名探偵は元裁判官のおばあちゃん?!

中山七里さんの本格ミステリー短編集です。

主人公は、警視庁捜査一課の若き刑事・葛城と
元裁判官・高円寺静の孫で、法律家を目指す高円寺円。
そして、冤罪事件判決で苦い過去を持つ高円寺静。

葛城刑事は、警視庁一課ではまだ若く、事件に際して、
天才的なひらめきや、鋭い洞察力とも無縁・・・。
法律家をめざし勉強中の大学生・高円寺円は、葛城の事件を
興味深そうに聞いてくれる・・・。

静おばあちゃん

神奈川県警で起きた、現役警察官射殺事件!
その容疑者として逮捕されたのは、葛城の元上司で
神奈川県警の組織対策課課長補佐・椿山だった。
現場に残された薬莢から、椿山の拳銃だと断定されたのだ。
また殺された警官との確執もあり、殺害動機、
凶器もそろい、椿山の犯行は疑う余地もなかった。
だが、葛城は一人、椿山の無実を信じ管轄外で捜査をしていたが、
行き詰まって円に相談した・・・。
「静かおばあちゃんの知恵」

町田のレディーガガと呼ばれた老女が自宅で変死体となって発見された。
第一発見者は孫娘とたまたま配達に寄った生協の配達員。
資産家だったが、強欲で厳しく育てられた子ども達は、
母親が死んだというのに辛辣な態度。殺害動機はあったが、
犯行時刻、彼らには全員アリバイがあった・・・。
「静おばあちゃんの童心」

新興宗教の教祖が亡くなった。しかし、教祖は甦るのだ。
教祖が亡くなる瞬間に立ち会った信者の一人は、
教祖の遺体が消えるのを間近で見た・・・。だが、教祖は
1週間たっても現れない・・・。教祖はいったいどこへいったのか?
「静かおばあちゃんの不信」

スーパータワーの建設現場のタワークレーン内で作業員が
殺害された!!被害者は日頃から、外国人労働者に
差別的な態度で接してきた男。
殺害現場は非常に高所のため容易には辿りつけない。
犯人はいかにして犯行に及んだのか・・・?
「静おばあちゃんの醜聞」

高級ホテルで、ある小国の独裁者が射殺された。
日本の警察も協力し、蟻の這い出る隙もないほどの
厳重な警備態勢だったにも関わらず事件は起こった。
同じ頃、フロントでは独裁者の妻からの無理難題に
頭を悩ませていた・・・・。
「静おばあちゃんの秘密」

次々起こる難事件!
葛城刑事は事件の概要を円に語る・・・。
円のブレーンは、元裁判官の静おばあちゃん。
彼女の鋭い洞察力と推理で事件の真相が暴かれてゆく!

そして葛城と円の絆も深まる・・・。
その過程も読んでいると楽しい。
血なまぐさい事件の中で、二人の絆はホッと心休まる。

また、円の両親の交通事故の真相は意外な結末を迎える!
さらに、さらに、静おばあちゃん!彼女が安楽椅子探偵にならざるを得なかった
秘密が!!ああああ~

中山さんの作品にはキーになる登場人物がいる。
例えば、「七色の毒」の犬飼刑事。
「贖罪の奏鳴曲」「さよならドビュッシー」の渡瀬刑事など・・・
この作品には、犬飼刑事が葛城の先輩刑事として
ちょっとずつ顔を出している。面白い!
そして、静おばあちゃん。
昨年発売され、このブログでも紹介した
「テミスの剣」に現役裁判官として登場!

静おばあちゃんの名探偵ぶりに脱帽です!

『静おばあちゃんにおまかせ』
著者:中山七里
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥660(税別)

胸に迫る!感涙ミステリー「半落ち」

警察小説の金字塔「64」が文庫化され
既刊本も注目されています!

本の学校今井ブックセンターでは、
「はまミス」コーナーで「64文庫化記念ミニフェア」を
既刊本も一緒に展開中です。

半落ち

横山先生の作品ではまさきの好きな作品は、
「半落ち」です。

元・警察官の梶が、自宅で妻の首を絞め、殺害したと自首してきた。
上層部からの命令で梶の取調べを行うのは志木警視正。
認知症に侵された妻を殺害した動機や経緯、殺害方法などすべて素直に
話し、ほぼ「完落ち」の状態だった。
だが、梶は妻を殺害してから自首するまで、2日間もかかっている。
志木はその点を追求したが、梶はこの空白の2日間について一切の供述を拒否した。
その後、家宅捜索と新聞社の調査によって、梶は歌舞伎町に
いたらしいという情報をつかんだ。
また、家宅捜索で梶の家には「人生五十年」という奇妙な書が
残されていた。

志木は、梶が妻を殺害せざるを得なかった事を鑑み、
じっくり供述をとれば良いと考えていた。
だが、上層部のいらぬ懸念のせいで、梶は虚偽の供述を
強要される。
事件は検察にまわされ、志木と面識のある検事によって
供述が捏造であると見抜かれてしまう。
そこから、警察内部の調査を進めようとする・・・。

事件は、志木警視正、新聞記者・中尾、裁判官・藤林の3人の
視点で交互に描かれている。
梶の事件から、警察内部の隠蔽、検察内部の腐敗、新聞社の
スクープ抜きの内幕まで非常にリアルに描かれていて面白い。
また、梶の妻への想い、梶の事件に思いを馳せる裁判官・藤林の過去など
人間描写も奥深く、胸に迫るものがある。
初公判では、警察、検事、弁護士も「空白の2日間」については
口を閉ざした。
そこまでして、隠し続けた「空白の2日間」の真相とは!?
衝撃と慟哭、そして読者を驚愕させ感動の渦に巻き込んだ物語の終結とは!?

