江戸川乱歩賞受賞作『プリズン・トリック』で鮮烈デビューを果たした、遠藤武文さんの受賞後第2作目がこの『トリック・シアター』(講談社)です。
さら~っと読んでしまうと、トリック解明がわからないので、2回も読んでしまいました。
同日同時刻に500kmも離れた、東京と奈良で起こった二つの殺人。
容疑者はなんと!同一人物?
不可解な案件は、警察庁刑事企画課情報分析支援第2室・俗称「裏店」に回される。
月島署の刑事「私」と矢木刑事は、この不可解な事件捜査のためにその「裏店」に行くように指示された。
そこに現れたのはなんと!!オレンジ色のスーツに身を包んだ男。
その男はキャリアの警視正・安孫子弘。
警察の上下関係やら、組織上でのルールなど歯牙にもかけず、傍若無人な振る舞いをする安孫子警視正。彼に振り回される刑事たち。
しかし彼の事件に対する姿勢と推理能力はベテラン刑事も舌を巻くほどだ・・・。
月島署、奈良県警の刑事たちとともに事件の容疑者を追っているところで、今度は岩手県の閉鎖病棟で密室殺人事件が発生。
ここでも安孫子たちが追っている容疑者が絡んでいることから、彼らは岩手へ向かう。
三つの事件を辿っていくうちに、ありえない事件の真相を知ることになる。
彼らが掴んだ、想像を絶する真実とは!?
ミステリー読者にはこれ以上ない面白さだが、安孫子警視正の超絶キャラがこの作品のもうひとつの魅力。
傍若無人な振る舞いに辟易するも、だんだんとお茶目なやつに感じてくる。
さらに「警察」の正義の部分と暗黒な部分を絶妙のバランスで描いている。
トリックを駆使した警察ミステリーが堪能できます。
この作品で安孫子警視正ファンになってしまったはまさき。
なんとシリーズ2作目が出ていました。
『炎上 警察庁情報分析支援第二室〈裏店〉』 2012年3月 光文社刊(単行本)
読んでみます!
『トリック・シアター』
著者:遠藤武文
出版社:講談社
価格:¥600(税別)
『最後の証人』では、やめ検弁護士として登場した、佐方貞人。
ホテルの一室で起きた男女間のもつれの末の刺殺事件。
単純な事件だと誰もが考えたが、佐方の鋭い洞察力で、事件の真相を暴いた!
このシリーズは、そこからスタートした。
その佐方の若き検事時代を描いたのが、『検事の本懐』。
権力や圧力にも屈せず、事件を解決する佐方の姿は素晴らしかった。
この作品は‘大藪春彦賞’を授賞した傑作短編集。
そして最新刊『検事の死命』は、『検事の本懐』を上回る面白さだ。
こちらも2つの短編と1つの連作短編が収録されている。
第一話『心を掬う』は、郵便物紛失事件が起こり、犯人は判明しているが、
証拠が無いため、逮捕できない。佐方は証拠確保のため、事務官の増田や、
郵便監察官も驚愕する行動に出る。そして手紙に託された、老夫婦の心を救う。
第二話『業をおろす』は、前作『検事の本懐』のなかで弁護士だった佐方の父、
佐方陽世が恩人を裏切る形で罪を犯した事件の顛末が描かれているが、
この事件の真相が語られる。
人のために尽くすと言う思いで、弁護士の仕事を全うしようとした
佐方陽世の苦しみと潔さが描かれ、胸が熱くなった。
第三話と第四話『死命を賭ける 刑事部編』と『死命を賭ける 公判部編』は、
‘迷惑防止条例違反’の案件を徹底的に追及していく法廷ミステリーだ。
女子高生が満員電車で痴漢の被害に遭った。
現行犯逮捕された男は地元の有力者の娘婿だった。
送検されてきた男は「痴漢行為は絶対にやっていない!」と
さらに、女子高生から脅迫まがいのことを言われたと証言した。
佐方は男から聴取したことを、今度は女子高生に確認した。
女子高生は、脅迫まがいのことなど言った覚えはない、自分は
嘘を言っていない!と訴えた。
佐方と事務官の増田は、どちらも真実を語っているように思えた。
しかし、加害者が地元の有力者の娘婿ということ、さらに政治家の
後援をしていることもあり、佐方にかかる圧力はそうとうなものだった。
だが、佐方は検事として事件を明らかにすべく、女子高生と男の身辺を徹底的に調べた。
どちらが嘘を言っているのか?この案件、法廷まで持っていくことが出来るのか?
佐方の検事としての矜持が、人間の心の闇と衝撃の真実を白日の下にさらす!
一見クールだが、検事として正義を貫く佐方の心は熱く燃えている!
