謎に包まれた名探偵・御手洗潔の原点がわかる「Pの密室」

名探偵・御手洗潔シリーズが、「星籠の海」で初の映画化!
書店では、御手洗潔コーナーが出来ました。
はまミスコーナーでも御手洗潔コーナーはもちろん、
それに乗っかって、「探偵小説」祭りを開催中です。

昨年、ミステリー読書会で御手洗潔シリーズを強力に
プッシュされ、テレビドラマも好評。
それがきっかけで、「異邦の騎士」「占星術殺人事件」
「御手洗潔の挨拶」「暗闇坂の人喰いの木」「斜め屋敷の犯罪」
「UFO大通り」などいっきに読み漁りました。(刊行順は無視!)
そのあまりの面白さにはまってしまってから、
子ども時代に名推理を披露した作品があることを知り、
この「Pの密室」を読んだのでした。
御手洗潔・・・・。幼稚園児ですでに驚異の名探偵・・・。
いやいや凄いです!

Pの密室

幼稚園児が名推理?そんなのあるわけない、
どうせちゃっちい謎解きでしょう?
なんて言われちゃいそうですが、この御手洗潔に限っては
そんなことはない!超本格の傑作!
さらに、謎に包まれた御手洗潔の前半生や、なぜ女性に
厳しいのかわかる貴重なエピソードが描かれている!
「Pの密室」はある意味、御手洗潔ファン垂涎の作品ともいえる。
収録作品は2点。「鈴蘭事件」「Pの密室」。

御手洗がスウエーデンに行ってしまってから、石岡は一人寂しく
過ごしていた。
そんな彼の唯一の救いは、女子大生・犬坊里美との語らいの時間。
ある日、犬坊里美が持ちこんだアルバムに、なんと幼少時の御手洗潔
の写真があった。
御手洗は幼少時、複雑な家庭環境の中叔母が理事長を務める
女子大の中に住んでいた。石岡と犬坊は、幼少期の御手洗が
どのような子どもだったのか興味を持ち、当時の御手洗を
よく知る、元刑事・馬夜川に話を聞くことに・・・。
「鈴蘭事件」は、御手洗潔が幼稚園時代に起こった事件。
御手洗が暮らす女子大の通りに一軒のバーがあった。
そのバーの娘、えり子は御手洗が好きでいつも一緒にいた。
ある日、えり子の父親が車の事故で亡くなってしまう。
警察はただの事故だと言ったが、えり子の母は信じなかった。
えり子も母のあわてる姿を見て、なんだか変だと感じ、
御手洗を連れて店に入ってみると、そこには割れたガラスの
破片が散乱、さらにいつもある鈴蘭が無くなっていた。
御手洗は馬夜川巡査に何も触れないでと頼んだが、
馬夜川巡査は、幼稚園児に口出しされたことで、怒ってしまった。
しかし、御手洗は店の状況を見て、えり子の父の死の真相と
店がどうしてこんなことになったのかすぐにわかったようだ。
だが、この事件の奥にある悲しい真相は誰にも言えなかった・・・。

「Pの密室」は御手洗が小学校2年生の時に起きた事件だ。
石岡が「鈴蘭事件」を発表した後、えり子の正体が
わかり、石岡は子供時代の御手洗の取材のため、
えり子に頻繁に会うようになった。この事件も
そのえり子から聞いた話だ。話を聞いてみるとその事件の
悲惨さに胸を打たれてしまう。
完全な密室状態の中で、男女の刺殺体が発見された。
殺害されたのは、地元でも有名な土田画伯、もう一人は
土田画伯の愛人だった。
二人が発見された状況は異様だった。
現場の床には赤く染まった紙が整然と敷き詰められ、
二人の遺体はその上にあった。
また殺されたと思われる時間、外は雨に濡れているはずなのに、
そのぬかるみには足跡も残っていなかったのだ。
幾重にも重なる奇怪な状況に、警察は立ち往生する。
土田画伯の愛人の夫がその日、この家を訪ねていたと
いう証言から、その男を重要参考人として取り調べて
いるが、捜査はどん詰まり状態だった。
だが、その現場を見た、小学校2年生の御手洗潔は
たちまち真相を看破してしまった!
犯人はどうやって殺人を犯したのか!?

