刑事マルティン・ベックシリーズ傑作の第2作「煙に消えた男」

刑事マルティン・ベックシリーズ新装版2作目「煙に消えた男」を読みました。
「ロセアンナ」を読んだ後、違うミステリーを読もうと思ったのですが、
マルティン・ベックの世界に引き込まれ、手に取ったのでした。

そんな不思議な魅力を持つこのシリーズ。
シリーズ第2作目、新装版のタイトルは「煙に消えた男」。
以前の翻訳では「蒸発した男」と訳されていました。
なんだか新訳の方がより、ミステリアス・・・・?

煙に消えた

刑事マルティン・ベックは、夏休み休暇を妻子と一緒に島で
過ごすことにしていた。忙しい刑事も一か月の夏休み休暇は嬉しい。
島に着いて妻や子どもたちとゆったり過ごしていると、
上司から呼び出された。
「これは君にしか出来ない仕事だ。」
上司の命令で、外務大臣側近と接触したマルティン・ベックは、
ハンガリーのブタペストで消息を絶った男性の捜索を依頼された。
その男性とは、かつて防諜活動機関の調査対象となった
スウェーデンジャーナリストだった。

ほとんど手掛かりのない中、マルティン・ベックはその男の
ジャーナリスト仲間から話を聞くことにした。
だが、話を聞いても重要な情報は得られなかった。

当時の東ヨーロッパ諸国は「鉄のカーテンの向こう側」と呼ばれていた。
そんな国へ、消えた男の行方を探すためにベックはたった一人で旅立った。
期限はわずか1週間。

いったい男はどこへ消えたのか・・・?

マルティン・ベックは、見知らぬ国で男に関する手掛かりを探りながら
徐々に情報を集めてゆく・・・。

謎めいた女性の出現はハニートラップなのか?
マルティン・ベックを付け狙う怪しい影。
数々の危険に遭遇しながら捜査を進めてゆくと
想像すらしなかった男の秘密に突き当たる!

刑事マルティン・ベックシリーズ第2作目は、
このシリーズの面白さを決定づける傑作に仕上がっている。

「ロセアンナ」は実直な刑事捜査小説で当時の読者の度肝を抜いた。
2作目は、地味な捜査から一転!スパイ小説のような仕上がりだ!
この変化にとんだストーリー展開は、今でも色あせない!
臨場感にあふれている!
さらにマルティン・ベックを初めとするキャラクターの個性が
決定づけられ、これからの作品に大いに期待を抱かせる!

次の作品は、シリーズ3作目「バルコニーの男」です。

『刑事マルティン・ベック 煙に消えた男』
著者:マイ・シューヴァル/ペール・ヴァ―ルー 柳沢由実子訳
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,040(税別)

刑事マルティン・ベックシリーズ新装版、記念すべき第1作「ロセアンナ」

1964年にスウェーデンで刊行された「刑事マルティン・ベック」シリーズ。
日本では、今から20年くらい前に英語版から翻訳された
「刑事マルティン・ベック」シリーズが大ヒットしていた。
はまさきも、その英語版から翻訳されたものを読んだ。
確か、高見浩さんの訳本だった。
すごく面白くて、このシリーズにはまりシリーズ10作を2回は読んでいる。

そして、昨今の「北欧ミステリー」ブームで、
このシリーズも新訳で登場!スウェーデン語から直接
訳しているので、英語からの訳本とは多少言葉などが
違うらしい。
2013年に、日本でシリーズ中一番人気の「笑う警官」が
(シリーズ4作目にあたる)新訳で発売された。
訳者は柳沢由美子さんだ。読みやすい!
本の表紙も以前のシリーズと比較すると北欧ミステリーらしく
渋くて暗くてかっこいい!!

ところで、この「ロセアンナ」、以前のタイトルは「ロゼアンナ」
だった。英語読みはそうなるらしいが、スウェーデン語読みだと
濁らないそうだ。なるほど!新訳らしい発見!

