心に沁みる怪談話『お文の影』

久々に宮部みゆきさんの時代小説を読みました。
怪談話です。怖いけど切ない話が胸に迫ります。

お文~

6編の江戸怪異譚。
壺の絵に怪現象が起こる、「坊主の壺」。

影踏みをして遊ぶ子どもたちのなかにぽつんと
現れたひとつの影。その正体とそして因縁が
あまりにも切ない・・・。「ぼんくら」シリーズの
政五郎親分とおでこが活躍する「お文の影」。

得体の知れない何かが、醤油問屋の近江屋の蔵の中に
閉じ込められた!それが憑りつくと博打が強くなるという。
しかしその博打で儲けたお金は全部使ってしまわないと
大変なことになってしまう。博打に狂う怖さを、怪異譚に
した、「博打眼」。

紙問屋「大之字屋」の番頭から、人を斬ったことは
あるかと問われた青野利一郎。あまりにも突飛で
物騒な質問に利一郎は事情を聴いた。その答えに
驚愕!利一郎は「大之字屋」の主人の計画に怒り
と絶望を覚え、大之字屋の主人をぎゃふんといわせようと
計る・・・。「三島屋」シリーズの青野利一郎と
悪童3人組が活躍する「討債鬼」。

小間物商の「伊勢屋」の若夫婦、佐一郎とお志津。
温泉めぐりの旅で立ち寄った旅籠で、ある老女と
相部屋になった。だが、妻の志津はわがままの言い放題。
老女は申し訳ないと遠慮するばかり。
そのわがままぶりに、心優しい佐一郎も我慢の限界を
超えようとした・・・。そんな中で聴いた不思議な
話。それは、ばんば憑きの話だった・・・。『ばんば憑き』

娘に突然「化ける猫は好きですか?」と問われた、
貧乏御家人・源五郎右衛門。娘には化け猫の友が
いるらしい・・・。その化け猫からあるものを斬って
欲しいと頼まれた。そのあるものとは「木槌」。
木槌が妖怪となって人を襲うようになったのは・・?
『野槌の墓』。

欲深さ、嫉妬、邪な心そんな気持ちを妖怪譚に
した「討債鬼」「ばんば憑き」は特に面白かった。
切なかったのは、やはり「お文の影」。
気持ち悪かったのは、「坊主の壺」「博打眼」
ちょっとおかしかったのは「野槌の墓」。
それぞれの物語が、怖いけど切なくてちょっと悲しくて、
面白い!

『お文の影』
著者:宮部みゆき
出版社:KADOKAWA(角川文庫)
価格:¥640(税別)

今年も集めました!「ホラー小説」13点

梅雨も明け、本格的な夏がやってきました。
本の学校今井ブックセンター
はまさきミステリーコーナーでは、今年も「ホラー小説」
を集めました。
ホラーに関連した数字‘13’作品です。

ホラーミニコーナー

毎年定番の「黒い家」(貴志祐介氏)、「墓地を見おろす家」(小池真理子氏)ほか、
ホラー作品を紹介するサイトであがっていた、
加門七海氏「祝山」(光文社文庫)がめちゃ怖そうで
今年の一押しホラー作品にしました。
この作品は加門さんの実体験がベースになっているようで、
友人から相談された肝試しでの出来事。その後奇妙な事が
続けて起きているという内容。著者も巻き込む戦慄の日々。
じわじわと恐怖にかられる過程に読んでいると鳥肌がたってきます。

三津田信三氏「凶宅」「禍家」。やっぱり家の怪異ははずせません。
赤川次郎氏が描く戦慄のホラー「白い雨」、
貴志祐介氏の「十三番目の人格」。多重人格の少女に十三番目の
人格が現れた。しかしその人格はまるで悪魔のようだった。
伝説が怖い、乾ルカ氏の「蜜姫村」、
マインドコントロールされ、次第に狂気に満ちてくる、「暗鬼」(乃南アサ氏)。
ドラマの脚本家である鎌田敏夫氏が描く、鏡の恐さが半端ない「いきはよいよいかえりはこわい」
道尾秀介氏のホラー短編集「鬼の跫音」。
沼田まほかる氏「アミダサマ」、真梨幸子氏「深く深く砂に埋めて」。

