心に沁みる時代ミステリー「空蝉の夢」

「このミス」大賞優秀賞受賞作「京の縁結び 縁見屋の娘」
でデビューした三好昌子さんの受賞後第2弾が発売されました。

「京の絵草子屋満天堂 空蝉の夢」です。
江戸時代の京都を舞台に描かれた、味わい深いミステリー作品。

ある事件を契機に、故郷を離れ一人大阪にやってきた侍。
戯作者・上田秋成と出会い、不思議な体験をする。
名をかたらぬ侍をみた秋成は、月夜乃行馬と名を与えた。

新たな名で生きる決心をした行馬は、秋成の紹介で
京都の絵草紙屋、満天堂書林で京の名所図会を執筆
することになった。
その図絵は人気を呼び、満天堂書林から新作を
依頼される。挿絵に紹介されたのが、女絵師・
冬芽だった。行馬は冬芽の描く美しく哀切に満ち溢れた
絵に惹かれてゆく・・・。

同じ頃、行馬の仲間だった侍たちが、行馬が持っている
はずの妖刀を振るう辻斬りに遭ったとの知らせが入る。

行馬は故郷を捨てたとき、二度と刀には触れるまいと
心に決め封印した。だが、確かめてみると刀はすり替えられていた・・・。
だれが何のために・・・?

行馬は、己の過去にあらためて向き合い、ある事件の真実を
明らかにする決心を固める。

それは、京で新たに出会った大切な人を守る意味もあった!

心に深い闇を持つ、月夜乃行馬。故郷を捨て、侍も捨て
再生を誓うが、彼の過去とその周囲はそれを許さない。
その苦悩が京を舞台に、しっとりと描かれていてとても落ち着いた雰囲気がある。

行馬には何が起こり、なぜ刀を捨てることになったのか?
その真相が、京で出会った人々に危機が及び始めた時
次第に判明してくる。

物語の紡ぎ方が工夫されていて、行馬と周りの人はどうなる?
と先の展開が気になって仕方がない。
いっきに読みあげたいという思いと、もっとこの作品を味わっていたい
という思いの狭間・・・。味わうように読んだ。

京の情緒あふれる、時代ミステリーロマン。

『京の絵草子屋 満天堂 空蝉の夢』
著者:三好昌子
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥650(税別)

八咫烏シリーズ6第1部完結編「弥栄の烏」に感動。

シリーズを重ねる都度、面白さが増す阿部智里さんの
「八咫烏」シリーズ。
最新作「弥栄の烏」は、6作目で第1部完結編となる物語。

「弥栄の烏」は、人間の志帆が山神を育ててゆく
過程が描かれた前作「玉依姫」の対となる作品。
山内側の八咫烏の視点から描かれた物語。

2作を読むことによって、前作「玉依姫」と
「弥栄の烏」に共通する‘謎’の解明が為されている。

かつてないほどの大地の震動で、山内は崩れそうになった。
そんな時、大猿に呼び出された若宮は、山神のもとへと連れてゆかれる。
恐怖に怯えながら進んでゆくと、醜い化け物が現れた。
人間の女の血肉をむさぼっている姿は、もはや山神とは程遠い。

大地震の恐怖に縛られ、山神に服従を余儀なくされた若宮。
結界のほころびを修復したり、山神のもとへ呼び出されたり
と多忙を極め、日に日に弱くなっていった。
ある日、山神の化け物から、御供の世話を押し付けられる。
御供とは、捧げもの意味。それは人間の女性だった。
志帆という名の若い女。若宮は必死に面倒を見ていたが、
突然いなくなってしまう。
怒り狂った山神の化け物は、さらなる大地震を引き起こした!
神域を守っていた山内の戦闘員の何人かか犠牲になってしまった。

悲しみに打ちひしがれる、若宮の参謀・雪哉たち。
その中でも、雪哉は猿たちに向け憎悪の炎を燃やした・・・。

山神の化け物のせいで、山内は危険な状態に陥った。
早く手を打たねば、八咫烏の異世界は崩壊する・・・。
金烏である若宮は、金烏の記憶が全く戻らず憔悴していた。

山内を守る若宮。山内の危機を知り、必死で若宮の
記憶を調べる、天狗の長、そして山神の化け物を慈しみ
育てる人間の女性・志帆。
山神は山神らしく清らかなものへと変化する。

