法医昆虫学捜査官シリーズ第2弾「シンクロニシティ」

「よろずのことに気をつけよ」で、第57回江戸川乱歩賞を受賞した、
川瀬七緒さんの警察小説シリーズ「法医昆虫学捜査官」の第2弾「シンクロニシティ」。

事件現場で採取されるあらゆる物証から、死因、死亡推定時刻、身元etcを明らかにしていく。
日本の高度な科学捜査が早期の事件解決につながる・・・。
この『法医昆虫学捜査官』シリーズは、その鑑識にさらに昆虫博士が加わり、
より詳細な捜査を行うというもの。
昆虫学のスペシャリスト・赤堀女史と、警視庁捜査一課の強面刑事・岩楯が
昆虫と悪戦苦闘しながら事件の真相に近づいてゆく物語。
クリーピーな虫たちがウジャウジャ出てくるので、苦手な人はきついかも・・・。
はまさきも超苦手ですが、でも!それ以上に昆虫たちの生態が面白い!
そこから徐々に明らかになっていく、事件の行方がさらに面白い!

アメリカの警察ではかなり前から、昆虫学のスペシャリストを
迎えてさらに詳細な検屍を行っているらしい。

シンクロニシティ

冒頭からすさまじい解剖描写・・・。ううう~クリーピーだわ。
トランクルームから発見された腐乱死体。
南葛西署の若手超イケメン刑事・月縞は、現場保存のため、
死体にたかる無数の蠅と強烈な死臭をものともせずに
鑑識が現着するまで、腐乱死体とともに事件現場に居た。
その行動に興味を持った岩楯警部補は、この事件の
捜査で自分の相棒に月縞をと、指名した。
二人は、昆虫学者・赤堀女史とともにトランクルームの
隅々まで漁る。そこで赤堀は、このトランクルームには
不似合いな植物を発見する。
さらに腐乱死体にからんでいた昆虫の生態から、殺害現場を予想。
虫の知らせにより、岩楯達は次第に事件の核心に近づいてゆく。

今回も、昆虫学者・赤堀に振り回される、岩楯警部補が面白い。
そこに若手の月縞刑事も加わって、このトリオの活躍が見どころ!
ちょっと斜に構えた月縞刑事を叱る岩楯がかっこよかったり・・・。

また福島県の限界集落に住む老女と、東京からの
移住者・人形作家の藪木とのホッとするやりとり。
強烈な解剖描写や昆虫たちの描写が多い中で、彼らの
存在が荒んだ事件の中の清涼剤になっている。

だが、事件の真相はそんなセンチな感情も吹っ飛ぶほど悲惨!
腐乱死体の正体と事件の真相!残酷だ!

昆虫学が事件捜査に加わる異色の警察ミステリー
超!面白いです!
7月下旬にシリーズ第3弾が発売予定!もう楽しみ!!

『シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官』
著者:川瀬七緒
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)
文庫:¥820(税別)

戦国時代最大のミステリー「本能寺の変」の真相に迫る!「本能寺の変431年目の真実」

今、すごく話題になっている、「本能寺の変431年目の真実」を
読みました。
はまさき、実は戦国時代が大好き。
女性ですが、読む本は男っぽい警察、ミステリー小説。
さらに戦国時代好きなので、前世は男だったのではないかと
思う時もあります・・・。
ま、そんなことは置いといて・・・

「本能寺の変431年目の真実」はとにかく面白く、
今までの研究でも明らかにならなかった謎の
解明が為されていて、あの事件はそういうことだったのかと
納得させられた、凄い作品。
著者は、明智家の末裔ということで絶対に解明して
みせるという気持ちが強く伝わってきました。

この作品は、著者が「本能寺の変」を大きな事件に見立て、
膨大な資料を基に、日本最大のクーデターの
真実に迫る、壮大な歴史捜査ドキュメントなのです。

本能寺の変

今まで、私たちが教わってきた、明智光秀のエピソードは
歴史上どう考えてもありえない。
一国を背負った武将が、日頃の恨みを募らせて、
一歩間違えば、失敗に終わるかも知れない
クーデターをたった一人で起こすでしょうか?
そんなことは絶対にありえないと
はまさきも思っていたのでした。

