超変化球の恋愛小説「プリズム」

2012年の本屋大賞10位にランクインした、
「プリズム」、変幻自在に作風が変わる百田尚樹さんの作品です。
文庫化されました。

「プリズム」と「モンスター」は実はお互いが
‘対’になっている作品だと百田さんは語っておられます。

「モンスター」は、生まれたときから顔が変形し、
周りから‘モンスター’と呼ばれた女性が、生死をかけ
整形を繰り返し、絶世の美女に変貌。
恋焦がれた男性の心を振り向かせるというストーリー。
美に対する凄まじいまでの執着と現代の整形技術の凄さに驚愕した。
「プリズム」は、女性が出会ったある男性。しかし彼はどんなに
愛しても逢うことがかなわない人だった。その理由が哀しい。

プリズム

世田谷にある旧い洋館に家庭教師として通うことなった聡子。
小学4年生の修一とは打ち解け、順調に仕事をこなしていった。
ある日、屋敷を散策中に、屋敷の離れに住む謎の青年と出会う。
その青年は逢うたびに全く違う振る舞いをする。時には攻撃的に
時にはプレイボーイに、そして時には知的で穏やかな紳士。
そんな青年だが、聡子は次第に打ち解けてゆく。
だが、屋敷の人間はその青年について、なぜか固く口を閉ざすのだった・・・。

謎めいた青年。彼には哀しい秘密があったのだ。
青年の一言「僕は、実際には存在しない男なんです。」
それを知った聡子は、自分が彼に惹かれ初めていることに気が付く。

どんなに愛しても決して結ばれない・・・。
究極の純愛物語を、現代社会の病理をテーマに描く、
今までいない、恋愛ミステリー。
青年の正体が徐々に明らかになる過程は、まさに謎解きの極致!

『プリズム』
著者:百田尚樹
出版社:幻冬舎
価格:¥690

8年ぶりの本格ミステリー「貘の檻」道尾秀介

道尾秀介さんの本格ホラータッチのミステリー、「貘の檻」
なんと、ミステリー作品は8年ぶり。
そういえば、しばらく道尾作品を読んでいませんでした。
やはり道尾ミステリーが待ち遠しく、新作ミステリーが
読めてうれしい・・・。

道尾新刊

32年前に父親が犯した殺人事件で故郷を追われた「私」。
その事件に関係し、行方不明だった女性が「私」の目の前で
亡くなった。
過去の事件がもとで心に傷を負った「私」は、社会・家族
から逃げ薬物に頼ることになった。自分の中に巣食った何かを
コントロールできなくなった「私」。
薬を飲んで眠ると必ず見る、悪夢。32年前の事件の真実がその悪夢の中に
隠されているような気がする。
「私」は事件の真相を求め、息子と二人で32年前に追われた故郷へ
戻る。だがそこでまたしても異様な事件に巻き込まれる。

悪夢のような幻想と、現実のシーンを見事に描き分け、
伏線を張る。そして薬物、昆虫、写真、地下水路など
多彩な小道具を使ってトリックを組み立てる。

さらに怪しい人物を絶妙なタイミングで配置。
事件の真相に近づきそうになると、またはぐらかす・・。
この手法・・・・!なんて上手いんだろう。
道尾作品の衝撃作「向日葵の咲かない夏」を彷彿とさせる
恐さとおどろおどろしさ再び!という感じ。

8年ぶりの書き下ろし本格ミステリー、十分に
堪能しました。

『貘の檻』
著者:道尾秀介
出版社:新潮社
価格:¥1,800(税別)

究極の歴史ミステリー「本能寺の変」がテーマ『覇王の番人』

本屋大賞が「村上海賊の娘」に決まり、大河ドラマは
『黒田官兵衛』が好評で、今年は戦国時代がクローズアップ!か?
子どもの頃から日本史の中で戦国時代が一番好きだったはまさき。
以前から読んでみたかった真保裕一さんの
『覇王の番人』を読みました。
「本能寺の変」をテーマにした、歴史ミステリーです。

