怪談と本格ミステリーで恐怖と謎解きを存分に味わえる「影踏亭の怪談」

第17回ミステリーズ!新人賞受賞作
「影踏亭の怪談」を含む恐怖の怪談
4作が収録されている、稀に見る面白さ持つ
短編集、大島清昭さんの「影踏亭の怪談」読了。

ホラーテイストのミステリー作品は数多い。
霊的な仕業に見せかけたトリックを使っての
殺人だったりする。
なんだ、そうだったのかと怖さも半減するが、
この作品は違った。

読み終わると、恐怖が倍増するのだから・・・。

怪談作家・呻木叫子(うめききょうこ)は、
民俗学の知識を生かしたルポ形式の怪談
作品を発表している。
ある日、弟が姉、叫子の自宅へ行ってみると
異様な姿で意識を失っていた。
叫子はある旅館「K亭」の霊現象を取材していた。
弟は、その取材の過程で姉に何か起きたのでは?と
疑い、「K亭」に調査に赴く。
しかし、そこで、密室殺人に遭遇する。
「影踏亭の怪談」

首無し幽霊の目撃情報が数多くある、Oトンネル
で、大学生男女5人が興味本位で肝試し。
しかし、そのさなか女子学生の一人が行方不明に!
怪談作家の呻木叫子は、その話を取材するため
彼らに接触。その時のことを再現する中、またしても
トンネル内で凄惨な事件が発生してしまう・・・。
「朧トンネルの怪談」

怪談作家の呻木叫子は、地元のお化けが出るという
「ドロドロ坂」に関連し、親友の息子が神隠しに
あったと連絡が入り、早速親友の元へ向かった。
そこには不気味な話や、神隠しの話が数多くあった。
呻木は親友の息子の手がかりを得るため、神隠しの
取材を丹念に行った。
すると、女が誰かを探す「いるかあ」と言う声を
聞いたとの情報が入手する。
そして、ここでもまた殺人事件に遭遇してしまう・・。
「ドロドロ坂の怪談」

警視庁内部で不特定多数の人が空から降ってきた
冷凍メロンで死亡しているという都市伝説が
流れていた。
そんな中、怪談作家の呻木叫子は、廃工場での
心霊番組の撮影中、頭に落ちてきた冷凍メロンの
せいで意識不明の重体に陥る・・・。
空からあり得ないものが落ちてくる、ファフロツキーズ
現象という超常現象の仕業なのか・・・?
「冷凍メロンの怪談」

霊が人を殺したり、密室を作ったりすることはなく、
それらは全て人間のやることだ。
人間が持つ闇と、この世に未練を残し亡くなった
霊が共鳴し、殺人へと駆り立てるのか?
怪談のあるところは、その要因となる事実が
必ず存在するはず・・・。
これらの事件も「霊」の介在が!?

怪談と密室の見事な融合。
密室殺人の真相が解明されると、それが起こった要因
となった怪談の全てが浮かび上がってくる。

その恐怖と衝撃で、寒気が止まらなくなる。

『影踏亭の怪談』
著者:大島清昭
出版社:東京創元社
価格:¥858(本体¥780+税)

恐怖のバイオホラー「ヨモツイクサ」

知念実希人さんの『ヨモツイクサ』(双葉社)読了。
血も涙もない恐ろしいモンスターに
次々と人が襲われる。
禁断の森へと入った者たちの末路が凄すぎる・・・。

著者には珍しく容赦ないほど怖いストーリー。

黄泉の森は、アイヌの人々が恐れた禁断の地。
そこがリゾート開発されることになり、
その会社の作業員が次々と行方不明になった。

警察は当初ヒグマに襲われたのではと
判断したが、殺戮の仕方が尋常ではなく、
伝説の「ヨモツイクサ」の仕業ではないかとの
疑いが・・・・。

次々と人間を捕食する、正体不明のモンスター
「ヨモツイクサ」VS女医。
過去に家族が神隠しにあい、
その原因を探る中で
遭遇したモンスター。

なぜこんなモンスターが生まれたのか?
昔から伝わる伝説を絡め、現代医学を駆使して
不気味な生物の正体を探るヒロイン。

体重が1tもあるヒグマでさえかなわない、
女医の友人で、最強の猟師も敵の罠にはまる!?

