不可解極まりない事件!「悪魔のトリック」

「むかしむかしあるところに、死体がありました」
を読んで、青柳碧人さんの他の作品を読んでみようと
思い、文庫新刊の「悪魔のトリック」を読みました。

タイトルをみた瞬間、面白そうと思いました。

5編の短編が収録されていて、まず序章から
伏線が・・・!

5編それぞれの主人公にはどうしても死んでほしい
人間がいる。

そこへ、どこからともなくお姉言葉の悪魔が出現!
「あんた、今強い殺意を抱いたわね?」
そして、殺意を抱いている人間にひとつだけ
超常的な能力を授け、殺人に誘う。

「強力な磁力を発する力」
「壁をすり抜ける力」
「草木を腐らせる力」などなど
普通の人間には絶対に不可能な力だ。

だから、普通の捜査では真実を暴くことができない。

捜査中にポカをやり、負傷した東新宿署の
刑事・有馬は、職場復帰後特別任務を
命じられた。
不気味な刑事・九条と二人である事件を
捜査するのだ
ある事件とは九条によれば、この世には
悪魔が存在し、その悪魔の力で成された
殺人は空に印があがると言う。
九条と有馬はその印を頼りに事件の捜査を行う。
通称「マルディー案件」だ。

次々と起こる、不可解極まりない事件。
いったいどのようにして殺人が行われたのか?
人間の所業とは思えない不可能犯罪。
そのトリックに戦慄する!

バラバラの短編でありながら、少しずつ
物語が繋がり、クライマックスであっと
言わせるこの構成がとても面白い!

謎多き不気味刑事・九条と有馬のコンビを
配し、離れワザトリックに挑む!
異色の警察ミステリー。

『悪魔のトリック』
著者:青柳碧人
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥680(税別)

猟奇的事件に挑む、探偵・海老原浩一シリーズ第1弾『十三回忌』

小島正樹さんの「十三回忌」(双葉社)を読みました。
「双葉社文庫受賞作・ランクイン作品だけ集めましたフェア」
で、はまさき好みの作品が目に入ったので、思わず衝動買い!

旧家で莫大な資産を持つ当主の2番目の妻が不審死をとげた。
警察は自殺と片付けたが、その当主には愛人が
おり当主とその愛人の間には3人の娘がいた。
愛人は、その後、後妻に迎えられる。

この当主には最初の妻との間に二人の息子もいる。
正妻の子どもと愛人の子ども…。
当主を中心とする、複雑な家庭環境。

そんな中、不審死を遂げた2番目の妻の一周忌に
猟奇的な事件が起こった!

現妻の長女が生きたまま木の上に串刺しにされた!
いったいどうやって串刺しにしたのか?
警察はありとあらゆる調査を行ったが、事件解明には
至らなかった。

そして三回忌には、次女が木に縛りつけられ首を切りとられた
姿で発見される。
さらに七回忌には、三女が唇を切りとられ滝の水に
打たれた姿で発見される…。

警察は、身内に犯人がいると考えたが、当主に
遠慮してなかなか事件の解明に繋がらず、
結局、迷宮入りした状態だった。

さすがに十三回忌は何事も起こしてはならないと
厳戒態勢をしいたが….。

この事件に携わった担当刑事の一人、笠木は当主に
気に入られ何度か晩餐に招かれていた。そこで笠木は、
友人の探偵・海老原浩一を当主に紹介する。
そして、当主から事件解決を依頼される。

次々と起こる予測不能な殺人事件。
事件の真相は?真犯人とは誰なのか?
真の動機は一体何なのか?

ミステリー好きにはたまらない、数々の謎と複雑怪奇な
ストーリー展開、そして凡人にはおよそ考えつかない
「超」大胆で意表を突くトリックに悶絶する!
いっき読みの面白さ!

『十三回忌』
著者:小島正樹
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥695(税別)

53歳ヒラ刑事、今度の敵も手強い!「ワルキューレ巡査長真行寺弘道」

榎本憲男さんの「巡査長真行寺弘道」シリーズ。
第3弾の「ワルキューレ」を読みました。
どんどん面白くなってゆきます!

真行寺弘道は、警視庁捜査一課に所属、53歳で巡査長。
警察官で言うと「超」ヒラ刑事ということになる。
そんなヒラ刑事が捜査一課にいること自体、異例中の異例だ。
真行寺は、ある理由で頑なに昇任試験を受けず、
出世を拒否している、警察の中でもかなり風変わりな刑事。

しかし、彼の中には信念がある。
事件の真相解明のためなら、周りへの忖度など一切しない!
徹底的に追及する。

そんな真行寺を、キャリアで警視庁刑事部捜査一課課長の
水野玲子は厄介な奴だと思いながらも一目置いている。
彼の捜査能力、事件の筋読みは他の刑事と比較にならないほど
優秀だからだ。
時には、捜査本部とは別の角度から捜査するよう支持を出す。
これも異例中の異例なこと。
しかし、今回はさすがに堪忍袋の緒が切れる事態に….。

モデル事務所に所属していた、高校生の少女・麻倉瞳が
誘拐された。
真行寺は、評論家のデボラ・ヨハンソンの秘書である、
瞳の母親に接触を図る。
捜査の結果、標的はデボラ・ヨハンソンであり、
その誘拐犯からの要求は、前代未聞の内容だった!