明智光秀がなぜ、信長を討ったのか?光秀の暴挙だったのか、
誰かに踊らされたのか?罠にはめられたのか?
いずれにしても、織田家臣団の中でも飛びぬけて思慮深く
戦にも強く領民思いの光秀が、勝算もなく織田信長を討つはずがない。
これにはきっと裏がある・・。真保先生の疑問は徐々に膨れ上がり、
歴史上の究極のミステリーに挑んだ傑作です。めちゃめちゃ面白かったです。

覇王の番人

明智家の総領であったが、斉藤道三に仕え、その後朝倉義景に拾われた、明智光秀。
しかし朝倉義景はこの戦国の世において、あまりにも凡庸な武将だった。
天下統一を夢見る光秀は、三好・松永に蹂躙された京を救うため、足利義輝の弟・
足利義秋を将軍にするべく奔走する細川藤孝と意気投合する。
二人はその強力な後ろ盾に織田信長を選んだ。
織田信長の計らいで、将軍となった足利義昭(義秋)。
しかし将軍となった義昭の傍若無人な振る舞いに、織田信長ら多くの武将がはなれていった。
いまや、織田信長の天下なのだ。
光秀は、「天下布武」を掲げる織田信長に天下統一の夢をたくし、織田軍団の先頭に立って
戦いの日々へと突き進んでゆく。

明智光秀がどれほど慈愛に満ち、家族を愛し、家臣を大切にし、領民を思っていたか?
光秀の聡明さが際立つ。読めば読むほど素晴らしい好人物なのだ。誰もが光秀に
ついてゆくだろう。その才覚で織田家臣団の中でも頭角を現し、信長からも寵愛される。
あの羽柴秀吉が嫉妬するくらいだ。
光秀は私利私欲はいっさい見せず、ただひたすら天下統一のために働く。
いつか信長が戦乱のない世を作ってくれると信じるからこそだ。
だが、信長の行いは次第に冷酷非道なものへと変わっていった。
光秀の心の中に小さな疑念の火がともる。これでいいのか・・・?
この信長に天下を託していいのか・・・・?

常に清廉潔白な光秀。それとは真逆に悪鬼のごとく変り果てる信長。
この対比が見事に描いてある。読者も次第に光秀に共感してくる。
信長の朝廷への暴挙の数々は、平清盛、足利義満の暴挙に倣っている
との記述を読んだとき、私の中の信長像がいっきに崩れてしまった。
秀吉は己の武功を自慢する、ただの猿に成り下がっている。ここが面白い。
そして光秀が、本能寺で信長を討つと決めるまでの苦悩は痛々しいほどだ。
信長を討つと決めた光秀は、密書を届けるのだが・・・。

また、下忍を使った調略も詳しく描いてあり、忍者に興味のある
歴史好きにはたまらない・・・。

聡明で、清廉潔白な光秀だったが、弱点は人を信用し過ぎること。
多分、この戦はどれだけ人を疑い、裏切るかなのだ。
裏切った者が勝つ!正義はない!哀しいけど・・・。

歴史上究極のミステリー「本能寺の変」の真相は!
真保裕一さんが、数々の歴史史料から導き出した答えは?!
歴史の闇に葬られた、明智光秀の生涯がここにある!

『覇王の番人 上下』
著者:真保裕一
出版社:講談社
価格:上下各¥762(税別)

叙述トリックの傑作!『殺人交叉点』

テレビで作家の湊かなえさんが大絶賛されていた、
フレッド・カサック「殺人交叉点」を読みました。

殺人交叉点

先日、芸人さんがテレビで紹介したこともあり、
乾くるみさんの「イニシエーション・ラブ」が
再度ブレイク中です。
‘びっくり仰天’‘思わず二度読み’の傑作!!