度肝を抜く真相に驚愕する。

御手洗潔の子ども時代の活躍がとんでもなく凄い作品。

『Pの密室』
著者:島田荘司
出版社:講談社(文庫)
価格:¥720(税別)

映画レイダースを彷彿!バチカン奇跡調査官「ソロモンの末裔」

大人気の天才神父コンビシリーズ
「バチカン奇跡調査官」の最新作が
発売されました!
タイトルは「ソロモンの末裔」です。
今回はとんでもなく危険な旅が待ち構えています!
命をかけた神父コンビに感動!

バチカンソロモンの末裔

内戦が続くヨルダンのイルビド教会の難民キャンプに、瀕死の男が担ぎ込まれた!
だが、シェバと名乗ったその男は自分の使命を果たすことなく息を引き取った。
彼の持ち物は旧い羊皮紙の巻物のみだった。
その羊皮紙には古代の文字が書かれているようだ。
イルビド教会の神父はシスターにその巻物をバチカン図書館に送り
解読の依頼を指示した。
一方、バチカンで奇跡調査を担当する、古文書解読のエキスパート
ロベルトのもとに、その羊皮紙の巻物の鑑定依頼が舞い込む。
ロベルトがその巻物を解読すると、シェバの民と神殿創りに関して
書いてあるようだった。
だが、解読の途中、上司に呼ばれたロベルト。
平賀と共にエチオペアの奇跡調査を命じられる。
それははるか昔、ソロモン王とシェバの女王の子どもが持ち帰ったという
「契約の箱」。その上空に巨大な炎の剣と天使の姿が浮かび上がった
という奇跡現象の真偽を確かめる依頼だった。

早速現地に向かう二人。だが「契約の箱」は聖職者の兄弟によって
持ちだされ、行方不明になっていた。
二人はイタリア人探検者・マヌエルからその兄弟の行方を一緒に探してほしい
頼まれ、ともにオベリスク広場に向かう。
しかしその広場で司祭の他殺体を発見し、容疑者として警察につかまってしまう!

そこから彼らは想像を絶する過酷な状況に巻き込まれてしまうのだ!
まるで、映画「レイダース 失われたアーク」のような展開!!!
3人は灼熱の砂漠に放り出され命の危機に!どう立ち向かうのか?

ソロモン王とシェバの女王のロマンスや、古代の王朝の歴史、
宗教対立の詳細な記述が非常にわかりやすく面白い!
こういう歴史好きならば今回の「ソロモンの末裔」は読んで
いて勉強になるだろうと感じた。
手に汗握る展開が文句なく面白い!!

『バチカン奇跡調査官 ソロモンの末裔』
著者:藤木稟
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)

弁護士・御子柴礼司シリーズ第3弾「恩讐の鎮魂曲」は傑作!!

「贖罪の奏鳴曲」で主人公・御子柴礼司に衝撃を受け、
「追憶の夜想曲」は怒涛の大どんでん返しに唖然・・・。

このシリーズは形容しがたいほど面白すぎる!!!
そして、先日第3作「恩讐の鎮魂曲」が発売。
迷わず購入しすぐさま読んだ!

恩讐の

前作、「追憶の夜想曲」で辣腕弁護士・御子柴の過去が暴かれた!
それでなくても、御子柴の悪辣な弁護方針は蛇蝎のごとく嫌われていた。
その上、信じがたい過去がプラスされれば、御子柴はもう弁護士として
法曹界では生きてゆけないほどのダメージ。
しかし、過去は過去。そんな弁護士に仕事を依頼してくるのは
暴力団事務所の顧問弁護士の口くらいだ・・・・。

そんな中、御子柴のもとへ耳を疑うニュースがはいってきた!
御子柴が、少年時代に医療少年院で更生をはかっていた時、
唯一、子どもたちの行く末を真剣に考えてくれた恩師、稲見が
殺人容疑で逮捕されたというのだ。

御子柴は、すぐさま警察に出向き稲見への接見を求めたが、
国選弁護人がすでに決まったということで、断られてしまう。
だが、恩師の弁護を他人に任すなどもってのほか!
御子柴は裏から手を回し弁護する権利を得る。

稲見は、老人ホームで一人の介護士と揉めて
怒りの余り、その介護士をなぐり殺してしまったという。
その供述を信じられない御子柴は、老人ホームで
事件当日何が起こっていたのか、調べ始める。

今回は、殺害された介護士が、韓国船の海難事故で
女性から救命胴衣を奪い、その女性を死なせてしまった
過去を持つ男。暴行罪で裁かれたが、「緊急避難」を
適用され、無罪となっていた。

さらに、老人ホームの実態!

