アサドの過去に号泣!「特捜部Q アサドの祈り」

デンマークの大人気警察小説「特捜部Q」シリーズ。
第8作目「アサドの祈り」を読みました。
アサドの隠された過去が明らかになります。
それはあまりにも哀しい過去・・・。
さらに、カールの周辺は新たな動きが。

キプロスの浜辺に、難民とおぼしき老女の
遺体が打ち上げられた。
スペインのジャーナリスト、ジュアンは
そこでスクープをものにする。

そのスクープ記事は「犠牲者2117」として
紹介された。
メンタルが崩壊し休職していたローセを
見舞ったアサドは、ローセの寝室の天井に
貼ってあった老女の写真を見てうちのめされる。

「犠牲者2117」とは、アサドが失った最愛の
家族との繋がりを持つ人物だったのだ。

アサドとは一体何者なのか?
特捜部創設当初からカールの相棒だったアサド。
風変わりで、時に怪しげなデンマーク語を話す。
しかし、捜査能力は刑事並み。
いつの間にか、カールにとってアサドは
なくてはならない存在になっていった。

そのアサドがついに自らの過去を打ち明ける。
ガーリフというテロリストとの因縁、
アサドに報復するため、ガーリフはアサドの
家族を奪った。
その家族が「犠牲者2117」とともにいた。

その壮絶すぎる過去は、特捜部Qの面々を
打ちのめした。
そして、宿敵・ガーリフと決着をつけるべく、
家族を奪還するためアサドとカールは捜索を開始する。

一方、Qには若い男から殺人予告の電話がかかってきた。
当初はいたずらかと思われた。しかし、男は
本気のようだ。カールとアサドがいない中、
Qの面々は、男が凶行にいたる前に
所在をつきとめようと奔走する!

アサドが抱える事件と、不気味な男の殺人予告。
二つの事件の行方にページをめくる手が止まらない。
アサドとカールがガーリフにたどり着く過程、
殺人予告をした男の所在を突き止めるための
犯人との絶妙なやりとりなど、読み手を
翻弄する描写に驚愕の連続だ。

シリーズ最高傑作と呼んで良い!
ついにアサドの素性が明らかになる
面白すぎる!シリーズ激動の第八弾!

『特捜部Q アサドの祈り』
著者:ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田奈保子訳
出版社:早川書房
価格:¥2,310(¥2,100+税)

圧巻の展開に絶句!「真夜中のマリオネット」

知念実希人さんの最新作
「真夜中のマリオネット」」
(集英社)を読了。

強烈な面白さで、イッキ読み!
人物描写が秀逸過ぎてのめり込んだ。

婚約者を「真夜中の解体魔」と呼ばれる
殺人鬼によって喪った救急医の秋穂。
深い悲しみを抱えながら、医師だった
婚約者の思いを継ぎ、職場に復帰した。

そこに、交通事故で重傷を負った目の
覚めるような美少年・涼介が運ばれてきた。

秋穂は、必死になって彼の命を救った。
ところが、手術室を出ると刑事が待っていた。
そこで「涼介は真夜中の解体魔だ」と告げられる。

涼介を助けたことで苦悩する秋穂は、
密かに涼介を殺害しようとする。
しかし、涼介に気づかれてしまう。
そんな秋穂は涼介に憎しみの感情を
ぶつけた。

しかし、涼介は容疑を否定した。
この世のものとは思えない美しい涙を
流しながら、「僕は罠にかけられただけ」
と必死に訴えた。
無実と思える証拠を見せられた秋穂は
ためらいながらも、涼介とともに
真犯人を探すことになる・・・。

ただひたすらに秋穂に縋る美少年・涼介。
涼介には夢があり、そのために体を
張って生きていた。
彼を知る周囲の人々も彼の優しさに
心酔していた。

やがて秋穂も涼介の無実を信じるようになる。

涼介の人物描写があまりにも秀逸で
「これほど優しい人が犯人であるはずがない!」
と思わせてしまう。
秋穂とほぼほぼシンクロして涼介にのめり込んで
しまう。

涼介は「天使」か「悪魔」か!?
狂気の「真犯人」は誰なのか?