私たちが信じ込まされたこのエピソード、
実は、秀吉が信長から政権を簒奪した後、
部下に命じて書かせた「惟任退治期」を
もとに後世に伝えられた‘でたらめ’だったのです。

では真実の光秀と信長の関係はどうだったのか?
なぜ、光秀は信長を討ったのか?
信長に寵愛された、キリシタン、ルイス・フロイスは
彼らをどう見ていたのか?
本能寺の変の詳しい出来事はいったいだれが
伝えたのか?
徳川家康はなぜ、3代将軍家光の乳母に
光秀の部下である、斎藤利三の娘・福を
抜擢したのか?また、逆賊・光秀の縁の福が
なぜ朝廷から官位をもらえたのか?

あらゆる‘なぜ’の答えが明確に書かれている
そして、本能寺の変の真相は今まで誰も示唆しなかった
驚くべきものだったのです。

超弩級の面白さで、本能寺の変の真相に迫る傑作です。

『本能寺の変 431年目の真実』
著者:明智憲三郎
出版社:文芸社(文庫)
価格:¥720(税別)

誉田哲也さんの新・女刑事が渋い!「ドルチェ」

誉田哲也さんと言えば、「ストロベリーナイト」の
警視庁捜査一課・姫川玲子警部補があまりにも人気。
映画化・ドラマ化もされたし、当然だと思います。

しかし、もう一人、女刑事を主人公にした警察小説を発見!
はまさき、どちらかというとガツガツした姫川ちゃんより
こちらの渋い女性刑事が好きかな。
練馬署強行犯係・魚住久江。42歳、独身。
元警視庁捜査一課の優秀な刑事だったが、理由あって所轄に勤務。

ドルチェ

「袋の金魚」「ドルチェ」「バスストップ」
「誰かのために」「ブルードパラサイト」「愛したのが百年目」
以上の6編からなる短編集。どれもなかなかの読み応えで奥が深くて、
読み終わった後、ホッとする、心が温かくなってくる。

「袋の金魚」は子どもが死亡して母親は行方不明・・・!?
「ドルチェ」は男女間の恋のもつれに傷害事件が発生!その真相が切ない!
「バスストップ」は痴漢の疑いをかけられた男性。だがその真相はさらに切なく胸に迫る!
「誰かのために」は、傷害事件を起こした男性。いまどきの若者の典型だが、彼には秘密があった!
「ブルードパラサイト」は妻に刺された男。だが男には妻をそうさせた理由があった!
「愛したのが百年目」は、飲酒運転で友人をはねてしまった男。だが真相は!?

捜査一課での多忙な日々、心が荒む事件ばかりで魚住久江の心は病んでいったのかも
知れない。
練馬署強行犯係に異動後、魚住は、事件の被害者はもちろん、事件を起こした
加害者にも寄り沿い、表面だけでは窺い知れない事件の真相を暴いてゆく・・・。

派手な展開は無いが、渋くて深い警察小説。

『ドルチェ』
著者:誉田哲也
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥550(税別)

「よろず一夜のミステリー」完結です!

「よろず一夜のミステリー」がいよいよ完結!
「よろいち」の編集長・万木輝一、アルバイトの日比野恵、
雑誌記者の蓮城万聖などイケメンのメンバーともお別れ!
ちょっとさびしい!

よろず④

チーム「よろいち」最後の事件は、なんと‘幽霊’にまつわるお話。

「よろいち」編集アルバイト・日比野恵もいよいよ就活の季節に突入。
そんな中、ウェブサイト『よろず一夜のミステリー』編集部に
寄せられる情報は‘幽霊’ネタばかり。
臆病者の恵が、輝一に言われ、しぶしぶ調査に出かけた
廃屋で目撃したものは、果たして本当に幽霊なのか!?
一方、恵の兄・稔は、行方不明の父親を探していた。
父親の消息がわかるかも知れない・・・
しかし父の消息を知る人物は、階段から落ち亡くなってしまったのだ。
その現場に遺されたアカシアの小枝・・・。その意味とは
一体何!?

完結編は、行方不明だった稔と恵の父親が見つかる。
しかし・・・。
そして、本気で就活するために恵はアルバイトを
辞める決意をする。メンバーとの別れ・・・。
恵の今後は如何に?