以上の13作品です。
殆ど読んだのですが、まだ読んでいない作品もあるので、
はまさきも全点読破目指します。
しかし、悪夢にうなされたらどうしよう~。

キャリア警察官の悲哀を描く!『出署せず』

安東能明氏は、『撃てない警官』に収録された『随鑑』で
日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞したミステリ作家。
『撃てない警官』には、人気警察小説作家の方々から絶賛の声!
今野敏さんは、‘刑事たちのリアルな息づかいが痛いほど迫ってくる’
誉田哲也さんは、‘確かな手ごたえと重み、味わい深い作品集’
柴崎令司という一人の警察官の物語。
その「撃てない警官」の続編が、本書『出署せず』。

「撃てない警官」は総務部企画課の課長・柴崎が
部下の拳銃自殺の責めを負わされ、綾瀬署に左遷される。
綾瀬署の警務課で課長代理を勤めながら様々な事件と向き合う。
そして、自分を陥れた上司への復讐の機会を虎視眈々と狙う。

出署せず

「出署せず」も「撃てない警官」と同様短編集。しかし最後の
表題でもある「出署せず」は、読み応えのある中編だ。

綾瀬署警務課・課長代理の柴崎は、この春綾瀬署の新署長に
なった、女性キャリア・坂元真紀に少々不安な日々。
そんな中、監察から銃刀法違反に関する事件で、
退職間近のベテラン刑事の不正を指摘されたのだ。
軽犯にするため、カッターナイフの刃をわざと折ったとして
監察に内通があったのだ。柴崎は、署長に請われこの
事件を精査することに。「折れた刃」。

ひき逃げ事件が発生!その事故車は盗難届が出ていたものだった。
柴崎は、盗難届を出していた男性に事情を聴くことに。
さらにその男性の会社へ行くと、従業員が最近辞めた
男が怪しいと言い出した。柴崎は本格的に調査するはめになる・・。
「逃亡者」。

保護司を務める人格者の男性が、息子をバットで殴り殺したとして
逮捕された。拘留中、柴崎はその男性と事件について書かれたノートを
やりとりすることに。人格者として評判の高かった、この男性が
なぜ、息子を手にかけたのか・・・?息子は日頃から家庭内暴力を
奮っていた。正当防衛であってい欲しい・・・。柴崎はそのノートから
真相を探ろうとするが・・・『息子殺し』。

9年前の老女強盗傷害事件の証拠として保管されていた4本のたばこの
吸い殻。どれも同一人物のもののように見えるが・・
最近起きた、事件の関連でDNA鑑定をしたところ、
一本だけ違う人物のものだということが判明。
綾瀬署内で何かが起きている・・・?柴崎はまたしても
調査に駆り出される・・・。『夜の王』

5年前に行方不明になった娘の再捜査を依頼された綾瀬署。
生活安全課課長は、大人が自分の意志で家出したのなら事件性は
ないと判断。再捜査など忙しくて出来ないと署長に言い放った。
先の証拠不明事件で、現場の捜査員たちと距離が出来てしまった
署長は、柴崎に女性行方不明事件の捜査を指示する。『出署せず』。

現場とかけ離れた感覚を持つ女性キャリア署長と、捜査員の
間で頭を悩ませる課長代理・柴崎。また現場では捜査員同士の
軋轢が署内を機能不全に陥れる・・・。

5つの事件の行方と謎の解明は、これぞまさにミステリー!
刑事ではないが、洞察力優れた柴崎が探偵役となり見事に真相を暴き出す。

さらに、警察組織での人間ドラマが濃密に描かれていて、
今まで読んできた警察組織をテーマにした小説よりも
さらにリアルで生々しい。

名だたる警察小説作家をも唸らせる!見事な警察小説ミステリー。

『出署せず』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥750(税別)

凄い展開だ!?『冤罪死刑』

以前から気になっていたミステリー。
「冤罪死刑」緒川玲著。
読んでみました!

