ロマンティックミステリーの傑作!サンドラ・ブラウン「最後の銃弾」

サンドラ・ブラウンと言えば、ロマンス小説の第一人者。
特に、サスペンス、ミステリー仕立ての作品はロマンティックでとてもスリリング。
「コピーフェイス 消された私」は以前、NHKでドラマ化され、
話題になりました。
はまさき、「コピーフェイス」は何度も読みました。
物凄く面白かった。その後いくつかの作品を読んでいます。
そして、「最後の銃弾」は久しぶりに読んだ傑作。
やはり、面白かったです。

サヴァナ地区の殺人課刑事のダンカン・ハッチャーは、
犯罪組織の大物・サヴィッチをやっとの思いで逮捕し送検した。
だが、裁判では証拠不十分で釈放されてしまった。
そして、その時の判事・レアードに悪態をつく始末。

その後、ダンカンの相棒・ディーディーが優秀な警察官として
表彰されることになり、ディーディーをエスコートして、
パーティ会場へ向かった。
そこでダンカンは、レアード判事の妻・エリースと出会う。
その美しさと聡明さに一目で恋におちたダンカン。
だが、ダンカンはその想いを自分で認めることが恐ろしい。

ある真夜中に、ダンカンは、レアード判事の邸宅に呼び出された。
エリースが侵入者を射殺したと言うのだ。
正当防衛を主張するエリース。だが、ダンカンは彼女の言い分に
納得できない。
謎めいた彼女の言葉を心のそこから信じることが出来ないのだ。
そこでダンカンは、ディーディーと二人で、エリースを調査することに。

殺人の容疑者・エリースにどんどん惹かれてゆくダンカン。
彼女の言葉を信じたい。でも信じられない。
その葛藤に次第に自分を見失ってゆくダンカン。
刑事として容疑者かも知れない女、しかも判事の妻に
思いを抱くなど・・・論外。
恐ろしい罪は犯したくない。しかし・・・・。

その後も、彼女の周りで次々と殺人事件が起こる・・・。
果てしてエリースは稀代の悪女なのか?それとも・・・?

一人の女性の悲しい過去が、罪を犯罪を呼び寄せてしまう。
その陰に暗躍する、犯罪組織の大物サヴィッチ。

一番のワルは誰なのか?
クライマックスのドンでん返しと超スリリングな展開に読者も翻弄される!

満足度NO1のサスペンスミステリーです。

『最後の銃弾』
著者:サンドラ・ブラウン/秋月しのぶ(訳)
出版社:集英社(文庫)
価格:¥933(税別)

嫌ミスなのに読後はスッキリ!?「誤算」

帯のコメント「こんなに面白い本10年間も眠らせていてすみません!」に
つられて手に取りました。
なんと、第27回横溝正史ミステリ大賞・テレビ東京賞受賞作!

なんとテーマは「遺産相続」!。
2時間のサスペンスドラマではよくあるけれど・・・。
小説で読んだのは久しぶりです。

美人だけれど、まじめすぎて融通が利かない主人公・奈緒。
有能な看護師だが、その性格で職場ではちょっと浮いてる?
さらに、だめんず夫のせいで貯金はすべて底をつく。
心を病んだ奈緒は夫と離婚。仕事もやめて心機一転を図る。

そんな奈緒に住み込み看護師の仕事が舞い込んだ。
患者は、資産家のわがままな気難しい老人。
奈緒は老人のために必死に看護をした。
やがて、寝たきりに近い状態だった老人は、
奈緒の看護で軽い散歩が出来るまで回復した。
奈緒の性格がここでは威力を発揮したのだ。

しかし老人の回復を快く思わない連中がいた。
それは老人の家族たち。莫大な財産を目当てに
彼らは欲をむき出しにし足を引っ張り合っていた。
呆れる奈緒だったが、彼女にも遺産相続の
チャンスが訪れる!

人間のお金への執着はほんとに凄いと思う。
家族なのに、お金のために自分の父親の死を願う。
そこに巻き込まれる主人公・奈緒。
よくある遺産相続問題での事件かと思って読んでいたが、
物語は意外な展開を見せる。
ほう~こんな面白い方向へ・・・!

まじめ過ぎる、主人公奈緒に共感。
読んでる間中応援していました。

『誤算』
著者:松下麻理緒
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥640(税別)

2018年徳間書店文庫大賞受賞作「二年半待て」

女性を主人公にしたサスペンス小説を
多く描いている新津きよみさんの短編集
「二年半待て」が、2018年徳間書店文庫大賞を
受賞しました。

サスペンス小説も大好きなはまさき。
早速読んでみました!

