バチカン奇跡調査官シリーズ、本編第16弾「王の中の王」

大好きなバチカン奇跡調査官シリーズです。
本篇も16作目に突入!

今回の作品は、本当に神の奇跡が
起こったのでは?と思えるほど
不可思議な現象が現れます!

オランダ・ユトレヒトの小さな教会
聖ファン・クーレン教会では、カソリック
聖体祭の日は、聖遺物巡礼を行う。
協会の秘密の地下倉庫に『聖釘』が
収められている木箱が厳重に保管
されているのだ。
さらにこの年は、主の足跡の奇跡が
メディアで取り上げられ協会は
にぎわっていた。

その夜、教会で突然停電が起こった
そして、三つの光る球体が教会に
現れ、虹色に輝く光となって教会を
移動した。
その時、司祭の頭上で神の声が響いた。
それは町の未来の予言だった・・・・。

バチカンにその奇跡の申告があり、
奇跡調査官のロベルトと平賀は
現地へ飛ぶ。

二人は、光を目撃した人びとの
聞き取り調査を行った。
彼らは、天使と会った、病気が
治ったなどそれぞれ違う体験を
語った。

ロベルトは、隠し協会と言われる
聖ファン・クーレン教会の歴史を調べ、
平賀は奇跡が起こったとされる
協会の中、細部を科学的視点から
調べ尽くす。

隠し協会に伝わる至宝「王の中の王」
とはいったい何なのか?
14世紀のオランダの歴史を紐解き
ながら物語は奇跡の正体に迫ってゆく。

そして、彼らが導き出した真実とは!?

奇跡調査の行方もどうなるか気になるが、
物語の中で語られる、ヨーロッパの
歴史や宗教に関する記述がとても
興味深いです。

真実は常に歴史の中に埋もれている!?
今作も文句なく面白いです!!

『バチカン奇跡調査官 王の中の王』
著者:藤木稟
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥680(税別)

沈没寸前の豪華客船、女性消防士命がけの救出劇!「波濤の城」

五十嵐貴久さんの女性消防士が主人公の
「炎の塔」がとっても面白かったので、
シリーズ第2作目の「波濤の城」を
読みました。

「炎の塔」は名作パニック映画
「タワーリングインフェルノ」に
インスパイアされて描かれた作品でした。

今回の「波濤の城」は、同じく
パニック映画の傑作と言われる
「ポセイドン・アドベンチャー」から
ヒントを得て描かれた作品です。

大型台風に見舞われ、座礁し
沈没寸前となった豪華客船をさらに
業火が襲う。その極限の中で
繰り広げられる人間ドラマと救出劇!
すさまじい臨場感に圧倒されます!

豪華客船、メモリアル・オブ・レインボー号の
山野辺船長は、巨大台風が迫る中、
カジノ誘致を目論む代議士の要請で
急遽、航路変更を行い強行出航した。

山野辺の思惑は、代議士に恩を売り、
カジノ用フェリー航路の独占、そして、
会社の中で、自分の地位を確たるもの
にしようという自分勝手なものだった。

乗員乗客2,000名の中には、
離婚危機を迎える若い夫婦、
末期がんと診断され家族のために
死を覚悟した男。
組織から、知人の男を殺害するよう命令された男。
小説が書けなくなった老作家夫婦。
船オタクの根暗な青年、
過去の沈没事故のトラウマを乗り越え
られない客室係の男、
そして、銀座第一消防署の女性消防士・
神谷夏美と柳雅代もいた。

大型台風の影響で、激しい雨と
波がクルーズ船を襲う。
そして、深夜、突如異音とともに
排水が逆流、海水が流れ込み、船が
傾き始めた。

しかし、山野辺は頑なにすべての事実
を否定し、航行を続けようとした。
方や、沈没を経験している客室係は
己の判断で乗客の避難誘導を始める。
激怒する山野辺。

その間に、切断された電線から火の手
があがり、船の一部は業火に見舞われる!

神谷と柳は、残された乗客たちと
避難用ボートが設置してある9階へと
逃れようとするが、炎に退路を
断たれてしまう!!!

極限状態の中での人間ドラマが
胸を打つ。
神谷と柳の絶対に諦めない精神が
乗客たちの心に火をつける。
そのシーンがめちゃめちゃ泣ける!

また、船長でありながら己の保身
しか考えない山野辺が許せない!
なんど「バカかこいつ!」
と突っ込んだか知れない。

ベースは「ポセイドン・アドベンチャー」だ。
そして、著者はこれまでの数々の海難事故を
ヒントにこの作品を描いている。
人間の判断ミス、関係者の自己保身で
どれほどの悲劇が生まれるのか?