冤罪死刑

冒頭は、幼女誘拐殺人を起こした男の死刑執行のシーンから
始まる。物語の根幹をなすシーン。
ある日、資産家の娘が誘拐された。身代金は6千万。
誘拐犯人は、身代金受け渡しに誘拐した娘の母親を指名した。
母親は犯人の言う通り、警察を出し抜き指定された場所に
金をおいた。だが、娘を解放すると言っていた場所に行っても
娘の姿は無く、数か月後、雑木林で白骨遺体となって
発見された。
その後、誘拐犯が逮捕された。
犯人とされた男は、取り調べ中、一度は自供したものの、
裁判では否認。
そこで、冤罪ではないかと疑う正義感に燃える女性弁護士と
冤罪スクープを狙う通信社記者が事件を洗いなおすと、
意外な事実が判明する。
一方、幸せな家庭を築きながら、幼い時から小児性愛の
傾向があった男は、二人の女児を誘拐し殺した罪で
死刑判決を受けていた。彼のカウンセラーは、この男が
まだ何かを隠しているのではないかと疑うのだが・・・。

冤罪、死刑制度、小児性愛、偽証、老刑事の告白・・・。
日本警察が抱える様々な問題に焦点を当てながら、物語は意外な展開を見せる。
幾重にも張られた伏線が鮮やかに回収される、会心作!

おっと、こうきたか~と思わずうなってしまった。
冤罪ミステリーの傑作です。

『冤罪死刑』
著者:緒川玲
出版社:講談社
価格:¥750(税抜)

ますます面白くなる!『警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結3 ネメシス』

最近読んだ警察小説では、出色の出来だと思う!
沢村鐡さんの「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」
シリーズ。
全部で4作品発売される予定で、今まで3作品が既刊。
1から2、さらに3へと巻を重ねるごとに面白さが
増していく作品。

ネメシス

2巻の内容!大学教授で天才の佐々木忠輔の妹・安珠は、
超高層タワー内で催されたライヴに出演していたが、そこにも“C”の影が…。
彼女の警護を任された墨田署刑事課強行犯係の村松刑事は、
タワー内で不審な人物を発見する。
同時に安珠もその人物に見覚えがあった。
そんな中、‘C’はとうとう牙をむく!
首都・東京をたった一人で機能不全に陥れてしまったのだ!

不審人物によるタワー襲撃で多数の犠牲者を出した警察側。
‘C’が人類の敵とみなした男が、抹殺リストにあがる!
‘C’の暴走をとめようと必死になる、佐々木教授、
妹・安珠の安否を確認し、さらに‘C’への説得を続ける。
そんな中、人類の敵として名前があがった男から
一柳美結が呼ばれる。なぜ・・・何のために・・・・。
墨田署強行犯係、サイバーフォースの面々は恐れを抱く。
だが、美結は警察トップからその男の元へ行くように
言われ、単身乗り込むことに・・・・
そこで美結を待ち受けているものとは?
そして、その男から聞かされる美結の家族惨殺事件の真実!

「ネメシス」はすべての謎が明らかになり、怒涛の4巻へと続く!

1巻の大学教授爆殺事件から、サイバーテロリストの暗躍、中国人
スパイの暴走、そして謎に包まれた世界の闇商人の登場で、
この物語は果てしなく大きく広がっていく!

こんなに面白い警察小説はいまだかつて読んだことがない!
警察小説のスケールを超えた、超弩級の面白さで迫る!凄い警察小説!

