警察小説版「やられたらやり返す!」短編集「撃てない警官」

人気ドラマ「半沢直樹」の決め台詞!「やられたら、やり返す!10倍返しだ!」は、普段言いたくても言えない、視聴者の心を代弁してくれているようでスカッとしますよね?
この「撃てない警官」は、「半沢直樹」のようにそれほどドラマティックではないですが、上司の保身のために利用され、所轄に左遷された若きキャリア警官が、「やられたら、やり返す!」と心に誓うシーンがとても印象的な作品です。


この作品は、表題作「撃てない警官」のほかに、「孤独の帯」「第3室12号の囁き」「片識」「内通者」「随監」「抱かれぬ子」の7編の短編集が収められ、「随監」は日本推理作家協会賞を受賞した傑作短編。
「撃てない警官」は、警視庁総務部で係長を務める柴崎が警視総監へのレクチャー中に部下の拳銃自殺を知らされる。
この不祥事がもとで、柴崎は綾瀬署へ左遷されるという物語。
事件の顛末を知った柴崎は、上司への復讐を胸に秘め、慣れない事件現場で虎視眈々と本庁復帰を狙う。
「孤独の帯」は、一人暮らしの老女の自絞死体が発見される。
柴崎も現場に臨場する。当初は自殺だと思われたが、柴崎は不審な点を発見、他殺を疑う。
独居老人の死にまつわる事件の真相が切ない。
「第3室12号の囁き」は、綾瀬署で柔道世界選手権の警備計画書が紛失。
柴崎は、警備計画書を探すうちに、綾瀬署内で起きている留置担当者と留置人の便宜供与を疑う。
『片識』は、綾瀬署管轄の交番巡査がストーカーをしているとの通報が入り、柴崎が調査を任されることに。
ストーカーを行っていたのは50代のベテラン巡査!?しかし、柴崎はその事実にしっくりこないものを感じる・・・。
「内通者」は、柴崎が本庁を追われるきっかけになった事件の関係者から呼び出しを受ける。
柴崎は自分を陥れた上司への復讐のため、この男を利用していた。
そして男は上司の秘密を柴崎に報告にきたのだ・・。柴崎はその秘密を元に上司を調べることに・・・。
「随監」は、柴崎が宿直のときにいきなり方面本部の随時監察が入った。綾瀬署管内の交番で被害届の隠蔽が発覚する。
その交番とは、巡査一筋の交番所長・広松がいる弘道交番だった。広松は、組織では疎んじられていたが、地域住民からの信頼が厚かった。そんな広松がいる交番で、被害届に隠蔽とは・・?柴崎は納得がいかず調べ始める・・・。
日本推理作家協会賞を受賞した短編。納得の面白さと奥深さ。
「抱かれぬ子」は、柴崎の義理の父に関わる事件。
嬰児がスーパーのトイレで発見された!
出血し倒れていた女子高生の仕業だが、二人とも柴崎の義理の父が勤める病院に保護された。だがしばらくして、嬰児が行方不明になる・・・・。
捜査経験のない柴崎だったが、地道に捜査するうちにあらゆる事件の真相に近づいていく。その過程が非常に面白い。
短編で扱われる事件はどれも現代日本社会の歪みがリアルに描かれていて、読んでいると切なくなることが多かった。
また、柴崎は「やり返す!」ことができたのか!?そのあたりも頭にいれて読むとさらに面白い。

『撃てない警官』
著者:安東能明
出版社:新潮社
価格:¥550(税別)

「ぼっけえ きょうてえ」はほんとに「とっても恐いです。」

ぼっけえ

タイトルの意味「ぼっけえ きょうてえ」は岡山の方言で「とても恐い」という意味。
この作品は、表題作「ぼっけえ きょうてえ」のほかに「密告箱」「あまぞわい」
「依って件のごとし」の4つの短編を収録したホラー作品集です。
どの作品も怖いというより、おぞましいと言った表現の方があってるかも・・・。
第6回日本ホラー大賞、第13回山本周五郎賞受賞作。

表題作「ぼっけえきょうてえ」は、岡山の遊郭で醜い女郎が客に自分の身の上を語り始める。
その人生は血と汚辱にまみれた地獄道だった。
そしてその女郎の醜さには実は恐ろしい秘密があったのだ!

岡山の方言で語られる恐怖譚は、わからない言葉も出てくるが、
逆にそれが怖さを助長し、うすら寒く感じる。
そしてこの女郎の本当の秘密がわかった時には、思わず本を投げてしまったほど。

他の3篇の中で怖いのは「あまぞわい」。
漁師の夫がありながら、網元の息子と不倫をし、夫に見つかり網元の息子は殺され海に捨てられてしまう。
そんな女性を襲う怪異現象。女性の後ろにいるおぞましきものとは!?