生死がかかった場面での人間の本当の
姿が描かれている。

手に汗握るパニック小説でありつつ、
人間の生き様を考えさせられる
最高に面白いエンターテイメント作品!

『波濤の城』
著者:五十嵐貴久
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥800(税別)

これこそほんとの前代未聞!「同姓同名」

「超」話題になっている下村敦史さんの
「同姓同名」(幻冬舎)を読みました。

登場人物がほんとに全員、同姓同名
なんですよ!
どうやって区別したの?
それで物語は成立するの!!!?
興味津々で読み始めたら、なんと
面白いのなんのって、計算しつく
された緻密な展開に鳥肌が立ちました!

大山正紀(おおやままさのり)は、
プロのサッカー選手を目指す高校生。
いつか自分の名前が、サッカー
スタジアムに轟く日を夢見ている。

そんな中、女児惨殺事件が起こった。
犯人は、16歳の男子高校生。
少年法に守られ、当然名前は伏せられ
報道された。ところがあまりの事件の
残酷さに日本中が激怒し、名前の公表を
求めSNSが過熱。ある週刊誌が名前の
公表に踏み切った。
その名前は「大山正紀」。

その後、大山正紀はサッカーの推薦枠
をはずされてしまう。
他にも、凶悪殺人犯と同じ名前の名もなき
「大山正紀」たちは、人生を狂わされてしまう。

7年後、刑期を終えた大山正紀が出所した。

そして、犯人逮捕の時以上に犯人批判は
過熱。SNS上では、正義をふりかざす
者たちで暴走し炎上していた。

犯人に名前を奪われ人生を穢された
「大山正紀」の中の一人が
‘大山正紀同姓同名被害者の会’を発足
させた。そして集まったものたちは、
犯人を捜し出そうとする。

興味本位なのか?本当に正義なのか?
SNSによる、情報や言葉の暴力性が
半端なく、それがあまりにもリアルに
描かれているので恐ろしくなる。

凶悪犯人と同じ名前だったせいで
彼らが被った艱難辛苦はどれほどの
ものだったろうか?
一人ではとても耐えられず、
被害者の会を発足させ、少しでも
苦しみを分かち合いたいと思うのも当然だ。

そして、大山正紀だらけで本当に混乱する。
多分、それが狙い????
至る所に張り巡らされた数々の伏線。
(’’’’’)に振りまわされる。
さらに、巧妙なミスリードで、まんまと
著者の罠にはまる!

SNSの恐ろしさにドン引きしながら、
ミステリー小説のとしての面白さを
めちゃめちゃ堪能できました!
こんなにややこしい作品、そうそう
描けないと思います。
それを描いちゃって、さらに
読者を楽しませてくれた
下村さんに拍手!!!

『同姓同名』
著者:下村敦史
出版社:幻冬舎
価格:¥1,600(税別)

慟哭のミステリー、「極刑」

小倉日向さんのデビュー作「極刑」
を読みました。

デビュー作と聞いてびっくり!
あまりの面白さにグイグイ
引っ張られ、いっきに読んで
しまいました。

『極刑』

娘を殺された半田龍樹。
殺してやりたいと思うほど
憎いはずなのに、半田は
被疑者に対し、極刑を
望まなかった。
そのことで妻とは離婚。

そして、小さな居酒屋を始めた。
半田の穏やかな性格と、美味い
料理は評判となり常連客も増えた。

しかし、半田には隠れた貌があった。
罪を犯し一度は刑に服しながら、
出所後も同じ罪を繰り返す者たち。
全く後悔していない、反省の態度
すら見せない。
そんな者たちを執拗に追跡し、
制裁を下す、闇の私刑人。

半田によって制裁を受けた者たちは
それ相当の罪がある。
とても人間の行為と戸は思えない
残虐なものだ。
ある意味、この世から消えた方が
良い者たちだろう。
読んでいると痛快で、爽快感すら覚える。

しかし、半田もこのままでは
終わらなかった。
思いもよらない事態が半田を襲う・・・。

法とは何か?罪とは何か?
大切なものを失った苦しみはどうしたら
癒えるのか?
深く、重いテーマが心に響く。

人間の心の深い闇を、白日の元に
晒した、ダークミステリーの極致。

著者:小倉日向
出版社:双葉社
価格:¥1,600(税別)

第66回江戸川乱歩賞受賞作「わたしが消える」

毎年楽しみにしている、江戸川乱歩賞受賞作。
今年は佐野広実さんの「わたしが消える」
が受賞!読みました!