最近の社会的に大きなニュースを小説に盛り込み、
事件のリアルさを追求し読み手を惹きつける!
さらに主人公・御子柴の変貌ぶりがすごい。
前作ですべて暴かれ、それでも挫けずさらにクールに
悪辣になっている。
しかし恩師のピンチに、今までにはない感情のほとばしりを
見せている!
ミステリー好きにはたまらない怒涛のどんでん返しは申し分ないが、
今回の作品はその面白さにとどまらず、深く静かな感動が押し寄せる!

中山七里さんの‘超’傑作のシリーズ、ご堪能ください!

『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』
著者:中山七里
出版社:講談社
価格:¥1,600(税別)

警察学校が舞台、異色の警察ミステリー第2弾「教場2」

長岡弘樹さんの警察学校を舞台にした
警察ミステリー「教場」の第2弾が発売!
タイトルは「教場2」。
待ちに待った作品!早速読みました!

教場2

前作と同様に6話の短編が最終的には繋がる、連作短編となっている。

前作は警察学校内での切磋琢磨する生徒たちの生き残りを
欠けた熾烈な競争が謎の提示に繋がっていたが、
今回は、未来の警察官として優秀な者たちが残った中、
風間教官に最終的な試練を与えられる姿が描かれる。

授与されたばかりの警察手帳紛失の謎、
次々と起こる備品紛失、誰が何のために?
厳しく嫌味な教官に対する嫌がらせの果ては?
風間教官への敬慕の想いを抱いた結果は?
刑事に憧れる生徒へ捜査能力は?
卒業生答辞を巡る嫉妬・・・。

それぞれの短編に仕掛けられた巧妙な伏線。
一行も読み飛ばすことは出来ない。

風間の眼は警察官として生き残ってゆけるかどうかを
見極めるために、ただひたすら生徒に厳しい。
だが、時に優しさを見せる。
今回の作品は、風間のそのギャップがとても良い。

また、日常が淡々と描かれているが、その中で起こる
事件、その真相を著者ははっきりとした言葉で表さない・・・。
キーワードだけを残し、読者はそのキーワードから推理。
真相がわかったとき、あ~なるほどとそうなのかと気づく。
そのさりげなさが何だか心地よいのだ。

「教場2」は前作よりさらに進化し、謎の多かった風間の姿を
徐々に描き出し、読者を楽しませてくれた。

『教場2』
著者:長岡弘樹
出版社:小学館
価格:¥1,500(税別)

列車脱線事故の真相を追う!堂場瞬一「暗転」

堂場さんは、警察小説(シリーズもの)が多いですが、
単発の作品で、グっとくる作品も結構あります。
その中で、「暗転」を読んでみました。

暗転

雑誌記者の辰巳は、朝しか取材できない作家との約束で、
いつもより早い時刻の列車に乗ることになった。
当然、通勤ラッシュの時間と重なる。
乗車した列車はぎゅうぎゅうで、鞄の中に入れていた
カレーパンも潰れてしまうほどだった。
しばらく乗っていると、列車がいつもよりスピード
を出して走行していることに気が付いた。
そして列車はどんどんスピードが上がる。体が後ろに引っ張られる!?
さらに、カーブに差し掛かった時、嫌な金属音が聞こえたと
思った瞬間、激しい爆発音のような音が聞こえ、辰巳は意識を失う・・・。

それは、列車が脱線し、80人以上が亡くなるという大惨事だった。
辰巳は何とか自力で列車の外に出たが、足に大怪我をしていた。
脱出するとき自分の下に居いた女性に頑張れと声をかけた。
だが、あまりのショックにしばらく呆然とし、次に気が付いた時は
病院だった。

病室のベッドでしばらく休んでいると、老警官が事情聴取に
やってきた。老警官は、辰巳を励ますが・・・。

そして、辰巳が声をかけた女性は、辰巳と同じ病院に運び
込まれたらしい。辰巳はどうしても彼女の病状が気になり
病室を除こうとするが・・・・・。

本書で描いてある列車が脱線した時の惨状は、福知山の
列車脱線事故を彷彿とさせる・・・。
事故のショックでなかなか現実と向き合えない雑誌記者。
事故の「とくだね」を迫る上司。
被害者の心に寄り添い、事情を聞く老警官。
婚約者を亡くした男性の絶望・・・。
それぞれの心理描画があまりにも見事で、読み進めていくと
胸がざわつく。あまりに絶望が深いと自分が何をしているのか
わからなくなる。そんな様子が臨場感たっぷりに描いてあり、
登場人物の心情とシンクロしてしまうのだ。