素晴らしい作品。
『検事の死命』
著者:柚月裕子
出版社:宝島社
価格:¥1,500(税別)
堂場瞬一さんの文庫描き下ろし最新作『検証捜査』(集英社)があまりに面白くて、出張中のJRの車中でいっきに読んでしまいました。
堂場さんは、「刑事・鳴沢了」シリーズ、「警視庁失踪課」シリーズ、「アナザーフェイス」シリーズなど重厚で、正統派の警察小説を多く描いておられます。
はまさきは、堂場さんの作品では、「刑事・鳴沢了」シリーズと「アナザーフェイス」シリーズを読みました。
作品数が多く、なかなか追いつけないので少しずつ読んでいるところに、この描き下ろしを発見!なぜかこの作品だけ妙に気になり読んでみると、これがどんぴしゃり!大当たりの面白さだったのです。
連続婦女暴行殺人事件の犯人として神奈川県警に逮捕された男性が、裁判で無罪になったことにより、神奈川県警が誤認逮捕した事実が大きく報道されることとなった。
裁判中も神奈川県警の杜撰な捜査が指摘されていたため、国民の警察への信頼が地に堕ちようとしていた。
そこで、警察庁は警察の威信をまもるために、神奈川県警そのものを捜査する特命チームを編成した。
警視庁の敏腕刑事だったが、ある事件により伊豆大島署に左遷されていた神谷警部補は、その特命チームに呼ばれ、警察庁の元で事件を再度検証することに。
特命チームのメンバーは、神谷のほか、北海道警の女性刑事、福岡県警、大阪府警、埼玉県警の刑事たちが集結。
神谷たちははまず暴行されたが奇跡的に生還した女性たちに話を聞くことから始める。
女性たちの話を聞くうちに、神谷たちは神奈川県警の刑事たちがすでになんらかの意図によって捜査していたことに気付く・・・・。
警察内部の攻防、真犯人追跡!
神谷は左遷される原因となった事件と向き合うためどんな結果になろうとも、連続婦女暴行殺人事件の真相を暴く決意をする。
物語の終盤、退職した刑事が言った一言が捜査の行方を決める!
命の危険も顧みず神谷たちが突き止めた真相とは!?
警察庁の元、県警をまるごと捜査する特命チームの活躍!って現実にはありそうで無いと思うけど、それを無理なく読者に読ませるストーリーの面白さ。
神谷警部をはじめ、とても魅力的なキャラクター。
特に神谷警部補がすごく良い。左遷されたのに特命に呼ばれ、とまどいながらも捜査を続ける。
図太いのか、気が弱いのか?一生懸命なのか投げやりなのか?微妙な気持ちがメンバーや上司との会話の中で非常に上手く表現してあり、神谷の人間性が伝わり共感してしまう。
また、物語のテンポ、会話のテンポが非常に良くリズミカル。
さらに大人のラブストーリーも絡ませ、上質なアメリカの警察小説を読んでいるような錯覚に陥った。
今年も多くの警察小説の新作を読みました。
どれもほんとに面白かったのですが、はまさきは、正直に言うとNO1はこの作品かな・・・。
『検証捜査』
著者:堂場瞬一
出版社:集英社
価格:¥820(税別)
「脳男」で鮮烈デビューを果たした、首藤瓜於氏。
一風変わったミステリー作品が多い中、「刑事のはらわた」ほどラストが衝撃だったものは無い・・・・と思います。
(はまさきが今まで読んだ警察小説・・・少ないな・・・。)
「刑事の墓場」「刑事のはらわた」・・・タイトルも変わってるし・・・でも何だろうと思って絶対に手が出てしまう・・・そして読んでしまう・・・。
所轄の刑事だった八神は、幹部に目をかけられ、県警本部へ異例の抜擢。
だが、畑違いの鑑識課でベテラン課員を率いて緊張の毎日。日々、臨場、解剖の繰り返し。
そんなある日、アパートで孤独死した老人の事件で、上司から呼び出しを受ける。
老人はガス漏れによる一酸化炭素中毒で亡くなっており、事件性はないとの判断で決着をつけたが、八神は何か自分の落ち度かと不安になる。
だが上司から知らされたのは、老人が偽名だったこと、職業もなにもかもでたらめであったことだった。
そしてその老人と面識があったのかどうか執拗に聞かれた。
八神はなぜそんなことを聞かれるのかさっぱりわからなかった。
やがて八神はその老人の事件の真相を知ることになるが、その頃から警察組織に対して不信感を抱くようになる。
そんな気持ちを心の奥に秘め、日常の業務をこなしていた頃、新たな事件が発生する。
愛宕港で男性の死体が引き上げられた。窃盗で5か月前に出所したばかりの男だった。
その男は身元を隠し、いつも解剖が行われる大学に清掃員になりすまして入り込んでいた。
男の行動に不審を抱いた八神は、秘かに調べ始める。
やがて、未解決の金塊盗難事件に行き当たる・・・。
前半部分は、事件と鑑識と解剖について綿密に詳細に描いてあり、後半は熱心に金塊盗難事件を調査する八神の姿が描かれている。
なぜ、金塊盗難事件に八神はここまでこだわるのか?八神は何をしたいのか?読んでいるとだんだんわからなくなってくる。
この事件が、この小説が一体どんな決着をみるのか、まったくわからない。でも面白い。気になってしょうがない。
ラスト数ページで全くありえない展開になってしまう。
何なんだ!この小説は!!と怒ってしまうかも知れない・・・・。
でもこれが首藤瓜於の作品なのだ。
正統派の警察小説を読んでいる読者がこの作品を読んだら、絶対にぶっ飛ぶこと間違いなしの超、変わり種警察小説!
『刑事のはらわた』
著者:首藤瓜於
出版社:講談社
価格:¥600(税別)