宮部調怪談「おそろし 三島屋変調百物語事始め」

宮部さんの時代小説は、怪談調のものが多いです。
霊能力を持つ少女・お初シリーズは傑作中の傑作。
大好きなシリーズです。
初めて読んだ衝撃は忘れられません。

この「三島屋変調百物語」も怪談ものです。
でも普通の怪談話とは少し違います。
幽霊がただ生きている人を怖がらせるものではなく、
人の心の中にある後ろめたさ、憎しみや、嫉妬、恐れなどの
感情が恐ろしいものを見せるのだ・・と言っている気がします。

17歳のおちかは、ある事件がきっかけで人と
深く関わることが出来なくなった。
おちかの両親も、心を閉ざしてしまった娘を
どうなぐさめて良いのかわからない。
しばらく心の療養が必要だと悟った両親は
弟夫婦が営む袋物屋「三島屋」におちかを
預けることにした。
おちかは、叔父夫婦に大切にされながらも
黙々と働いた。

ある日、叔父の伊兵衛はおちかにこれから
訪ねてくる客の応対を任せると言うと出掛けてしまった。
客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていった。
そして、話を聞いた客から感謝の言葉をもらった。
話を聞いただけなのに・・と思ったおちかだったが、
その後、次々と三島屋を訪れる客の「不思議な
話」を聞いていくうちに、おちかの心は
癒されゆく・・・・。

殺人を犯した兄を憎み続けた男、
不思議な家に囚われた家族、
姉弟で愛し合った末の悲劇・・・。

邪悪なものに囚われた客たちの心をおちかは
解放することが出来るだろうか・・・。

稀代のストーリーテラーが人間の心に巣食う
暗い感情を怪談話として語り切った百物語・・・。

怒涛のクライマックスが心を震わせる!

『おそろし 三島屋変調百物語事始』
著者:宮部みゆき
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)

「撃てない警官」シリーズ柴崎警部に相棒誕生!?

安東能明さんの「撃てない警官」シリーズ最新作
「総力捜査」が新刊で発売!
新作を楽しみにしていたので、早速読みました!

今回は新たな異動があり、綾瀬署に新メンバーが配置される。
捜査二課から異動してきた上河内博人警部は、何かと
捜査に柴崎を引っ張り込もうとする、柴崎にしてみれば
「やっかいなやつ」という印象だ。

綾瀬署管内では一筋縄ではいかない事件が次々と起こっていた。

大物窃盗犯を逮捕したが、署内で容疑者に便宜供与
を図っている捜査員がいるとの疑いが・・・。
さらに部下にパワハラ行為を行ったベテラン刑事を
ひきとって欲しいと人事から依頼がきた・・。
だが、そのベテラン刑事が意外な活躍をする・・・。

信号機の誤作動による物損事故。単純な事故に見えたが、
事故の時悲鳴を聞いたという目撃者が現れる。
本部捜査二課から異動してきた上河内刑事課課長代理は
そこに注目する。
柴崎はなぜか上河内に気に入られ、捜査へと駆り出される。
上河内の事件へのこだわりが、犯罪を暴く・・・。

管轄の交番内で女性巡査がハラスメントを受けている
との情報をつかんだ柴崎。
高野と二人でその女性巡査に話を聞きにいくが、
まったく心を開いてくれない。
上河内も加わり詳細に調べて行くと、誰もが想像を
絶する真実が浮かびあがった・・・。

ある廃屋で男女二人の死体が発見された。
心中事件のようだ。
しかし上河内は、自殺に使われた薬剤と
心中現場に違和感を感じ、柴崎とともに捜査を始める。
これは本当に心中なのか?
上河内と柴崎は必死の捜査である男に辿り着く・・・。

弥生ビルに広域指定暴力団・手嶋組が入居してきた。
それを知った住民たちが立ち上がった。
綾瀬署の坂元署長は、暴力団を排除するため、総力体制を組む。
近隣の署にも応援を依頼した坂元は、ベテランの女性署長と
相対することに・・・。
女性署長二人のにらみ合いはさけ、上河内&柴崎は
武闘派暴力団に事務所を斡旋した男に目をつけた。

新たに登場した、上河内警部は一見するとちゃらい。
しかも言葉使いもちゃらい。
ちょっといけ好かない感じもするが、
実は凄腕の刑事だ。
柴崎の捜査能力の高さは周知の事実。
上河内と柴崎の最強コンビが綾瀬署で起きる事件を解決する!
痛快な警察小説だ!