類稀なる、感涙の警察ミステリーです。

『半落ち』
著者:横山秀夫
出版社:講談社
価格:¥590(税別)

警察小説の新境地!「精鋭」

朝日新聞に連載されていた、今野敏さんの
「精鋭」が発売されました。

今野先生が初めて特殊部隊「SAT」を描いた作品。

今野新刊

警察学校を卒業し、交番勤務に励む若き巡査、柿田亮。
市民の安全を守るため、日々奮闘中だ。
だが、時々柿田は疑問に思うことがある。
市民から投げかけられる苦情や、相談の類。
非番の日、たまたま痴漢を発見。
管轄署に連絡したら、すぐに事件になる。
まだ本当に迷惑行為をしたのかどうか調べもせず・・・。
自分にせいでこの男性の人生は狂ってしまうのではないか・・・?
自分の仕事は、警察官としての仕事なのか?
警察官はどこまで関わればいいのか?
自分が警察官に向いているのか?悩みながらも
上司の勧めで「機動隊」を希望する。

やがて「機動隊」の厳しい訓練もクリアし、
柿田は特殊急襲部隊「SAT」へ入隊することになる。

‘失敗は許されない。敗北も許されない。
SATが最後の砦だ! ’

自衛隊と一緒に訓練することで生まれた新たな疑問。
だがそこで気づいたことは・・・。

「俺たちは軍隊じゃない。あくまでも警察官だ。闘うという意味が違う。
軍隊のように、相手を打ち殺すという意味じゃない。
テロリストを制圧して検挙するために戦うんだ。
制圧して検挙するために戦う――」
この言葉が胸に沁みる!!

主人公・柿田亮の素直で真面目で率直な性格が、上司、先輩、仲間を
動かしてゆく・・・。やがて自分の行く道をまっすぐに進む決意をする。

ミステリーチックな展開はない。
これは一人の巡査の成長と苦悩、上司や仲間との強い絆を描き、
さらには、‘警察組織’の有り様を描いた、ある意味、本当の警察小説ともいえる。

柿田亮が厳しい訓練に耐えつつ、上司や先輩、仲間たちとのやりとりの中で
警察官として成長してゆく過程が面白く!そしてまぶしい。
今までにない、新たな警察小説の誕生!

読み終わった後の清々しさは半端ない!

『精鋭』
著者:今野敏
出版社:朝日新聞出版
価格:¥1,600(税別)

7つのどんでん返しミステリー「七色の毒」

最近はまっている中山七里さんの
「七色の毒 刑事犬飼隼人」を読みました。
短編なので、読みやすかったしとても面白かった!

「どんでん返しの帝王」の異名をとる中山さんらしい
ひねりの効いた衝撃が7回も味わえます!

精鋭

刑事らしくない風貌で、男前の犬飼隼人。
女性の嘘を見抜くのは大の苦手のため、女性には騙されやすい。
しかし、男性の嘘は百発百中で見抜く!凄い特技を持つ。

そんな犬飼刑事が遭遇した7つの事件は興味深い!

岐阜から新宿に向かう中央自動車道で起こったバス激突事故。
男性乗客1名が亡くなり、8人の重軽傷者を出す大惨事となった。
運転手は逮捕された。
管轄外でありながら、警視庁捜査一課の犬飼刑事は事故に不信を抱く。
亡くなった男性は毎週末新宿便を利用。いつも同じ席をに座っていた。
バス事故の裏に隠された謎に迫る!「赤い水」

イジメを苦に、学校の屋上から飛び降り自殺した男子中学生。
その親友がイジメの事実を告発。
学校側は、保身のためイジメは無かったと発表。
しかしマスコミに追及され、学校側はイジメを認めた・・・。
イジメに関わった少年たちは裁かれ、事件は終息したかに見えたが・・・。
本当に、男子中学生を自殺に追いやったの何・・・?
犬飼刑事が暴く黒い真実!「黒いハト」

釣り具屋を営む、中年店主。
親子ほど年の違う女性と結婚が決まった!
一人さみしく過ごす日々を明るく晴れやかにしたのは、
その女性とその兄だった。
あるとき店主は、二人を釣りに誘う。
楽しく過ごしたはずだったが!?
二人の正体とは!?
犬飼刑事が辿りついた悲劇!「青い魚」

