ラブコメテイストの北欧ミステリー「氷姫」

北欧ミステリーと言うと、暗い、寒い、色でいうとグレーのイメージ。
しかしこの「氷姫」は他の北欧ミステリーとは少し違うテイストが加味されていて、
読んでいるとホッとするシーンが結構ある。
女性におススメのミステリー。

氷姫

海辺の古い邸で凍った美しい女の全裸死体が見つかり、
小さな町を震撼させた。
被害者が少女時代の親友でもあった作家エリカは、
幼馴染の刑事パトリックと共に捜査に関わることに。
20年以上疎遠だった親友の半生を辿ると、恐るべき素顔が覗く。
画家、漁師、富豪・・・・。町の複雑な人間模様と
その風土に封印された衝撃の過去が次々明らかになる。
驚愕の結末とは一体・・・?。

主人公は作家・エリカ。被害者が幼馴染だったことから
事件の渦中に・・・。相棒はちょっと頼りない刑事・パトリック。
凄惨な事件、女性の悲しい過去、町の複雑な人間模様、
凍てつく北欧のイメージの中で、エリカとパトリックの
ラブコメチックな関係が物語を明るくしてしてくれる。

さらに、北欧ミステリーの特徴は、主人公と彼らの周辺
の人たちの人間関係まで深く、詳細に描かれていて、
濃密なミステリーに仕上がっている。

エリカの家族のごたごたもリアルに描かれて、
エリカの人間性が際立つ展開だ。
魅力的な主人公・エリカとパトリックの関係がどうなって
いくのかも読みどころ!

スウェーデンでベストセラー!
魅力あふれるミステリーシリーズの第1弾「エリカ&パトリック事件簿」
シリーズです。今後も続きますよ!

『氷姫 エリカ&パトリック事件簿』
著者:カミラ・レックバリ著/原邦史朗訳
出版社:集英社(文庫)
価格:¥910

面白すぎる!「ミレニアム1 ドラゴンタトゥーの女 上下」

北欧ミステリー小説の面白さに目覚め、いくつか
読んできましたが、長いというだけで、ちょっと
敬遠してきた「ミレニアム」をやっと読み始め
ました。
3部作なので、まずは第1部から。

読み始めてすぐに、尋常でない面白さに
はまってしまいました!
続きが読みたくて仕事が手につかなかったくらいです。

ミレニアム1上

ミレニアム1下

ミレニアム誌の発行責任者・ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く
記事を発表したが、名誉棄損で訴えられ、有罪が確定。
ミレニアム誌から離れることになった。
そんな折、大企業のグループの前会長である、ヘンリック・ヴァンゲルから
ある依頼を受ける。
40年前、ヴァンゲル一族が暮らす孤島から、ヘンリックの兄の孫娘・
ハリエットが失踪。その事件を調査することだった。
事件当時、地元の警察を総動員し捜索したが、いまだに謎に包まれていた。
すでに死んでいるのであれば、だれがハリエットを殺害したのか・・・?
ミカエルは途方もない依頼に一度は断ろうと思ったが、
ヘンリックが出した条件で引き受けることにする。
かたや、大手警備会社で調査を担当する、超優秀な女性社員・リスベット。
彼女はコンピューターを駆使し依頼以上の結果を出す凄腕調査員。
調査の過程でミカエルのことを調べ、彼に興味を抱く。
ヘンリックが自分のことを秘かに調べあげたことに憤りを感じたミカエルは、
自分の調査資料を確認。そこにはミカエルのパソコン上のデータも添付されていた。
パソコンをハッキングされたことに驚愕したが、それ以上に、調査内容の正確さ、
緻密さに驚いたミカエルは、調査した本人、リスベットに会いに行く。
リスベットは、突然現れたミカエルに不信をいだきつつも、ミカエルの不思議な
雰囲気にのまれ、ミカエルに協力することを決める。
二人は膨大な資料を徹底的に調べるが、決定打が出ない。
謎が謎を呼ぶが、あるキーワードがきっかけでいっきに調査は進む。
だが、彼らの調査を快く思わない者がいた・・・。

北欧と言うと、福祉が充実し、特にスウェーデンは住みやすい国ランキング
では毎年上位にあがる。
しかし、「ミレニアム」に描かれるスウェーデンは様々な問題を抱えた国だ。
そういう社会問題をバックに、忌まわしい事件、愛、復讐が描かれていて、
物語の面白さが一層際立っている。

この後に続く「ミレニアム2」「ミレニアム3」がどんなドラマになるのか
楽しみでワクワクする。

『ミレニアム1 ドラゴンタトゥーの女 上下』
著者:スティーグ・ラーソン著/ヘレンハルメ美穂訳
出版社:早川書房(文庫)
価格:上下各¥800(税別)