男と女の情念のようなものが、とてつもない恐怖へと繋がっていく。
こんなホラー小説を描けるのはこの岩井さんしかいないと思う。

残暑が厳しい、夏の終わりにぴったりのホラー作品。

『ぼっけえ きょうてえ』
著者:岩井志麻子
出版社:角川書店
価格:¥476(税別)

めっちゃ恐いです~。ホラー小説、三津田信三『禍家 まがや』

今年のこの暑さ、異常です・・・。ホラー小説読んでも涼しくなるのだろうか・・・?と思っていたけど、この「禍家 まがや」は、背筋がゾクゾク~でした。

 


両親を亡くした12歳の少年・貢太郎は、祖母と二人で東京の郊外の家に引っ越してきた。
初めての土地なのに、前に来たことがあるような既視感。
そんな貢太郎に近所の老人から「ぼうず、おかえり」と不気味な声をかけられる。
そして新しく住み始めた家で次々と怪異現象が起こる。
ある日、貢太郎は、同じくらいの年の少女・礼奈と友だちなる。
貢太郎の体験を知った礼奈は、貢太郎とともにその家について調べることに!
やがて二人は‘家’に隠された戦慄の秘密を知ることになる。
読んでいると何かが這い上がってきそうな感じで、次のページをめくるときなにかとんでもないものが出てくるのではないかと、超ドキドキしてとても怖いです。
ものすごく怖いホラー映画を、指の隙間から観る感じでしょうか・・・・。
「住んでいる家」が呪われているという設定なので、つい自分の家の間取りを気にしてしまいます。そしてじっくり観察してみると柱の陰とか・・・、階段から見上げる2階の踊り場が恐い!!
あまりに観察し過ぎると自分の家で眠れなくなるのでご用心・・・・。

 

『禍家』
著者:三津田信三
出版社:光文社
価格:¥571(税別)

女性秘匿捜査官・ハラマキシリーズ、衝撃の完結編

『女性秘匿捜査官・原真希』シリーズがとうとう完結!
面白いシリーズなので、まだまだ続きが読みたい気持ちもあるけど・・・。
で今回もハラマキさんが大活躍!です。


前回の「エリカ」では、背望会のリクルーター・史上最強の犯罪脚本家の正体が明らかになり、逮捕かというところでまたまた取り逃がした、原麻希。
その背後に自分の夫が関係しているのではないかと疑ったままで終わった。
そして今回の「ルビイ」では、夫への疑惑が高まり、とうとうぶちぎれて夫への不満を大爆発させたハラマキ。
そんな二人を冷めた目でみる、娘・菜月。波乱の幕開けだ。
その菜月があろうことか、リクルーターの娘と交流を持っているのではないかと疑い、調査を開始する。
リクルーターの娘が通う学校へと向かった麻希は平日にもかかわらず、校内に誰もいないことに気付く。
気配を残したまま、忽然と姿を消した全校児童たちの行方は・・・?
「スワン」で登場した奈良県警の吾川刑事と、大阪府警のおばちゃんこと嵯峨美玲警部補も登場する。
学校の校長の殺人事件、児童誘拐事件、銃器摘発事件など複数の事件が複雑にからみあいながら、本筋のリクルーターの事件へと繋がってゆく。
また、娘・菜月との確執がさらに深まるり、どん詰まりのハラマキ!またしても暴走?!
しかし、事件の真実を見極めたハラマキに、リクルーターは真の姿をさらすのだった・・・。
今回も手に汗握る怒涛の展開が待っている!読み出したら止まらない衝撃の展開!

 

『ルビイ 女性秘匿捜査官・原麻希』
著者:吉川英梨
出版社:宝島社
価格:¥562(税別)

「共震」は東日本大震災がテーマ、鎮魂と慟哭のミステリー

「震える牛」で現代日本の病巣を鋭く抉り、読者を戦慄させた著者が新たに描く!東日本大震災の現状と復興への願い!!


著者は、震災前に取材で何度もみちのくを訪れていた。それ故に描かなければならないと強い意志があった。
実際に被災地で横行していたと思われる事件を取り上げ、ミステリーに仕上げた。
東日本大震災から2年後、大和新聞東北総局で遊軍担当記者としての日々を送る宮沢は、震災コラムで新たな特集を組もうと取材中だった。
そこへ飛び込んできた、殺人事件の速報。
被害者の名前を聞き、宮沢は唖然とする。
殺害された男性は、宮沢も良く知る県職員・早坂だった。
震災後、復興のために自らを犠牲にして働きつづける早坂。
被災地を巡り、震災で家族も何もかも失った人たちの心に寄り添い、被災者の心の支えとなっていたあの早坂がなぜ、どんな理由で殺されなければならなかったのか!?宮沢は言いようのない怒りを覚えた。
早坂のために早速調査を開始する宮沢。
一方、警視庁刑事部捜査二課管理官・田名部は、広域知能犯撲滅の本部担当として岩手に来ていた。
そして早坂の殺害事件に関わることになる。
宮沢が、殺された早坂を思い浮かべるシーンから、東日本大震災が起きた2011年3月11日へと場面が切り替わる。
その後は震災の惨状と震災後の現状が交互に描かれ、事件の真相究明も進んでいく。
ミステリーとしての謎解きは極力削られ、被災地と被災者の現状に焦点が当てられる。
震災から2年が経過したが、一向に進まない被災地の復興と、それでも必死で頑張っている被災者の人たちの物語を読むと涙が止まらなくなる。
著者の復興への強い願いと、決して忘れてはいけない現実をつきつけられ、心が揺さぶられる。
しかしそんな状況の中で、人の不幸につけこむ禿鷹ような輩がいるのだ。
震災の騒乱で陰に隠れていたであろう事件をクローズアップし、さらなる被災地の現状を描いた。
社会派サスペンスでありながら、東日本大震災の被害者への鎮魂の書でもある。
読みだすと涙が止まらない!被災者の叫びが聞こえる!鎮魂と慟哭のサスペンスミステリー!
『共震』
著者:相場英雄
出版社:小学館
価格:¥1,500(税別)