下校途中で、男子中学生が中毒死した!
亡くなった少年は、ホームレスを害虫と呼び、
襲っていた少年だった。
凶悪な顔を持つこの少年。恨みを持ったのは
ホームレスかそれとも・・・?「緑園の主」

もしかして僕は性同一性障害・・・・?
小学生の翔の秘かな楽しみは、家の中でだけ
女の子・ミチルに変身する時だった。
しかし、存在しないはずのミチル宛てに教材の
DMが送られてきたことから、翔の日常は一変する。
ミチルとはだれなのか・・・?
翔のために犬飼刑事は真相を暴く「黄色いリボン」

「紫の供花」は第1話の「赤い水」の後日談。
バス事故に巻き込まれたある女性の事件を描く。

そして、はまさきが一番唸ったのは、「白い原稿」
大物ロックシンガーが真夏の夜、凍死体で発見された。
彼は大手出版社の小説コンクールで大賞をとり作家としてデビュー。
だがベストセラーになった本は内容が稚拙で、その賞は出来レース
だったのでは?と騒がれていた・・・。
真夏でありながら凍死!?それは事故か?殺人か?
小説コンクールのくだりはつい先年、出版業界でも話題になった事だ。
読んでいたら、ああの話!ってすぐにわかる。
ここまでリアルに描いちゃっていいの!?
驚くとともに、少し心配してしまう・・。

少年の凶悪犯罪を取り扱った「贖罪の奏鳴曲」
冤罪に真正面から取り組んだ「テミスの剣」など
中山さんの作品も多くが、実際に起きた事件をテーマに
あらゆる角度から斬りこんだミステリーが多い。

今回の「七色の毒」も高速道路でのバス激突事件、
イジメをひた隠す学校、詐欺事件、少年犯罪、
性同一性障害、など実際に起こった事件をヒントに描かれている。

人間の心の闇や悪意がじわじわと社会を蝕む。そしてそんな事件に
ひねりの効いたミステリーが味付けされ、物語の面白さが一段とアップ!

短編でありながら、ミステリーの面白さを十分堪能できるミステリ短編集。

『七色の毒 刑事犬飼隼人』
著者:中山七里
出版社:KADOKAWA(角川文庫)
価格:¥560(税別)

超弩級の悪女登場!「嗤う淑女」

最近、とても気になるミステリー作家さんは、中山七里さんです。
このミス大賞を受賞した作品はまだ読んでいません(すみません!)
しかし、「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「テミスの剣」の
あまりの面白さに唸っております・・・。

今では、「どんでん返しの帝王」と呼ばれている中山さん・・・
わかる!はまさき、いつも騙されています。そこが良いんですが!
そんな中山さんの最新作は、超弩級の「悪女」が登場します。
タイトルは「嗤う淑女」です。
読み終わった後、やったね!中山さん!と思わずにやけて
しまったのでした。

嗤う淑女

毎日、クラスメートから壮絶ないじめを受けている、中一の野々宮恭子。
そんな頃、クラスに従妹の蒲生美智留が転校してきた。
子どもの頃にある事情があって、引っ越していった従妹。
恭子は美しく成長した美智留との再会にとまどう。しかし、
美智留によって、クラスメートのイジメから逃れ、
さらに、難病からも救われたのだ!
恭子は、美智留の美貌と明晰な頭脳に憧れ、心酔してゆく。
そして、ある事件をきっかけに二人は大きな秘密を共有することになる。
やがて、成長した美智留は、「生活プランナー」として、経済的不安を
抱える顧客を中心としたコンサルタント業を行っていた。
恭子はそんな美智留のアシスタントだ。
近寄りがたい美しさを備える美智留と、人のよさそうな恭子との
相性は抜群で、不安を抱えた顧客は何の疑いもなく彼女らに
悩みを打ち明けるのだった。

ストレスから買い物依存症となり、借金を抱えた女性銀行員。
就職活動に失敗して家業を手伝う恭子の弟。
働かず、大口ばかり叩く夫と育ちざかりの娘を抱え、家計のやりくりに困窮する主婦・・・。

美智留は彼女らに「あなたは悪くない・・」とやさしく包み込むように
言葉をかけ、解決法を示唆してゆくのだが・・・。

相談者はいずれも、美智留の美しさと聡明さに目を奪われてゆく。
美智留から発せられる優しい言葉は、魔法のように相談者たちを
包み込んでゆくのだ・・・・。

蒲生美智留はその美貌と、巧みな話術で人を操り、彼女らの人生を狂わせていく。
美智留とは一体何者なのか?
人びとはいかにして、美智留の罠に堕ちてったのか?

とんでもない悪女!の凄さが面白い!
さらに人間の醜い部分がここまで描くか!?というところまで描いてある。
その描写があまりにもリアルなため、途中でやめることが出来ない。
さらに美智留の毒々しさが強烈で、ぐいぐい引き込まれてしまうのだ。
そして気になるクライマックスは「どんでん返し」の帝王がやってくれています!
誰もがぶっ飛ぶ展開です!

『嗤う淑女』
著者:中山七里
出版社:実業之日本社
価格:¥1,600(税別)