元刑事で、今は古いマンションの管理人の藤巻。
最近物忘れがひどくなっているので、病院で
検査を受けたら軽度の認知症と診断された。

いつか自分がわからなくなってしまうという
恐怖を背負いながら、20年近く離れて暮らして
いた娘からの頼み事を引き受けてしまった。

それは、娘が働く老人福祉施設の門の前に
置き去りにされた、認知症の老人の身元を
調べて欲しいということだった。

20年前にあることがきっかけで、
刑事を辞めた藤巻だった。
いまさら刑事のようなことは
できないと思ったが、なんとか娘の力に
なりたいと、その老人に会うことに。

施設では警察にも届けていた。その時指紋は
とらなかったらしく、改めて指紋をとり、
それを昔のなじみの刑事に鑑定を依頼した。

だが、指紋照合をしても該当の人物はいない
とのことだった。
しかし・・・。

それからしばらくして、老人を置きざりに
した女性が名乗りでてきた。これで一件落着と
思ったが、彼女から見せられた老人の
持ち物を確認すると、なんらかの犯罪に
関わっていたのではという疑いがでてきた。

ここから事態は藤巻の想像をはるかに超えた
方向に動き出す!

藤巻の周辺で起こる不可解な事件。
謎の人物たちの監視・・・・。
暴力的脅迫・・・。
藤巻は何を突いてしまったのか?

物語が進むにつれ、謎が謎を引き寄せ
怒涛のような展開が読み手を惹きつける!

そして、老人の正体が明らかになる過程で
見えてくる警察の闇。
封印されていた、日本社会の暗部を暴き出だす。

21年前に「松本清張賞」を受賞した実力派が
描く、社会派ミステリーの傑作。

『わたしが消える』
著者:佐野宏実
出版社:講談社
価格:¥1,800(税別)

心が揺さぶられる、検察ミステリー「地検のS」

伊兼源太郎さんの「事故調」が
あまりにも面白かったので、
「地検のS」も続けて読んだ。

湊川地検を舞台にそこに関係して
いる、新聞記者、弁護士、検事
検察事務官たちを主人公にした
短編集。

「置き土産」
1週間以内に特ダネをあげろと
司法回りの記者・沢村は、上司から
強いプレッシャーをかけられていた。
そんな中、湊川地裁での取材中、
地検の総務課長・伊勢雅行が
法廷を覗く姿を見かける。
陰の実力者と噂される男が、
ありふれた事件になぜ興味を抱くのか?

「暗闇法廷」
面倒な事件を押し付けられた。
暴力団の構成員が起こした保護責任者
遺棄致死罪の裁判で、証人として
呼ばれた男は、森本検事の質問を
のらりくらりとかわし続けた。
森本の検察事務官である新田は、
この裁判を歯がゆい思いで見ていた。
尊敬する森本検事は一体どうなるのか?
そんな時、総務課長の伊勢が声をかける。

「シロとクロ」
両親にも見放された男の弁護をする
弁護士・別府直美。
確かに、男はトラブルメーカーで
これまで何度も警察お世話になっている。
両親からは、刑務所に入れてほしいと
言われる始末。しかし今回の事件に
おいて、男は罪を犯していない。
まっとうな弁護をするべきだと考える
しかし・・・。
苦悩する別府の前に伊勢が現れる。

「血」
DVの夫に息子ともども殺されると
思い、夫を殺害してしまった主婦。
罪を償い出所したあとは、建設
会社の事務員として働いていた。
ところが、ある政治家の政治資金
規正法違反の端緒を握る存在だと
検察に目をつけられた。
担当の検事・相川晶子は、その主婦
から何としても自白を引き出せと
プレッシャーをかけられていた。
しかし、聴取しても頑なな主婦からは
自白が取れない・・・。

「証拠紛失」
政治家の闇献金疑惑に関連し、建設会社の
社長席で発見された重要なメモが紛失
した。総務課長の伊勢から呼ばれた
三好は、そのメモを3日後の会議までに
探し出せと命令を受ける。
同僚とともに必死に捜索するが・・・・。

湊川地検の総務課長・伊勢雅行は
いったい何者なのか?
長年、総務課長の席にあり、湊川地検の
すべてを知る男。
そのすべての事件の裏側には、伊勢がいた。

伊勢の登場によって、苦悩する彼らは
何をつかんだのか?

それぞれの物語の「謎」が解明
された先に思いも寄らない真実
が待ち受ける!

司法に携わる者にとって、本当に
正しい行いとは何か?

彼らが見つけた「正義」に思わず
ハッとさせられる!