『総力捜査』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥750(税別)

新感覚の警察小説登場!!『警視庁監察室 ネメシスの微笑』

またまた新しい警察小説を発見しました!!
「今野敏氏推薦!!」との帯に惹かれついつい手に取って
しまいました。
タイトルは「警視庁監察室 ネメシスの微笑」
著者は、中谷航太郎さんです。

最近の警察小説は「監察」というキーワードも
増えてきているようです。
「警察官」を取り締まる「監察官」が主人公。

警視庁高井戸署に勤務する新海真人は、たった一人の
身内である妹をある事故によって喪った。
妹は、一緒にいた大学生の友人たちに薬物を飲まされ、
死に至ったという疑いが持たれていた。
しかし彼らは罪に問われることはなく、事故死として
片づけられていた。

妹を喪った新海は、その大学生たちに復讐するのではないかと
疑われ監察にマークされるようになる。

一方、監視対象の新海に異常なまでの関心を寄せる監察官がいた。
警視庁監察室室長・秋月雅子だ。
秋月は、長年監察官を務めている部下の一人を新海に張り付かせ、
逐一報告をあげさせていた。
秋月もまた、心の中に強い復讐心を抱いていたのだ。

そんな中、事件が起きる!
新海はしつこい監察のマークをかわし、秘かに妹に薬物を
飲ませた大学生たちを見張っていた。
その日も同じように様子をうかがっていると、大学生の
仲間の一人、金持ちのお坊ちゃまの家に救急車両と警察車両が
多数留まっていることに気づく。

4人もの男女が何者かに襲撃されたのだ!
事件の詳細を知った新海の心に不安がよぎった・・・。

妹の事件の真相を探る兄の悲しみ。
そして高まる復讐心。
監察室室長の心の闇。
二つの心が共鳴し始める・・・。

新海と秋月、この物語のクライマックスに出会う二人。
それは「最悪」の始まりかも知れない。

「復讐」という形で繋がれる、新たな警察小説。
今後一体どんな展開を見せるのか?

不穏な期待が高まる!!!!

『警視庁観察室 ネメシスの微笑』
著者:中谷航太郎
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥520(税別)

現在と過去が交差する警察ミステリー「警視庁53(ゴーサン)教場」

人気シリーズの女性刑事・原麻希が活躍する警察小説、
東京湾が舞台の「東京水上警察」シリーズなどを
描く、吉川英梨さんの新作は、「警視庁53教場」。

警察学校の教官が亡くなった事件を捜査する刑事は、
その教官の同期だった。
謎多きその事件は過去の事件に繋がっているのか?

過去の教場での出来事が、現在の事件の捜査と
交互に描かれた警察ミステリー。

警察学校教官・守村が首吊り死体で発見された。
警視庁捜査一課の五味刑事は、府中署の女性刑事・
瀬山とともに捜査を開始する。

瀬山から見せられた事件現場の写真を詳細に
調べた五味は、自殺ではなく巧妙に仕組まれた
他殺だと判断する。

そして二人は、府中にある警察学校で聞き込みに回る。
その警察学校には、警察学校時代同期だった高杉がいた。
高杉と再会した五味は、複雑な想いにとらわれる。
首吊り死体で発見された守村もまた彼らと同期だった。

五味、高杉、守村らは、学校時代小倉教場でともに学んだ。
五味は、小倉教官に「学べ。お前は人間力で言えば
教場一の落ちこぼれだ。」と言われたことが忘れられない。
また、五味は教場は違うが、同期の女性に心を奪われていた。
そんな中、同じ教場の仲間が自殺を図った・・・。

五味と瀬山は、教場時代に起こったその自殺
事件との関連を疑うが・・・。

五味は、死別した妻の忘れ形見である娘の存在に
支えられながら刑事を続けていた。

五味の教場時代の苦悩と葛藤が痛々しい。
優秀な刑事に成長したが、妻を失ったことで
心は空っぽだ。

警察ミステリーでありながら、刑事たちの
若き青春時代に触れている。
刑事になることの厳しさ、人間としての成長
切なく苦しい時代を生き抜いてきたものたちの物語だ。

ドラマチックであり、謎解きの醍醐味も味わえる感動ものの警察小説。

『警視庁53(ゴーサン)教場』
著者:吉川英梨
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)

思わず息をのむラスト!「放課後に死者は戻る」

[タイトルとイラストに惹かれて手に取ってみました。
秋吉理香子さんの「放課後に死者は戻る」。
ちょっと不穏なタイトルなんですが・・・・。

映画化された「暗黒女子」続く学園もので、
主人公は男子生徒です。

ある日目覚めると、知らない人たちが知らない名前で
僕に必至で呼びかけていた。
一体何が起こっているんだ?
まわりを見ると、白衣の男性や女性。
どうも病院らしい・・・・。

でもなんで僕は全く別人の名前で呼ばれているの?
鏡を見た僕は愕然とした。
鏡に写っているのはオタクのダサい顔じゃなく、ものすごく
ハンサムな男の子だった。

そして、思い出した!僕はある日教室の机に入っていた
手紙で呼び出され、崖から突き落とされたのだ。
その時、僕を助けようとし巻き添えになった美形の男の子の顔と
同じ顔だった。

そうか・・・彼と入れ替わってしまったのか・・。
じゃあ、僕は死んでしまったってこと・・・?

状況を把握した僕は、無性に腹が立ってきた。
なぜ僕は殺されなければならなかったのか!?
誰が僕を殺したのか?

