道警シリーズ第3弾「警官の紋章」は心に沁みる警察小説

佐々木譲さんの「北海道警」シリーズ第3弾
「警官の紋章」は心にじわりと沁みる警察小説です。

警察官だった亡き父の後を継ぎ、自らも警察官となった
青年の父への想いが描かれて切ないです。

警官紋章

北海道警察は、洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。
その最中、勤務中の警官が拳銃を所持したまま失踪した!
津久井卓は、その警官の追跡を命じられる。
一方、過去の覚醒剤密輸入おとり捜査に疑惑を抱き、一人捜査を続ける佐伯宏一。
そして、結団式に出席する大臣の担当SPとなった小島百合。
それぞれがお互いの任務のために、式典会場に向かう・・・。
『笑う警官』『警察庁から来た男』に続く、北海道警察シリーズ第三弾。
はまさき、この作品は、道警シリーズ中最も切ない警察小説だと思います。

北海道警は2年前、郡司徹警部補の拳銃不正摘発を始め、
数々の汚職が暴露され、関係した警察官が拳銃自殺、さらに女性警察官を
殺害したキャリアが飛び降り自殺を図るなど、「北海道警察悪夢の一週間」
と言われ、マスコミで連日取沙汰された。
そんな中、道警に勤務する一人の警察官が列車に車ごとぶつかり亡くなった。
事故か、自殺か明らかにされないまま、家族にも真相は告げられなかった。
2年後、その息子である日比野伸也も警察官となって道警に勤務していた。
父の誕生日に墓参りをしていると、父の友人だった、所轄の交通課に勤務する
宮木と出会う。伸也は、宮木から父の死に関して気になることを聞かされる・・・。
尊敬する父の死に疑問を持った伸也は真相を探る。

佐伯は、過去の覚せい剤密輸入のおとり捜査に何か不正なことが絡んでいるのでは
と疑いを持ち秘かに調査していた。

日比野伸也の父の死の真相、そして佐伯の再捜査・・・。彼らの事件の真相は
洞爺湖サミットで警備にあたる警察官を巻き込み、またもや道警の隠れた闇が
クローズアップされる!!
その闇に蠢く、組織の論理に佐伯、津久井、小島は敢然と挑む。
彼らにあるのは、警察官としての‘矜持’だけだ。
警察官としてすべ事は何か?正義とは何か?守るべきものは何か?
佐々木譲さんはこのシリーズを通して常に問いかける。

また、命がけで父の死の真相を探った、日比野伸也の姿が切なかった。

『警官の紋章』
著者:佐々木譲
出版社:角川春樹事務所
価格:¥686(税別)

このミス大賞受賞作の傑作!「臨床真理」

「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」など佐方貞人が
正義を貫く検事、その後ヤメ検弁護士で登場する、法廷ミステリーを
読んで、すっかり柚月裕子さんのミステリー作品の虜になった、はまさき。
ですが、肝心のデビュー作を読んでいなかったので、改めて
柚月裕子の原点「臨床真理」を読みました。

え!?これデビュー作!?と思わず疑ってしまうくらいの
高クオリティのミステリー小説で、面白くっていっきに
読みました。
やっぱり、面白い作品を描く作家さんはデビュー作からして
違う!凄い!

臨床真理

ある福祉施設で、少女が手首を切って救急搬送された。
しかし、救急車の中で死亡。
同乗していた少女の友人らしき青年が、その死にショックを受け
救急車内で暴れたため、救急車は事故ってしまう。
その事故を起こしたことで、逮捕された青年・藤木司は、精神を
病み、地裁の指定病院に入院した。
その病院の臨床心理士・佐久間美帆は、藤木司の担当となる。
司は、同じ福祉施設で暮らしていた少女の自殺を受け入れられず
なかなか心を開こうとはしなかった。
だが、美帆の熱心なカウンセリングにより、司は美帆を信頼するようになる。
ある日、司は少女の死は他殺だったと訴える。
なぜそう思うのか?
真実を話していると白、嘘をついていると赤。
司は、声に色彩を感じることが出来る共感覚の持ち主だった。
だから嘘を見破ることが出来るのだ。
司は少女が自殺するはずがないと力説。
信じがたい話だったが、美帆は司の治療のために少女の死の真相を
明らかにすることを決意。
かつての同級生で、警察官となった栗原の協力を得て
司と少女が暮らした福祉施設を調べ始める・・・。
調査が進むにつれ、おぞましい出来事が明らかになる!!!

