石田三成のイメージを覆す!「八本目の槍」

今村翔吾さんの「八本目の槍」(新潮文庫)読了。
「じんかん」で戦国一の極悪人と呼ばれた松永久秀の
イメージを覆され、「幸村を討て!」では、
真田信之・幸村兄弟の新たな魅力に気づかされた。

そして、この「八本目の槍」では、怜悧すぎる能吏で
人望に欠け、結局は「豊臣家」を滅亡に追い込んだ
男・石田三成というイメージをことごとく覆された。

賤ヶ岳の7本槍とは、加藤清正(虎之介)、糟屋武則
(助右衛門)、脇坂安治(甚内)、片桐且元(助作)、
加藤嘉明(孫六)、平野長泰(権平)、福島正則
(市松)らのこと。
彼らは、石田三成(佐吉)とともに、豊臣秀吉の
小姓でもあった。

小姓時代から群を抜いて頭が切れた、佐吉こと石田三成。
彼は、実は途方もない夢を抱いていた。

その壮大な夢を、佐吉は虎之介に語っている。
この時代にそんなことを考える佐吉とはいったい
何者なのか?

それを実現するために、佐吉はこの7人衆に、
さりげなく「密命」を与えた。

権平は、関ヶ原から十数年後、家康がとうとう
豊臣家を滅ぼすために立ち上がった時、家康を訪ね、
佐吉が導き出した「戦の理」を滔々と語って聞かせた。
家康が侮っていた、佐吉の凄さを、家康よりも
優秀だったことを知らしめ、恐れさせた。

豊臣家存続のために徳川方から三つの条件を持ち帰った
助作だったが、豊臣方は三つとも跳ねのけた。
それを知った市松は大坂城へ乗り込む。

関ケ原で散った佐吉の悲願は、結局実を結ぶことは
なかった。
市松が大坂方に最後に放ったひと言が胸を抉る。

八本目の槍とは誰のことか?
このくだりを読むと、心を激しく揺さぶられる。

いままでにない、石田三成の姿が浮かび上がる、
傑作戦国時代小説。

『八本目の槍』
著者:今村翔吾
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥880(¥800+税)

現代日常の‘歪み’をえぐる!傑作短編ミステリー「#真相をお話しします」

結城真一郎さんの「#真相をお話しします」(新潮社)読了。

現代日常に潜む小さな「歪み」をテーマに、斬新な
謎を仕掛けた。
どこまでも読み手を翻弄する、最先端のミステリー集。

家庭教師を斡旋する会社のアルバイト学生は、
面談の予約を受けている家を訪問するが、母親の
不可解な行動と子どもに出した簡単な計算の答えを
見て異変に気付く・・・・。
「惨者面談」

娘が大量にブランド品を持っていた、最近外泊が多い?
もしかして「マッチングアプリ」?本当にそうだと
したら、やめさせなければ・・・・父親がとった仰天行動とは?
「ヤリモク」

不妊に悩む夫婦。ようやく授かった我が子。しかし
そこへ「あなたの精子提供によって生まれた子ども
です」と名乗る娘が現れる。ところがそこから意外な
真実が浮かび上がる。
「パンドラ」

仲の良い仲間で、5年ぶりにリモート飲み会を始めた。
3人はそれぞれ、関西と関東に住んでいる。
良い調子で飲みながら近況を語っていたのに、次第に
不穏な空気が流れ始める・・・。この3人の間に
一体何が起こったのか?
「三角奸計」

子どもが4人しかいない島で、彼らは「IPHONE」を
手に入れ「ゆーちゅーばー」になることに。しかし
ある事件をきっかけに島の人たちがよそよそしくなってゆく・・・。
第74回日本推理作家協会賞受賞作。
「#拡散希望」

現代日本社会の日常のワンシーンを切り取り、そこに
緻密で多彩な罠を仕掛けた。
物語の途中まではこういうことかな~と思わせつつ
ラストで鮮やかに裏切られる。
そうか!そういうことだったのかと、思わず唸ってしまう。

日常の何気ない出来事がテーマだからこそ、
身近に起こるかもしれないと思わせるリアル感が凄い。

短編だからこそ出来る、ミステリーの面白さが
際立っている。

『#真相をお話しします』
著者:結城真一郎
出版社:新潮社
価格:1,705円 (本体1,550円+税)

女子高生捜査官の活躍!「相棒はJK」第2弾「テロリストにも愛を」

「巡査長 真行寺弘道」(中公文庫)、
「DASPA 吉良大介」(小学館)
など、社会派ミステリーを描く、
榎本憲男さんの新刊です。
女子高生捜査官が主人公の「相棒はJK」
第2弾が出ました。やった!シリーズ化!
「テロリストにも愛を」読了。

警視庁刑事部刑事部長から直々に声を
かけられ、刑事部長直轄の組織・
刑事部捜査第一課特命捜査係へ異動となった、
キャリア組の中でも「超」がつくエリート・
鴨下俊介警部補は、なんと!女子高生捜査官・
花比良真理(しんり)とバディを組むことに!