実は、「殺人交叉点」も上記のフレーズがぴったりの
ミステリーなんです。

十年前に起きた二重殺人事件。単純な事件だと思われていた。
ルユール夫人も最愛の息子・ボブが殺人を犯したと信じていた。
しかし、真犯人がいた・・・。
時効寸前に明らかになる驚愕の真相!

ルユール夫人とセリニャン弁護士が交互に語る回想。
10年後に現れる謎の恐喝犯。

2重3重に仕掛けられた、著者の巧妙な罠。
いったいどれだけの読者が正確にこの本の罠を見抜けるだろうか?

1972年にフランスミステリ批評家賞を受賞した本作。
見事なまでのトリックに‘仰天’‘二度読み’!

併録された「連鎖反応」は思わず「ありえん!」と
叫んでしまったほど!面白いです。

『殺人交叉点』
著者:フレッド・カサック著/平岡敦訳
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
価格:¥940(税別)

キラークイーン・近藤房子の正体!「SRO」シリーズepisode0!

『SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室』シリーズの新刊が
発売されました。文庫ではなく、単行本です。
シリーズ番外編という形です。
シリアル・キラー近藤房子はどのようにして殺人鬼になったのか・・・?
近藤房子が自らを語る!

房子

シリーズ5で瀕死の重傷を負い、入院中の近藤房子のもとを
SRO室長・山根新九郎と、副室長・芝原麗子がたずねた。
彼らの目的は、房子の自供だ。
前作で発見された遺体は20体以上。
一人の犯行では考えられない数だったが、山根はまだ行方不明の遺体が
あると考えていた。

房子は嬉々として自身の過去を語り始める。

異常な親子関係は房子の心を蝕んだ。
幼い房子が日々考えたことは、生き延びること。ただそれだけだ。
房子が非常に頭が良いのは、どうやって生きていくかをつねに考えていたからだ。
だが、いつのまにか、邪魔者は排除するという意識が湧き上がる・・・。

人を殺す行為を、身勝手な論理で正当化してきた房子。
何の罪も感じず、ただ愉悦に浸る房子。
それはおぞましいモンスターだ。
このモンスターの言い分に読んでいて時に共感を覚える自分がいた。
恐い!私!大丈夫か!?

あまりにも衝撃的な房子の過去に、時間を忘れて読みふけって
しまった。
キラークイーン・近藤房子が出来るまで・・・。
面白かった。

『房子という女 SRO警視庁広域捜査専任特別調査室 episode0』
著者:富樫倫太郎
出版社:中央公論新社
価格:¥1,500(税別)

極上の警察小説アンソロジー集『警官の貌』

警察小説アンソロジー集『警官の貌』(双葉社)です。
今野敏さん、誉田哲也さん、福田和代さん、貫井徳郎さん
今をときめく、作家さんたち4人の警察小説の短編を集めたもの。
ワクワクしながら読みました。
どれから読んでもほんとに面白いです!

警官の貌

今野敏さんの『常習犯』
警視庁捜査三課の萩尾秀一は、窃盗事件専門のベテラン刑事。
職人技を駆使し、盗みを働く犯罪者と渡りあってきた。
萩尾は窃盗の現場を見ただけで、だれが盗みを働いたのか、だいたい
見当がつく。その特技で一目置かれている。萩尾の弟子となりつつある、
武田秋穂刑事とコンビを組んで事件に挑む。萩尾と窃盗の常習犯である
老人との交流がじんわりと胸に沁みる。

誉田哲也さんの『三十九番』
暗くて黒い警察小説です。警察官にも
深い闇がある・・・。
ある一人の留置所係官の物語。彼の闇とはいったい何か!?

福田和代さん『シザーズ』
警視庁通訳捜査官・城正臣と保安課上月。二人は立場は違うが、
事件の内容で一緒に捜査することが多い。城は妻に逃げられ、
一人娘を育てながら通訳捜査官に徹している。ほんとは優秀な
刑事だが・・・・。
城があまりにも破天荒なので、上月は振り回されることもしばしば。
女性の自殺事件から端を発した犯罪を暴く!!