八咫烏の異世界を通して、人間界に語られるメッセージ。
善悪が表裏一体となって描かれる。
若宮の苦悩、金烏としての責任。妻への思い。
そのはざまで揺れる姿。
愛する仲間を奪われ、復讐に囚われる雪哉。

第1部完結編となる本書は、胸が張り裂けそうになる
真実と心穏やかなクライマックスが癒しを与えてくれる、
まさに‘完結’にふさわしい終結を見た。

第2部のスタートが待ち遠しい。

『弥栄の烏』
著者:阿部智里
出版社:文藝春秋
価格:¥1,500(税別)

傑作の映画ノベライズ「22年目の告白」

先日、作家の浜口倫太郎さんが、今井書店各店に
ご来店されました。
はまさきも少しお話をさせて頂き、とても熱心な
作家さんだな感じました。

それで前から気になっていた「22年目の告白
私が殺人犯です」を読みました。

藤原竜也さん、伊藤英明さん主演の映画
「22年目の告白~私が殺人犯です~」の
映画ノベライズです。

映画ノベライズは、小説とは違い映像化されたものを
小説にした作品です。小説を原作にしたものより
少し話題性を欠いてしまいますが、この作品は
映画が終わってもずっと売れ続けているようです。
その魅力は何だろうと思いました。

弱小出版社に勤める女性編集者がある日、絶世の
美男子から、知り合いが描いた作品を読んで欲しい
とゲラを手渡された。

読み進めてゆくと次第にトリハダが・・・
そこには7年前に時効が成立した連続殺人事件の
犯人しか知りえない事が描かれていた。

これは犯人の告白本だ!そして男は恐ろしいことを告げる。
自分が殺人犯だと・・・・。
連続殺人犯の告白本など出版出来ない・・・・。
しかし、この本には何かがある・・・。
そのはざまで女性編集者は揺れるが社長は大乗り気だ。
男は本を売るためなら何でもすると言う。
男と社長の強力な説得で出版することを決める。
犯人はとても連続殺人を犯したような男には見えない。
紳士で知的でそして絶世の美男子。
絶対に売れると誰もが思った。
そしてその本が発売されるやいなや、熱狂的な
支持者が現れ、殺人の告白本は売れに売れた。

しかしサイン会会場で、男は遺族に襲われる・・・。

ノベライズでありながら、キャラクターの心理が
丁寧に描いてあり、編集者の苦悩や、遺族の激しい怒り、
復讐心など映画を観ていなくても心に沁みてくる。
テンポの良い小説を読んでいるような感じだ。

途中で事件真相はわかってしまうが、それほど気にならない。
大切なものを奪われた人たちが苦しみと悲しみからいかに
それを乗り越え、新たな道を踏み出すか。
著者の思いがそこへ注がれているからだ。
クライマックスを読んでいると自然に涙がこぼれてきた。

映画は観ていないが、このノベライズを読んだら
とても観たくなってきた。

『22年目の告白 私が殺人犯です』
著者:浜口倫太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥660(税別)

デビュー作で年末ミステリランキング3冠達成!「屍人荘の殺人」

今年、第27回鮎川哲也賞を受賞した今村昌弘さんの
「屍人荘の殺人」(東京創元社)が
「このミステリーがすごい2018年版(宝島社」、
「週刊文春2017年ミステリーベスト10」(文藝春秋)
「2018 本格ミステリベスト10」(原書房)
この3つのランキングで1位を獲得しました!
デビュー作の3冠達成は、前代未聞の快挙です。

神紅大学に学ぶミステリ愛好会会員・葉村譲は、
同じ大学の先輩である、ミステリ愛好会会長で
「神紅のホームズ」と異名をとる、明智恭介と
ともに、神紅大学の探偵少女・剣崎比留子を
介して、映画研究部の夏合宿に参加した。

しかし、映画研究会の夏合宿は研究会と言いながら
合コンの要素が強く、毎年小さな事件を起こしていたようだ。
そして、この夏も男女13人が参加していた。

皆が集まり、バーベキューで宴会を始めようとした頃、
そこにいた誰もが目を疑うような光景が迫ってきたのだ!

信じられない光景に全員がパニックに陥った。
冷静さを取り戻したのは探偵少女だ。
すぐに全員を合宿所に誘導し、入口をふさいだ!!