絡み合った糸が徐々にほどけ
犯人象を浮かびあがらせる・・・。

クライマックスに向かいながら、
心のざわつきが止まらない。

最後の最後、ギリギリまで翻弄され続ける!
圧巻の展開に絶句。

『真夜中のマリオネット』
著者:知念実希人
出版社:集英社
価格:¥1,595(本体¥1,450+税)

迷宮入り事件に挑む!第2弾「記憶の中の誘拐 赤い博物館」

昨年12月にもドラマ化された、大山誠一郎さんの
「赤い博物館」(文春文庫)。
その第2弾「記憶の中の誘拐」を読みました。

第1弾と同様に息をのむほど鮮やかな推理で解決される。

警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」は、
警視庁管内で起きた事件の証拠品(凶器・遺留品)
・捜査書類など、一定期間の過ぎた物を所轄署から
預かり保管する場所。その中には、迷宮入りした
捜査資料もある。

資料館に勤務するのは巡査部長の寺田。
直属の上司は、博物館の館長でキャリアの緋色冴子。
頭脳明晰で、これまで迷宮入りした事件、5件も
解決に導いている。

寺田の通常の仕事は所轄から回されてきた
捜査資料などのラベル貼りや整理だ。

冴子は、迷宮入りした捜査資料を読み込み、
疑問が発生した事件の再捜査をする。

今回冴子と寺田が再捜査したのは、

二十三年前に学校の屋上で女子高生が殺害された事件。
容疑がかかったのは、同じ部活動の先輩にあたる男子生徒。
しかし、決定的な証拠は見つからず迷宮入りした。

1990年に起きた府中・国分寺・国立・立川連続放火事件。
平成の八百屋お七事件と言われた。
放火犯は放火することで、ある人に逢いたいと願っていた。

1999年に荒川で起きたバラバラ殺人事件。
容疑者は絞られたが、確たる証拠もなく
結局迷宮入りしてしまう。
ところが資料を読んだ冴子は異様な
バラバラ死体に疑問を持った。

1990年、社内で密かに同僚や上司らに
金を貸し、無謀な取り立てをしていた男が
自宅で殺害された。
犯人と思われる名前が書かれたダインイグ
メッセージが遺されていたが、その人物には、
アリバイがあった・・・。

寺田の友人は幼い頃に誘拐されたことが
あった。誘拐したのは、友人の実母
だった。なぜ実母は自分を誘拐したのか
知りたいと願う友人。寺田は冴子に
事件の再捜査を申し出た。

コミュニケーション能力は皆無だが、
ずば抜けた推理能力を持つ緋色冴子。
これまでは、冴子の命令通りに、
寺田が一人で捜査をしていたが、
今回から冴子が捜査に加わると言った。

関係者とうまくコミュニケーションが
とれるのか?ハラハラする寺田をよそに
的確な質問で、資料にはなかった事実を
引き出してゆく冴子。

徹底的に考え抜かれ緻密に設定された
事件の数々がとにかく面白い。

叙述トリックを巧みに使い、
読み手を翻弄し、あっと言わせる、
飽きさせないストーリー展開に
どんどん引き込まれてゆく。

息をのむほど鮮やかな推理で解決される!

『記憶の中の誘拐 赤い博物館』
著者:大山誠一郎
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥836(本体¥760+税)

十津川警部拉致事件!特殊設定ミステリ「七人の証人」

トラベルミステリーの旗手・西村京太郎さんが
シリーズの主役・十津川警部を
特殊設定の中に置き、ある事件の
再捜査をさせるというストーリー。
十津川警部の名推理が冴える一作。

十津川警部はある日何者かに襲われ
拉致された。
目覚めるとそこは映画のオープン
セットのような場所だった。

十津川一人ではなく、7人の男女がいた。
彼らが拉致された場所は孤島だった。
何のために・・・?彼らは何者なのか?

そこへ一人の老人が現れる。
ブラジルで財産を築き日本へ帰ってきた。
ところが音信不通だった息子が殺人の罪で
投獄され、無実を訴えながら獄中で
亡くなったことを知った。

男は獄中死した息子の無実を信じ、
事件を見直すために、その時の状況を
忠実に再現し事件の証人7人を集めたのだ。

1年前、事件は場末のバーで起こった。
サラリーマン風の男性と、若い男が
口論になった。他の客とバーの
マダムが仲裁に入り、その場は
収まった。ところが、サラリーマン風の男が
外に出たとき、若い男がジャックナイフを
持ち彼を追い殺害した。
偶然その場に居合わせたカメラマンが
写真を撮っていた。
その写真と目撃者の証言により若い男が
逮捕された。

息子の事件の詳細を頭に入れた老人は、
自分たちの証言に絶対の自信をもつ
証人たちの目撃証言の穴を衝いてゆく。

しかし、その中で新たな殺人事件が起こってしまう。

いったい誰が何のために・・・!?