そして、刑事マルティン・ベックシリーズの記念すべき
第1作目がこの「ロセアンナ」だ。
スウェーデン国民に衝撃を与えた、警察小説の金字塔。

ロセアンナ

モーターラのボーレンスフルトの閘門で全裸女性の
絞殺死体が見つかった。
ストックホルム警察の殺人課に所属する、刑事、
マルティン・ベックは、モーターラの地方警察に赴き、
事件のサポートをすることになった。
地方警察で手に負えない事件が起こるとストックホルムの
エキスパートが呼ばれる。
マルティンは地方警察の刑事、グンナル・アールべりと共に
事件の捜査をすることになった。

身元不明の女性の遺体は、どこからも問い合わせが無く、
事件はたちまち膠着状態に陥ってしまう。
だが、アメリカの警察から一通の電報が届く。
「ソレハコッチノサガシテイルオンナダ」。
遺体の名前は、ロセアンナ・マッグロー、27歳。
アメリカ国籍の女性だった。
この情報から、捜査はいっきに進み始める。
マルティン・ベックとアールべりは、
ロセアンナがスウェーデンに来てからの行動を調べ、
さらにアメリカらもたらされた新たな情報を
頼りに、ロセアンナと関係を持った男たちについての
証言を探ってゆく・・・。

事件の始まりが印象的。
その一行で物語に入り込んでしまう。
さらに、マルティン・ベックと言う刑事の描写。
ヒーローでも何でもない、普通の刑事の
朝の日常。捜査のサポートのため、地方へ赴く
刑事の苦悩が描かれている。
読者が共感するポイントだ!

殺された女性の身元が分からず、四苦八苦する警察。
そして徐々に情報が集まり、捜査が進み始めると
俄然、面白くなってくる!
そこからは一気読みだ!

刑事たちのドラマに酔いしれること間違いなし!

『刑事マルティン・ベック ロセアンナ』
著者:マイ・シューヴァル/ペール・ヴァ―ルー著 柳沢由美子訳
出版社:KADOKAWA
価格¥800(税別)

KY刑事大活躍!「生活安全課0係」第3弾「バタフライ」

富樫倫太郎さんのヤバいくらいに面白い、
警察小説「生活安全課0係」シリーズ第3弾「バタフライ」を
読みました!この作品は新しい趣向で面白かったです。

杉並中央署生活安全課に突如誕生した「なんでも相談室」。
通称‘0係’は、組織からはみ出した者たちの受け入れ先だ。
しかし、唯一のキャリア警部・小早川冬彦の活躍のおかげで
捜査一課からは一応、一目置かれている。
小早川は、科警研の「犯罪行動科学部捜査支援研究室」で
犯罪行動心理学を研究していたため、人のしぐさや行動から
その人の心や考えていることがわかるのだ。
だが、小早川はあまりにも正直なため、だまっていることが出来ず、
人をかなりいらつかせる。それが特技だ。
だから、KY警部と呼ばれているのに本人は全く気にしていない・・・・。

バタフライ

生活安全課0係に小学生から相談事が持ち込まれた。
少年の祖母宅に大金が投げ込まれたらしい。
小早川と相棒の高虎が調査をするうちに同じマンション
の他の部屋にも現金が投げ込まれていたことが発覚。
さらに、近所の小学生たちが、血だらけの猫を
見たといって泣きついてきた。

「バタフライ」
0係の厳しい事務職・三浦靖子は、アラフォーで独身だ。
結婚願望はあるが自分の容姿に自信が無く、投げやりに。
だが一大決心をして結婚相談所に登録した。
何度かお見合いをしたが変な男ばかり。
諦めかけたころ、高収入のイケメンが靖子を気に入ったと
連絡が入る。靖子は男性を見るなり一目ぼれ・・・。
とんとん拍子に話は進むが、なぜこんなにかっこ良くて
高収入の男が自分を好きになったかわからず悩んでしまう。
そんな靖子の様子を心配する小早川は・・・・。