女性失踪事件を解決し、一段落した現在でも
女子高生が事件の捜査をするなんて、
警察組織がそんなことを許すなんて
言語道断!と納得できていない。

しかし、真理の本当の能力を知ってから、
時にこれでいいのかと疑問を持ちつつも
真理とバディを組むことを受け入れようとしていた。

特命捜査係に公安から捜査協力の依頼があった。
実は、日本の総理大臣がエジプトを訪問
した際にIG(イスラム過激派テロ)を刺激する
演説をしてしまい、その演説に反応した
IGがとんでもない画像をネットにあげた。
日本のジャーナリストを誘拐・拘束し
日本政府に身代金の支払いを命じるという
とんでもない動画だった。
その対策を練るための協力要請のようだ。

ところが、この難題に頭を突っ込んできたのが、
鴨下のガールフレンドで記者の愛里沙の
上司・沢渡だった。彼は過去にIGに潜入
したことがあり、IGのことをよく知っていた。

そして、沢渡はテレビにゲスト出演し、
自分がIGと交渉して、日本人ジャーナリストを
救出すると言った。

このくだりは、「九時のニュースはみんなで」の
章で詳しく語られている。
この章は、欧米・日本VSIG(イスラム過激派テロ)の
構図が非常によくわかるように描いてあるので、
モヤっとしたことがクリアになる感覚だった。

日本でテロを目論むイスラム過激派。
彼らの暴挙を、鴨下&真理率いる特命捜査係
阻止できるのか?

今回は、特命捜査係の女性スナイパー・
吉住かなえが、かっこよく活躍する。

また、日本に潜むテロリストとの息詰まる
攻防戦も読み応えあり。

鴨下・真理の距離も少しづつ縮まってゆく感じ。
鴨下、いろいろ言っているけれど、真理を心配
しているところ、良いなあと思った。

今作もなかなか難しいテーマを扱っているけれど
とても面白かった!
こういうテーマをきちんと描いてくれる、
榎本さんに感謝です。

『テロリストにも愛を』
著者:榎本憲男
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)
価格:¥902(本体¥820+税)

‘戸籍’がテーマの斬新な探偵小説「先祖探偵」

「元彼の遺言状」「競争の番人」など、原作本が
連続でテレビドラマ化されている、今飛ぶ鳥を落とす
勢いのミステリー作家、新川帆立さんの最新作、
「先祖探偵」を読了。

ご先祖様を探す人たちのヒューマンドラマ。
コミカルでちょっとシリアス。心に沁みる
物語。凄く好きになりました。

20年前に生き別れた母を探す傍ら、ご先祖様の
調査を請け負う探偵業の風花。

武田信玄の重臣の末裔だという男性から
先祖の調査を依頼されている風花のところに
ある日、今年110歳になる、日本最高齢の
曽祖父を探して欲しいとの依頼が舞い込む。
出来る限り先祖を遡ることが出来るが・・・。
この調査が意外な展開と結末を呼ぶ。
「幽霊戸籍と町おこし」

夏休みの研究課題を「家族史」とした女子中学生。
母親から依頼され、それを手伝うことになった
風花。パパの先祖から辿ってみると、妙に父親の
先祖に拘る。彼女が本当に知りたいこととは?
女子中学生の切ない本心にグッとくる。
「棄児戸籍と夏休みの課題」

風花が探偵事務所を開いてる下の階は、カフェに
なっている。今は妻に逃げられた夫が一人で
店を回している。そんな妻の方から風花に依頼が・・・。
10歳くらいの男の子が、ある日何かにとり憑かれ
妙なことを言い始めた。ご先祖様の霊がたたって
いるのではと言われ、先祖を調べて欲しいとのことだ。
男の子の姿をみて、心を痛めた風花は調査を引き受けた。
ちょっとホラーテイストな展開だが、その真相は
じわ~と心に沁みる。
「焼失戸籍とご先祖様の霊」