女性が長い人生で通過する転換期の「〇活」に
焦点を充てたサスペンスミステリー。

全7話あり、「就活」について描かれた第1話は、
娘の就職がなかなか決まらないことに気をもむ
母親の心情を描く。娘のこともさることながら、
自分の母がひた隠す自らの出生の秘密が、意外な
結末に結び付く。ええ~っと驚愕!

「婚活」について描かれた第2話。
男性が、恋人の女性に結婚は2年半待って
と懇願。その理由とラストに困惑?

「恋活」がテーマの第3話。
理系でオタクっぽい兄になんとか恋人をつくって
あげようと画策する妹。だが兄の態度に
危険なにおいを感じ取った妹は・・・。
良かれと思ってやったことがものすごく
恐ろしい結果を招く。ちょっと怖い1作。

「妊活」がテーマの第4話の物語は、
大学生の息子が年上の女性と結婚した。
しかも女性はバツイチの上に息子とはできちゃった婚。
40代の母親は内心複雑だ・・・。
しかし、嫁の子どもが欲しい願望は強い。
そんな女性二人に起こったアクシデント!
なるほど、そういうことだったのか!と納得。

「保活」とは、保護者が子供のための保育所を探す
活動を言う。介護、多重介護、孫の世話と
50代であらゆる介護をしてきた女性は、最近高齢の実母の
様子がおかしいことに気づく・・・。もしや認知症か・・・?
またしても介護の文字が頭をかすめる・・・・。
ダブルケアで心身ともに消耗する女性の姿を描く・・・?
読んでいると自分にもあてはまってきそうで一番恐怖した1作。

「離活」がテーマの第6話。若い頃、一人の男性を巡って
親友と争った。結局好きだった男は親友に奪われてしまう。
そんな2人が離婚をした!?
親友の罠にはまってしまった女性の本当の叫びが胸を打つ!

「終活」はお片付け。謎の日記を遺して逝った祖母。
恋活パーティーで出会った男性がその謎を解くという。
日記の謎解きをするうちに、祖母の過去が明らかに。
ちょっと切なくなる1作です。

女性に起こるであろう身近なシチュエーションが
見事なミステリーに変貌している。
ちょっとドキッとするサスペンス調の作品も含め、
見事に騙される。軽いタッチで描いてある分、
ストーリー展開とどんでん返しの持っていきかたが
巧過ぎる!
さらっと読める7つの短編集です。

『2年半待て』
著者:新津きよみ
出版社:徳間書店(文庫)
価格:¥640(税別)

凄すぎるミステリー「天上の葦」

太田愛さんの新作「天上の葦 上下」を読みました。
デビュー作「犯罪者」から2作目の「幻夏」。
常に弱者を見つめ、社会の矛盾点をついた重厚な
ミステリーを描き続ける太田愛さん。
その作品は読んでいると心にずっしりと響きます。

そして最新作「天上の葦」は、前2作を上回る力作です。
凄すぎるミステリー作品。

老人が渋谷のスクランブル交差点でいきなり
天を指し倒れ、そのまま息を引き取った。
白昼に起こった老人のその奇妙な行動は、
お昼のニュースで放送され、衝撃がはしった。

老人が指差した先には何があったのか?
ある筋から調査を依頼された探偵の鑓水と修司。
期限は2週間!?修司は納得できなかったが
成功報酬の大きさに逆らえず、調査を受けた。
鑓水はまず亡くなった老人の過去をさぐる。
老人は90歳を過ぎるまで現役の産婦人科医だった。
小さな個人病院だったが親切丁寧で看護師からも
患者からも信頼されていた。
彼を紹介した記事を読んだ鑓水は、戦後産婦人科医に
なってからの経歴しか記載されていないことに
疑問を持ち、それ以前の彼の経歴に何かあると
推理し、修司と共に関係者を探すことにする。

一方、交通課に左遷された刑事・相馬は、
公安の課長から部下の行方を内偵して欲しいと依頼される。
まじめな公安刑事がなぜ行方を断ったのか・・?
何を調べていたのか・・・?
二方向からの調査は、やがて交差し、読者の想像を
はるかに超えたストーリーへと展開する。
そして、鑓水・相馬・修司の三人でこの事件の背景を
調査してゆくと、隠されていた老人の過去に辿り着く・・・・。

戦後70年、忘れさられようとしている、太平洋戦争。
その時、国は如何にして国民を戦争に駆り立てたのか?
それはメディアの暴走だったのではないか?