疑心暗鬼に陥った証人たちは
孤島からの脱出を要請するが、老人は
受け入れない。さらに老人が事件の
犯人だと決めつける。

1年前の事件の真相を明らかにするとともに
新たに起きた殺人事件の謎を解く!
ダブルの謎解きにワクワクする。

複雑に交差する事実を積み重ね、ロジカルに
謎を解いてゆく。
推理小説の醍醐味が随所に描かれる!

十津川警部シリーズ、異色すぎる展開に
興奮する傑作!

『七人の証人 新装版』
著者:西村京太郎
出版社:講談社
価格:¥814(本体¥740+税)

前を向いて生きる勇気をもらえる「神のひき臼出直し神社たね銭貸し」

とっても素敵な時代小説です。
櫻部由美子さん著、角川春樹事務所刊
「神のひき臼 出直し神社たね銭貸し」です。
「出直し神社たね銭貸し」シリーズ第2弾。

人生に行き詰り、やり直したいと願う
人びとのための出直し神社。
神様からの贈り物、たね銭を貸し、
もらった人はそのたね銭で人生をやり直す。
神社を守るのはうしろ戸の婆と呼ばれる老女。
そして、この物語のヒロインのおけい。
不器量だが明るく元気で働き者。
そのおけいが手伝いをしている。

ある日、赤ん坊を背負った千代という娘が
出直し神社にやってきた。婆の問われる
ままに悩みを打ち明ける。
搗き米屋の女将である母親の度が過ぎる
吝嗇ぶりに家じゅうが振り回され、
長く勤めてくれた女中らが辞めてしまったこと。
子守や家のことに忙殺され、手習いに
行けなくなってしまったことを話した。

婆はおけいに搗き米屋の手伝いと子守り
するように言った。
そして、おけいは女中として搗き米屋に
住み込むことになった・・・。

また、お千代が通う手習い処の
お師匠さんには秘密があった。

うしろ戸の婆の神通力や、貧乏神の
閑古鳥。ファンタジックな要素を
背景に、人生に行き詰まった人たちの
物語が描かれる。

約束事を反故にしようとした女将には
衝撃的な出来事が襲う。
そう、因果は巡るのだ。

うしろ戸の婆から預かった、吝嗇家の
女将への伝言。手習い処のお師匠さんへの伝言。
その謎めいた言葉の真相を探るミステリー的
な展開も面白い!

優しさと時に厳しい戒めをも込めた物語。
人情溢れるクライマックスは思わず涙を誘う。

超!おすすめのシリーズ!

『神のひき臼 出直し神社たね銭貸し』
著者:櫻部由美子
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥748(¥680+税)

幸せとは何かを問う。「彼女が最後に見たものは」

小学館文庫「あの日君はなにをした」の著者・
まさきとしかさんの新刊「彼女が最後に見たものは」
を読みました。

三ツ矢&田所刑事コンビ再登場。
事件の真実をひたすら追い求める、孤高の刑事・
三ツ矢の超天然の変人ぶりと優しさが際立った第2弾。

クリスマスイブの夜、50代らしき女性の
変死体が発見される。着衣に乱れがあり、
身元に繋がるようなものはなかったが、
遺体の近くに花柄のショッピングカートと
ハンカチが落ちていた。
ホームレスかと思われたが、
しばらくして、その遺留品から身元が
判明する。
夫婦二人仲良く生活していたが、ある日
夫が事故で亡くなる。夫のいない孤独な
生活を送る女性は、ある日突然姿を消した。

女性の死の一年半前、千葉である男性が
殺害されており、いまだ事件は解決して
いなかった。
ところが、その男性が持っていた遺留品から
女性の指紋が検出された。
犯人は、殺害された女性なのか?

二つの不可解な殺人事件は、予想をはるかに
超えた接点で繋がる。

三ツ矢&田所刑事コンビが点のように
散らばった事実の一つ一つを丹念に繋ぎ
合わせ、やがて一本の線になる。
そして真実が明かされたとき、これまで
見えていた世界が一変するのだ。

夫を殺害された妻と娘の悲劇。
トラック事故を起こし妻に捨てられた男。
うわべの幸せだけ追い求め、崩壊する家族の
姿を丁寧に描くことで、本当の幸せとは
何かを問う。

「あの日、君は何をした」を凌ぐ面白さと
衝撃、そして感動の波が胸を熱くする。

『彼女が最後に見たものは』
著者:まさきとしか
出版社:小学館(文庫)
価格:¥858(本体¥780+税)