恐るべきモンスターとの熾烈な戦いの
描写が圧巻過ぎる!
そして隠された「超」弩級、
それまでの世界観がひっくり返るほどの
衝撃的真相!

難しい医学用語も多数出てくるが、
それを凌駕する圧倒的リーダビリティで
読者を戦慄の物語の世界へと誘う。

超怖いけど面白すぎる作品!

『ヨモツイクサ』
著者:知念実希人
出版社:双葉社
価格:¥1,848(本体¥1,680+税)

比嘉姉妹シリーズ初の中篇集!「さえづちの眼」

霊能者・比嘉姉妹が登場するシリーズ。
今作は中編が3篇が収録されている。
どの作品も読むとゾワッと背筋に
戦慄が奔る。

貧しくて諍いの絶えない両親。母親からの呪縛。
それに耐えきれず、犯罪に手を染めるように
なったタクミは、フリースクール
「鎌田ハウス」に預けられる。
子どもたちからおっさんと呼ばれる
男にタクミは次第に心を許し、成長してゆく。
ところが、ある日タクミはおっさんと
「鎌田ハウス」の秘密を知る。
恐ろしい何かが憑いたこの家で子どもたちを
襲うものとは何なのか・・・!?
タクミを助けて欲しいと、比嘉真琴に依頼
してきた少女はかつて真琴が助けた少女だった・・・。
【母と】

子どもの頃にUFOを見たと証言した男の子二人。
当時、雑誌やテレビ取り上げられ、町も
彼らも有名になった。巴杵池(はぎねいけ)事件。
その男の子の一人は大人になり、母と一緒に
旅館を経営していた。ある日そこへ子供つれの
母子が宿泊する。
もう一方の男は、その事件を根に持ち旅館に
やってきて大騒ぎをした。
その翌日、巴杵池で男の死体があがった・・。
当時のUFO事件の真相は、想像を絶するもの
だった。
【あの日の光は今も】

昭和30年代、町の大きな屋敷・架守(カガミ)家に
やってきた家政婦は、その家で起こる奇々怪々な
出来事を家政婦紹介所の所長あてに手紙で送っていた。
廊下に響く何かのはい回る音、深夜に光る赤い目、
やがて架守家の一人娘が失踪。
数十年後には当主が不可解な言葉を残し絶命。
この家は何かに祟られていると感じた
若き当主は、架守家への祟りを鎮めるために
霊能者・比嘉琴子に依頼する。
【さえづちの眼】

得体の知れない強烈な悪意を放つ者と
比嘉真琴との壮絶なバトルシーンが
圧倒的迫力を持って描かれる!

UFO事件の裏にあった予想外の真実。
男性の遠い記憶から当時の事件の
真相に迫る、ミステリー。真実が徐々に
明かされる過程の推理が際立っていると思った。

これは完全にホラーだと思って
読んだら完全に騙される。
人間のどす黒い闇と比嘉琴子の駆け引きが
たまらなく面白かった。

『さえづちの眼』
著者:澤村伊智
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥836(¥760+税)

警察ミステリーとホラーの完璧な融合「地羊鬼の孤独」

大島清昭さんの「地羊鬼の孤独」(光文社)読了。
初読みの作家さん。

警察小説・本格ミステリー・ホラーの融合で
絶妙な面白さを生んでいる。

市内で全裸遺体の入った棺が次々と発見された。
その遺体は内臓が模型に変えられるという
無惨なものだった。
犯人の意図や動機が一切判明せず、
殺人事件をつなぐものは、現場に残された
「地羊鬼」という中国の妖怪の名前のみだった。

新米刑事・八木沢は、女性警部補・林原と
コンビを組んだ。
林原は、自称妖怪研究家・船井の協力を得て
心霊や、妖怪といったオカルト方面からも
この事件を捜査にあたった。

それはやがて、過去の連続殺人事件に繋がってゆく。

ところが、捜査が進むと信じがたい状況が現れる。
捜査員が次々と倒れ、本部は壊滅状態に!
もしかして、この捜査本部は呪われてしまったのか・・・!?

