秘密に満ちた、「ホテル・ピーベリー」

最近、ツイッターのTLでよくつぶやかれている、
近藤史恵さんの「ホテル・ピーベリー」を
読みました。
近藤史恵さんと言えば、ビストロ・パ・マルの
探偵シェフシリーズがとても面白くて、気になって
いました。

今作は、ハワイ島にある「ホテル・ピーベリー」が舞台。

ある事件がきっかけで、仕事を辞めた木崎は、
傷心の心を持て余していた。
そんな彼を友人は心配し、長期の旅行を勧めた。

友人のお勧めは、ハワイ島で日本人が経営するホテル。
長期滞在は可能だが、リピーターを受け入れないのが
最大の特徴だった。

木崎は、ホテル・ピーベリーで、休暇を満喫
することにした。
ハワイの飛行場で出会った女性もピーベリーに
滞在。彼らのほかに、先客がいた。

木崎は次第に滞在中の客と打ち解けてゆく。
さらに夫がいることを知りつつも、オーナーの
女性に惹かれていった。

ホテル暮らしに慣れたころ、先客の一人が
プールで溺死する事件が起こる。
さらにその直後にはバイク事故でもう一人が・・・。

木崎を含め、宿泊客はみな秘密を抱え、嘘を
ついている。
何のためなのか・・・・?

二つの事件から、平和だったホテルの日常が
崩れてゆく・・・。
そして、今まで隠されていた嘘のかけらが
徐々に明かされ、小さな違和感は肥大し、
危険度を増してゆく・・・。

「このホテルには何かある・・・!?」
最後の最後で明かされる真相に絶句する。
不穏な空気が漂う、傑作ミステリー。

『ホテル・ピーベリー』
著者:近藤史恵
出版社:双葉社
価格:726円 (本体660円+税)

第42回小説推理新人賞受賞作短編集「その意図は見えなくて」

第42回小説推理新人賞受賞作収録のデビュー短編集。
選考委員である、大倉崇裕さん・長岡弘樹さん・湊かなえさん
絶賛で 満場一致!の推理小説
「その意図は見えなくて」読了。

学校の人気者が生徒会長に立候補した。
彼を応援する友人の応援演説は素晴らしかった。
ところが、票を開けると通常ではありえないほど
白票が多かった。
生徒会の選挙担当係は疑問を持つ。
いじめなのか?そんなはずはない・・・。
白票が意味するものとは?
小説推理新人賞受賞作「見えない意図」改題
「その意図は見えなくて」

陸上部の部室が何者かに荒らされた!
部員の一人が、誰がやったのか推理してみた。
リレー選手3人なのか?
それとも、やり投げの選手なのか?
彼の推理は合っているようで、合ってない・・・。
真犯人は誰?何が目的?
「合ってるようで合ってない」

陸上部、他校との合同合宿中、成績の振るわない
生徒が姿を消した。
いったいどこに消えたのか?
まさか女子寮!?
それは、まさにルビコン川を渡るほどの
勇気がいるのに・・・?
「ルビコン川を渡る」

中学時代の苦いエピソードを語り合う、女子生徒と
女性英語教師。当時の女友達が誤解を受けて
クラスで浮いてしまった事件。
調整役で奔走したのはクラスメートの男子生徒だった。
誤解を生むように仕向けた奴がいた・・・。
「その訳を知りたい」

大量のパンフレットが紛失した。
生徒会の委員たちが手分けして探し出すと
焼却炉の前に置いてあった。
こんなにたくさんのパンフレット、
誰が何のためにどうやってここに運んだのか?
先輩たちは様々に推理してみせるが・・・
「真相は夕闇の中」

負けられないあいつ、気になるあの子、気が付けば隣にいる彼……
高校生活の日常を切り取って謎を仕掛ける。
連作短編でどの作品もひねりが効いていて面白い。

今どきの高校生あるあるも取り入れながら、
信頼していた人に裏切られても、大人な対応の女子生徒が
かっこよく描かれていたり、誰かを守るために
奔走する男子生徒の優しさに胸を打たれたり・・・。
謎解きを堪能しつつ、高校生の友情や絆の強さに
深く心を動かされた。