心霊探偵八雲、高校生時代の事件を描く「青の呪い」

神永学さんの「心霊探偵八雲 青の呪い」
を読みました。

大好きな八雲シリーズ。斉藤八雲が
高校時代に出会った悲しい事件を
描いた作品。
主人公の男子生徒との交流がとても温かい。

早朝の学校の美術室で、顧問の教師が
変死体で発見される。

第一発見者は、人の声が色づいて見える
という共感覚を持った、青山琢海だった。

この事件は、10年前に亡くなった
少女が自分の血で描いたという呪われた
絵が関係しているのではないかと疑われた。
その絵を見たものは呪われるという伝説。

美術部の幽霊部員だった琢海は、数日前に
青い色の声を持つ先輩の女子部員・真希
から一緒に「呪われた絵」の調査をしょうと
持ち掛けられたばかりだった。

両親を交通事故で亡くした琢海の心を救ったのは、
真希だった。琢海は真希が事件に関係してる
のではと疑う。
しかし、琢海は警察に事情を聴かれても
真希のことを庇い続ける。

そんな琢海の前に、孤高のクラスメート・
斉藤八雲が現れる。
琢海を目の敵にするクラスメートともめごと
を起こしたとき琢海を助けたり、
美術部顧問の教師が殺された事件では、
琢海に謎めいた言葉をかけたりする。
そして彼の冷えた眼で見つめられると
琢海は心の底を覗かれたような気になり、
苦手だと感じていた。

琢海が真希のことで思い悩んでいる時、
事件が起こる・・・。

両親を喪い、妹を守る決意をする琢海。
その思いが強すぎるのか、彼の行動は
裏目に出てしまう。
それを指摘する八雲だったが・・・。

心霊現象とミステリーが緻密に絡みあい
ながら物語が進む。
その展開のうまさに引き込まれ
イッキに読まされた。

さらに、苦悩しながら特殊能力に
向き合う琢海と八雲の頑なな姿は読んで
いると切なくなる。
同じ境遇の二人は、事件を超えお互いに
歩みよってゆく過程がなんとなく嬉しくなった。
高校生の八雲が少しだけ自分の心の奥底に
あるものを琢海にぶつけるシーンが心に残った。

『青の呪い 心霊探偵八雲』
著者:神永学
出版社:講談社
価格:¥990(本体¥900+税)

一部松江が舞台の企業サスペンス!「黒い紙」

三十年前に宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
が不時着水した事件を調査するという、
堂場瞬一さんの企業サスペンス小説
「黒い紙」(角川文庫)を読みました。
本作の発表は2016年。
地元住民として松江の描写にワクワク~~~。

企業のリスクマネジメントを請け負う会社
「TCR」に勤務する、元捜査一課の刑事・
長須恭介。警官だった父の突然の死から
立ち直れずにいた。

そんな頃、「TCR」のクライアントである
大手総合商社・テイゲンに旧ソ連との不適切な
関係を指摘する脅迫状が届く。
現会長の糸山が、30年前旧ソ連のスパイ活動を
行ったというものだった。
警察には絶対に知られたくないテイゲンは、
事件解決を「TCR」に委ねる。

30年前、宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
「Su-25MM」が不時着水した。
機体はボロボロ。搭乗していたパイロットは
アメリカに亡命した。

その詳しい調査をするために、長須は同僚の
元弁護士・境美和とともに松江に向かった。
そこで、ロシア人のパイロットが立ち寄った
とされる喫茶店を訪ねるが・・・。
あと少しで松江での調査に動きが出るというとき、
会社から呼び戻される。

最初の脅迫に続き、犯人からは、現金10億円
を要求する脅迫状が届いていた。

長須は、クライアントの利益と元刑事という
立場での正義の間で苦悩し葛藤する。

松江の描写は読んでいて、想像するのが
楽しかった。
蔦の這うカフェ、県庁近くの新聞社、
昔からある松江の有名な洋食屋・・・・
松江に住んでいれば「あ、あの店だ!」
とすぐにわかり思わず嬉しくなる。

巨大企業の闇・・・。
一人の人物に権力が集中すれば起こるべきこと。
そのために理不尽な人生を強いられた人たちの
苦しみ、悲しみ、くやしさが描きだされる。

そしてこの事件解決をきっかけに、長須が
一皮むけ一歩前に進もうとする姿も描かれ、
企業サスペンスでありながらも、登場人物の
人間ドラマに心を揺さぶられた。

『黒い紙』
著者:堂場瞬一
出版社:KADOKAWA
価格:¥880(本体¥800+税)