福祉施設の実態、精神疾患についての記述、また失語症
など、障がいをもった人物が多く登場する。
特に失語症に関する記述は秀逸で、失語症者の障がいの
状態が非常に詳しく丁寧に描いてある。
自殺した少女が失語症で、彼女が訓練の過程でパソコンで
書いていた日記に秘密が隠されているのだ。

障がい者が登場するミステリーって、非常に難度が
高いと思う。だが、それを全く感じさせない描き方に脱帽!
ミステリーでありながら、障がい者を優しく包み込むような
描き方に心を揺さぶられた。
硝子細工のように脆く、純粋な心の持っている人たちが
安心して暮らせるような社会であって欲しいという心遣いが
伝わってくるような作品だった。

『臨床真理 上下』
著者:柚月裕子
出版社:宝島社(文庫)
価格:上下巻各¥438円(税別)

今後のサイバー犯罪の脅威を描く!警察小説「ビッグデータ・コネクト」

身近に迫る、サイバー犯罪の脅威を描いた、
至近未来警察小説「ビッグデータ・コネクト」藤井太洋著(文春文庫)。
新聞の書評欄で取り上げられ、面白そうだなと思い読み始めました。

読み始めて仰天!
サイバー犯罪がどのように進化し、
マイナンバー制度導入後、個人情報が
どうなるのか?どんな事件が起きるのかが予測され、
非常にリアルな社会派のミステリー小説で驚きました。

コンピュータシステムの用語など、専門的な
ことはわからないのですが、なんとなく
こういうことだろうと推察しながら読んでいくと
からくりがわかってきます。

ビッグデータ

京都府警サイバー犯罪対策課の万田警部は、
ITエンジニアの誘拐事件の捜査を命じられた。
その捜査の協力者として現れたのは、
2年前に、万田自身が取り調べた、PC遠隔操作事件の
容疑者、ハッカー・武岱だった。
無実で通したが、結局冤罪で汚名を着せられた。
武岱に昔の面影は無く、犯罪者のレッテルを貼られ、
それに対抗しようと心身ともに武装した姿だった。

二人は捜査を進めるうちに、誘拐されたエンジニアは、
進歩的市長が主導するプロジェクト、「コンポジタ」の
開発責任者だと判明した。
誘拐犯の要求は、「コンポジタ」計画の即刻停止!
莫大な個人情報を狙う悪意!
行政サービスの民間委託計画の陰に蠢く闇を暴く!

事件を追う警察小説として大変面白い!
マイナンバー制度導入後、私たちの個人情報の管理は
どうなるのか?
至近未来を予測したミステリー。
さらに驚きべきは、IT企業とエンジニアの厳しい
現実。IT業界の隠れた闇も白日の下にさらした!

優れた警察小説であり、IT業界の闇にスポットを
充てた社会派のミステリー!

『ビッグデータ・コネクト』
著者:藤井太洋
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥790(税別)

青春小説か?ミステリーか!?「霊応ゲーム」

復刊ドットコムで絶大な支持を得た、
パトリック・レドモンド「霊応ゲーム」(ハヤカワ文庫)を読みました。

物語の面白さ、翻訳の上手さでいっきに読んで
しまいました!
「その女アレックス」と同じくらいの衝撃!

霊応ゲーム

物語は、ジャーナリストが45年前に名門パブリックスクールで
起きた不可解な事件を取材するところから始まる。

1954年、名門パブリックスクールに学ぶ、14歳の気弱な
少年・ジョナサンは、同級生たちから壮絶ないじめを受けていた。
そして、教師もなぜかジョナサンを目の敵にした。

だが、あることがきっかけで、ジョナサンは、クラスで一目置かれている
孤高の少年・リチャードと仲良くなる。
リチャードの強さに強烈に惹かれたジョナサンは、彼の虜になってゆく・・・。
二人が親密になるにつれ、ジョナサンをいじめていた同級生たちが
一人、また一人と不可解な事件や事故に巻き込まれていく・・・。

やがて、ジョナサンは、リチャードの束縛に恐怖を抱くようになり、
彼から離れようとするが・・・・!?