「名前のない馬」
寺田高虎は、ギャンブル好きですぐかっとなる
性格が災いして、妻と引きこもりの娘と別居中だ。
ある日、珍しく競馬で当てた。
だが妻や娘の事を考えると気持ちよくお金を使う
気にならず、乗馬クラブへ行ってみることにした。
なんでもよくわかる小早川には知れるとうるさいので
秘密で通うことにした・・・。

「素直になれなくて」
0係りでは「デブウンチ」とあだ名されている樋村勇作の
趣味は、道行くファッショナブルな女の子をスケッチすることだ。
ばれたら変態とののしられそうで誰にもいったことはない。
ある日いつものように新宿2丁目を歩いていたら、女装した
男性が暴力を振るわれているところを目撃する。
この女装した男性を助けたことで、樋村は、隠れていた
自分の性癖に気づくことに・・・・。秘密の喜びを知った
樋村・・・。だが事件に巻き込まれてしまう。

「17才」
0係の責任者・亀山係長は、気が小さくいつも胃の調子が悪い。
さらに警察官だった妻の尻に敷かれ、息つく暇もない。
そんなある日、買い物の帰りに立ち寄ったお店で、
亀山は恋に墜ちてしまう!驚くべきその相手とは?

「青い影」
0係一の腕っぷしを誇る、安智理沙子に小岩署の刑事から
連絡が入った。安智の母の真由子がパチンコ屋で暴れて
留置所に入れられたという。
安智は母親を憎んでいた。母親は、大酒飲みでさらに男好き。
子どもより男を優先するような女だった。
思春期に入った頃母親と別れ、安智は保護施設で育ち、警察官に
なったのだった。母親との関係に悩む安智理沙子・・・。
小早川たちと0係で扱った事件を追いながら、母の事が頭から離れなかった・・・。

今回の「バタフライ」は、0係で扱った2つの事件の謎を追いつつ、
チームのメンバーの悩みや事件を解決してゆく2重構造で
連作短編になっているところが非常に面白い。
メンバーひとりひとりの物語を描くことによって、より身近に感じられる。
今後のシリーズに深みが増す。そんな風に感じられる作品。
いつもなら、小早川の空気の読めない感が面白いけど、
今回の作品はチームのメンバーが主人公。彼らをサポートする
小早川がとても良い味を出している。

次の作品は「スローダンサー」。楽しみ!

『生活安全課0係 バタフライ』
著者:富樫倫太郎
出版社:祥伝社
価格:¥700(税別)

驚異のデビュー作!感涙必至!櫻部由美子「シンデレラの告白」

第7回角川春樹小説賞を受賞した、櫻部由美子さんの
「シンデレラの告白」を読みました。

今野敏先生、角川春樹氏が大絶賛です。

女子なら誰でも知っている、おとぎ話「シンデレラ」を
大人のミステリー小説に変化させちゃった櫻部さんの
スゴ技!とてもデビュー作とは思えない完成度!
想像をはるかに超えた、感涙の「シンデレラ」物語です。

女性ならば絶対に読んで納得!

シンデレラ

舞台は15世紀末。華やかな宮廷文化の陰で
「魔女裁判」というきな臭い事件が起こっていた時代・・・。

美貌の男爵夫人・ティナは、夫を失って寡婦となったが
二人の娘とともにハイデンの荘園を任され、過不足なく暮らしていた。
だが、ティナに新たな縁談が持ち上がり、大都市・ルテシアに
向かうことになった。
新たな夫となるのは、ルテシアの大商人・モルトー。
彼には幼い娘がいるという。
ティナの二人の娘は、残念ながらティナには全く似ず、
「ハイデンの鬼姉妹」とあだ名されるほど醜女姉妹だった。
だが、二人はどちらも心優しい姉妹であった。
そして、モルトーの一人娘・アンジェは病弱で、余命いくばくもない
ティナ達はそんなアンジェを心から慈しんだ。

