廃駅鉄のための、究極ミステリー!「帝都地下迷宮」

移動は空よりも、陸。鉄道に限る。
特に鉄オタではないが、鉄道警察ものや、
トラベルミステリーはよく読んでいた。
でも、「地下」にはこんな世界があったなんて!!

廃駅になった、地下鉄を舞台に繰り広げられる
サスペンスミステリー。
これは、面白い!!

生活保護の申請や受給を担当する市役所
職員・小日向。
実は鉄道マニアだ。特に廃駅となった
地下鉄を見るのが好きだ。
しかし、廃駅はそういうツアーに参加
しないと見られない。

それだけでは満足できず、ある日とうとう
我慢しきれずに、廃駅で立ち入り禁止となっている
地下鉄銀座線萬世橋駅へ潜り込む。

誰もいない廃駅を一人堪能していると、
一人の少女と出会う。
なんと、彼女はこの廃駅で暮らしているという。
違法な手口で潜り込んだ小日向に疑惑の
眼を向ける。

その駅には、少女のほかに100人もの人たちが
隠れて暮らしていた。

彼らは政府の「ある事情」により地下での
生活を余儀なくされた謎の集団
「エクスプローラー」だった。

彼らの事情を聞いた小日向は、公務員としての
正義感がむくむくと沸き上がり、特別に
「エクスプローラー」の一員となった。

ところが、仲間の女性が地上で殺害された。
小日向は、捜査一課・公安から事情を聞かれた。
一体何が起こっているのか?
小日向は「エクスプローラー」に危険が
迫っていることを感じ、彼らのために
一世一代の大勝負に出ることを決心する!!

国家を揺るがす「エクスプローラー」が
持つ秘密とは何か?
仲間の女性を殺したのは誰なのか?
その謎を追うミステリーと、政府、警察を
巻き込んだハラハラドキドキの逃走劇!

サスペンスミステリーの面白さと、廃駅
が舞台という、廃駅鉄をも満足させる
究極の鉄道ミステリー。

『帝都地下迷宮』
著者:中山七里
出版社:PHP研究所(文芸文庫)
価格:¥924(¥840+税)

恐怖の衝撃波が凄い!「とらすの子」

注目作「ほねがらみ」(幻冬舎文庫)「異端の祝祭」
「漆黒の慕情」(いずれも角川ホラー文庫)
に続く、新進気鋭のホラー作家・芦花公園さんの
最新作「とらすの子」(東京創元社)を読みました。

想像を絶する展開に、開いた口がふさがらない。
なんとも言えない、ヤバい怖さが充満している!

怪しげなオカルト雑誌のライター・坂本美羽は、
編集長から、都内で発生している、無差別
連続殺人事件の取材をし、記事を書けと
無理やり押し付けられた。

そのニュース記事はネットにあふれている。
被害にあった人たちは、みな無残な
死体となって発見されている。

気持ち悪い。なんでこんな事件を・・・・と
美羽は思った。しかし、編集長にNOと言えば
首になるかもしれない。

しぶしぶ引き受けた美羽。絞り込んだ検索
キーワードに反応があった。
美羽は「都内無差別連続殺人事件の犯人を知っている
助けてください」という書き込みを見つける。

早速連絡し、取材に出かけた。
そこにいたのは、少女だった。

彼女が語った「とらすの会」。
みな優しくて、家族みたいで居心地がよかった。
その中でも「マレ様」は嘘みたいに綺麗で、
熱心に悩みを聞いてくれて、さらに抱きしめて
くれる。
だが、〈会議〉と称される告白会では、
誰かがマレ様に「許せない人」への恨みを訴える。
その会に参加していた人たちが口々に煽ると、
翌日、その「許せない人」は死体で見つかる。
それが怖くて「とらすの会」に行かなくなったら
裏切者と責められた。私も殺される!と

錯乱状態に陥った少女は、美羽の目の前で
突如、爆発するように体がバラバラになり
死んでしまった・・・・。

美羽は、スクープを狙い、「とらすの会」に
潜入する。

人を恨む、憎む、それが高じると、殺戮も
厭わなくなる。
大きく深い「恨み」を持った人間の恐ろしさ
が浮き彫りにされている。

眼をそむけたくなるような「殺戮」を繰り返す
「マレ様」と、「とらすの会」の謎に迫る
カルトホラー。

結末がどうなるのか?気になって、最後まで
イッキ読み。

この夏、最凶のホラー作品が登場した!