物語の前半部分は、いじめられている少年を救う救世主・
リチャードとジョナサンの間に芽生えた友情を中心に
描かれて、パブリックスクールにおける美しい男子たちの
青春物語のような展開・・・。

しかし何か不気味な気配がする・・・。

リチャードとは一体何者なのか?
事件や事故に巻き込まれた少年たちに何が起きたのか!?

14歳という微妙な年代の少年たちの歪んだ心、ガラス細工のように
傷つきやすい心を巧みに描き、その危険な心理状態をミステリーに
仕立てた、凄い作品!

少年たちが徐々に壊れてゆく心理描写が見事です!
悪魔的魅力を含んだミステリー小説。

『霊応ゲーム』
著者:パトリック・レドモンド著/広瀬順弘訳
出版社:早川書房(文庫)
価格:¥1,400(税別)

御手洗の推理が冴える!中編2作「UFO大通り」

3月に放送されたドラマ「天才探偵ミタライ 傘を折る女」の
原作を収録した「UFO大通り」。

中編の2作品は読み応えたっぷり。さらに謎解きも
堪能出来る!

UFO

「UFO大通り」
ガス会社に勤務する男性が、辞める直前に上司を殴ったとして警察が
捜査していた。殴られた方の聴取を担当した警察官は、その上司の方が
男性に何かしたのではと疑っていた・・・。
その男性・小寺が自宅で死んでいるのを、婚約者の女性が発見した。
だが、死んだ小寺の状況は異様だった。
白いシーツを体にぐるぐると巻き、ヘルメットとゴム手袋という重装備だった。
同じ頃、御手洗と石岡は小寺の近所に住む、ラクという老女の
家を訪ねていた。
この老女は、自分の家の前をUFOが行き交っていると言うのだ。
「UFO」特集の番組でもインタビューされ、証言していた。
いよいよぼけたのかと心配になった家族は、老女を老人ホーム
へ入所させようとしたが、近所に住む小学生たちから、
「ラクさんはボケていない!老人ホームへはやらないで」と
御手洗たちに懇願したのだ。御手洗と石岡は、ラクの証言を
聞いて、決してボケているのではない。本当にUFOを見たのかもと
感じた。だが、本当にUFOだったのか?死んだ男とUFO・・・。
何かつながりがあるのか?異様な死体の意図は?
探偵・御手洗潔の推理が冴え渡る!

「傘を折る女」
ある日石岡は、暇つぶしに本を読んでいる御手洗に
ラジオ番組の特集「自分が経験した最も変わった出来事」
で聞いた「傘を折る女」の話をした。
その女は、大雨の中、半袖で薄く白いワンピースだけを着て
傘を手に持って歩いていた。そして横断歩道の道の
くぼみに傘をおき、車が通るのを物陰でから見ていた。
車は傘をよけて通っていたが、信号待ちしていた車が
傘をひき、その傘は折れてさせなくなってしまった。
女は折れた傘をもって大雨の中再び歩き出した。
たったこれだけの情報で、御手洗はもしかして
その近くで殺人事件がおきているのではないか?と推理する。

ラジオの話から、御手洗と石岡の会話で、殺人事件が
あったのでは?と推理してゆく過程が見事!
物事を論理的にとらえ、核心に近づいてゆく!
御手洗の頭脳の怜悧さが際立った作品。
二人の会話を読みながら、思わずそれで、
とつぶやいたくらい、没頭した。
謎を解く、浮かんだ疑問を明らかにしてゆく面白さが堪らない!
ほんとに,ほんとに面白い作品!!

『UFO大通り』
著者:島田荘司
出版社:講談社(文庫)
価格:¥676(税別)

今野敏、初めて読むならこれ!!『蓬莱』

今野敏先生の「蓬莱」はめちゃめちゃ面白い警察小説です。

ハルキ文庫から発売されている「安積班」シリーズの
番外編ととらえて良いのかな?