貫井徳郎さん『見ざる、書かざる、言わざる ハーシュソサエティ』
人気デザイナーが何者かに襲われた。命はとりとめたものの
残虐極まりないやり方で生きる希望さえ失ってしまう姿にされていた。
所轄刑事の吉川は、非道な犯人への怒りを心に秘め、事件を追うのだ。
日本の死刑制度に疑問を呈する。この作品を読んで自分ならどう思うか
複雑な気持ちになった。

警察小説をあらゆる角度から描いている。短編でありながら、
それぞれの作品はとても深い。警察小説の面白さを存分に
味わえる珠玉の作品集。

『警官の貌』
著者:今野敏/誉田哲也/福田和代/貫井徳郎
出版社:双葉社(文庫
価格:¥629(税別)

傑作警察小説!道警シリーズ第5弾『密売人』

「笑う警官」で佐々木譲さんの描く警察小説にはまってしまいました。
面白いのにまだあまり紹介できずにいました。
道警シリーズはすでに6作品出ています。
「密売人」はこのシリーズの中でも私の好きな作品です。

密売人

秋も深まる北海道で、ほぼ同時期に三つの死体が発見された。
函館の転落死体、釧路の溺死体、小樽の焼死体。
それぞれ事件性があると判断され、津久井卓は小樽の事件を追った。
同じ頃、小島百合は札幌で女子児童が何者かに車で連れ去られたとの通報を受けた!
偶然とは思えない三つの不審死と誘拐。津久井、小島は佐伯に相談!
1件は、以前道警の刑事のS(情報提供者)だと判明。
次第に明らかになる不審死の正体。
次は自分の協力者が標的になると直感した佐伯は、一人裏捜査を始めた。

「笑う警官」以降、警察内部の不祥事は粛清されたものの、
問題になった刑事たちは、何らかの方法で警察を辞めさせられていた。
その中には正しい警察官もいたのだが・・・。
腐った警官のまま警察を辞めた者たちの行く末はどうなっているのか?
佐伯たちにはわからない。事件の行方と協力者たちの命・・・・。
佐伯はなんとしてでも、協力者の命を救うと決心する。

警察組織の中で「正しい警察官」であろうとすることは
難しいのか?
だが、正義を全うしようとする佐伯たちの行動が清々しい!

続きが必ず読みたくなる、傑作警察シリーズ。

『密売人』
著者:佐々木譲
出版社:角川春樹事務所
価格:¥629(税別)

西澤保彦先生のトークショー、とても面白かったです!

3月29日(土)に本の学校で
『探偵が腕貫を外すとき 腕貫探偵、巡回中』刊行記念
「西澤保彦さんトークショー&サイン会」を開催いたしました。

はまさきが司会進行を承り、
西澤保彦先生と「腕貫探偵」シリーズの担当さんの
お話を伺いしました。

腕貫新刊

腕貫探偵シリーズが生まれたきっかけや、
当初の設定などなど。
神出鬼没の腕貫探偵、当初はゴーストのようなイメージで
描かれたようですが、「腕貫探偵、残業中」から
人間っぽさが出てきたこと。
安楽椅子探偵ということでしすが、相談者に
謎解きのヒントだけだして、あとは自分で解決してね!的な
ストーリーが、それだけでは続けてゆくことが出来ずに
だんだんと探偵らしくなっていったことなど、
『腕貫探偵』が出来るまでのエピソードも楽しく
語って頂きました。
今回の新刊で、腕貫さんとユリエさんが微妙に近くなっていく
過程を苦労したところなども含めてお話頂きました。
意外な脱線もありました。
会場からの質問も的を得た質問ばかり!!
丁寧にお応え頂きました。

西澤先生、ありがとうございました。

トークショーの内容は、imaibooksのサイトでも
近いうちにアップさせて頂きます。
ファンの皆様、お楽しみに!