪能して欲しい。

『時計仕掛けの恋人』
著者:ピーター・スワンソン
出版社:ハーパーBOOKS(文庫)
価格:¥990(¥900+税)

ユーモア満載!本格ミステリ長編、「仕掛島」

東川篤哉さんの「謎解きはディナーのあとで」は
2011年本屋大賞を受賞した。
ドラマ化・映画化で話題をさらった。

久しぶりに手にした、「仕掛島」は、
東川さんの持ち味が十分に楽しめる
本格推理小説の傑作だ!

弁護士の矢野沙耶香は、父の代わりに
岡山県の名士・西大寺吾郎が遺した
遺言状を公開するために、一族が
集まる斜島にやってきた。
遺言状は2通あり、1通目に従って
一族は瀬戸内海の孤島に集められていた。

船で偶然出会った、探偵・小早川隆生。
彼は、行方不明になっていた一族の一人
鶴岡和哉を探し出した人物だった。

彼らは一族が集まる孤島の「御影荘」
に案内された。
矢野沙耶香は、一族の前で無事に
2通目の遺言状を読み上げていった。
誰もが納得したように見えた・・・

その翌朝、相続人の一人が死体となって
発見される。
死体の状況は、殺人だと思われる。
小早川は警察に連絡するが、嵐のため
船もヘリも出せず、彼らは死体とともに
孤島に閉じ込められる事態となった。

死体発見から、館では次々と怪事件が
起こる。
鬼面の怪人物、消える人影・・・。

探偵・小早川隆生と弁護士・矢野沙耶香は
否応なく怪事件に巻き込まれてゆく・・・。
警察に頼ることができないなか、二人は
殺人事件の犯人を探し出すことに。
やがて、一族が秘密にしていた23年前の
悲劇が明らかになる。

巧妙に配置された伏線、大胆なトリック、
そして、あまりにも悲劇的な真相に
瞠目するが、登場人物たちの軽妙で
ユーモア満載の会話に、思わず
クスっと笑ってしまう。

殺人事件という残酷なストーリーの
中では、それが救いにもなるかもしれない。

探偵・小早川隆生と弁護士・矢野沙耶香の
コンビが良かった。

『仕掛島』
著者:東川篤哉
出版社:東京創元社
価格:¥1,980(本体¥1,800+税)

城塚翡翠シリーズ第3弾!「invertⅡ 覗き窓の死角」

モンスター級の衝撃を受けた、
『MEDIUM霊媒探偵城塚翡翠』に続き、
第2弾『invert城塚翡翠倒叙集』は、
「すべてが反転」。そして、本書
「invertⅡ 覗き窓の死角」は、
「反転、再び」です。
読む前から期待度はMAX!

収録作は中編の「生者の言伝」と
表題作で長編「覗き窓の死角」の2編。

山道を走行中、台風の影響で大雨に
遭遇。おまけに車がエンストを
起こし動けなくなってしまった、
城塚翡翠とその相棒・千和崎真。
仕方なく、近くの民家に助けを求めることに。
二人が目指した家には中学生の男の子がいた・・・。
翡翠たちは、彼の好意で家にあげてもらった。
ところが翡翠は強烈な違和感を持つ。
彼は何か隠し事をしている・・・。
そこで、翡翠はあざと可愛さを前面に押し出し
男子中学生を翻弄し、違和感の正体を
暴こうとするが・・・。
翡翠の「可愛さは正義」という言葉通り、
その正義だけで真相を暴くところが凄い。
驚異的な「反転」に度肝を抜かれる。
「生者の言伝」

写真家の江刺詢子は、ある女性を殺害
するために綿密な計画を立てた。
そして、城塚翡翠をアリバイ証人に仕立て
あげる。
翡翠は、カフェでその女性写真家から
モデルになって欲しいと声をかけられる。
ミステリー小説が好きという共通の趣味で
話が盛り上がり、翡翠は女性写真家と
友達になった。
千話崎真は、翡翠に友達が出来たことを
素直に喜ぶが・・・。
やがて、女性写真家が計画を実行する日がやってくる。
緻密な仕掛けを施した、倒叙ミステリー。
翡翠が絶対的な犯人を追いつめようとするが、
一筋縄では解明されない。
「覗き窓の死角」

どちらの作品も城塚翡翠の魅力が
弾けている。

『invertⅡ 覗き窓の死角』
著者:相沢沙呼
出版社:講談社
価格:¥1,980(本体¥1,800+税)

シリーズ第2作目、衝撃展開!「悪魔を殺した男」

特殊犯罪対策室で、猟奇殺人事件を
捜査する、天海&阿久津コンビが再び登場!