その頃、貴族たちの間では「シンデレラ」と名乗る美女が
話題になっていた。
また時を同じくして、貴族の不審死が相次いでいた・・・。

私たちが知っている「シンデレラ」のストーリーは、
シンデレラが父親の死後、継母とその娘である二人の姉に
苛め抜かれる。だが、ある日王子様のお后選びがあり、
若い娘たちは舞踏会呼ばれる。シンデレラの姉たちも
着飾りお城へと向かう。シンデレラは魔法使いによって、
美しい貴族のお姫様に変身。王子様の心を射止め、めでたく結婚。

この作品も概ねこのストーリーに沿っているが、
違うのは継母と姉たちがとても心が美しく優しいということ。
この意外な展開にまず驚く。
しかし、この作品の意外性はこんなものではない。
綿密に計算された伏線。その伏線の張られ方が実に巧妙!
そして、因縁めいた純愛エピソードが女性の心を揺さぶる!
一番心に残るのは、クライマックス!パンチの効いたどんでん返しに
唖然となる。

あの「シンデレラ」物語を、これほど美しい物語に変化させた作品はない。
驚異の面白さ!
次の作品も期待大!

『シンデレラの告白』
著者:櫻部由美子
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,300(税別)

「Aではない君と」は吉川英治文学新人賞にふさわしい感動作!

「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を受賞。
ミステリにしても警察小説にしても薬丸さんの作品は
心をざわつかせる作品が多い。

特に「刑事のまなざし」は印象に残っている。
ドラマ化もされた傑作。いちばん好きな作品。

そんな作品を描き続けてきた薬丸さん。
「Aではない君と」で第37回吉川英治文学新人賞を受賞されました。
この作品は、少年犯罪を真っ向からとらえた衝撃作。
自分の息子が少年犯罪を犯したらどう向き合うのか?
こんなに激しく重いテーマをよくぞ描いてくれました!
この賞にふさわしい作品だと思いました。

Aではない君と

建設会社に勤める吉永は、美術館建設の件で自分たちが企画したコンセプトが通り、
チームの面々と祝杯を挙げていた。
その時、息子から電話がかかってきた。
宴席だったため、電話は取らなかった。そのあとトイレに立った時に電話したが通じず、
留守電にメッセージを入れた。
吉永は妻と離婚したとき、息子の親権を妻に譲った。
ただ、息子とは自由に会うことが出来たので、忙しい中でも何とか時間を作り息子と一緒にいるようにした。
しかし、仕事で大きなプロジェクトを任されたため、最近は疎遠になっていたのだ。
その宴会の日、ニュースで「胸を刺された中学生くらいの男性の遺体が発見された」と報道していた。
吉永は自分の息子と同年代の男の子の死を痛ましいと思った。

それから数日後、会社に警察官が現れ吉永が呼び出された。
そして、息子の同級生が殺害されたと知らされた。
その後も根ほり葉ほり聞かれた。まさかまさか・・・?!
そして元妻から衝撃の電話が入った!
息子が同級生殺害の件で逮捕されたとうのだ。
何かの間違いであって欲しい!祈る思いで警察に行くと
息子とは会えない、捜査の過程で何も教えられないと
冷たく言われる・・・・。

吉永は宴会の日の息子からの電話が気になっていた。
あの日、息子は自分に何か言いたかったのではないか?
電話に出なかった自分を許すことが出来ない。
何もかも捨てて、ただ息子のために生きようと決心する。

息子は、同級生を殺害したことは認めたが、
それ以外はいっさい話そうとしなかった。
警察にも、吉永が依頼した少年事件専門の弁護士にもだ。
ただうつむき、ひたすら沈黙していた。

このままでは成人と同じように、衆人環境の中で裁判をするということに
なってしまう。それだけはなんとしてでも避けたい!
何とか息子と話したい!そして吉永は、少年法10条2項「付添人」
制度を申請し、自ら息子の弁護活動を行うことにする。
息子の語る真相がどのようなものであっても、自分は受け入れなければならない。
息子の更生は自分が必ず果たしてみせる。

この作品は、事件を起こした息子を想うの父親の姿が痛々しいほどに胸を貫く。
父親の後悔の念と息子に対する深い愛情・・・。

そして息子がゆっくりと父に語った真相が、あまりにもあまりにも切ない。
かわいそうになり、父親の思いとシンクロして泣ける・・・・。

この作品にはどれほど深いメッセージが込められているだろう。
親が子にできることはあるのだろうか?
薬丸さんが出した答えとは・・・?

