シリーズ四作目は和菓子がいっぱい!「宝づくし 出直し神社たね銭貸し」

櫻部由美子さんの「出直し神社たね銭貸し」の
シリー四作目「宝づくし」(ハルキ文庫)を読了。

貧乏神に見込まれ、出直し神社でうしろ戸の
婆に仕えるおけい。
毎回、頼まれごとを引き受け、一生懸命に
働くおけいの姿に元気をもらう。

神無月、お蔵茶屋〈くら姫〉の女主人・
お妙が出直し神社にやってきた。
以前借りたたね銭八両の倍返しのために
訪れたのだ。

久しぶりにお妙に会ったおけいは、お妙が
密かに温めている華やかな催しを聞いて胸が躍った。

そんなおけいに、うしろ戸の婆から命令が下った。
それは、同心・依田丑之助からの依頼で、
丑之助の恩師の未亡人・房江の世話をする事だった。
そして、「宝探し」をすること。

房江は一筋縄ではいかない、とても頑固な
女性で、おけいもめずらしく手を焼いた。
それでも、おけいの気働きの良さで少しづつ
心を開いてくれているようだった。
病で、もう長くないとわかっている房江は、
なんとしても家を出て行った息子に会いたいと
おけいに泣きつく。
おけいは房江の頼みごとを聞き、息子の行方を
探すことに・・・。すると・・・。

ある日、小石川の狂骨先生が竹林の中で
みすぼらしい老人を見つける。しかし、
身元がわからず、困惑する狂骨だったが、
老舗菓子店「吉祥堂」の主人が病を得て
から姿を見なくなったことを聞き、もしかしてと、
長屋の菓子店「志乃屋」の女主人・おしの
に身元を確認させる。すると、案の定、
吉祥堂の主人・吉右衛門であった。
一体、吉祥堂で何があったのか・・・?

ミステリアスな二つの謎がやがて明らかになる
過程は、本格的なミステリー作品を読んでいるようだ。

そして、くら姫の華やかな催し物は、なんと
「宝づくし」にちなんだ菓子の競い合い。
今回は「志乃屋」のおしのや、房江の世話を
していた時に出会った二人の菓子職人も登場し
おいしそうなお菓子がふんだんにでてくる。

謎解きの面白さとおいしいお菓子を想像して
ダブルで楽しめる展開。
さらに、おけいの周囲の人たちの人情話に
涙がほろり・・・。

巻を重ねるごとに面白さがましてゆく!
今後の展開も楽しみです!
おけいの淡い恋もいつか実って欲しい!!!!

『宝づくし 出直し神社たね銭貸し』
著者:櫻部由美子
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥836(本体¥760+税)

富野刑事シリーズ最新刊!「脈動」

妖しくうごめく、怪異が引き起こす事件を
富野刑事と祓い師・鬼龍光一が解き明かす。
警察小説と伝奇ミステリの融合が面白すぎる
ファン待望の新作。

警視庁内で警官による容疑者への暴行事件、
警察官同士の淫らな行為など、非違行為が
相次いで起こった。

警視庁生活安全部少年事件課の巡査部長・
富野は、ある筋から警視庁内に
亡者の存在を指摘される。

事態の悪化を恐れた富野は、祓い師・鬼龍光一
と奥州勢の隆景らを呼び出し、庁内の捜査を
行った。
その結果、警視庁を守る結界が破られて
いることが判明する。

それだけではない。
富野は、所轄で傷害事件を起こした少年の
送検に立ち会うと、半グレ集団による
少女売春の情報を掴んだ。

全く無関係な事件かと思いきや、捜査を
進めるうちに奇妙な繋がりを見出す!

鬼龍や隆景のほか、今回は新たな組織の
長たちも加わり、警視庁崩壊の危機に
立ち向かう。

所轄で事件の概要を説明する富野は、いつも
どう話すか迷う・・・しかし結局本当の
事を伝えるしかなく、その話に警戒しながらも
富野に協力する同僚たちの心意気が良い。

「超」リアリストの警察組織で、得体の知れない
者の仕業という事件。それがもしかして現実に
起こるかもしれないと思わせる、今野先生の
物語の描き方に感服する。

『脈動』
著者:今野敏
出版社:KADOKAWA
価格:¥2,035(本体¥1,850+税)

どこまで騙される!?「モノマネ芸人、死体を埋める」

「逆転美人」で大注目!藤崎翔さんの
「モノマネ芸人、死体を埋める」
(祥伝社文庫)読了。

元お笑い芸人の著者が描くミステリーは、
絶妙なブラックユーモアが随所に散りばめられ、
読んでいると思わずクスっと笑ってしまう。
しかも、ミステリー小説として完成された、
伏線回収もの!