このチーム、いつもバタバタしてるけど、事件の
ネタが面白いし、それぞれのキャラクターがとても
魅力的なので続きが待ち遠しかった。
終わっちゃうのが残念です。
また、描いてください!お願いしま~す。

『よろず一夜のミステリー 枝の表象』
著者:篠原美季
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥520(税別)

記憶がテーマのホラー・ミステリー高橋克彦さんの「緋い記憶」

子どもの頃の記憶ってほとんどあいまい。
同じ場面にいたのに、自分の記憶と他の人の記憶が違うってことがよくあるし、
忘れていた記憶が甦ることもある。

この「緋い記憶」(高橋克彦著)もそんな話から始まる。
忘れていた記憶が甦ってくる瞬間の感動、恐怖、おぞましさ・・・
そういうものを描いた、7編(「緋い記憶」「ねじれた記憶」
「言えない記憶」「遠い記憶」「膚の記憶」「霧の記憶」「冥い記憶」)
の短編を収録。
ずっと前に読んでものすごく印象に残っていて、
この度、再読したらやっぱりとても面白かった!

緋い記憶

強烈な印象なのは、やはり、表題の「緋い記憶」。
旧い住宅地図コレクターの友人から、昔の故郷の町が載っている
住宅地図を借りた男。記憶を頼りに子どものころ遊んだ
女の子の家を探すが、どこをどう探しても見つからない。
不審に思った男は、帰郷した際、友人とともにその家を
探すのだが・・・。怖いけど、凄く切ない記憶が甦る。

「言えない記憶」は、サスペンス。
東京で成功した男が、講演会のために故郷に戻ってきた。
講演会では、昔話で会場を沸かせた。
その後は同級生たちが男のために宴席を設けていた。
そこで、こどものころガキ大将だった、上級生も出席。
その上級生は、男に妙なことを訪ねた・・・・
缶けりして遊んだ日の事、嵐の日のこと。
その嵐の日、上級生の妹が行方不明になっていた。
上級生は、妹が行方不明になった日はお前と一緒だったと・・・
男はあらためて、記憶をたどった・・・・。
じわじわとおぞましい記憶が甦る過程がリアル・・・。
ある真相に行きついた時、男は・・・・?

「遠い記憶」は本当に究極のサスペンス。
女の情念があまりにも恐ろしい。
小説家がしばらく東北の方へ取材に行くことになった。
岩手の新聞で情報を得、盛岡にいくことなったのだ。
岩手の新聞に小説など載せたことはないが・・・
小説家はそこが気になった。
だが、編集と盛岡をめぐる内に、妙に懐かしさを
感じ、やがて幼いころに見た景色が甦ってきた。
盛岡はまさに、小説家の故郷だったのだ・・・。
だが小説家は不審を抱く・・・・。
母はなぜかたくなに盛岡を避けたのか・・?
自分が4歳だったとはいえ、なぜ盛岡の全ての記憶を喪失していたのか?
その衝撃の真相とは!

短編ですが、7編すべて読みごたえがあり、大変面白かったです。
でも特にこの3篇が凄く面白く、忘れられなかった作品。

『緋い記憶』
著者:高橋克彦
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥543(税別)

ノスタルジー感じられる「退職刑事」シリーズ

西澤保彦先生のトークイベントで先生が紹介された、
「退職刑事」シリーズ。都筑道夫著。
日本の安楽椅子探偵ものでは、傑作中の傑作シリーズです。
その第1巻目を読みました。
表紙のイラストが70年代ぽくっておしゃれです。

退職刑事

昔は優秀な刑事だったが、引退して悠々自適の生活をする退職刑事の父親と
現役の刑事である息子。
息子は事件の話はあまりしないように努めるのだが、捜査に行き詰まってしまうと
ついつい父親に話してしまう。
‘昔は硬骨で鳴らした刑事だったが、今や恍惚の境に入りかけた父親’
という父親への愛情を深く感じさせる息子の決まり文句で始まる、
推理短編。

お茶の間で繰り広げられる、父親と息子の団欒風景。
実は殺人事件の恐~い話。
「写真うつりのよい女」「妻妾同居」「狂い小町」「ジャケット背広スーツ」
「昨日の敵」「理想的犯人像」「壜づめの密室」の7編を収録。
どの作品も秀逸!
退職刑事の、発想の転換と論理のアクロバットが冴える!
現職刑事も目からウロコの名推理です!!