退院した僕は、元いたクラスに転校し、入れ替わった
姿で犯人捜しを始めた。
動き始めた僕に誰かが警告を始めた。

華やかなイケメンとしてクラスメイトに接する僕。
オタクでダサかった僕には誰も声をかけてくれなかったのに・・。
こうして接するとみな良い奴に思えてくる。
でもこの中に僕を殺したやつがいる・・・。

スクールカーストの中で、自分自身の居場所を
必死で探す高校生たち。
そんな高校生たちの生き方を読んでいると
切なくなる。
青春ってみな等しくあると思っているのに
今の高校生たちは自分らしく生きることが出来ないのか?

そんな思いを抱きながら読み進めていくと、謎解きの過程もスリル満点だ。
ギリギリまで僕を悩まさせる謎の警告者。
美青年にからむクラスで浮いてる女の子。
そして、オタクで仲の良かったたった一人の親友。

彼らがどう交差してゆくのか?
ラストに明かされる真実に思わず涙、そして息を呑む展開に!
切なさの先にある希望の余韻が心に残る青春ミステリー。

『放課後に死者は戻る』
著者:秋吉理香子
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥593(税別)

婚活の陰にミステリーあり!「婚活中毒」

「暗黒女子」で話題を集めた、秋吉理香子さんの最新刊
「婚活中毒」を読みました。

幸せを求める「婚活」・・・。
しかしそこには恐るべき「罠」もある!?

「婚活」をテーマにした4編の短編は、まさに「秋吉流」と言っても
過言ではない。幸福という「幻」を追い求める人間の悲哀をシニカルに
抉った傑作短編。

結婚相談所で紹介された、自分にとっては「理想の男」。
どうしてこんな素敵な人が独身なの・・・?
二人は急接近したが、女性の方はこの疑問が気になり、
男性の過去を調べると・・・・彼の周りでは何人もの
女性が亡くなっていた!
彼は連続殺人犯なの!?

街コンで出会った美しい女性。
本のマニュアル通りアタックし、つきあうことに。
だが、つき合いはじめると彼女は暴走を始める。
困った男性はある行動に出るが・・・・。

テレビの「婚活番組」で、理想の男性に出会った
女性。何が何でも絶対に落したい。
彼女の秘策「婚活ツール」とは!?

30代中盤になる息子の代理婚活を始めた熟年夫婦は、
息子に理想の相手を見つける。だが、父親の方は、
相手の母親に心を奪われてしまった・・。
嘘に嘘を重ねる父親は?

婚活の陰にミステリーあり・・・。
思わず血の気が引くラストにドッキリ!

『婚活中毒』
著者:秋吉理香子
出版社:実業之日本社
価格:¥1,300(税別)

安積班の原点!東京湾臨海署安積班シリーズ最新作「道標」

2018年最初に読んだ作品は、今野敏先生の
東京湾臨海署安積班シリーズ最新作です。
タイトルは「道標」。今回は短編集です。

若き安積剛志の姿が初々しく描かれています。

安積班シリーズはこの最新作で17作目になる。
この作品で初めて安積剛志刑事が、なぜ誰からも信頼を置かれる
刑事に成長したのかが描かれていて新鮮だ。

安積は、刑事になりたくて警察官になった。
明確な目標のもと刑事を目指す安積の教場時代、
交通機動隊隊長の速水と同期で、教場時代の二人の出会い、
柔道の試合でのエピソードが素晴らしい。

卒配で中央署地域課に配属になった安積は、俗にいう
お巡りさんとして地域を巡回し小さな揉め事を
処理してゆく過程で一人の青年と出会う。
その青年との触れ合いに安積の誠実さと優しさが
あふれている。刑事を切実に希望する安積に
上司が仕掛けた「罠」を見事にかわした安積の心意気が
かっこ良すぎる!

安積が刑事になって初めての大きな事件は、強盗犯の
潜伏先へのウチコミ(家宅捜索)だった。
安積は、先輩刑事・三国とコンビを組むことになるが、
三国は安積の異動について少し斜に構えていた。
その理由を安積に聞かれとまどった。
しかし、安積のまっすぐさと屈託ない態度に
三国は安積を見直すようになる・・・。

この3編は、安積が刑事時代、先輩や周りの人たちから教えられた
ことを吸収し、一人前の刑事に成長してゆく過程が描かれている。
しかし、それだけではなく、安積の清らかさは、
先輩刑事の心を動かし、周囲を変えてゆく力を持っている。

やがて班長として班をまとめてゆく安積だが、
常にこれで良いのかと問う。
仲間たちは、そんな安積とともに仕事ができる
ことを嬉しく思っている。

そして鑑識の石倉係長が、安積班から依頼された調査を
真っ先に行うその理由もこの短編集で明かしている。

まさに、心に熱い刑事魂を持つ安積刑事の出来るまでが
様々なエピソードで描かれ、ファンにはたまらない1冊。

新しい年の初めに気持ちが晴れ晴れする作品を読んだ!
今年は良いことがあるかも!

『東京湾臨海署安積班 道標』
著者:今野敏
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,600(税別)