『とらすの子』
著者:芦花公園
出版社:東京創元社
価格:¥1,760(¥1,600+税)

女子高性探偵、再び活躍!!「優等生は探偵に向かない」

「自由研究には向かない殺人」で5年前に起きた
殺人事件の真相を暴いた、女子高生のピッパ。
しかし、その代償はピッパにとっては大きかった。
家族同然の愛犬を喪い、友達の運命を変え、
自分の身も危険だった。そのことがあり、二度と
探偵みたいなマネはしないと心に誓っていた。

ところが、友人のコナーがピッパに助けを求めてきた。
24歳になる兄の行方を捜して欲しいという。
ピッパは頑なに拒否したが、警察に相談しても
全く相手にされなかったという。

コナーは、2週間前から兄・ジェイミーの様子が
おかしかったと話した。
ピッパはコナーの必死さに根負けし、一肌脱ぐことに!

そして、アンディ・ベル事件の顛末を流している
ポッドキャストを使って調査の進捗を配信
して欲しいとコナーから頼まれる。
ピッパはリスナーから手がかりを集めていく。

さらに、関係者へのインタビューや、SNSを
丹念に調べていくと、失踪までのジェイミーの
足取りが少しずつ明らかになっていった。

アンディ・ベル事件の時もピッパの推理力と
洞察力はずば抜けていた。
今回もその能力は遺憾なく発揮され、次第に
事件の全貌が明らかになる。

しかし、それは隠された大きな秘密を暴く
危険極まりない行為でもあった。

驚天動地のクライマックスに唖然とする。

今回も、大切な友人のために必死で事件を
追うピッパに脱帽!

『優等生は探偵に向かない』
著者:ホリー・ジャクソン/服部京子訳
出版社:東京創元社
価格:¥1,430(¥1,300+税)

夏休みの自由研究が殺人事件の捜査!?「自由研究には向かない殺人」

本屋大賞翻訳小説部門第2位!
ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」読了。

女子高校生が、夏休みの自由研究に、自分の育った
町で起こった殺人事件の真相究明をするという
前代未聞のミステリー。
主人公・ピッパの勇気ある行動に感動!

リトル・キルトンに住む、高校生のピッパは、
5年前にこの町で起きた、17歳のアンディ・ベル
失踪事件を自由研究の題材にした。

当時の警察は、アンディ・ベルはすでに
殺されたとして、その容疑者を追っていた。
そして、容疑者扱いされたのは、サリル・シンだった。
アンディ・ベルのボーイフレンドで、アンディと
揉めていたのがその理由らしい。
しかし、そのサリルも森の中で遺体で発見された。

警察は、サリルがアンディを殺し、自殺したと
して捜査を打ち切った。

サリルと親しかったピッパは、彼が人を殺すなんて
ありえない絶対に違うと信じていた。
そして、サリルの無実を証明するために自由研究を
口実にし関係者を調べることにしたのだ。

情報の主な入手方法は、関係者へのインタビューだ。
アンディや、彼女の友人たちのSNSからも情報を
入手した。
やがて、サリルの弟・ラヴィがピッパの相棒となった。
心強い味方を得たピッパは、ラヴィとともに
さらに踏み込んで行く。

すると、身近な人物が容疑者に浮かんでくる・・・。

女子高性が、関係者にインタビューしたり、
彼らのSNSから様々な情報を得るなどして
事件の真相に迫ってゆく過程。
普通だったら聞き逃したり、見逃したり
するけれど、ピッパの推理力と洞察力が
凄かった。このあたりはが謎解きとして
読み応えがあった。
危険を顧みずに、潜入しちゃうろころは
ハラハラドキドキ。

大切な人のためになんとしてでも事件の真相を
明らかにしようとするピッパの勇気ある行動に
心が揺さぶられた。

『自由研究には向かない殺人』
著者:ホリー・ジャクソン/服部京子訳
出版社:東京創元社
価格:¥1,540(¥1,400+税)

ワクワクが止まらない、凄すぎるミステリ作家ラインナップ!「本格王2022」

本格ミステリ作家クラブが厳選した6作品。
ミステリファンにはたまらない超豪華
ラインナップに期待が高まる!