さらに、妖怪研究家・船井の蘊蓄の凄さに驚愕する。

呪いの木札、得体知れない者の目撃証言、
心霊スポットで起こる怪異現象など、ホラー要素が
強いが、それがリアルな霊的現象で描かれているのか?
それともオカルト的トリックを使ったミステリー
なのか?その曖昧な境界がとても不気味に感じる。

呪いや幽霊と言った科学では解きあかせない
現象はとても恐ろしいが、生身の人間は
どうだろうか?
人間の心の闇ほど恐ろしく手に負えないものはない。

本格的警察小説にホラー・ミステリーをミックス。
そしてロジックを駆使した推理とどんでん返し、
二重三重の謎解き!ホラーミステリーの恐ろしさ・面白さを
全て詰め込み、まさかのラストに「ありえない!」と
思わず叫んでしまう!鳥肌物の凄い作品。

『地羊鬼の孤独』
著者:大島清昭
出版社:光文社
価格:¥1980(本体¥1800+税)

著者の11年ぶりの新作はゴースト・ストーリー「踏切の幽霊」

高野和明さんの「ジェノサイド」から11年ぶりの新刊
「踏切の幽霊」(文藝春秋)読了。

タイトルから推測するとホラー小説かなと
思って読み始めたが、ちょっと違う。
じわじわと鳥肌が立つシーンもあったが、
読んでいてずっと切なかった。

1994年、東京・下北沢。
新宿~小田原を結ぶ私鉄沿線のとある踏切で、
緊急停止するという事件が頻繁に起こっていた。

ある日、女性誌の記者・松田は編集長から心霊ネタの
取材を命じられた。
踏切の上に立つ女性の写真が心霊写真ではないかと
思われ、写真とさらに映像が別々の読者から編集部に
送られてきた。
どちらも合成ではないかと疑った。

松田は、幽霊などいないと思っていた。
幽霊がいるのだったら、亡くなった妻が
自分の前に会いにきてくれると思うからだ。
でもそんなことはない。

しかし、カメラマンの吉村はどちらも手を
加えた形跡はないと言った。

松田は、映像と写真を送ってきた読者たち
から取材を始めた。

そして、その踏切をカメラマンと調査。
その時、松田は踏切の上に女性の姿を見つける
あわてて踏切内に入ろうとしたがカメラマンに止められる。
カメラマンは女性の姿など見ていないと言った。
一体どういうことなのか・・・?

それから、松田のまわりで奇妙なことが起こり始める。
松田は、新聞記者時代に懇意にしていた警察官に
踏切で女性が亡くなっていないか調べて欲しいと
依頼。すると、1年前にその踏切で女性が殺された
事件があったと判明。
殺された女性の顔は、踏切で撮られた女性と瓜二つだった。
しかし、最後まで彼女の身元はわからなかったらしい。

松田は彼女の身元を調べ、何が起こっていたのかを
明らかにするため動き出す。

警察が必死になって調べても辿り着く
ことのできなかった女性の身元。
そして、なぜ殺されなければならなかったのか?
その謎を追うミステリーと、何かを訴えようと
松田の前に現れるゴーストの物語。

ひたひたと迫る怪異に、衝撃的な怖さはない。
ただただ、静寂の中から悲しい叫びが聞こえて
くるようなそんな怪異だ。
そのシーンを思い描くことによって、じわじわと
恐ろしさが感じられる。