今回はマイノリティの人たちの苦しみをどこまで
理解できるか….。

1巻は、日本における政界・芸能界・反社会的勢力
などが連なる巨大組織の闇に迫ろうとする。

2巻はインドにおけるカースト制度に言及し、最下層の
人たちに寄り添おうとする。

そして、3巻はマイノリティの人たちの思考を必死に
理解しようとする真行寺。

毎作品、取り上げられるテーマに驚く。
難しいテーマをあえて取り上げ、真行寺と共に
読者も深く考えさせられる。
まるで社会学を学んでいるような感覚に陥る時がある。
ほんとにこのシリーズの魅力は、真行寺のキャラと
この奥深いテーマ。そこに敢然と斬り込んで行く
ところが凄い!!!

そしてもう一つの魅力は、これまでの作品に登場
してきた人物たちが、続けて登場する。
真行寺の周りには、彼を慕う人たちが増えてくる。
それがとても自然に描かれていてとてもいい感じだ。

シリーズ4作目はどんな難事件にぶつかるのか?
楽しみでしょうがない。

『ワルキューレ 巡査長真行寺弘道』
著者:榎本憲男
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥820(税別)

この女、淑女か?悪女か?「レイチェル」

高校の時にダフネ・デュ・モーリアの
「レベッカ」を読んだ。
その時の衝撃は今でも忘れられない。

ダフネ・デュ・モーリアの作品はレベッカ」
しか読んでいなかったので、たまたま平積
してあったこの「レイチェル」を衝動買いして
しまった。表紙のイラストにも惹かれた。
高校の時に受けた衝撃をまた感じたい!
そして読み始めた・・・。

「レイチェル」をひと言でいえば、一人の
女性「レイチェル」に恋をした二人の男が
破滅へと導かれるサスペンスストーリーだ。

イングランドの貴族の青年・フィリップが主人公。
父親代わりに育ててもらった従兄がイタリアで
「レイチェル」と言う女性に出会う。
従兄はレイチェルと恋に落ち結婚するが、
病に倒れ、その地で亡くなってしまう。

従兄を死に追いやったと思い込み、
レイチェル憎むフィリップ。

しかし、従兄の形見を持参したレイチェルは
とても穏やかで、従兄を亡くした悲しみを
包み込んでくれた。そんなレイチェルに
フィリップは次第に心を開いてゆく・・。

憎しみで凝り固まっていたフィリップ。
レイチェルの美しさと優しさと聡明さに
いつしか恋心を抱くようになる。

しかし、従兄が死の直前に書いた手紙には
レイチェルを「悪女」と評していた。

従兄はレイチェルに遺産を残す遺言を書いていなかった。
そのため、フィリップが遺産を相続することになる。
25歳の誕生日が近づいた頃、フィリップはある計画を立てる。
遺産を相続したら、レイチェルを妻に迎えようと・・・。

従兄に育てられたフィリップは、純粋培養された
素直な青年だ。そんな青年をを見事に手玉に取り、
財産をかすめ取る。
冷酷な女性のように思えるが、読んでいると
思いやりに満ちた女性に感じる・・・。
女性でも共感するのだ。
ここで女性読者も完全にレイチェルの虜に
なっていると思う。

この作品の素晴らしさは、心が純粋で、
疑うことを知らない青年が、一人の女性に
激しい恋心を抱いてゆく過程の心理描写が
実に見事なことだ。
さらにレイチェルというキャラクターの
描き方も素晴らしい。
彼女の言葉、たたずまいなど、人間を虜にする
すべての要素を満たしている。

フィリップはレイチェルについて様々な雑音を
入れられるが、レイチェルを正当化するため
そのすべてを否定してしまう。
それほどまでに心を奪われてしまっているのだ。

いったい、レイチェルは淑女なのか?悪女なのか?

男女の恋の駆け引きと危険な疑惑が交差する、
サスペンスタッチの純愛物語。

名著「レベッカ」と双璧をなす衝撃そして傑作!

『レイチェル』
著者:ダフネ・デュ・モーリア著/務台夏子訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,200(税別)

傑作揃いの短編集!「名探偵傑作短編集 法月綸太郎篇」

法月綸太郎著「名探偵傑作短編集 法月綸太郎篇」を
読みました。

「過ぎにし薔薇は」「背信の交点」「世界の神秘を解く男」
「リターン・ザ・ギフト」「都市伝説パズル」「縊心伝心」
の6編が収録されています。

推理小説家・法月綸太郎は、父・法月警視が携わる
事件によく首を突っ込んでいる。
父の方も、自分の推理を息子の綸太郎に話すことに
よって、事件の整理も出来るし、別の視点から事件
を見直すことができる。

父と息子の推理合戦のようでもあり、読んでいて
とても面白い。

特に印象に残った3作品!