だが、その絶望を少しでも未来に繋げるためには何をするのか?
事故の真相究明だ・・・。

事故を起こした鉄道が発表した、事故原因。
それはあまりにも信じがたいものだった。
その鉄道会社の広報マンは、会社の発表に違和感を覚える。
老警官、雑誌記者、さらには家族からも、会社の発表に
納得できないと言われる。
次第に追いつめられる、広報マン。
そんな息子の姿を見て放った母親の一言が胸に響く。
「正しいことをしなさい。会社員であるまえに社会の一員でありなさい。」

事故の真相究明を追うミステリーであるけれど、もっとも大切なことを
教えてくれる1作だと思う。

『暗転』
著者:堂場瞬一
出版社:朝日新聞出版
価格¥680(税別)

謎解きの王道!「キングを探せ」法月綸太郎

法月綸太郎さんの「名探偵 法月綸太郎」シリーズの
「キングを探せ」を読みました。
いや~、面白かった!!!

法月作品、かなり久々に読みましたが、「誰彼」「頼子のために」
「一の悲劇」などの法月作品とはちょっと違うって感じでした。
力の抜け感が良かったかも。

キングを探せ

「キングを探せ」は四重の交換殺人を企てた殺人者たちを追いつめる
法月警視と息子で名探偵の異名を持つミステリー作家・法月綸太郎を描く、
謎解き重視のミステリー作品。

古びたカラオケボックスに集まった4人の男たち。
彼らの目的は、交換殺人による完全犯罪の達成。
誰がいつどの順番で誰を殺害するのか?
トランプのカードで決める。
4人がそれぞれの相手を間違いなく殺害することが
出来れば、完全犯罪が成り立つ・・・。

この計画は完璧に思えた。

妻を殺された男は、当初警察から事情を聞かれたが、
事件当日は完全なアリバイがあったため、警察は
一度あきらめる。しかし捜査してゆくと、保険金殺人
の可能性が出てきたため、警察は夫をマーク。
だが、その男は警察の目の前で事故で亡くなってしまう。
警察が家宅捜索すると、2枚のトランプのカードが
見つかった。

法月警視は、この事件を息子の綸太郎ととも推理する。
綸太郎は、発見されたトランプが気にかかる。
そのうちに、別の場所でおきた強盗殺人事件の被害者の
甥のアパートからも同じようなトランプが発見された・・・。

親子で、推理合戦を繰り広げる下りは面白い。
さらに完璧だと思われた交換殺人の計画がほころび始め、
犯人たちと法月親子との駆け引きも見事!
4重の交換殺人という一見完璧に思える計画。
2転3転しながら真相に繋がる展開は読んでいて飽きなかった。
探偵小説の謎解きが堪能でき、文句なく面白かった。

『キングを探せ』
著者:法月綸太郎
出版社:講談社
価格:¥660(税別)

警察小説なのに、大人の超純愛小説でもある「ドンナビアンカ」が泣ける。

誉田哲也さんの新しい女性刑事シリーズ「ドルチェ」に
続く第2弾「ドンナビアンカ」の文庫版が発売!
早速読みました。

ドンナビアンカ

誉田哲也さんと言えば、「ストロベリーナイト」の女性刑事・姫川玲子が
人気でシリーズはベストセラーになっています。
はまさきも大好きで全作品読んでいます。
事件にくらいつくクールな姫川玲子が、いつもかっこいいと思っていますが
時々、とても痛いなと思ってしまいます。

そんな時、新たな作品で女性刑事が登場しました。
練馬署強行犯係・魚住久江です。
捜査一課にもいたことがありますが、今は所轄で頑張っているという設定。
年齢は姫川より上で43歳、独身。
既刊本「ドルチェ」は味のある短編集でしたが、
「ドンナビアンカ」は長編です。