様々な感情に翻弄される高校生達。
彼らの人間関係から巻き起こる
「事件」の謎を解き明かす青春ミステリー。

『その意図は見えなくて』
著者:藤つかさ
出版社:双葉社
価格:1,760円 (本体1,600円+税)

「透明人間は密室に潜む」の衝撃再び!「入れ子細工の夜」

本格ミステリ・ベスト10のランキング第1位!
2020年のミステリランキングを席捲した
「透明人間は密室に潜む」と並ぶほどの
衝撃作が誕生。

ミステリー好きの作家が描くミステリー作品の
なんと面白いこと。
それぞれ、まったく趣きの違う作品を描いて
みせた著者。
次々と生まれるアイディアに読み手は翻弄される。

私立探偵・若槻晴海は、一冊の本を追って古書街に
現れた。古風な風貌の探偵の秘められた目的とは? 
探偵の意外な正体にぶっ飛びます。
若竹七海の「市立探偵・葉村晶」シリーズへの
オマージュが随所に感じられた。
「危険なかけ」

大学入試で犯人当てをやるという前代未聞の
入学試験。論理的思考を図る目的だが・・・・。
禁断の「犯人当て入試」狂騒曲! 
凄い。捻りの効いたミステリー作品。
「二〇二一年度入試という題の推理小説」

秘密を暴露された作家、いや、捏造された作家、
嘘と真実が裏返り続ける入れ子細工の二人劇! 
奇妙な心理戦を見せつつ、コロコロと役割が変わる。
目まぐるしく二転、三転を繰り返す!
多重どんでん返しの醍醐味に浸る!
「入れ子細工の夜」

前作の「六人」シリーズを引き継ぐ。
学生プロレスの覆面レスラーがコロナ禍にマスク着用で
大集合。もはや本人確認、不能?……
そこで起きる激熱推理合戦。
なんだ!最後の最後でそれか~!?
あまりにも見事な叙述トリックに脱帽!
「六人の激昂するマスクマン」

叙述トリック、犯人当て、多重どんでん返しとなど、
多彩なトリックでワクワクしながら楽しめた。
また、ミステリー名作への愛情と造詣が深く、
作中に登場した作品を思わずメモってしまった。
「透明人間は密室に潜む」と並ぶ面白さ。

『入れ子細工の夜』
著者:阿津川辰海
出版社:光文社
価格:1,980円 (本体1,800円+税)

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ最新刊「無明」

今野敏先生の人気警察小説「警視庁強行犯係・樋口顕」
シリーズの最新作「無明」を読みました。
安定の面白さでいっき読みしました。

荒川の河川敷で、男子高校生の水死体が上がった。
所轄の千住署は早々に自殺と断定した。

警視庁強行犯係・係長の樋口のもとへ新聞記者が
面会を求めた。
千住署が自殺と断定した男子高校生の死についてだった。
遺族は、納得していない。遺体の首筋に
ひっかき傷があった上、旅行の計画もたてて
いたという。しかも両親が司法解剖を求めたのに
千住署の刑事に断られ、恫喝されたとのことだった。

新聞記者からの情報を受け、樋口は、直属の上司・
天童管理官に少し疑わしい点があると報告。
天童も千住署のその件に対して疑問を持っていたようで
別行動で千住署に探りを入れるように樋口に指示した。

樋口は部下の藤本とともに千住署へ赴き、
その件を担当した係長に話を通す。
現場を担当した二人の刑事に案内され、自殺現場を
確認すると、さらなる疑惑がわいてきた。

樋口は、自殺だと納得できない。藤本にもそう指摘される。

そんな時、小松川署の管内で強盗殺人事件が発生。
樋口班のメンバーも特捜本部に参加。
しかし、天童からは続けて別行動を指示された。

樋口の度々の来訪に、業を煮やす千住署の面々。
自殺と断定した捜査にケチをつけるのかと猛反発され、
さらに、本部の理事官からは、千住署から手を引き、
小松川署の特捜に行けと激しく叱責された。