その町で50年ぶりに殺人事件が起きた。
事件があった夜、一匹の犬が事件現場から消えた。
その犬を必死に探す、女刑事。
その犬を探すため、女刑事は怪しいと知りながら、
民間の動物専門の探偵会社に依頼する。
なぜ、そんな危ない橋を・・・?その理由にハッとする。
道尾秀介「眠らない刑事と犬」

悪役を演じてきた俳優の家にお茶に誘われた
女性。彼女はかつて家政婦を務めた初日に、
毒殺事件を目の当たりにしたという。
犯人も、どうやって毒を盛られたのかもわからず迷宮入り。
「カラマーゾフの兄弟」からインスパイアされた、
犯人当てミステリー。その真相に「こうきたか!?」と思わず唸る。
大山誠一郎「カラマーゾフの毒」

庭付きのマイホームを購入しようと思い立った
元刑事は、早速不動産屋へと向かう。
そこで紹介された物件は、元刑事が現役時代
事件の捜査で何度も足を運んだ物件だった。
マンションの階段から転落死した女性。
当初は自殺とみられたが、遺書も動機も
なく、他殺の疑いがあるとされた・・・。
元刑事が辿る思考・・・。ぞわりぞわりとさせられる。
芦沢央「アイランド・キッチン」

生物の影を喰らい、その生物を死に至らしめる影魚。
友人と二人、別荘へいくつもりが山で迷ってしまい、
「影魚」の生息地へ踏み込んでしまった。
影を食べられると1時間で死んでしまう。
その前に影魚用の特効薬を飲めば助かる。
しかし手元には1錠しか残っていない。
その影魚に喰われたのは、友人か?愛犬か?
どちらに飲ませるか?究極の二者択一!
著者得意の特殊設定物。驚きのどんでん返し!
方丈貴恵「影を喰うもの」

初めての合コンに参加した、男子大学生に
ふりかかった思わぬ幸運。5人もの女性から
好意を持たれるが、一人だけが本命であとの
4人は地雷だらけの訳ありなのだ。
本当に彼を好きな女性は誰なのか?
「彼を好き」という情報しかない中、
地雷を踏まず、運命の人を見つけることは
出来るのか?細々と探り当てる情報から
消去法で「運命の人」を推理する。
超面白いユーモアたっぷりのミステリ。
浅倉秋成「糸の人を探して」

兄が執筆中の犯人当て推理小説の手書き
原稿を汚してしまった弟とそのクラスメート。
二人は何とかして汚れてしまった部分を
復元しようと試みるが・・・。
復元場所が提示され、読者もついつい推理に
してしまいそうになる「読者への挑戦状」
めいた展開にもなっていて楽しい。
森川智喜「フーダニット・リセプション」

人気ミステリ作家競作!短編だけれど
読み応えたっぷりの傑作アンソロジー集。

『本格王2022』
著者:道尾秀介/大山誠一郎/芦沢央/方丈貴恵/浅倉秋成/森川智喜
出版社:講談社
価格:¥924(¥840+税)

交換殺人の行方は・・・?「拝啓 交換殺人の候」

「希望の死んだ夜に」の仲田&真壁シリーズ
「境内ではお静かに」シリーズの著者・天祢涼さんの
新刊のテーマはミステリーの定番である、
「交換殺人」。ワクワクな展開が待っている!

会社でパワハラにあい、悔しい思いを胸に
退職した秀文。
社会復帰を目指すが、パワハラで傷ついた
心は早々に癒えず、そのことで絶望した。

そして、「もうだめだ」と悟り、神社の
境内で首を吊ることを決心する。
秀文は神社の桜の木に登った。すると大きな
洞の中に白い封筒があるのを見つける。
それは、なんと交換殺人の依頼状だった。

〈どうせ死ぬなら殺してみませんか〉
と書かれた依頼状。交換殺人がバレないように
詳細なルールが決められている。
・やりとりは基本手紙
・手紙はパソコンで書く
・返事はこの洞に入れる
・お互いの事情は詮索しない

予期せぬ誘いだったが、秀文は自分にパワハラ
をして絶望の淵に追いやった男を殺して欲しいと
思った。
しかし、殺してくれたら、今度は自分が誰かを
殺さなくてはならない。それが出来るのか?
迷いに迷った秀文は、手紙を置いた人物が再び
現れるのを見張ることにした。
そして、そこに現れたのは、セーラー服の
女子高性だった・・・!

秀文は、手紙に自分の思いをつづり、再び洞に
向かい、返事を置いた。
しばらくすると、女子高生から返事が届く。

いよいよ本格的に交換殺人の計画が動き出すのか?
と思いきやそれは、奇妙な往復書簡と化してしまう。
二人が計画した「交換殺人」の結末は!?

あまりにもあまりにも予想外の展開!
こんな「交換殺人計画」があってもいいのか!?
いったい読者をどこへ誘うと言うのか?
ツッコミまくりのトンでも展開、
ワンアンドオンリーな物語と衝撃的面白さで
ラストまでイッキ読み。

見事な天祢マジックにしてやられる!