アメリカで犯罪心理学を学び、
犯罪心理のスペシャリストとして、
警視庁に新たに設立された
特殊犯罪捜査室に呼ばれた、
天海志津香警部補。
相棒は、捜査一課のエースで、
検挙率NO1を誇る、阿久津誠。
彼には、物や人物に触れると
過去が見えるという特殊能力が
備わっていた。
その能力のおかげで、阿久津は
「予言者」と呼ばれていた。

前回の捜査で、数日間しかバディを
組まなかったにも関わらず、
天海と阿久津の間には「相棒」以上の
気持ちが芽生えていた。

天海は新たな事件を抱えていた。
若い女性が顔や頭皮の皮を剥がされて
殺されるという、あまりにも残酷な、
猟奇的皮剥ぎ連続殺人に遭遇。
難事件を予想した、天海は、
かつての相棒・阿久津に遺留品を
視てもらうことに・・・。

天海には、初めの事件の犯人の
目星はついていたが、阿久津の
特殊能力に頼った。
そして、天海は犯人をおびき寄せる
ために、独自に行動を起こす。

特殊犯罪捜査室・室長の大黒から
天海に新たなバディが紹介された。
警察内部監察室の永瀬という男だ。
彼は、警察学校時代阿久津と同期だった。
実は、永瀬は上司から阿久津に本当に
特殊能力があるのかどうか掴んで
来るように言われた、いわばスパイ
のような役割も担っていた。

天海と永瀬、二人で捜査を進めて
ゆくと、警察のさらなる暗部に直面する。

天海と阿久津にとって、誰が味方で
誰が敵なのか?
怪しすぎる人物が多く登場する。

変質者を装って、阿久津を罠にはめる者、
警察による恐ろしい企ての数々。
本当の悪魔は誰か!?
二転三転する展開、
巨悪との息詰まる攻防。

そして、超絶技巧のどんでん返しは圧巻!

『悪魔を殺した男』
著者:神永学
出版社:講談社(文庫)
価格:¥990(本体¥900+税)

静かなる完結編!「後宮の烏7」

シリーズいよいよ完結となる
白川紺子さんの「後宮の烏」。
シリーズ第7弾を読みました。
これで終わってしまうと思うと
寂しい気持ちになってしまう。

自分は自由になれる・・・
それは喜ばしいことなのに。
自由になった自分の未来を思い描いた時、
強烈な喪失感を感じる寿雪。
複雑な思いに戸惑う。

神の境界である、界島へ渡ろうとする
寿雪だったが、海底火山の噴火で海路は
閉ざされてしまった。

噴火の原因が、鼇の神が楽宮の海神を
怒らせたことだとすれば、鼇の神を
倒すことで怒りは収まる。そのためには、
烏の半身である黒刀を手に入れなければならない。
しかし、海底噴火により海を渡ることは出来ず、
それでは鼇の神を倒すことができないという
堂々巡りだった。

一方、界島を歩く白雷の手に烏の半身である
黒刀が握られていた!?
寿雪の運命はどうなるのか?
寿雪の夢は叶えられるのか?

そして、解き明かされる沙那賣一族の謎。
沙那賣一族兄弟の行く末も描かれる。

クールな関係の高峻と寿雪のように
穏やかなラストに感動した。
二人にふさわしい結末だと思った。

でも少し物足りないので、番外編とか
出してくれると嬉しいかも。

アニメ化で10月から放送なので、視てみたい!

『後宮の烏 7』
著者:白川紺子
出版社:集英社オレンジ文庫
価格:¥660(本体¥600+別)