『警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結3 ネメシス』
著者:沢村鐡
出版社:中央公論新社
価格:¥724(税別)

スタイリッシュなSP小説「ナイト&シャドウ」

「SP」と言えば、ドラマ、映画で一躍注目されました、
重要人物を守る警護官のこと。
その‘SP’が主人公で、ものすごくかっこいいミステリー小説が出ました!
柳広司さんの「ナイト&シャドウ」です。

ナイト&シャドウ

合衆国シークレットサービスで“異例の研修”を受けることになった日本人SP・首藤武紀は、
初日からアメリカ人SP、サム・バーンに辛辣な皮肉を言われても顔色一つ変えない。
冷静に相手を分析する。寡黙でかっこいい。
首藤はバーンとの軽いあいさつのあと、銃規制を求めるデモに遭遇した。
そこで突如暴れ出した男を瞬く間に制圧し、人質の幼女を助ける。
その光景を視ていたバーンは、首藤の優秀さに舌を巻く!
実は、首藤は知力、体力、先読み能力―すべてが一級のエリートSPだったのだ。
だが、その現場には、大統領暗殺計画を示唆する二枚の写真が残されていた。

冒頭、日本人SPを見下すアメリカ人SP・・・。
映画みたいな始まり・・・。その後に首藤の優秀さが
描かれ、ここでおおお~。俄然面白くなってくる。
しかも、首藤は寡黙でバーンみたいな無駄口はたたかない。
アメリカ人から見たら、「サムライ」というところだろうか・・・。

物語の展開も非常に面白い。事件現場に残された写真から
大統領暗殺計画を見ぬき、じわじわと犯人に迫っていく。
その過程で首藤にからむ、謎めいた女性写真家。
そして写真家の義兄と幼い姪。

登場人物も魅力的で無駄がない。
首藤とバーンの相棒関係、かっこいいセリフまわし。
あらゆる面から見てとてもスタイリッシュで面白い!!

この作品を映像化したら、どんなキャスティング?
想像と妄想が膨れ上がる・・・・。

『ナイト&シャドウ』
著者:柳広司
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

ベストミステリーの傑作「贖罪の奏鳴曲(ソナタ)」

以前このブログで紹介した、中山七里「贖罪の奏鳴曲」が
昨年の秋に文庫になりました。
ものすごく面白かったので、文庫化を機に再度紹介!

贖罪の奏鳴曲文庫

おぞましい少年犯罪の過去を持つ、弁護士・御子柴礼司。
冒頭から、死体遺棄だ・・・・。主人公は殺人鬼か?
と思わせるスタート。

弁護士・御子柴礼司は、実刑必至の犯罪者から執行猶予を
勝ちとる‘辣腕弁護士’。だが、莫大な報酬を要求する
‘悪徳’でもある。しかし割にあわない国選弁護を引き受ける
等、意外な一面も持ち合わせる・・・。

雑誌記者の遺体が発見され、捜査を進める警察。
捜査線上に浮かんだのは、弁護士の御子柴礼司だった。
しかし、御子柴には鉄壁のアリバイがあった。
保険金目当てで夫を殺害した罪で、1審、2審で
無期懲役の判決を下された主婦。彼女には重度の
障害を持つ18歳の息子がいた。御子柴は最高裁で
その主婦の国選弁護を買ってでる。
やがて明らかになった杜撰な調査と弁護。
保険金殺人事件の真相とは?御子柴と殺された
雑誌記者との関係は?2転、3転する展開に度肝を
抜かれる!

御子柴が調べる保険金殺人事件の行方と、警察が御子柴を
追いつめるために、彼の過去に迫る過程が交互に描かれ
ただの謎解きでは終わらない、奥の深いミステリー。
特に、著者がこだわりをもって描いた「音楽によって感性が目覚める」
シーンは圧倒的な臨場感で迫ってくる!
その描き方から、ピアノの旋律が聞こえてくるようだ。
心に闇を抱き、なんの感情も持たなかった少年・御子柴に
人間らしい感情が生まれてくるこのシーンはとても感動的!