これまでは、署内で争うことなく、他部署や上司とも
うまくやってきた樋口だったが、今回はどうも
上のやり方が気に食わない。

組織のルールや秩序を守ることが、殺人事件かもしれない
案件をうやむやにするより大切なことだろうか?
それは違うだろうと、遺族が納得する捜査をし、
何があったのか事実を見つけることが最優先だ!
そう悟った樋口は、警察の組織論を振りかざす
上司に自らの信念をぶつける。

味方が数人しかいない四面楚歌の状況で、樋口は
絶対に引かない。
覚悟を決めた樋口の強さに心が震えた。

読み終わったとは、じわじわと樋口の言葉が
心にしみてくる。

このシリーズで一番好きな作品となった。

『無明 警視庁強行犯係・樋口顕』』
著者:今野敏
出版社:幻冬舎
価格:1,760円 (本体1,600円+税)

味わい深いからうま長編「カレーの時間」。

日ごろ、ミステリーしか読まないが、
何かのきっかけに文芸小説を読むこともある。
その作品が寺地はるなさんの「カレーの時間」。
版元さんプッシュで読んでみたら、なんとも
言えない味わい深い物語だった・・・。

娘3人を男手一つで育てた、昭和一桁世代の祖父。
頑固で声が大きくて、気に入らないことがあると
すぐに怒鳴る。娘たちからも疎まれている。

80歳を過ぎて、一度心臓の病気で倒れたことも
ある祖父。一人暮らしをさせるのは心配
だからと孫の僕が同居することになった。
絶対に無理だと母や叔母たちには言ったのに・・・。

一緒に暮らしてみると、やはり文句ばっかり・・
男は男らしくしろ!と顔をみれば言ってくる。
令和の時代に、何を時代遅れなことを言ってるんだ!
内心、憤りを隠せない。

そんな毎日に辟易していたが、祖父の家の裏手に
ちょっと可愛いシングルマザーらしい女性と
息子が住んでいて、胸がときめく・・・。

それにしても、とにかく祖父といると事件に
巻き込まれる。あ~っと思ったときは、
祖父が大量に買い込んでいるレトルトカレー
をアレンジして食べる。なかなかいける~。
事件のあとはケロッとして祖父も喜んで食べた・・・。

終戦後、食品会社に勤め、レトルトカレーの
販売担当をした男。同僚が必死に開発した
レトルトカレーを営業するが一向に売れない・・・。
なんで売れないんだ?時々同僚にあたる。

知人の紹介で結婚したものの、妻の気持ちが
ずっとわからずにいた。でも娘たち3人は、
可愛くてしょうがない。
しかし、ある日妻は出て行ってしまった。
子どもを残して・・・。

祖父が孫に語る物語は切なくて切なくて・・・
なぜ妻が出て行ったのか?
残された子どもたちのために、祖父は何を
したのか?
その真相が明かされたときは、思わず涙がポロリ。

頑固一徹で一途な祖父と、優男風令和男子の
孫とのかけあいがまるで漫才みたいで面白い。
しかし、祖父の切なすぎる人生が涙を誘う。
男らしいだけじゃ足りないものがあるということを
気づけなかったのか!?

ピリッと辛みが効いた中にもほんのり甘さを
感じさせる飛び切りおいしいカレーのような物語。
じわじわと心に沁みた・・・。

作中、孫が作るレトルトカレーレシピ。
絶対に作りたくなる。

『カレーの時間』
著者:寺地はるな
出版社:実業之日本社
価格:1,760円 (本体1,600円+税)

人気警察小説シリーズ、道警・大通警察署最新刊「雪に撃つ」

佐々木譲さんの人気警察小説シリーズ
「道警・大通警察署」の最新作、9作目
「雪に撃つ」が文庫で発売!
新作、待っていました!

今作は、さっぽろ雪祭りを舞台に数々の
事件が起き、佐伯、津久井、小島らが
それぞれの部署で事件を追う展開!