『Aではない君と』
著者:薬丸岳
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

KY刑事大活躍!「生活安全課0係 ヘッドゲーム」

SRO 警視庁広域捜査特別専任調査室」の著者、
富樫倫太郎さんのヤバいくらいに面白い、
警察小説「生活安全課0係」シリーズ第2弾「ヘッドゲーム」を
いっきに読みました!途中で止まらない!

杉並中央署生活安全課に突如誕生した「なんでも相談室」。
通称‘0係’
そこへやってきたのが、科警研の「犯罪行動科学部捜査支援研究室」で
犯罪行動心理学を研究していた、キャリア警官・小早川冬彦警部だ。
‘キャリアの警部なのになんでこんな掃き溜めに!?’
とはみ出し者たちはいぶかるが、当の小早川は全く意に介さず・・・。
そう!彼こそは場の空気が全く読めないKY警部だったのだ!

ヘッドゲーム

‘0係’に名門高校に通っていたが自殺した娘の死の真相を調べて
欲しいとの相談が持ち込まれた。
その名門高校では、今年に入り、女子生徒が二人も飛び降り自殺をしているのだ。
その自殺は統計上ありえない数字で、単なる自殺ではないと判断した
小早川は、相棒の万年巡査長・寺田高虎と高校を訪ねた。
そこで校長と教頭に「自殺ではなく、殺人では?」と
揺さぶりをかけると二人の態度は急変する。
だが、小早川らが学校を訪問している頃、三人目の犠牲者が出てしまう。

かたや、同じ生活安全課0係の樋村と安智理沙子は、ある女性から
ストーカー被害の相談を受けていた。
女性の方からの一方的な訴えで、男性に話を聞きに行くと、
ストーカー行為などやっていない、女性の方が嘘をついている
と言ってきた。
簡単に片付くと思っていたストーカー事件だったが、小早川は
この事件にも何かあると感じる・・・。

なんでも相談室には、どうでもよい事件が次々と寄せられる。
最初はやる気のなかったメンバーだが、小早川が放火事件を
解決したことでメンバーのやる気に火を点け、一目置かれる存在に。
また捜査一課からも頼りにされるようになる。

今回は、小早川がオタク系で、周りの空気が読めずマイペース
だったことで、思春期にいじめにあい、引きこもりになり、
そのせいで両親が離婚したとの過去が判明。
つらい立場にたった妹も登場する。

小早川は人間の行動心理学を研究していたため、人の心を読むことが出来る。
凄い得意技で超優秀だが、言わなくても良い事を言ってしまうので
反感を買うこともしばしば。だが、人一倍正義感が強く、心優しい人物だ。

「ヘッドゲーム」でもその能力を活かし、不可解な女子学生飛び降り
事件とストーカー事件に向き合う。
人の様々なしぐさや動きでその人が考えていることを見抜き、
相手を動揺させる。
しかし、今回は鍵になる美少女の心が読めず、窮地に!

二つの事件の真相に如何にして辿りつけるのか?
メンタリスト・小早川警部の鮮やかな推理に脱帽!