大友刑事の原点!「アナザーフェイス」外伝

[堂場瞬一さんの警察小説シリーズの中で
はまさきがもっとも好きなシリーズ
「アナザーフェイス」。
刑事部総務課に勤務。
一人息子を男手ひとつで育てる
イケメン刑事・大友鉄の原点「アナザーフェイス0 親子の肖像」。

捜査一課での事件、妻・奈緒を失ってから刑事総務課へ
異動となった大友刑事の姿が描かれている短編集。

アナザー0

「取調室」「薄い傷」「親子の肖像」「隠された絆」では
捜査一課時代の大友鉄が鋭い洞察力で事件を解決してゆく
過程が描かれている。彼の警察官らしくない丁寧さ、優しさが
感じられとても好感が持てる。さらに妻・奈緒との絆、
息子誕生で感激する大友刑事・・・しかしその後の絶望を
予感すると切ない。
「薄い傷」では、テレビ番組「刑事に密着24時間」に協力することに
とまどう大友刑事たちがちょっとおかしい。

「リスタート」では、妻・奈緒が交通事故で突然亡くなり
茫然自失する大友刑事の姿が切なすぎてちょっとつらい。
しかし、仕事は容赦なく彼を現実の世界にひき戻す。
福原捜一課長や、同期の柴刑事などの気配りに次第に
絶望から希望へと気持ちを切り替える大友刑事。
一人息子との生活を最優先するために「刑事総務課」への異動を
願い出でる。だが、大友鉄の刑事としての優秀さを信じる
福原捜査一課長は、彼の希望を優先しつつ、捜査に参加させようと
画策する。
「見えない結末」では、刑事総務課へ異動した大友鉄が
所轄で起きた事件の特捜本部に行くよう命令される。
果たして大友は福原の思いに応えることが出来るのか?

この短編集を読んで、益々大友鉄刑事が好きになりました。

『親子の肖像 アナザーフェイス0』
著者:堂場瞬一
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥550(税別)

八雲大ピンチ!「心霊探偵八雲」シリーズ最新刊「救いの魂」

心霊探偵八雲シリーズの本編も9巻目に突入。
外伝のシリーズ「Another file」も順調に巻を重ねて
八雲ファンはどっぷり物語に浸っています。

今作、9巻目は後藤さんと八雲が大ピンチに!

八雲9

ある日、八雲は高校時代の同級生の妹の生霊を目撃する。
事件に巻き込まれ、頭に怪我を負い集中治療室に
入っている彼女の思念は「深い森」と訴えた。
同じ頃、遊び半分で青木ケ原の樹海に入り込んだ
大学生が死体を発見!!幽霊から電話がかかってくるようになる。
刑事をやめ、心霊がらみの探偵事務所を
開いた後藤は、その幽霊事件の調査を依頼され、
依頼人のもとへ。そこへ幽霊から電話がかかって
きたのだ。調査のため電話に出た後藤は、
その幽霊に憑依されてしまう!!
警察では、八雲の同級生の妹の傷害事件の
調査をしていた。
八雲の同級生・蒼井秀明は、幽霊が見えるといい
妹を襲った犯人は自殺していると話した。
「未解決事件特別捜査室」の宮川と石井はその話の
真偽を確かめるため、犯人の家に向かう。
そして二人は首をつった死体を発見する。
一方、樹海で発見された死体の身元が判明した。
新興宗教「慈光隆神会」の幹部だった。

八雲は三つの事件に繋がりがあると判断するが・・・・。

複雑に絡みあう三つの事件。
樹海で両目が赤い男の目撃情報も・・・
これは罠なのか?
絶対絶命のピンチに陥る!八雲。

いつも恐ろしい話と平衡して、
いつものメンバーの近況も描かれる。
今作では、晴香に淡い恋心を抱いていた石井だったが、
心境の変化が!真琴との距離が縮まるのか・・・?
そして八雲と晴香の関係の行方は・・・?
皆の関係性が微妙に変化!

八雲ファンお待ちかねの展開になるのか!?

『心霊探偵八雲9 救いの魂』
著者:神永学
出版社:KADOKAWA
価格:¥680(税別)

警察小説に新風?!「ACT 警視庁特別潜入捜査班」

「もぐら」「D-1警視庁暗殺部」など、
異色の警察小説を描く、矢月秀作氏の新刊が発売!
タイトルは「ACT 警視庁特別潜入捜査官」です。
これがとっても面白い!