戦争中、帝国軍が国民に強いてきたこと。
それを当然のように受け入れてきたこと。
その描写力とストーリーは圧倒的臨場感を持って
読者の心に刻まれる。

心臓を患いながら、死に瀕して必死に老人が訴えたかった
ある強烈なメッセージ。それを明らかにするために
三人は命懸けで奔走する。

シリーズ史上最も面白い、最もスケールが大きい!
読み終わった後の余韻がなかなか去らず、心に残る凄い
ミステリー作品です。

『天上の葦 上下』
著者:太田愛
出版社:KADOKAWA
価格:各¥1,600(税別)

バチカン奇跡調査官最新作!出ました。「ジェボーダンの鐘」

大好きなシリーズ「バチカン奇跡調査官」の最新作を
読みました。

毎回楽しみ!今回の奇跡現象も凄い!

フランスの小さな村の教会で、山の洞穴に
ある聖母像を礼拝している時、舌がなく
長い間鳴らなかった鐘が鳴り、青い鳥の
歌声を聞いた全盲の少女の眼が見えるように
なったという現象が起き、バチカンに奇跡
調査の依頼が届いた。

奇跡調査官であり、古文書解析のエキスパートの
ロベルトは、その頃、出自不明の福音書らしき
ものの調査を行っていた。
そして奇跡調査のパートナー、平賀と共に
送られてきた奇跡現象の動画を視た。
明らかにそこで奇跡が起きている・・・!?
2人は早速現地へ飛んだ!

今回は、村の掟や古くからの言い伝えを
守りながら生活している村人たちが
多数登場する。山に潜む怪しい怪物や
精霊、妖精なども登場し、まるでファンタジーの
世界が広がる。
しかし不気味な謎も用意されミステリー好きを
ワクワクさせる。

さらに、クライマックスに繰り広げられる
ロベルトの「ローマ帝国」「キリストの登場」
「聖書」にまつわる歴史を語るシーンが
とても印象的で非常に興味深い!
そして二人の優しさ、慈悲深さに感動させられる。

著者の博学ぶりがいかんなく発揮された作品。
面白いです!!!!

『バチカン奇跡調査官 ジェボーダンの鐘』
著者:藤木稟
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥720(税別)

‘超’本格警察小説「警官の掟」

佐々木譲さんの「警官の掟」を読みました。
久しぶりに事件捜査の面白さを堪能しました。

東京湾岸で男性の射殺死体が発見された。
被害者は暴力団幹部。
蒲田署では、刑事課と組織犯罪対策課で捜査を開始。
暴力団関連のイザコザが原因ではないかと読んでいた。

波多野は、巡査時代に遭遇した事件で死にかけたが
一命をとりとめ、蒲田署の刑事課にいた。
波多野はベテラン刑事の門司と組んで、半グレの
捜査にあたった。

一方、波多野と同期で警視庁捜査一課の松本は、上司の管理官から
蒲田署で起こった暴力団幹部殺人事件の死体検案書に
不審な点が発見されたことから、内偵の密命が下される。
所轄より先に犯人を挙げる!
松本は相棒の先輩刑事・綿引とともに過去の事件から
あたっていった。

捜査線上に浮上する女医の不審死、中学教師の
溺死、不可解な警官の名前・・・。
これら一見バラバラに思えた事件が一本の線に繋がった時、
背筋が凍る真相にぶち当たる・・・・。

二組の捜査からやがて事件が一つに繋がる・・・。
その展開の面白さと、地道な警察捜査の描写が
非常に重厚でリアル。さらに、刑事のお手本の
ような人物描写が見事!

直木賞作家が描いた、究極の警察小説です!

『警官の掟』
著者:佐々木譲
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥840(税別)

モンスターの恐ろしさを描く「怪物」

ミステリー好き、警察小説好きと言いながら
なかなか手に取らなかった福田和代さん作品。

先日これはと思う作品「怪物」を読みました。
人は心に「怪物」を飼っているのか・・・
と思った作品です。

定年間近のベテラン刑事香西は、誰にも打ち明けた
ことない秘密を抱えていた。
香西は「死の匂い」をかぎ分けられるのだ。
これまで、香西は事件現場でその能力をいかんなく発揮してきた。
仲間からは、「刑事の勘」が良すぎると好評価を得ていた。
しかし、香西は自分のこの能力が時に大きな無力感を伴うことに
刑事として限界を感じていた。
15年以上も前、一人の少女が誘拐された上に殺害された。
容疑者の一人の部屋に入った時、香西は強烈な「死の匂い」
と少女の叫びを聞いた。少女はここで殺されたのだ・・・。
だが、その容疑者は逮捕されなかった。警察庁のキャリアの
息子だったため容疑者からはずされたのだ。