無念を抱えながら死んでいった女性の想いを、
畏れず、抗わず、そのまま受け入れ、彼女の
真の望みを汲み取って安らかな眠りに導いた
松田。

亡くなった妻への想いを抱きつつ女性の
取材を重ねる松田。
その緻密な心理描写に心を打たれる。

「幽霊」というキーワードが入っている
物語でありながら、読後は怖さよりも
切なさや哀しみがあふれる物語。

ずっと余韻が残る「幽霊譚」だ。

『踏切の幽霊』
著者:高野和明
出版社:文藝春秋
価格:¥1870(本体¥1700+税)

恐怖の衝撃波が凄い!「とらすの子」

注目作「ほねがらみ」(幻冬舎文庫)「異端の祝祭」
「漆黒の慕情」(いずれも角川ホラー文庫)
に続く、新進気鋭のホラー作家・芦花公園さんの
最新作「とらすの子」(東京創元社)を読みました。

想像を絶する展開に、開いた口がふさがらない。
なんとも言えない、ヤバい怖さが充満している!

怪しげなオカルト雑誌のライター・坂本美羽は、
編集長から、都内で発生している、無差別
連続殺人事件の取材をし、記事を書けと
無理やり押し付けられた。

そのニュース記事はネットにあふれている。
被害にあった人たちは、みな無残な
死体となって発見されている。

気持ち悪い。なんでこんな事件を・・・・と
美羽は思った。しかし、編集長にNOと言えば
首になるかもしれない。

しぶしぶ引き受けた美羽。絞り込んだ検索
キーワードに反応があった。
美羽は「都内無差別連続殺人事件の犯人を知っている
助けてください」という書き込みを見つける。

早速連絡し、取材に出かけた。
そこにいたのは、少女だった。

彼女が語った「とらすの会」。
みな優しくて、家族みたいで居心地がよかった。
その中でも「マレ様」は嘘みたいに綺麗で、
熱心に悩みを聞いてくれて、さらに抱きしめて
くれる。
だが、〈会議〉と称される告白会では、
誰かがマレ様に「許せない人」への恨みを訴える。
その会に参加していた人たちが口々に煽ると、
翌日、その「許せない人」は死体で見つかる。
それが怖くて「とらすの会」に行かなくなったら
裏切者と責められた。私も殺される!と

錯乱状態に陥った少女は、美羽の目の前で
突如、爆発するように体がバラバラになり
死んでしまった・・・・。

美羽は、スクープを狙い、「とらすの会」に
潜入する。

人を恨む、憎む、それが高じると、殺戮も
厭わなくなる。
大きく深い「恨み」を持った人間の恐ろしさ
が浮き彫りにされている。

眼をそむけたくなるような「殺戮」を繰り返す
「マレ様」と、「とらすの会」の謎に迫る
カルトホラー。

結末がどうなるのか?気になって、最後まで
イッキ読み。

この夏、最凶のホラー作品が登場した!

『とらすの子』
著者:芦花公園
出版社:東京創元社
価格:¥1,760(¥1,600+税)

闇を押し付けられる恐怖!「闇祓」

話題になっていて、早く読みたいと思っていた
辻村深月さんの「闇祓」(KADOKAWA)を
読みました。

読後感じたことは、現代社会は「闇」に
覆われているということ。
今身近にも闇が迫っている、他人ごとではない
と思いました。

寡黙で何を考えているのかわからないから
クラスで一人浮いている転校生・要に、
親切に接する真面目な委員長・澪。

しかし、そんな彼女に要は不審な態度で迫る。
ちょっと距離感の取り方に疑問を持った澪は、
友人たちに相談するが「好かれてるんじゃない?」と
からかわれる始末。

ところが、唐突に「今日、家に行っていい?」と
尋ねたり、家の周りに出没したりするようになりと
かなりヤバい行動を繰り返す要に恐怖を覚えた澪は
憧れの先輩・神原に助けを求めるが――。