ACT

振り込め詐欺の実行犯が逮捕された。
その経歴には、ホームレス救済の名のもとに勤務した
仕事から犯罪組織に取り込まれていった形跡があった。
さらに与党大物代議士と大物弁護士の名も上がっている・・・。
通常の捜査が困難と判断した警察上層部は、潜入捜査専門の
極秘部署・UST(Undercover investigation special team)
のメンバーを招集した。

普段は冴えない演劇青年・田宮一郎。
いつも舞台監督に才能なし!役者なんか
やめちまえと怒鳴られている毎日。
だが、田宮はUSTきっての名優だ。
潜入捜査に入る前からの壮絶な準備で
徹底的にその役に成り切ることが出来る。

潜入捜査班のメンバーたちは、それぞれ役に成り切り
NPO法人「キボウノヒカリ」、大物弁護士事務所、
ホームレスが集まる上野公園の3つの潜入先へ向かった。
田宮は、「犬塚健」という名で上野公園へ新参ホームレスとして
潜入した。やがて、「犬塚健」に「キボウノヒカリ」が接触
してきた。田宮は闇組織へ一歩踏み込むことに成功する。

振り込め詐欺の実態、NPO法人を装いながら
巧妙に犯罪を企てる組織の実態がリアルに描かれ、
圧倒させられる。
弱いものは、自覚なしに犯罪に手を染め、
使い捨てられてゆく状況が詳細に描かれている。

その巧妙な組織犯罪に対処するために極秘に設立
された特別潜入捜査班・UST。

自らの命の保障さえない危険な任務をUSTの
メンバーが背負ってゆく。

命を張った彼らの活躍は読みごたえあり!
田宮一郎のかっこよさがたまらない!
警察小説のニューウェイブ!

『ACT 警視庁特別潜入捜査班』
著者:矢月秀作
出版社:講談社(文庫)
価格:¥770(税別)

巧妙で精緻!どんでん返しに驚嘆!「テミスの剣」

『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』で
中山七里にすっかり魅了されました。
この2つの作品はものすごく面白いですが、
「テミスの剣」はもっと面白い!!

「テミスの剣」の主人公、渡瀬という刑事は、
「連続殺人鬼カエル男」「贖罪の奏鳴曲」に
登場する、渡瀬警部補なんです!
‘刑事の鬼’となる前の渡瀬警部補の苦悩する姿が
描かれています!
さらに『静おばあちゃんにおまかせ』で、冴えわたる推理を見せた
現役裁判官時代の高遠寺静も登場!
中山ファンにはたまりません!

テミス

昭和59年台風の夜、埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。
浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み捜査を開始。
鳴海刑事が現場から秘かに押収した帳簿から、殺された不動産会社社長は、
裏で高利な金貸しをしていたことが発覚!
その帳簿のリストから、容疑者を絞り込んだ。
そして、鳴海は任意同行した楠木青年に苛烈な取り調べを行った。
渡瀬は、鳴海のやり方に違和感を覚えつつも、突出した検挙率を誇り
上層部からも一目置かれている鳴海に、意義を唱えることは出来なかった。
やがて、楠木は苛烈極まる聴取の結果、犯行を自供した。
だが、楠木は裁判では供述を一転。刑事の暴力的な取り調べで自白
させられたと訴えたが、死刑が確定し、獄中で自殺した。

そして、事件から五年後、同一管内で発生した窃盗事件をきっかけに、
渡瀬は昭和59年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。
渡瀬は、自分は無実の人間を死に追いやったと激しい後悔の念を抱きつつ、
一人、再捜査をする。しかしそれは県警全員を敵に回す行為だった・・・・。

苛烈な取り調べのシーンは、まるで冤罪が生まれる過程を読んでいる
ようだった。実際にあった数々の冤罪はこうして生まれていたのかと・・・。
刑事がこいつは黒だ!と判断したら、なんとしてでも(証拠をでっちあげても)
自白を強要する・・・。恐ろしい!
しかしもっと恐ろしいのは、冤罪とわかってもそれを隠蔽しようとする
今の日本の司法制度だ・・・。

渡瀬は、絶対に間違えない、真実のみを追う刑事として
生まれ変わって行く・・・。
その渡瀬が、冤罪事件から20年以上過ぎ、その事件の
裏に隠された、ありえない真実にたどり着いてしまう。

いったい、正義とはなんなのか?
いつもタイトルに深い意味を持たせる。
「テミスの剣」はいったい誰に振り下ろされるのか・・?

現代日本の司法制度に大きな疑問を投げかけ、最後の最後まで二転三転し、
読者を翻弄する「どんでん返し」を融合させた驚異の社会派ミステリー。
物語の面白さ、奥深さは中山作品中一番!!