ミステリーとしての完璧な展開と人間ドラマが織りなす
重厚なミステリー作品。
まさにベストミステリーの傑作!

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』
著者:中山七里
出版社:講談社(文庫)
価格:¥680(税別)

仰天の展開!「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結2 スカイハイ」

このシリーズの第1巻の始めのあたりを読んで
いたら、普通の警察ミステリーだなあと思って
いたのですが、徐々に面白くなって、次第に
壮大な話になってきました。

スカイハイ

1巻の内容の感想は・・・?
サイバーテロリストVS中国マフィアの抗争か?
佐々木忠輔の天才的頭脳、留学生たちの怪しい経歴、
捜査するうちに浮かんでくる、数々の謎。
だれが、何のために爆破事件を起こしたのか?
本当に狙われたのは誰なのか?
というものでしたが、
この「スカイハイ」は1巻よりもさらに壮大になってきました。
大学教授爆殺から中国人女性留学生の暗殺まで、
一連の事件の首謀者とされる“C”。その正体はいまだ謎だった。
だが、一柳美結刑事たちは、標的とされた大学講師・
佐々木忠輔が語る“C”の真実に驚愕する。
一方、忠輔の妹・安珠は、超高層タワー内で催された
ライヴに出演していたが、そこにも“C”の影が…。
彼女の警護を任された墨田署刑事課強行犯係の村松刑事は、
タワー内で不審な人物を発見する。同時に安珠もその人物に
見覚えがあった。そんな中、‘C’はとうとう牙をむく!
首都・東京をたった一人で機能不全に陥れてしまったのだ!
一柳をはじめとする、墨田署刑事課強行犯係と警察内サイバーフォース、
さらに佐々木忠輔とその教え子たちは、一致団結し‘C’に対抗する。

刑事課、公安、サイバーフォースが複雑に絡み合い、
サイバーテロリスト‘C’の確保に迫る!
‘C’とは一体誰なのか?翻弄される警察!
めまぐるしく展開する物語は斬新さが際立ち
前代未聞の展開に!
そして次第に明らかになる、一柳美結の過去。
シリーズを重ねるごとに謎が解き明かされると
同時にサイバーテロとの戦いは壮絶になる!
こんな警察小説、今まで読んだことがない!
3巻「ネメシス」の展開がさらに楽しみ!

『スカイハイ 警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結』
著者:沢村鐡
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥724(税別)

強いこだわりと執念が真相を暴く!「ラバーネッカー」

イギリスのメディアで絶賛!
英国ミステリー界の超新星、べリンダ・バウアーの最新作です。

アスペルガー症候群の医大生が献体の解剖途中で
不審物を発見したことから、殺人事件ではないかと
疑う。

ラバーネッカー

母サラと二人で暮らすパトリックは、アスペルガー症候群の18歳の
青年。幼い時、父親が目の前で事故死したが、パトリックはその「死」
の意味を理解できず、「死」への探求が始まる。
小動物の死体を解剖し「死」とは何かを問う息子に、母サラは次第に
恐怖を感じ、息子との関係にひどいストレスを感じるようになる。
やがて、カーディフ大学の医学部に入学し解剖学を学ぶことになった
パトリックは、実習で遺体の解剖と死因特定を課される。
だが、19番の遺体の担当になったパトリックのグループは、なかなか死因に
辿りつけなかった・・・。
一方、大学病院の終末医療病棟で、昏睡状態にあった「わたし」は
ある日眼を覚ました直後、隣のベッドの患者が何者かに殺害されるのを目撃!
何とかこの殺人を周りに伝えようとするが、体も言葉も不自由でそれが出来なかった。