『拝啓交換殺人の候』
著者:天祢涼
出版社:実業之日本社
価格:¥1,650(¥1,500+税)

科学捜査に焦点を充てた傑作ミステリー「最後の鑑定人」

岩井圭也さんの「最後の鑑定人」読了。
初めて読む作家さんの作品。
内容は、はまさき好み!読んだらやっぱり
当たりでした!
とても面白かった。

「彼に鑑定できない証拠物なら、ほかの誰も
鑑定できない」と言わしめた男・土門誠。
科捜研のエースとして期待されながら、ある
事件をきっかけに科捜研を辞職。
そして民間の鑑定所を開業した。

土門は、「科学は嘘をつかない、
嘘をつくのはいつだって人間だ」と常々
思っている。
無駄な話は一切しない変人だが、群を抜いた
鑑定能力で難事件を解決してゆく。
土門とともに鑑定所で働くのは、
データ入力専門の高倉柊子。

女子大生殺害事件で逮捕されたのは、
殺された女子大生の元恋人だった。
その事件の裁判の前に土門のもとに
持ち込まれたのは、2種類のDNA鑑定。
一方は、被疑者が犯人であることを示し、
もう一方は彼が犯人でないことを示していた。
通り一遍の「DNA」鑑定では明らかに
ならなかった驚愕の真実!
「DNA」鑑定の凄さを改めて認識する。
「遺された痕」

技能実習生として縫製工場で働く7人のベトナム人。
雇用主は彼らのことを大切にしてくれる申し分
ない人だった。ところが彼らが住む家から火の手が
あがる。火を放ったのは、ベトナム人の一人。
出火直後に自ら通報してきたが、完全黙秘を貫く!
火災現場を詳細に調べ上げ、炎の動きと現場の
遺留物から放火の真相を導き出す!
その真相があまりにも悲しい。
「愚者の炎」

海から引き揚げた自動車に白骨死体と大量の
宝飾品が見つかった。調べてみると宝飾品は
盗品と判明。
身元の特定をしたい警察から依頼を受けた土門は、
DNA鑑定で停滞する捜査に風穴を開け、さらに
科警研に複顔を依頼する。が・・・。
DNA鑑定と複顔で徐々に白骨遺体の正体が明らかになる
過程が非常に面白い!そして、土門の過去も明らかに!
「死人に聞け」

年配の女性から娘の遺品を鑑定して欲しいとの
依頼が舞い込む。ところが、娘の名前を聞いた
土門は激しく動揺する。その娘とは、元刑事で、
科捜研時代の土門も関りがあった「ある事件」の
後に警察を退職していた。
娘の死の理由と、土門が科捜研を辞めた「ある事件」
の真相とは!?
「風花した夜」

孤高の鑑定人・土門の鑑定で明らかになる事件の真実。

科学的根拠から説得力のある謎解きが非常にリアルで
面白かった。
徹底的に鑑定することで、想像もできなかった衝撃的
過ぎる真相にたどり着く、科学捜査の凄さを
まざまざと見せつけられた。

これはぜひシリーズ化して欲しい!!!

『最後の鑑定人』
著者:岩井圭也
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,870(¥1,700+税)

前代未聞!タイムリープ×法廷劇「幻告」

五十嵐律人さんの「幻告」(講談社)読了。
SF的展開とミステリーと法廷劇がミックス
され、今まで読んだことのない衝撃が
味わえる!

裁判所書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)。
ある日、法廷で意識を失って目覚めると、そこは、
父親が有罪判決を受けた、5年前の裁判のさなかだった。
傑が幼い時、父親が母親が離婚し、父親は
別の家庭を持った。
その父がなんと娘に強制わいせつを働いたというのだ。
傑にとってその事実はあまりにも衝撃的だった。
父は無罪を主張したが、判決は変わらなかった。

傑は、当時の事件資料を読み込み、
父親が冤罪である可能性に気づく。
そして、タイムリープを繰り返しながら真相を
探り始める。

タイムリープは、過去に影響を与えるため、現在が
少しづつ変化し、これまでの仲間たちをを喪ってしまう。
それでも、過去と未来を往復する中で、相関関係にある
いくつかの事件の存在も明らかになってくる。

傑がタイムリープするたびに真相に近づいてゆく。
父の冤罪を晴らしたい、その思いが強くなって
ゆくが、最悪の事態が傑を待ち受ける。

緻密な時間軸設定、複雑に絡み合う事件、人物たち。
これほどまでに複雑な物語を見事に着地させて
しまった手腕に瞠目する!

父親の冤罪を明らかにする、その先の理不尽な
死が待つ未来を変える!

SF的タイムリープ×ミステリー×迫真の法廷劇
×どんでん返しに次ぐどんでん返し!
究極の面白さが詰まった前代未聞のリーガルミステリー。

『幻告』
著者:五十嵐律人
出版社:講談社
価格:¥1,870(¥1,700+税)