『テミスの剣』
著者:中山七里
出版社:文藝春秋
価格:¥1,750

「オリエント急行の殺人」はやはり傑作!

1月11日と12日に放送された、スぺシャルドラマ
「オリエント急行の殺人」(三谷幸喜氏脚本)
がとても面白かった。
第二夜目に放送されたドラマは、三谷さんのオリジナル
ということで、三谷さんらしさがあふれていてとても
面白かったです。
あれだけのキャストを使っているので十分に
出番を用意しないと視ている方が不満になってしまいます。
でも今回はそんな感じは全くなかった。さすが三谷さん!

1974年に制作された、映画「オリエント急行殺人事件」は
ハリウッドで主役級の俳優さんたちがたくさん出演。
ギャラも大変だったと思います。さらに2~3時間の映画に
収めるために出演者さんたちの登場場面がかなり工夫されていた
と思います。にも関わらず、なんとなく不満な気持ちが残って
しまった。あれだけの役者さんを上手く使い切れいていない
感が残りました。映画はとてもおもしろかったけど・・・。

オリエント急行の殺人

ところで、やはり原作。「オリエント急行の殺人」は
クリスティ作品の中でも5本の指に入るほどの名作。

豪華寝台特急列車で起きた殺人事件。
たまたま乗り合わせた、名探偵・エルキュール・ポアロ。
そして、華やかな乗客たち。
そんな中、ポアロの灰色の脳細胞が、殺人事件の真相を暴く!
被害者の身体にあった12か所の刺し傷、
13人の乗客。一見なんの繋がりもなさそうだが・・・
ポアロはいち早く、被害者の身元を特定した。
そこから導き出される真相はただ一つ・・・・。

映画を観て、それから本を読んだ。
犯人、からくりのすべてはわかっているのに
物凄く面白かった!

それこそがクリスティのミステリーなのだ。
彼女の作品は多くが映像化されている。
にも関わらず、世界中で一番読まれている
ミステリー作家。それは何度読んでも面白いから。
クリスティの世界に引き込まれてしまうから。

「オリエント急行の殺人」、もう一度読みたくなりました。

『オリエント急行の殺人』
著者:アガサ・クリスティ/山本やよい著
出版社:早川書房(クリスティ文庫)
価格:¥860(税別)

リアル過ぎる!介護がテーマのミステリー「ロスト・ケア」

葉真中顕さんの作品、続けて読みました。
「絶叫」があまりにも凄いインパクトだったので、
他の作品も読みたくなりました。

第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作!
2014年版ミステリが読みたい!国内編第5位!
2014年版このミステリーがすごい!国内編第10位!
デビュー作ながらすごい冠がついている
「ロスト・ケア」(光文社)
を読みました。

とにかく、凄いです。
「介護」「老後」という誰もが経験するであろう
テーマ。絶対に避けては通れない!
読まずにはいられない!
多分「絶叫」以上に心にグサグサっと刺さります!!

あまりにリアル過ぎてほんとに
これから生きてゆくのが怖くなります・・・・。

ロストケア

身体の動かなくなった老人を40人以上殺害した〈彼〉への判決が下された。
それは「死刑」・・・。
しかし、遺族たちは〈彼〉を憎む気持ちにはなれなかった。
何故なら、〈彼〉は介護という地獄から救ってくれたのだから・・・。

老人介護を、儲かるビッグビジネスととらえ、金をため込んでいる
老人たちから搾取し、社会に還元!?それを正義だとうそぶく男。
自分は安全地帯にいて正義をふりかざし、性善説を信じる検事。
そして家族の介護に疲れ果てる人たち・・・。

そんな中で次々と老人たちが殺されている・・・。
しかし、警察も自然死として処理。完全犯罪は成立しつつあった・・・。
だが・・・・?
〈彼〉の完全犯罪を暴いた手法がとても斬新!?
面白かったです。

老人を殺害した〈彼〉の本当の目的とは?
〈彼〉の叫びが心に深く突き刺さる!!

日本社会における老人介護という重いテーマ。
描かれたその歪み、経験しないとわからない、隠れた穴。
その穴に落ち込んだら決して這い上がれない・・・。
介護・・・あまりにリアルな描写に、ただただ不安になってしまった。
凄い説得力です。

「絶叫」といい「ロスト・ケア」といい、日本社会にはびこる
深い闇に焦点を当て抉り出す!この葉真中顕さんの作品は凄いです!

新たな社会派ミステリー作家の誕生です!

『ロスト・ケア』
著者:葉真中顕
出版社:光文社
価格:¥1,500