「ドヤ街」と呼ばれる場所に暮らす男性から
先祖調査の依頼でやってきていた風花は、
そこで戸籍のない男性と出会う。
事情があって母親が出生届を出さなかったらしい。
戸籍がないせいで、生活してゆくのに苦労していた。
先祖を探して欲しいとの依頼を受けたがかなり
面倒なことになると思ったら、その通りの展開。
どうなる・・・!?この調査!
「無戸籍と厄介な依頼者」

探偵事務所の調査員から「風子」を探している人が
いると聞き、期待を抱いた風子。それは父親が
自分を探しているのではと思った。父から母の
情報が得られる!と浮きたつが・・・。
風子は途中、日系ブラジル人に襲われるという
危険な状態に置かれる。
風子は母親にたどり着けるのか?
「棄民戸籍とバナナの揚げ物」

様々な先祖調査で次々と浮かび上がる謎!
そして、調査の結果明らかになる、衝撃的かつ
意外な真実。
現役弁護士だからこそ描ける「戸籍」に
ついての詳細な記述。
「戸籍」という斬新なテーマがドラマチックに
組み立てられて面白い。

寂しさを抱え孤独な人生を生きる風子だが、
それでも強く、たくましく生きている。
そんな風子がとても好きになった。

ぜひ、シリーズ化して欲しい!

『先祖探偵』
著者:新川帆立
出版社:角川春樹事務所
価格:1,600円 (本体1,760円+税)

海上保安学校が舞台!感涙の物語「海の教場」

吉川英梨さんの「海の教場」(KADOKAWA)読了。

海上保安官を目指す学生たちと教官との絆、
そして大人のピュアなラブストーリーを描いた傑作!

桃地政念(ももち・まさむね)は、海上保安官の
中でも「主計」を担当する専門官だ。
調理・経理・庶務などの仕事が主で、縁の下の
力持ち的存在だ。
海上保安官というと誰もが海猿を思い浮かべるが、
そうではない、地味な部門だ。
それは、仕方がない。
桃地は小柄でメタボ体形。海猿なんて遠く及ばない。
独身彼女ナシの中年だ。

霞が関に勤務する桃地は、ある日学生時代の
マドンナだった高浜彩子から呼び出された。
学生時代、桃地は彩子に特別な思いを抱いていた。

彩子は女性ヘリ操縦士の草分け的存在で、
今でも多くの学生があこがれる先輩でもある。
しかし、桃地とはある因縁があった。

緊張しつつ待ち合わせの場所に向かった桃地。
そこで待っていた高浜彩子は相変わらず美しかった。
ところが、彼女が桃地に告げたのは絶望的な話だった。
「肝臓がんで余命一年」で京都府舞鶴市の病院に
入院が決まったとのことだった。

彩子は女手一つで息子を育てている。
その息子・悠希は春から舞鶴の海上保安学校に
入学する予定で、息子のそばで過ごすためだった。

桃地は彼女の衝撃的な告白を聞き、何とか
彩子のそばで彼女を支えたいという
衝動が止まらなくなった。
そして、彼女のために現地への異動を企てた桃地は
同校の教官として赴任することになる。

晴れて舞鶴の学校の船舶運航システム
課程主計コース3組の担任と桃地だったが、
腐れ縁の校長・比内から、ある事情がクラスに
重い影を落としていることを聞かされる……。

桃地が悩み苦しみながらも、彩子のこと、
そして受け持つ学生たちの様々な問題に
真正面からぶつかってゆく姿が心に強く響く。

大切な人のために何が出来るのか?
人は誰でも何かを背負いながら生きている
覚悟を決めた時、人は強くなれる・・・。

終盤は涙があふれて止まらない!
感涙のエンターテインメント。

『海の教場』
著者:吉川英梨
出版社:KADOKAWA
価格:1,980円 (本体1,800円+税)

イケメン高校生探偵の推理が冴える!「学園の魔王様と村人Aの事件簿」

織守きょうやさんの「学園の魔王様と村人Aの事件簿」
(KADOKAWA)を読了しました。
二人の男子高校生の友情と、彼らの周囲で起こる事件。
二人が協力して事件解決に導くところがとても面白かった。

孤高のクラスメート・御崎は、様々な噂が
飛び交い、とても近寄りがたい存在だった。
しかし、山岸は御崎の存在がとても気になっていた。
ある雨の日、御崎が子猫を助けるところを目撃。
思わず声をかけてしまった。
そこから少しずつ山岸と御崎は距離が縮まってゆく。
御崎が山岸の家に行ったとき、山岸の母親が
会社で妙なことが起きて困っていることを告白。
御崎のアドバイスで事件が発覚し、解決に至る!
(村人A、魔王様と出会う。)