『退職刑事1』
著者:都筑道夫
出版社:東京創元社
価格:¥600(税別)

署長刑事シリーズ完結です!「徹底抗戦」。

姉小路祐さんの「署長刑事」シリーズの完結編が出ました!
「徹底抗戦」です。
29歳のキャリア、大阪中央署署長・古今堂。
人情に篤く、部下想いの古今堂。
これでお別れかと思うとちょっとさびしい。

徹底抗戦

関西の有数ファンドの総帥・金倉盛一をインサイダー疑惑で
内偵中の大坂地検特捜部。
その摘発に向け、重要証人の警護に当たる古今堂。
だが、目の前で証人は忽然と姿を消し、謎の死を遂げた!
威信回復に焦る大阪地検特捜部、過失隠蔽を謀る大阪府警。
それらに反旗を翻し、古今堂はただ一人真相究明に挑む。

いつもながら、彼をサポートするのは、
庶務係りの塚田由紀と会計課所属の丸本良男巡査。
今回の事件は、府警上層部を敵に回す。
前回までの事件とは違う。
塚田と丸本も気合が入る。

今回は、古今堂の父親も登場する。
父親との確執とか、古今堂のプライベートな
部分が垣間見れる。

古今堂を組織に取り込もうとする府警上層部。
それに敢然と立ち向かう古今堂が、ラストで言い放った決意の言葉が胸に響く。

シリーズ完結編にして最高傑作!

『署長刑事 徹底抗戦』
著者:姉小路祐
出版社:講談社(文庫)
価格:¥690(税別)

心が震える、長岡弘樹さんの『波形の声』

『傍聞き』『線の波紋』『教場』など、長岡さんの描くミステリーは
どれも心に深く刻まれる作品ばかり。
今まで描かれてきたミステリーや推理小説とはひと味違う作品が多いです。

波形の声

この『波形の声』は、7編の短編が収録されています。

表題の『波形の声』は、理科が得意な補助教員が、いじめられっこの
児童から、ある先生がスーパーで万引きしていたことを告げられる。
その後、その児童は何者かに襲われてしまう。児童が襲われたときに、
隣人は、児童が補助教員の名前を叫んだと証言し、補助教員は疑われてしまう。
しかし・・・・。補助教員の無実を晴らしたものとはいったいなんだったのか?
このカラクリに驚いてしまいました。この作品はトリックの使い方が上手すぎて
感動です。読んでいると、人間の底知れぬ悪意を感じて、嫌な気持ちになりますが、
この作品はあまりにも意外などんでん返しで、読後がとても良かったです。

そのほか『宿敵』は、82歳の男性の隣にかつてのライバル高校のピッチャー
だった男が引っ越してきた。ライバル心をむき出しにするが・・・。
『わけありの街』は、息子を強盗に殺され、その後の捜査の行方を
訪ねて、警察やってきた母親。元息子が住んでいた部屋を借りると言う・・・。
『暗闇の蚊』は、ペット治療修行中の息子は、近所に越してきた30代の女性に
夢中だが・・・?
『黒白の暦』は、ライバルとの昇進争いに日々囚われているキャリア女性の
勝負の行く末・・・。手帳に記された、白星と黒星。その意味が
わかると女性の怖さがひたひたと・・・・・。
『準備室』は、いじめで自殺した息子を持つ県庁職員のパワハラに怯える
村役場の職員を描く。
『ハガニアの霧』は、実業家として成功した男。家の物置から発見された
幻の絵。その直後、実業家の息子が誘拐された!?

日々、人間関係の中で起きる小さな事件。
嫉妬、怒り、憎しみなど人間の悪意に焦点をあててるけれど、
実は一番描きたいのは人の温かさ。
人間の感情をトリックに使う見事などんでん返し。
ここまで描けたら、もう職人としか言いようがない。
さらっと描いているけれど、その物語の奥深さに心震える。

『波形の声』
著者:長岡弘樹
出版社:徳間書店
価格:¥1600(税別)