その事件は時効になってしまったが、香西はどうしても
あきらめることが出来ないでいた。

そんなある日、夫が10日たっても家に帰ってこない、
と妻が刑事に訴えていた。香西は興味を持ち、
妻の言い分を聞き夫の行方を探してみようと思った。
夫が立ち寄った先を調べる内に、香西はあるゴミ処理場に辿り着く。
その処理場の特色は、有機物を全て水で溶かすというものだった。
「もしかして人間も溶けるのか?」香西は突然そんな考えが浮かんだ。
そしてそこで出会った青年・真崎亮に不穏な気配を感じる。

時効間近のベテラン刑事に訪れた過去の事件の清算。
しかしそれは危険な罠だった・・・。

「怪物」とは一体誰のことなのか?
この本を読んでいると、人間の心の中には
誰でも「怪物」がいるのかも知れないと思ってしまう。
人が一線をこえてしまう心理にハラハラさせられた。

福田和代さんの作品もっと読みたいと思った。

『怪物』
著者:福田和代
出版社:集英社
価格:¥1,800 文庫版¥700(いずれも税別)

「恐怖小説キリカ」いっき読み!

「ぼぎわんが、来る」で日本ホラー小説大賞を
受賞した澤村伊智さんの最新刊、「恐怖小説キリカ」
を読みました。

物語は、奇想天外なフェイクドキュメンタリー?

大手出版社KADOKAWA主催のホラー小説
大賞に応募し、見事大賞を受賞した澤村電磁。
タイトルは「ぼぎわん」。
妻の霧香とともに喜んだ。
さらに、大学時代からの小説仲間で
「小説書くぞの会」のメンバーからも
お祝いのメールが届いた。

ところが、その中の一人が自分のブログで
「ぼぎわん」については作者自身の不幸な
事件から「ぼぎわん」を生み出したとか、
幸福で平凡な人生を歩んでいるやつに小説は
書けないなど自分勝手な解釈を披露
していることを知る。

ちょっと上から目線ではあったが、友人だと
思っていた人物の悪意ある評価に打ちのめされる澤村。
さらには、「ぼぎわん」の度重なる書き直しに
心が折れそうになる。
徐々に心が荒んでいく澤村を心配する妻の霧香。

しかし、この夫婦には誰にも言えない秘密があった。

平凡な夫婦の生活は、澤村のホラー大賞受賞と言う
予期せぬ出来事から予想もつかない物語へと急展開する。
澤村自らが生み出した「ぼぎわん」に平穏だった
日常を壊されてゆく恐怖・・・!

前代未聞!著者自身が自らの作品をディする小説!
フェイクドキュメンタリーと銘うって描きだされる
人間の恐ろしさ!

澤村伊智、怖いものならなんでも描ける驚異の作家です・・・。

『恐怖小説 キリカ』
著者:澤村伊智
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

斬新な展開の医療ミステリー「黙過」

江戸川乱歩賞受賞作「闇に香る嘘」の
衝撃再びか!?

こんな斬新で深いテーマで描かれた医療
ミステリーは読んだ事がありません!!
とんでもなく面白かったです。

交通事故により意識不明になった患者が病室から
消えた!?同じ頃、心臓移植を待つ患者がいた!
脳死の性急な判定に疑問を持つ。“移植手術”の
葛藤を新米医師の視点から描いた、「優先順位」。

人間には生きる権利とともに死ぬ権利があっても良いのでは?
“安楽死”を願う父の姿に苦しむ息子を描いた「詐病」。

母豚の胎内から全ての子豚が消えるという、
養豚場で起こった不可解な事件。
さらに、過激な動物愛護団体からつきつけられた
究極の問い・・・・。『命の天秤』

真面目な学術調査団が犯した罪とは何か?
まさか、娘の病気のために不正を働いたのか!
真相を探るジャーナリスト。『不正疑惑』。

患者を活かす手術!しかしその手術は希望なのか
それとも絶望なのか?信じがたい医療の現場を
描く最終章!『究極の選択』

今まで読んだ医療もののミステリーと違い、
人間の命の尊厳についてだけでなく、
命あるもの全ての生死についての問題提起が為され、
深く考えさせられた。
ストーリー構成も非常に斬新。
4つの短編医療ミステリーは、読んだ当初
何の繋がりもないかに思われたが、
最終章ですべて繋がった時の驚き!
今の日本の医療の様々な問題に
真正面から向き合った医療ミステリー。

『黙過』
著者:下村敦史
出版社:徳間書店
価格:¥1,600(税別)