往年の名投手・竹下のオンリーワンの
モノマネしかできない、モノマネ芸人の浩樹。
本者さんに嫌われては芸人として生きて
いけない弱みがあった。
モノマネ芸人としてそこそこ人気があるのは、
本物さんのおけがだ。太鼓持ちするのは当たり前
と割り切って、竹下の言いなりになっていた。

竹下は野球のことしかわからない世間知らず。
大人だけど子どもみたいなやつ。
結婚していても女癖は全く治らず、そういう
お店に行ってはお持ち帰りをしていた。

ところが、ある日浩樹が竹下に呼ばれ彼の
家に行くと、頭から血を流した女性の
死体が転がっていた。

どうも竹下は裸の写真を撮られたらしい。
それを週刊誌に売ると言われ逆上したあげく
殺してしまったとのこと。

浩樹は警察に通報と言ったが、警察に通報したら、
竹下が警察に殺人容疑で捕まり、竹下のモノマネ
しかできない浩樹は、仕事が無くなってしまう。
竹下に説き伏せられ、二人は死体を埋めることに・・・。

浩樹の完璧な隠蔽工作で、彼らのやったことは
闇に葬られたかに見えたが・・・・。
小心者の浩樹は、いつばれるかと冷や冷やもの。

殺人事件を隠蔽したあとの浩樹の苦闘ぶりは
半端ない。どんどん悪い方へと巻き込まれてゆく。

ブラックユーモアで笑いを誘いながら、巧妙に
伏線が張り巡らされている。
次々と繰り出される「どんでん返し」。
お~っとそういう展開だったのか?
浩樹とともに読んでる方も仰天の連続だ。

欲に溺れた人間の恐ろしさは戦慄ものです!

「やられた!」と叫びたくなる傑作サスペンス!

『モノマネ芸人、死体を埋める』
著者:藤崎翔
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥814(本体¥740+税)

怪談と本格ミステリーで恐怖と謎解きを存分に味わえる「影踏亭の怪談」

第17回ミステリーズ!新人賞受賞作
「影踏亭の怪談」を含む恐怖の怪談
4作が収録されている、稀に見る面白さ持つ
短編集、大島清昭さんの「影踏亭の怪談」読了。

ホラーテイストのミステリー作品は数多い。
霊的な仕業に見せかけたトリックを使っての
殺人だったりする。
なんだ、そうだったのかと怖さも半減するが、
この作品は違った。

読み終わると、恐怖が倍増するのだから・・・。

怪談作家・呻木叫子(うめききょうこ)は、
民俗学の知識を生かしたルポ形式の怪談
作品を発表している。
ある日、弟が姉、叫子の自宅へ行ってみると
異様な姿で意識を失っていた。
叫子はある旅館「K亭」の霊現象を取材していた。
弟は、その取材の過程で姉に何か起きたのでは?と
疑い、「K亭」に調査に赴く。
しかし、そこで、密室殺人に遭遇する。
「影踏亭の怪談」

首無し幽霊の目撃情報が数多くある、Oトンネル
で、大学生男女5人が興味本位で肝試し。
しかし、そのさなか女子学生の一人が行方不明に!
怪談作家の呻木叫子は、その話を取材するため
彼らに接触。その時のことを再現する中、またしても
トンネル内で凄惨な事件が発生してしまう・・・。
「朧トンネルの怪談」

怪談作家の呻木叫子は、地元のお化けが出るという
「ドロドロ坂」に関連し、親友の息子が神隠しに
あったと連絡が入り、早速親友の元へ向かった。
そこには不気味な話や、神隠しの話が数多くあった。
呻木は親友の息子の手がかりを得るため、神隠しの
取材を丹念に行った。
すると、女が誰かを探す「いるかあ」と言う声を
聞いたとの情報が入手する。
そして、ここでもまた殺人事件に遭遇してしまう・・。
「ドロドロ坂の怪談」

警視庁内部で不特定多数の人が空から降ってきた
冷凍メロンで死亡しているという都市伝説が
流れていた。
そんな中、怪談作家の呻木叫子は、廃工場での
心霊番組の撮影中、頭に落ちてきた冷凍メロンの
せいで意識不明の重体に陥る・・・。
空からあり得ないものが落ちてくる、ファフロツキーズ
現象という超常現象の仕業なのか・・・?
「冷凍メロンの怪談」

霊が人を殺したり、密室を作ったりすることはなく、
それらは全て人間のやることだ。
人間が持つ闇と、この世に未練を残し亡くなった
霊が共鳴し、殺人へと駆り立てるのか?
怪談のあるところは、その要因となる事実が
必ず存在するはず・・・。
これらの事件も「霊」の介在が!?

怪談と密室の見事な融合。
密室殺人の真相が解明されると、それが起こった要因
となった怪談の全てが浮かび上がってくる。

その恐怖と衝撃で、寒気が止まらなくなる。

『影踏亭の怪談』
著者:大島清昭
出版社:東京創元社
価格:¥858(本体¥780+税)