幸せとは何かを問う。「彼女が最後に見たものは」

小学館文庫「あの日君はなにをした」の著者・
まさきとしかさんの新刊「彼女が最後に見たものは」
を読みました。

三ツ矢&田所刑事コンビ再登場。
事件の真実をひたすら追い求める、孤高の刑事・
三ツ矢の超天然の変人ぶりと優しさが際立った第2弾。

クリスマスイブの夜、50代らしき女性の
変死体が発見される。着衣に乱れがあり、
身元に繋がるようなものはなかったが、
遺体の近くに花柄のショッピングカートと
ハンカチが落ちていた。
ホームレスかと思われたが、
しばらくして、その遺留品から身元が
判明する。
夫婦二人仲良く生活していたが、ある日
夫が事故で亡くなる。夫のいない孤独な
生活を送る女性は、ある日突然姿を消した。

女性の死の一年半前、千葉である男性が
殺害されており、いまだ事件は解決して
いなかった。
ところが、その男性が持っていた遺留品から
女性の指紋が検出された。
犯人は、殺害された女性なのか?

二つの不可解な殺人事件は、予想をはるかに
超えた接点で繋がる。

三ツ矢&田所刑事コンビが点のように
散らばった事実の一つ一つを丹念に繋ぎ
合わせ、やがて一本の線になる。
そして真実が明かされたとき、これまで
見えていた世界が一変するのだ。

夫を殺害された妻と娘の悲劇。
トラック事故を起こし妻に捨てられた男。
うわべの幸せだけ追い求め、崩壊する家族の
姿を丁寧に描くことで、本当の幸せとは
何かを問う。

「あの日、君は何をした」を凌ぐ面白さと
衝撃、そして感動の波が胸を熱くする。

『彼女が最後に見たものは』
著者:まさきとしか
出版社:小学館(文庫)
価格:¥858(本体¥780+税)

心霊探偵八雲、高校生時代の事件を描く「青の呪い」

神永学さんの「心霊探偵八雲 青の呪い」
を読みました。

大好きな八雲シリーズ。斉藤八雲が
高校時代に出会った悲しい事件を
描いた作品。
主人公の男子生徒との交流がとても温かい。

早朝の学校の美術室で、顧問の教師が
変死体で発見される。

第一発見者は、人の声が色づいて見える
という共感覚を持った、青山琢海だった。

この事件は、10年前に亡くなった
少女が自分の血で描いたという呪われた
絵が関係しているのではないかと疑われた。
その絵を見たものは呪われるという伝説。

美術部の幽霊部員だった琢海は、数日前に
青い色の声を持つ先輩の女子部員・真希
から一緒に「呪われた絵」の調査をしょうと
持ち掛けられたばかりだった。

両親を交通事故で亡くした琢海の心を救ったのは、
真希だった。琢海は真希が事件に関係してる
のではと疑う。
しかし、琢海は警察に事情を聴かれても
真希のことを庇い続ける。

そんな琢海の前に、孤高のクラスメート・
斉藤八雲が現れる。
琢海を目の敵にするクラスメートともめごと
を起こしたとき琢海を助けたり、
美術部顧問の教師が殺された事件では、
琢海に謎めいた言葉をかけたりする。
そして彼の冷えた眼で見つめられると
琢海は心の底を覗かれたような気になり、
苦手だと感じていた。

琢海が真希のことで思い悩んでいる時、
事件が起こる・・・。

両親を喪い、妹を守る決意をする琢海。
その思いが強すぎるのか、彼の行動は
裏目に出てしまう。
それを指摘する八雲だったが・・・。

心霊現象とミステリーが緻密に絡みあい
ながら物語が進む。
その展開のうまさに引き込まれ
イッキに読まされた。

さらに、苦悩しながら特殊能力に
向き合う琢海と八雲の頑なな姿は読んで
いると切なくなる。
同じ境遇の二人は、事件を超えお互いに
歩みよってゆく過程がなんとなく嬉しくなった。
高校生の八雲が少しだけ自分の心の奥底に
あるものを琢海にぶつけるシーンが心に残った。

『青の呪い 心霊探偵八雲』
著者:神永学
出版社:講談社
価格:¥990(本体¥900+税)

一部松江が舞台の企業サスペンス!「黒い紙」

三十年前に宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
が不時着水した事件を調査するという、
堂場瞬一さんの企業サスペンス小説
「黒い紙」(角川文庫)を読みました。
本作の発表は2016年。
地元住民として松江の描写にワクワク~~~。

企業のリスクマネジメントを請け負う会社
「TCR」に勤務する、元捜査一課の刑事・
長須恭介。警官だった父の突然の死から
立ち直れずにいた。

そんな頃、「TCR」のクライアントである
大手総合商社・テイゲンに旧ソ連との不適切な
関係を指摘する脅迫状が届く。
現会長の糸山が、30年前旧ソ連のスパイ活動を
行ったというものだった。
警察には絶対に知られたくないテイゲンは、
事件解決を「TCR」に委ねる。

30年前、宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
「Su-25MM」が不時着水した。
機体はボロボロ。搭乗していたパイロットは
アメリカに亡命した。

その詳しい調査をするために、長須は同僚の
元弁護士・境美和とともに松江に向かった。
そこで、ロシア人のパイロットが立ち寄った
とされる喫茶店を訪ねるが・・・。
あと少しで松江での調査に動きが出るというとき、
会社から呼び戻される。

最初の脅迫に続き、犯人からは、現金10億円
を要求する脅迫状が届いていた。

長須は、クライアントの利益と元刑事という
立場での正義の間で苦悩し葛藤する。

松江の描写は読んでいて、想像するのが
楽しかった。
蔦の這うカフェ、県庁近くの新聞社、
昔からある松江の有名な洋食屋・・・・
松江に住んでいれば「あ、あの店だ!」
とすぐにわかり思わず嬉しくなる。

巨大企業の闇・・・。
一人の人物に権力が集中すれば起こるべきこと。
そのために理不尽な人生を強いられた人たちの
苦しみ、悲しみ、くやしさが描きだされる。

そしてこの事件解決をきっかけに、長須が
一皮むけ一歩前に進もうとする姿も描かれ、
企業サスペンスでありながらも、登場人物の
人間ドラマに心を揺さぶられた。

『黒い紙』
著者:堂場瞬一
出版社:KADOKAWA
価格:¥880(本体¥800+税)