2013年江戸川乱歩賞受賞作『襲名犯』は感涙のミステリー

今年も、江戸川乱歩賞受賞作が発売となりました。
竹吉優輔『襲名犯』(講談社)です。選考委員の方々が絶賛!
特に、今野敏先生の選評コメントがグッときました。
‘読者に何かを伝えたいという思いが一番強かった作品だと感じた’とおっしゃっています。
作者の「運命と不条理に抗う人間を描きたいと思いました」という想いがストレートに伝わってきました。

 


14年前に起こった、連続猟奇殺人事件の犯人「ブージャム」こと新田秀哉の死刑が執行された。
逮捕当時、その甘いマスクと語り口から熱狂的な信者が生まれた。
しかし、新田の死からしばらくして、新たな惨劇が起こった。
殺害現場に遺されたものは「Im Booooooojum!!」というメッセージだった。
14年前に起こった猟奇殺人事件は、小さな街を恐怖のどん底にたたきこんだ。
時が経ち、犯人が死刑になっても、この街の住民たちは決して忘れることが出来ない。
そんな中の模倣犯の事件。
幼いころ、ブージャムの事件により、双子の兄・南城信を失った弟の南城仁は、再度うちのめされてしまう。
南城仁は、地元の図書館でレファレンスを担当する優しい青年だが、兄の死は仁の心に暗い影を落とし、容易には心を開くことが出来なかった。
だが、新たなる惨劇により、仁の過去が表に出てしまう。
第二のブージャムの不条理な連続殺人は単なる模倣犯なのか・・・?
新田の妻であった女性の証言から、新田の過去と人物像が浮かび上がる。
過去に兄を失くし、自らの運命を狂わされた仁は再び「ブージャム」に巻き込まれる。
その苦しみを乗り越えることが出来るのか?
仁の再起の過程を描き、さらに新たなブージャムとして登場した犯人の複雑な心理も非常にリアルに描かれている。
苦しみから這い上がろうとする人間の強さと、彼を助ける周りの人たちの優しさ、猟奇的な惨劇を繰り返す壊れた人間とを対比させながら、じわじわと事件の真相に迫っていく。
猟奇的な物語でありながら、人間の強さ、優しさ、温かさも描かれ心を揺さぶられる。
読み終わった後に希望の光が見える、感涙のミステリー。
デビュー作とは思えない衝撃作!

『襲名犯』
著者: 竹吉優輔
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

心霊探偵八雲シリーズ外伝第2弾「いつわりの樹」グッときました!

この「いつわりの樹」は、舞台上演用に描かれた、オリジナルストーリーの脚本をノベライズされたものです。
以前発行された、「SECRET FILES」に続く心霊探偵八雲シリーズ外伝の第2弾です。

 

 

神社の境内に大きな杉の樹がある。
この樹には、男に裏切られ首を吊って死んだ女性の怨念が宿り、この樹の前で嘘をつくと呪われるという伝説があった。その樹は「いつわりの樹」と呼ばれるようになった。

 

ある時、その伝説の樹の前で男性の刺殺体が発見された。
後藤刑事と石井刑事は現場に急行。
石井刑事は、亡くなった男性に見覚えがあった。
容疑者はすぐに割れたが、彼の供述と被害者の致命傷が一致しない。
現場百回の後藤と石井は再度現場に戻る。

 

一方、八雲と晴香は、晴香の友人・麻衣の不可思議な現象の悩みを聞き、「いつわりの樹」のある境内に向かう。
そこで後藤と石井に遭遇する。
八雲の赤い目が、刺殺された男性の霊を見つける。そして、麻衣に憑りついた霊と刺殺事件が繋がっているのではないかと疑う・・・。さらに石井の過去が明らかに・・・・。

 

大好きな八雲シリーズ。この外伝もホラーの怖さと、ミステリーの謎解きが十分に堪能できる。
今回は、いつも後藤に怒鳴られている石井刑事の過去が明らかになる・・・。切ない。
そしていつも石井を怒鳴っている後藤が、本当は石井のことをどう思っているのか?多分シリーズで初めて明かされるのでは?
後藤の意外な優しさに驚く。
そして、最初の出会いが最悪だった、石井と新聞記者の真琴との関にも変化が・・・・。などなどおなじみのキャラの新たな一面が楽しめます。面白いですよ~。

 

『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES いつわりの樹』
著者:神永学
出版社:角川書店
価格:¥590(税別)