虫けら同然の生き方をしてきたと絶望の底にあった
男がやっと見つけたまっとうな暮らし。
日々、酒の配送業務をまじめに続けていた男は、会社近くの
定食屋で、一人の女性と出会う。
女性は、男が酒の配送をしているバーのキャバクラ嬢で、何度か店で
顔を合わせていた。なんとなく気になったが、男は「どうぜ俺なんか」
という想いもあり、声をかけることはなかった。
だが、次第にその女性に心が傾いてゆくのがわかる・・・。
男は秘かに女性の後をつけ、マンションの住所もつきとめた。
ストーカーなのか・・?俺は。反省した男は、もしかしたら
会えるかもしれないという淡い想いを抱き、女性の行きつけの
定食屋に足を運んだ。その思いは実り、とうとう女性と言葉を
交わすところまでこぎつけた。
たどたどしい日本語で話す女性は、中国人なのだとわかった。
連絡先も交換しあい、二人は連絡を取り合う様になり、
時々、その定食屋で一緒に食事をした。
女性のかわいらしいしぐさと優しさに男はどんどん惹かれていった。
しかし、その女性は大手外食企業の役員の愛人だった・・・。
二人はそれをわかっていながら、秘かに逢引きを繰り返した。
ある日、男はその役員から呼び出しを受け、ある提案を持ちかけられる。

大手外食企業の役員が、連れの社員と共に誘拐されたとの連絡が
入り、練馬署強行犯係の魚住久江は、誘拐事案の特殊捜査班に呼ばれた。
そこには昔から懇意にしている、金本刑事がいた。
誘拐されたのは、大手外食企業・富山見フーズ専務・副島と
エリアマネージャーの村瀬という男だった。
身代金は2千万円。
魚住と金本は、まず二人の身辺調査を行うことに・・・。

警察小説でありながら、心が癒される大人のピュアな恋愛小説でもある。
男女二人の恋物語と殺伐とした誘拐事件捜査が交互に描かれている。
2つの物語はやがて誘拐事件へと繋がるが、男を心配する中国人女性の
描写が胸を打つ。心細くなっていた女性に、魚住が寄り添うシーンが泣ける。
魚住の刑事らしくない優しさがこのシリーズの最大の持ち味。
かっこいい女性刑事も良いが、事件を静かに見つめ、被害者にも
容疑者にも寄り添うことが出来る、魚住刑事の魅力にノックアウトさせられる。

警察小説なのに・・・なんでこんなに切なくなるのか・・・?
味わいのある警察小説。
女性におススメ!

『ドンナビアンカ』
著者:誉田哲也
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥670(税別)

ぺトラ・ブッシュのデビュー作にしては凄すぎる「漆黒の森」

ドイツのミステリーが面白い。
ネレ・ノイハウス、アンネ・ホルトにはまり
何かもっと面白い作品はないか・・・と
海外ミステリ棚を物色していたら、
「漆黒の森」というタイトルが目に飛び込んできて
手に取ってみたら、ドイツの新人作家のデビュー作だった。
ドイツ推理作家協会賞新人賞受賞作。
これは面白い!でしょう。

漆黒

編集者のハンナは、取材のため‘黒い森’を訪れていた。
ガイドブック編集のため、森の中をトレッキング中に女性の
死体を発見する。
被害者は、10年前に村を出て帰郷したばかりの妊婦だった。
だが、胎児が消えていた!

フライブルグの刑事警察のモーリッツ首席警部は
捜査のため村を訪れた。

閉鎖的な村での聴取は困難だったが、粘り強く聞き込みを
した結果、村に伝わる‘鴉谷’の不吉な言い伝えや、10年前の
嬰児失踪事件が明らかになってくる。

殺害された女性の家族関係は複雑だった。自閉症の息子を編愛する
母親、その母親と対立する父親と、長男夫婦。
母親と自閉症の息子が中心となった家は奇妙なバランスで
成り立っているように見えた・・・・。

モーリッツ首席警部とハンナは、投宿先が同じこともあり、
事件のことを話し合う内、この村には過去にも奇妙な事が起こっていたことがわかる。

そのうちに第2の殺人事件が起こってしまう・・・。

漆黒の森で何が起きているのか?
閉ざされた小さな村に隠された忌まわしい秘密とは何か?

漆黒の森の描写、閉鎖的な村の人々の複雑な人間関係、
自閉症の男性の思わせぶりな動き・・・
その描き方は新人離れしていて、とてもデビュー作とは
思えない面白さ、素晴らしさ。

最後にアッと言わせる真相と、特別な愛情の表現に思わず
うるっと来る。

ドイツ本国では、モーリッツ首席警部&ハンナシリーズとして
第3作目まで発売中。
早く次作が読みたい。

『漆黒の森』
著者:ぺトラ・ブッシュ/酒寄進一(訳)
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,280(税別)