デザイナーズマンションのようにリフォームした
団地で、住人たちが次々と事故や不幸に見舞われる。
そこには一人の不気味な主婦がいた。

小学校に男子児童が転校して来てから、クラスの
様子がおかしくなった。彼の正義を振りかざし、
クラスを支配する・・・。

あるサラリーマンは、営業部に異動してきた
ベテランの男性社員を執拗に怒鳴る上司に
辟易していた。同僚の女性先輩に相談し、
何とかしようとするが・・・・。
ベテラン男性社員の異動から部内が険悪になってゆく・・・。

「闇をおしつけ、周囲の人達を不幸のどん底に突き落とす。
そしてたくさんの人が死ぬ」

「闇」をまとったやつらが周囲の人間を
巻き込んでゆく。身近にある名前を持たない
悪意が増殖し、闇となり迫ってくる・・・。

4つの短編に描かれる物語は、
普通の人間が徐々に壊れてゆく様が非常に
リアルに描かれ、他人事とは思えない。

直接の暴力や言葉で相手を追いつめるのではなく、
ただ闇が持つ「正義」の理論を押し付けるだけ。
それだけで人は何が正しいのか?自分はどうすれば
良いのかわからなくなり、自我を失い、ある者は
自殺、ある者は殺人に走り、ある者は狂気に陥る。

その闇を祓うのが「闇祓」だ。
闇をまとうやつらを追いつめ、そして闇を祓う。

序盤、度肝を抜かれる展開から目が離せない!
いっきに読ませる面白さであっという間に
読み切ってしまった。

生きてる人間の悪意が一番怖いかもと思った。

『闇祓』
著者:辻村深月
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,870(¥1,700+税)

監禁パニックホラー!「ママ」

窪田正孝さん主演で映画化が決まった、
衝撃ホラー「スイート・マイホーム」の著者
神津凛子さんの第2弾「ママ」を読みました。

なぜ自分がこんな目に合わなくては
ならないのか?
娘と二人、健気に生きる母親を襲った
突然の恐怖!

シングルマザーの後藤成美はパートで生計を
立て、一人娘のひかりと二人慎ましく暮らしている。
貧しいけれど、ひかりがいれば何もいらない。
愛する人が残してくれた唯一の生きがい・・・。

パート先では、成美と同じ境遇のママ友もできた。

しかし、成美たちが暮らす団地で隣人の行き過ぎた
おせっかいに頭を悩ませていた。
成美はその隣人に、「どうしても母になれなかった女」
を感じ、自分の母親と似ていることで、嫌悪感を
抱いていたのだ。だが・・・。

ひかりから決して目を離してはいけないと
改めて誓ったその後、突然、首を絞められ
意識を失った。
目を覚ませば見知らぬ密室で手足を拘束されていた。
一体なぜ?
成美をよく知ったような態度で迫る、目の前の男は
誰なのか? 娘のひかりはどうなったのか?

なぜこんな目に合わねばならないのか?

恐怖と絶望に支配される成美。
このまま死んでしまったら、ひかりに会う
ことはできない。
絶対にひかりのもとへ行く!
その思いだけが成美を動かす。

成美とひかりの小さいながらも幸せなひとときの
シーン。読んでいると泣けてくる。
だからこそ、この監禁シーンの異常性が際立つ。

男が成美を監禁した目的とは何か?

戦慄の展開だが、圧倒的なリーダビリティで
最後までいっきに読ませられた。

『ママ』
著者:神津凛子
出版社:講談社(文庫)
価格:¥770(¥700+税)

たとえようのない気味悪さ。でも止まらない「異端の祝祭」

KADOKAWAホラー文庫激押しの一冊。
芦花公園さんの「異端の祝祭」を読みました。

民俗学×カルト×ホラー。
開けてはいけない扉を開いてしまった・・・。
そんな感じの「禁忌」なホラー。

島本笑美は、自己肯定感が低い女性。
そのせいで、小さいころからいじめにあい、
就職もままならない。
兄に頼っているばかりだった。
ところが、ダメ元で受けた大手食品会社
「モリヤ食品」の青年社長に気に入られ
内定を得る。

