ミステリー作家の新人発掘「このミステリーがすごい大賞」には、
大賞受賞作のほかに、大賞受賞には至らなかったが、将来性を
感じた作品を編集部が推薦し「隠し玉」として刊行しているものがある。
その「隠し玉」の傑作を発見!
たまたま時代推理小説をピックアップしていた時に
タイトルが気になったので、読んでみました。
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」です。
いやいや~これはほんとに!まさに!「隠し玉」!!
こんなに面白い作品、隠すなよ~と言いたくなるくらい
面白かったです!
江戸の両国橋近くに住むおゆうは、ある日、老舗の
薬種問屋の主人から、殺された息子の汚名をそそいで
欲しいとの依頼を受ける。
そんな責任重大なお役目、自分に出来るか!?
誰の入れ知恵だ?といぶかしむ、おゆう。
その人物はすぐに判明。
そう、ある事件で八丁堀の同心・鵜飼伝三郎に
手を貸したことがあったのだ。
おゆうは早速伝三郎とともに、薬種問屋息子殺害の
調査に乗り出した。
遺体発見現場は、誰も住んでいない長屋の一室。
二人は遺体が引き揚げられた後の現場を見て、
この場所は殺害現場ではないと判断。
どこか別の場所で殺され、ここへ運ばれたのだ・・。
おゆうは、遺体遺棄現場に落ちていた、血まみれの
手拭いを拝借すると家に持ち帰った。
その手拭いをある場所に持ち込み、鑑定を依頼するためだ。
実は、おゆうの正体は平成の東京に暮らす、元OL・関口優佳だ。
彼女は家の扉をくぐって江戸と現代を行き来する
二重生活を送っていた。
優佳が現場から無断で持ち帰った証拠品は、高校時代に
知り合った化学分析ヲタクの元で科学鑑定される。
現代科学を駆使し、殺人事件の謎に迫る優佳だったが、
江戸の人間に、血液鑑定や指紋鑑定など説明することは
不可能だ。
そこで優佳は、江戸の同心や奉行所の役人が納得できるような
ストーリーを作り上げるのだ。
刑事になりたいと思ったこともある、優佳の鋭い洞察力と
ロジックを駆使した推理で、相棒の同心・伝三郎を始め、
岡っ引きの源七、奉行所の役人を納得させてしまう。
その推理の過程がとても斬新で面白い。
また、本格ミステリのように2転、3転、4転までする
どんでん返しは飽きることがない。
同心・伝三郎の力を借り、八丁堀のおゆうとして江戸時代に
溶け込む女性がとても生き生きと描かれている。
さらに脇を固めるキャラや適役もしっかりと描き込まれ、
読んでいると映像として浮かび上がってくるほどリアル。
そして、伝三郎とおゆうの恋の行方も気になる!
久しぶりに江戸の雰囲気を感じられる作品で、
読み終わる時ちょっとさびしい気分になってしまった。
今後シリーズ化して欲しい作品!
『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』
著者:山本巧次
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥680(税別)