神南署時代の安積班が殺人事件を捜査する警察ミステリー。
この作品はいつもの「安積班」よりミステリー性が高く、
警察小説としても、ミステリー小説としても楽しめる作品。

蓬莱

制作スタッフすらその攻略にはまってしまうゲームソフト「蓬莱」。
パソコン用に開発した途端大ブレイク、さらにスーパーファミコン版を
開発し販売しようとしたところ、そのゲーム会社の社長・渡瀬は何者かに
襲われ、ファミコン用に開発したゲームソフト「蓬莱」の販売を
中止しろと恫喝された。
早速、警察に連絡。神南署の安積刑事が事情を聴きにやってきた。
渡瀬は事情を話すが、安積刑事の「調べて見ます」という
通り一遍の言葉に少々落胆。
だが、なじみの弁護士にそのことを話すと、弁護士は安積についてこういった。
「安積刑事がやると言ったら必ずやってくれるよ!」と・・・。
ゲームソフト「蓬莱」の販売が近づいたころ、ソフトの開発者が殺害された!

「蓬莱」。そのゲームソフトには「日本」が封印されている!?
古代の日本を想定した土地で国造りのゲームをするという構成の
裏に何が隠されているのか?
いったい誰が、なぜその販売を阻止しようとするのか?
安積警部補以下、安積班の面々が徐々に真相を明らかにしてゆくのだ。

秦の時代の徐福伝説や、古代日本論、果ては日本人論まで繰り出す!
今野先生の博識ぶりが凄いです。

バーチャルゲームと伝奇世界がリアルな警察小説と見事に融合!

約20年前に描かれたとは思えない面白さ!こんなに面白い警察小説は読んだ事が無い!?
今野敏、初めて読むならこれ!と言っても過言ではありません!
はまさき、超押しの一冊です。

『蓬莱』
著者:今野敏
出版社:講談社(文庫)
価格:¥700(税別)

鮎川哲也の傑作!「黒い白鳥 鬼貫警部事件簿」

憎悪の化石」が面白かったので、続けて日本探偵作家クラブ賞受賞作
「黒い白鳥」を読みました!

昭和が舞台の推理小説は、レトロな雰囲気を醸し出していて好きになりました。

黒い白鳥

線路上で、銃殺と思われる男性の屍体が発見された!
身許は、東和紡績の社長・西ノ幡豪輔。
その頃、西ノ幡社長は、ワンマンな社長ぶりが行きすぎて、
労働組合と対立。さらに、新興宗教に入信していたが、
その幹部とトラブルとなり、西ノ幡社長ほか、東和紡績の
社員を脱退させようとし、揉めていたのだ。
警察側は、犯人は労組のリーダーもしくは新興宗教の幹部と判断。
捜査を開始した。
彼らの事件当日の足取りを執拗に追ったが、完璧なアリバイが
あり、捜査は難航!
さらに西ノ幡が銃殺されたであろう時間に、本人が中華料理を
食べていたとの目撃者まで現れ、殺害時間も違うのではという
可能性まで出てきた。
だが、西ノ幡は線路に落ちる前に、ある電車の上に落ちている。
その列車に血痕が残っているのだ。その列車が駅を通過する
時間は変わらないはずだ。
警察側は、目撃者が見間違えたのではと思い、詳しい話を聞こうとした。
だがその目撃者は、事故にあってしまう!
鬼貫警部と丹那刑事が捜査に加わり、改めて被害者の周辺を
調べると、ある‘証拠’が出てきた。
鬼貫はその‘証拠’に着目し、九州へと向かう!
そして、そこで事件の鍵をつかむことになる!

完璧なまでに作り込まれた、アリバイ。
鬼貫は、そのアリバイを崩すことが出来るのか?!
2転、3転する展開が、読者をひきつけて離さない!
「憎悪の化石」の面白さを凌駕する!
著者の記念碑的傑作が堪能できます!

『黒い白鳥 鬼貫警部事件簿 鮎川哲也コレクション』
著者:鮎川哲也
出版社:光文社(文庫)
価格:¥860(税別)