しかし、研修と称し連れてこられたのは
山の中にポツンと建つ施設。
そこで笑美が見たものは奇声を発し
床を這いまわる人々だった。

一方、笑美の様子を心配する兄の陽太は、
心霊関連を専門に扱う佐々木事務所を
訪れ、妹のあとをつけ、妹が何をして
いたのかを詳細に語った。

佐々木事務所の所長・佐々木るみは
陽太の話を聞き、笑美が非常に危険な
状態にいると判断。
すぐに動かないと取り返しのつかない
ことになる・・・。

所員の青山幸喜とともに、モリヤ食品
の青年社長を訪ねる。

登場人物が、人ではない何かが見える
人たち。
その力を使って他人をコントロール
する者、あるいはその力に絡めとられ
ようとする人を助ける者。

そのすさまじい闘い・・・。

そして、「人ではない何か」の描写が
あまりにも薄気味悪い。

読み始めてから、あ~これはヤバイ展開
と危機を感じたが、すでに取り込まれて
しまい、ハラハラしながら読み切った。

幽霊的な怖さより、壊れてしまった人の
力の方が数段恐ろしい。

それでも、佐々木&青山コンビに救われる。
気味悪さもどこかへ消えてしまった。
このコンビの活躍、また読みたいと思った。

『異端の祝祭』
著者:芦花公園
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥748(¥680+税)

比嘉姉妹シリーズ最新作「ぜんしゅの跫」は怖かった!

澤村伊智さんのホラー短編集『ぜんしゅの跫』
は、霊媒師・比嘉姉妹シリーズ最新作!
「鏡」「わたしの町のレイコさん」
「鬼のうみたりければ」「赤い学生服の女子」
「ぜんしゅの跫」の5編のホラー短編作品を収録。

「鏡」
子どもを授かった若い夫婦。
生まれてくるのは女の子で、夫婦は
娘の将来の幸せを願った。
夫はその日、知人の結婚披露宴に
出席する。ところが会場の
レストルームの鏡を見た瞬間
不気味な男の姿を見てしまう・・・。
「ぼぎわんが、来る」の前日譚。

「わたしの町のレイコさん」
都市伝説にまつわるホラー。
トイレの花子さんみたいな都市伝説
的なホラー話が大好きな女の子。
巷では、ゲイのレイコさんが
ナイフを片手に男の子を追いかける!!
という噂話が。その真実を調べる内に
過去の悲劇が明らかに!

「鬼のうみたりければ」
双子の男の兄弟で、兄の方が
神隠しにあって行方不明なった。
弟の方は成長し、結婚。
しかし、不景気でリストラにあった。
妻は仕事、家事、育児さらに
老いた義母の介護までするはめに!
もう限界!と悲鳴をあげそうに
なった頃、ひょっこり兄が帰ってきた!!
この人本物の兄なの・・・?

「赤い制服の女子」
事故にあい、重傷を負った男性。
入院している病院で怪事件が。
赤い学制服の女の子が呼んでいると
話していた入院患者が次々と
亡くなってしまった。
次は俺の番か・・・と思っていた
ところで!!!

「ぜんしゅの跫」
真琴と野崎の結婚式。姉の琴子は
祝いに駆け付けるが、真琴に怪我を
させてしまう!
琴子は真琴が引き受けていた
「見えない通り魔」事件の
調査に乗り出す。
かりかりかりと不気味な音を
出すそれは、巨大な化け物
だった・・・・。

「ぼぎわんが、来る」の前日譚
は不気味で怖かった。
一番怖かったのは、「鬼のうみたりければ」。
兄とはいったい何者か?ラストの衝撃は
半端なかった!
表題の「ぜんしゅの跫」は、比嘉姉妹
と化け物との対決が読みどころ。

どの作品もいったい何が出てくるのか
という怖さに対する期待感が膨らむ!
その期待を裏切らないストーリー展開に
100%満足!

『ぜんしゅの跫』
著者:澤村伊智
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥640(税別)