元新聞記者が圧倒的臨場感で
描き切った、斬新な検察ミステリー。

『地検のS』
著者:伊兼源太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥780(税別)

元白バイ隊員の著者が描く!「女副署長」の捜査魂!

「虚ろの聖域 梓凪子の調査報告書」
で第10回島田荘司選ばらのまち福山
ミステリー文学新人賞を受賞し
デビューした松嶋智左さんは、
元白バイ隊員。
その経験を活かし描いたのが、
本書「女副署長」(新潮文庫)だ。

数か月前、日見坂署に副署長として
赴任してきた、田添杏美警視。
警察官人生33年というベテランで
あり、県内初の女性副署長という
ことで周囲の目は厳しい。

夏のある日、大型台風が接近
し、大雨に見舞われていた。
夜になり、台風被害対策本部
が設置され、署内の緊迫度は
頂点に達していた。

そんな中、地域課警部補の死体
が警察署の敷地内で発見され、
署内に衝撃が奔った!
胸にはナイフが突き刺さっており、
明らかに他殺。
直後に封鎖されるが、土砂降りの
雨で遺留物が流されてゆく。
犯人は今だ庁舎内に隠れているのか?
それとも、同じ警官の仕業なのか?

台風被害対策という非常事態に
なんと警官の刺殺体!?
これ以上ない大失態に杏美は、
副署長として、所轄署の名誉
をかけて犯人を挙げる決意をする。

だが、杏美の決意を挫くような
事態が同時多発的に起こる!
留置場での不可解な出来事、
署長の娘にかけられる容疑、
被害者の隠れた貌。
署員たちの秘密。
さらに、警部補殺害事件を巡る
剛腕刑事課長との激しい対立。

元警察官であった著者の経験が
随所に活かされ、本書の現場の
描写が非常にリアル。

さらに、警部補殺害事件は、
誰がいつどのようにして殺害したのか?
警察署内というクローズな空間での謎の
設定と、どんでん返しに次ぐどんでん返し
は本格ミステリーの王道を行っている。

女副署長・田添杏美がいかにして、
それらを解決に導いたのか?
この物語の面白さを堪能して欲しい。

『女副署長』
著者:松嶋智左
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥670(税別)

クセ強めの刑事たちが暴く、凶悪犯罪シリーズ第2弾『警視庁SM班Ⅱモンスター』

富樫倫太郎さんの警察小説、新たなシリーズ第2弾!
『警視庁SM班Ⅱモンスター』を読みました。
『SRO』(中公文庫)、『生活安全課0係』
(祥伝社文庫)に続き、今回集められた
メンバーも超!個性的!で面白い。

SM班班長の薬寺松夫は太りすぎでおねえ言葉
しかし、責任感が強く仕事が出来る!
佐藤美知太郎は超優秀な分析官だが時々地蔵になる!?
糸居秀秋は、捜査能力にちょっと難アリだが・・・。
柴山あおいは女だてらに強すぎる!
田淵ゆたかは、性転換をした優秀な刑事。
警察庁のキャリアの息子、白峰栄太。
彼らの能力が試される第2弾!

SM班は、前代未聞の人体パーツ売買事件
を見事解決に導いた。
しかし、逮捕された犯人たちは黙秘を
続けている。

そして、SM班の周囲では新たに
不穏な動きが顕在化しつつあった。

柴山あおいが助けた女子高生が行方
不明になり、さらに人体パーツ売買事件の
重要参考人で、マスコミや近隣住民から
吊し上げを受けていた、牛島典子も
失踪してしまう。

牛島典子失踪で、人体パーツ売買事件の
捜査本部は青ざめる・・・。

同じころ、柴山は女子高生の安否を
気遣い、捜索を開始しようと
班長の薬寺に連絡をとるが、電話が通じず
出社もしてこない。

まさか薬寺も失踪したのか!?
いったい何が起きているのか?

実は裏では、快楽殺人を企み己の
欲望を満たそうとする者の存在が
あった!

前回の続編ともいうべき本作品。
またしても、悪魔のような快楽
殺人者が登場する。
己の欲望のままに人を操り、人を
傷つけるけだもの。

そのけだものと、SM班の死闘が
すさまじい迫力で描かれる。
しかし、そのけだものの傍らで、
さらなるモンスターが目覚めてしまう。

生きている人間の悪意こそ、一番
恐ろしい!
それをまざまざと見せつけられた。

モンスターとの死闘は、今幕を
開けたばかり!

警視庁SM班Ⅱ モンスター』
著者:富樫倫太郎
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥880(税別)