さっぽろ雪祭りの数日前のJR長万部駅で
妙なカーチェイスに巻き込まれそうになった夫婦。
孫を拾って自宅に帰る際、道路に蹲るアジア人女性
二人に手を貸した・・・。

さっぽろ雪祭り開幕前日、道警本部大通署管内で、
自動車の盗難事件が起こった。
盗犯係の佐伯と新宮は、その調査に向かった。

同じ日、市の中心部から離れた住宅街で
発砲事件があったと通報が入った。
機動捜査隊の津久井が臨場し、詳細を聞くと
カーチェイスがあり後ろの車から発砲された
弾が通報者の車に当たったらしいとのこと。
その後、乗り捨てられた車が発見され、佐伯の
担当した盗難車だと判明した。

一方、生活安全課の小島は、高校生の少女が
家出したと知り合いから連絡を受ける。
少女の身を安じる小島は、彼女を保護する
ために、行動を起こす。

全く関わりがないように見えた三つの事件。
ところが、捜査が進むにつれてある一つの
事件に繋がり、物語が進むにつれて危険度が増してゆく。

すばやい場面切り替えと、捜査の過程が
絶妙なバランスで描かれ、ページをめくる手が止まらない。

そしてクライマックスは、これぞ警察小説!と
膝を打ちたくなるくらいの迫力。

背景には、技能実習生を取り巻く複雑な状況が
描かれ、考えさせられた。

また、佐伯たちのプライベートにも触れられている。
彼らの今後の展開が気になる。

10作目も期待大!

『雪に撃つ 道警・大通警察署』
著者:佐々木譲
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:770円 (本体700円+税)

古典ミステリー名作中の名作!「バスカヴィル家の犬」

古典ミステリーはほとんど読んだことがなく、
日本映画「バスカヴィル家の犬」が近日
公開ということで、手に取ってみた。
ミステリーファンの方々は、だいたい
シャーロック・ホームズからという人が
ほとんどだと思うけれど、私の場合、
逆行している感じ。

名家、バスカヴィル家の当主・チャールズが
怪死を遂げた。
恐ろしくゆがんだ苦悶の表情を浮かべた
死体のそばには、巨大な犬の足跡が残っていた。
そして、その日住民たちはあやしく光る生物
を目撃していた・・・・。

バスカヴィル家に伝わる恐ろしい「犬」伝説。
住民たちはその伝説について噂した。

急逝したチャールズ・バスカヴィルには、
子どもがいなかった。
巨万の富と、バスカヴィル館を相続するのは、
チャールズの弟の子供。つまり甥にあたる
ヘンリー・バスカヴィル。
アメリカに住んでいる彼に、早速この報が
伝えられた。

チャールズの友人で主治医でもあった医師・
モーティマーは、ヘンリー・バスカヴィルを
心配し、ホームズにチャールズの死について
調査を依頼した。

暫くして、ヘンリーがイギリスにやってきた。
もちろん、正式な手続きを経てバスカヴィル家
の財産を相続するためだ。
しかし、滞在先のホテルで次々と異変に見舞われる。

ホームズは、ワトソンにヘンリーに張り付いて
バスカヴィル家とその村の周辺を探り報告する
ように指示。
ワトソンは不安を抱えながらも、ヘンリーたちに
同行し村へと向かった・・・。

寂莫とした荒地(ムーア)という土地と、
魔犬という不気味な伝説が融合し、事件の
恐ろしさが増している。
ホームズとワトソン以外、登場人物がすべて
怪しく見えてくる・・・。読者を翻弄しているのか?
切れ味鋭いホームズの推理は、読む者の度肝を抜く。
そして、クライマックスの怒涛の展開は圧巻!
これ一冊ではまってしまった。
他の昨品も読んでみたくなった。

日本映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」は
どんな物語になるのか?楽しみ。

『バスカヴィル家の犬』
著者:アーサー・コナン・ドイル/深町眞理子訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:792円 (本体720円+税)