半グレ集団の詐欺事件に巻き込まれてしまった山岸。
学校の前で女子学生の写真を見て目撃者を探す
危ない奴ら。
山岸はある人物と間違えられ、あわや拉致されそうに
なったところを御崎に助けられる。
事件解決の糸口は、山岸のある趣味についての
講釈だった。御崎に感謝され、嬉しい山岸。
(村人A、魔王様の助手になる)

学園の寮で暮らしていた先輩が、アルコールを
飲んで飛び降りた。
ルームメイトから遺品を預かった御崎は、遺族から
調査を依頼される。
先輩の人間関係、そして物的証拠から御崎が
導き出した真相は、とんでもなく切ない、
そして悲しいものだった。
御崎のすごい推理力に舌を巻く!
この物語は悲しいけれどとてもピュアな感情が
表現された素敵すぎるストーリー。
とても好きな章。
(村人A、魔王様と友情を確かめる)

半グレグループの幹部の一人が遺体で
見つかる。その彼女らしき女性が登場。
半グレに近い人間の情報から次第に詳細が
判明する。ところが、山岸が半グレ集団に
拉致される。誰かと間違えられて連れ去られた
可能性が大きい。
それを目撃した御崎は、真犯人を見つけ出すため
一人対決に向かう。
(村人A、魔王様との友情を深める)

とにかく、イケメンの御崎がかっこいい!
物腰は柔らかく、冷静沈着でとてもやさしい。
山岸の言葉にちょっと赤くなったりするところは
めちゃめちゃ可愛い。

日常の些細な違和感を見逃さず、事件の本質に
迫る御崎。その洞察力には目を見張る!
推理小説としても読み応え十分だ。

イケメンの高校生名探偵と彼の友人になりたい男の子。
不器用な二人が周囲で起こる事件を解決してゆく。
その過程で二人の友情がどんどん深まってゆく。
日本の高校生版ホームズ&ワトソンのようで、
読んでいて楽しかった。
また男同志二人の絆が徐々に深まる過程は、
なんだか胸がキュンとなった。

面白いです!

『学園の魔王様と村人Aの事件簿』
著者:織守きょうや
出版社:KADOKAWA
価格:1,815円 (本体1,650円+税)

社会の暗部を抉り出した傑作ミステリー「蟻の棲み家」

望月諒子さんの「蟻の棲み家」読了。
前から気になっていた作家さんでした。
読めて正解!

多分、普通に日々を過ごしていたら、
出会うことはない、小説でしか知りえない
世界の話に焦点を充てた作品。

冒頭は、子どものころから最下層の人生を
歩んできた一人の男のプロローグから始まる。

そして、二人の女性の射殺死体が発見される。
彼女たちの周辺を調べていくと、彼女たちは
最下層で育ち、小さな子供を育てながら
売春で生計を立てていた。

また、弁当詰め工場の気弱な工場長が
たちの悪いクレーマーから恐喝されており
それは次第にエスカレート。
パートの娘を誘拐したから200万円
払えと工場に電話があった。
工場長は耐え切れず、本社に電話してくれと
言って切った。

この間抜けでバカげた誘拐事件はまたしても
エスカレート。馬鹿げた恐喝事件へと発展!

弁当詰め工場の本社総務部もあまりの馬鹿らしさに
犯人を罵倒する始末。

訳の分からない恐喝事件に警察関係者、被害者
マスメディアも混乱する・・・。

フリーのライターの木場美智子は、企業恐喝事件を
追っていた過程で、連続射殺事件との関連性に気づくが!

別々に起こっている事件・・・。
だが、その事件がある一点でつながった時
瞠目の真相にたどり着く!
ミステリー作品としての仕掛けの巧さが際立っている。

子どもの虐待が日々ニュースとなって報道される。
この本を読むと、なぜ親が子を虐待するのかと
言う疑問に応えてくれるのではないか?

貧困の連鎖、それがわかっていても、すぐには
手を打てない社会。
それが悲劇を生み続けているように思う。

目をそむけたくなるような現実を、小説という
手法でまざまざと見せつける。

圧倒的筆力で描かれ、どんなに途中で辞めようと
思っても絶対に最後まで読まされる!

社会派ミステリーの凄すぎる傑作だと思う。

『蟻の棲み家』
著者:望月諒子
出版社:新潮社
価格:825円 (本体750円+税)