かつてないクローズドサークルで起こる連続殺人事件。
閉じ込められた中で合宿参加者たちが次々と殺害される。
一体誰が?何の目的で?・・・。
参加者たちは殺される恐怖と、合宿所の外で繰り広げられる
おぞましい状況の2重の死の危険に苦しむことになるのだ。

新本格に斬新な設定が施され、今までの新本格ミステリーでは
感じたことのなかった、凄まじいほどの衝撃展開が
読者を待ち受ける。

3冠達成も納得のミステリー作品だ。

『屍人荘の殺人』
著者:今村昌弘
出版社:東京創元社
価格:¥1,700(税別)

シリーズ最高傑作「機龍警察」第5弾「狼眼殺手」

至近未来警察小説の傑作「機龍警察」シリーズ。
第5弾は「「狼眼殺手」だ。
ただならぬ気配をにじませたタイトル。

いったいどんな展開なのか?

経産省が中国と共同で推し進めているプロジェクト「クイアコン」。
巨大プロジェクトの利権目当てに様々な人間が絡む。
そして、その関係者たちが次々と殺害された。

特捜部の沖津部長は、警視庁の上層部から、事件の捜査を
依頼される。だが以外にも捜査一課・二課との合同捜査だった。

特捜部と刑事部との確執は根深い。
しかし今回の事件はすべての力を結集しなければ解決を見ない。
利権と殺人事件、何が何でも解決しなければならない事件だ。

だが、警察をあざ笑うかのように謎の暗殺者は殺害を繰り返す。
特捜部でも暗殺者の正体をつかむことが困難だった・・・。

ところが、特捜部のライザ・ラードナー警部は暗殺者が
誰なのか掴む。それはライザと同じテロリストで、
「狼」と呼ばれる最強の戦士だった女。

特捜部では彼女をとらえ、敵の正体を暴くつもりだったが、
ライザをもってしても困難だった。

そして特捜部は内部でも疑心暗鬼が生まれていた。
城木と宮近の眼に見えぬ対立。またクールな
沖津の動揺・・・。
さらに沖津にも重すぎる「機龍兵」の重大な秘密。

様々な事件、人間関係、警察内部の軋轢が特捜部・
沖津を襲う。
かつてない重責に内部崩壊寸前の特捜部だった。

只一人、「狼」との死闘でライザは何かを掴む。
自分自身を変える何かだ。それは鈴石主任との
関係であった。

深い闇の中をさまようような今回のストーリーの
中で一点、希望が持てるライザと鈴石。

彼らに、特捜部に未来は何をもたらすのか?

月村氏の心の叫びがシリーズ最高傑作を作り上げた。
「このミステリーがすごい2018年版」国内編第3位に
輝く警察小説の極致。

『機龍警察 狼眼殺手』
著者:月村了衛
出版社:早川書房
価格:¥1,900(税別)

大江戸科学捜査!さらに進化「八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ」

「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」シリーズ最新刊が
発売されました!
今回は「北斎」の絵の謎に迫る物語。
「北斎に聞いてみろ」です。

新規オープンする美術館の目玉の一つ
北斎の肉筆画に贋作疑惑が浮上した。
ラボの宇田川からめずらしく頼みごとを
されたと思ったら、その北斎の肉筆画が
本物かどうか、おゆうに調べて欲しいとの
ことだった。

考慮した末、おゆうは北斎に直接
聞いてみることした。
ところが、おゆうが調査を開始したとたん、
その絵の売買に関わった仲買人が死体で
発見された。

仲買人を調査したことが同心の伝三郎に
伝わり仔細を聞かれるが、おゆうは依頼元を
話すわけにはいかない(平成の美術館からの
依頼なんて言える訳がない!)
伝三郎たちはおゆうに疑惑を持ってしまう。

おゆう一人調査を進める中、北斎の娘・阿栄と
出会う。阿栄の機転がおゆうを助けることになり、
この回はおゆうと阿栄が二人で真相に近づいてゆく。

平成と江戸時代を自由に往来できる、おゆうこと
関口優佳。平成では平凡なOLだったが、江戸では
十手持ちの粋な女親分として活躍する。

江戸時代に起きた事件の謎を平成の世の
科学捜査で解き明かす!

巻を追うごとに面白さが増す。
まさか、北斎が登場するとは!!
物語に描かれた北斎と阿栄の姿が生き生きと
描かれ、読者をその場所に誘ってくれる。

時代小説に斬新な本格ミステリの味付け。
面白さが半端ないシリーズ。

『大江戸科学捜査八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ』
著者:山本巧次
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥600(税別)