「背信の交点」は列車内で起こった毒死事件。
たまたまその列車に乗車していた法月綸太郎は、
その事件に巻き込まれる。
死んだのは夫。妻は「あの女のせい」と言い、
不倫関係で悩んでいた夫は自殺したという。
一見、平凡な事件に見えたが、綸太郎はある
「交点」に気づく。
そして、歪んだ愛憎劇が見えてくる。

「世界の神秘を解く男」は、オカルトブームで
報道過熱気味のテレビやメディアを皮肉っている。
霊能力を持つとされる少女の部屋で起こる怪奇現象、
そして関係者の事故死・・。
綸太郎は、数々のトリックを解き明かしてゆく!

「リターン・ザ・ギフト」は、殺人事件の容疑者が
交換殺人を計画していたのではないかという
疑惑から物語は始まる。
アリバイトリックよりも、交換殺人の人間関係に
焦点をあて、二転三転する展開が読者を翻弄。
予想外の結末に目を瞠る!

想定外の面白さに驚愕する!

『名探偵傑作短編集 法月綸太郎篇』
著者:法月綸太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥920(税別)

大人気!警察小説シリーズ最新刊!KY警部が事件解決「生活安全課0係ブレイクアウト」

テレビドラマ「警視庁0係~生活安全課なんでも相談室」
(主演は小泉孝太郎さん)の原作、
富樫倫太郎さんの「生活安全課0係」シリーズ
最新作で第6作目「ブレイクアウト」が発売されました。

ドラマの方も大人気!7月から第4シーズンが始まる。

今回も空気読めないキャリア警部・小早川冬彦が
大活躍!

1年前に行方不明になった高校生の娘から
電話があったと、杉並中央署「なんでも相談室」
通称0係に母親が訪ねてきた。
家出扱いされ、警察はロクに調べもしないから
あきらめていたと言われ、冬彦と相棒の高虎は
早速再捜査を開始すると、娘と父親との軋轢が浮上、
さらに、親友二人からも聴取したところ、
二人は何かを隠していると冬彦は感じた。

冬彦は、空気は読めないが人の心は読めるという
特殊な才能を持っていた。だから彼の前では
嘘がつけない。

そんな中、近所で主婦が無言電話の嫌がらせや
脅迫を受けているとの相談が舞い込む。
さらに、捜査の途中で知り合った年配の男性が
大金を盗まれたと相談にきた。

ところがその男性の孫は、行方不明になっている
少女の親友の一人だと判明する。

女子高生行方不明事件の周囲で起こる様々な事件。
バラバラだった事件がやがてひとつに繋がった時、
衝撃的かつ切ない真実があきらかになる!

ツッコミどころ満載の0係のメンバーと
その評判を覆す、小早川警部の洞察力と推理力。

まったく関係ないと思われていた事件が意外なところで
繋がってゆく過程がとても面白かった。

次回作も期待します!

『生活安全課0係 ブレイクアウト』
著者:富樫倫太郎
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥680(税別)

孤高の検事・佐方貞人シリーズ最新作!「検事の信義」

柚月裕子さん著「最後の証人」「検事の本懐」
「検事の死命」の検事・佐方貞人シリーズの
最新刊「検事の信義」を読みました。

前作から6年。待ちに待った新作です。
今回は佐方の信念が強く感じられる作品です。

短編「裁きを望む」「正義を質す」「恨みを刻む」の
3作品と中編の「信義を守る」の4作品が収録。

それぞれの短編は、事件の面白さ、佐方の魅力が
充分に描かれて、素晴らしいです。
しかし、タイトルの「検事の信義」を一番感じられる
作品は、中編の「信義を守る」です。

認知症を患った母親を殺害した罪で逮捕された男の
裁判を担当する事になった佐方貞人。

取り調べでは、母親の認知症がひどくなるにつれ、
介護をしてゆくことが困難になり母親を殺害
したと供述。警察の調書を読んでも、身勝手
な介護殺人だということを強く感じた。

しかし、佐方はその調書に違和感を抱く。
それは、遺体発見から逮捕までの「空白の2時間」だ。
佐方が独自に調査を進めると、見えてきたのは、
男の意外な素顔だった。

刑事部で事件を担当した、矢口検事は佐方のやり方に
異を唱える。しかし佐方は、「事実は真実ではない」
「なぜ事件がおきたのかを突き止め、罪をまっとうに
裁かせる。それが私の信義」と言い切った。

素晴らしい!このくだりを読んだ時、身体中に
衝撃が駆け巡った!思わず背筋がピンと張った。

佐方の正義と信念が、隠された真実を明らかにしてゆく!
かつてない感動と半端ない面白さ!

そして佐方の誇り高く誠実な態度に清々しさを感じた。

『検事の信義』
著者:柚月裕子
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,500(税別)