解剖中に遺体から不審物を見つけたパトリックは、19番の個人情報を
まんまと入手。彼の娘と接触する。パトリックは19番が何者かに
殺されたと直感し、警察に伝えようとする。しかしその動きを知った真犯人は
パトリックに迫る・・・・。

アスペルガー症候群の特徴を活かした異色の設定。よくここまでミステリーに
仕立てあげたなあ~と思わず上手い!と言いたくなるくらい面白かった。
また、そんな息子との関係に悩む母の姿がリアルで切ない。
純粋なパトリックにやがて、怒り、悲しみ、喜び、恋といった感情が芽生え、
友人たちとコミュニケーションをとれるようになる過程が、とても微笑ましかった。

英国異色のミステリー、一読の価値ありです。

『ラバーネッカー』
著者:べリンダ・バウアー著/満園真木訳
出版社:小学館(文庫)
価格:¥830(税別)

驚異の新人のデビュー作!私立探偵コーモラン・ストライクシリーズ「カッコウの呼び声」

アメリカ、イギリスのアマゾン書籍ランキング1位!
ニューヨークタイムズ誌で絶賛!
「本年の傑作」(USAトウデイ)
世界各国のベストセラーリストを総なめ!!
etc・・・。各国の賞賛の声が後を絶たない、
ロバート・ガルブレイスという新人作家が描いた、
ミステリー小説・「カッコウの呼び声」。
実は、「ハリー・ポッター」シリーズの著者
J・K・ローリングが別名で描いた作品。

カッコウの呼び声

名門大学を中退、従軍し、アフガニスタンで片脚を失った35歳の
コーモラン・ストライクは、除隊後探偵事務所を開く。
だが、仕事はほとんどなく借金だらけ。
しかも、長年一緒に暮らしていた恋人のシャーロットと大喧嘩の末、
アパートを追い出されるはめになる・・・。
金無し、宿無し、仕事無し!人生のどん底にいた。
かたや、恋人からプロポーズされ、人生で一番幸福な中にいる
ロビン・エラコットは、派遣会社から紹介された仕事先へ向かった。
そこはコーモランの探偵事務所だった。
派遣会社の手違いか・・・?金無しのコーモランは混乱・・・。
だが返すわけにもゆかず、1週間だけの約束でロビンを雇うことに。
そんな中、大きな仕事が舞い込む。それは数か月前に
自宅のアパートから転落死した、
スーパーモデルのルーラ・ランドリーの死の真相を突き止めて
ほしいと、ルーラの兄、ジョン・ブリストウから依頼されたのだ。
警察が自殺と断定した事件を、今更調べるのか・・・?
コーモランは気が進まなかったが、背に腹は代えられない・・・。
ジョン・ブリストウの依頼を受けることに。
そして、コーモランとロビンは、ルーラの調査と
周辺の人々へ聞き込みを始める。

とてもスタンダードな探偵小説。だが、
地道な調査で謎をといてゆく、探偵小説の面白さが際立っている。
そして、登場人物たちがとても魅力的!特に主人公・コーモランと
助手を務めるロビン。
探偵小説にありがちな美男美女ではなく、人間味あふれる等身大の
人物像で描かれ、とても身近に感じる。
さらに脇を固める登場人物たちのリアルな描写に読んでいて飽きない。
ミステリーとしての謎解きと、登場人物一人一人を深く掘り下げた
ヒューマンドラマが丁寧に描かれた、今までにない傑作中の傑作!

傷ついた身体と心を抱えながら調査を続けるコーモランを、
常に温かい気持ちで支える助手のロビン。
二人の絆が深まる過程がこの物語の最大の魅力!!
今後、このシリーズがどう展開してゆくのか、とても楽しみ!

著者が誰であろうが、関係ない!本当に面白い探偵小説が生まれた!
それが嬉しい!

『カッコウの呼び声 私立探偵コーモラン・ストライク 上下』
著者:ロバート・ガルブレイス/訳:池田真紀子
出版社:講談社
価格:上下各¥1,900(税別)