『生活安全課0係 ヘッドゲーム』
著者:富樫倫太郎
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥800(税別)

「撃てない警官」柴崎令司シリーズ最新刊「伴連れ」

安東能明氏は、『撃てない警官』に収録された『随鑑』で
日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞したミステリ作家です。
『撃てない警官』・『出署せず』は、人気警察小説作家の
方々から絶賛の声が上がっています。
今野敏さんは、‘刑事たちのリアルな息づかいが痛いほど迫ってくる’
誉田哲也さんは、‘確かな手ごたえと重み、味わい深い作品集’
などなど!はまさきも2作目の「出署せず」を読んでから
このシリーズが好きになりました。

出世街道まっしぐらだった柴崎令司は、部下の拳銃自殺の責任を負わされ、
所轄の綾瀬署の警務課へ左遷。
その後、綾瀬署では捜査経験もないのに、便利に使われている。
しかし、柴崎は洞察力が鋭く、そこいらの刑事よりも
事件の本筋を見極める眼を持っているようだ。
そしてシリーズ3作の短編集「伴連れ」も傑作揃い。

伴連れ

「掏られた刑事」
綾瀬署に新聞記者から、警察手帳を掏り取られた刑事がいるとの
連絡が入った。その刑事は、高野朋美巡査だ。
警察手帳を紛失するという大失態を犯しているのに、
のんきに構える高野巡査を見て、坂元真紀署長は憤慨する。
どこで、手帳を掏られたのか?柴崎は盗犯係とともに、
高野巡査の行動を探ってゆく。
だが、捜査を続けるうち、この手帳紛失事件は全く
別の貌を見せ始めた・・・。

「墜ちた者」
老朽激しいアパートで少年が転落死した。
捜査を開始した、綾瀬署は転落死した少年から
脱法ハーブが検出されたとの報告を受けた。
柴崎は、坂元署長からの依頼で少年第3係で非行少年の
更生を図る、中道係長に話を聞くことになった。
中道の話を元にさらに探ってゆくと、振り込め詐欺グループの
事件に行き当たる・・。

「Mの行方」
綾瀬署にストーカー被害の相談が持ち込まれた。
生活安全課防犯係の刑事は、ストーカーをしていた男に
近寄らないよいう誓約書を書かせた。
だが、再び女性から被害の訴えがあがった。
事態を重く見た、坂元真紀署長は、柴崎にも捜査の
支援をするように指示をする。
被害にあっている女性の警護をするため、高野朋美巡査も
応援に回った。
年が近いこともあり、被害者の女性は高野に心を開くが・・・。
ストーカー加害者の男性は気になることを言っていた。
「僕の方こそ騙されていた・・」一体どういう意味なのか?
ストーカー事件は意外な方向へと向かう・・・。

「脈の制動」
病院の医療ミスだと言い張る男。しかし、調べてみると
病院に落ち度はなさそうだ。
柴崎と高野巡査は、その男の周辺を調査すると
看護師の妻と再婚していることがわかった。
妻には娘がおり、男はどうもその娘に虐待を加えているらしい。
医療ミスと虐待・・・一見無関係のように思える事件だが・・・

「伴連れ」
元裁判官の夫婦が暮らすマンションに強盗が入り、夫の方が大怪我をした。
夫は脳梗塞で体の自由が効かない上の怪我・・・。
盗犯係りの高野巡査と柴崎は事情を聞きに病院へ向かった。
夫から話を聞いている間、妻はずっと茫然自失状態だった。
そんな妻に対して、夫は厳しい声をあげる!
そんな二人のやりとりを見て、柴崎たちは違和感を覚えた。
早速マンション周辺の捜査を開始する。元裁判官だった
夫の方はマンションの住人からも信頼されていた。
また、老夫婦の下の階に住む女性は、音に対し敏感で、
上階の住人がたてる音を詳細に記録していた。
柴崎はその記録を見て、さらに違和感を覚えてしまう・・・。

警察手帳紛失という大失態を乗り越え、刑事として奮闘する
高野を見守る柴崎。様々な事件に向き合い、そして厳しい
署長たちのぶつかり合いながらも刑事として目覚めてゆく高野朋美。

そして、事件は一筋縄出は解決しない。
リアリティに富んだ事件、その事件の過程には実に巧妙な仕掛けが施されている。
警察小説と本格ミステリの融合ともいうべき作品だ。
2016年8月には長編が発売される。
乞うご期待!

『伴連れ』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥710(税別)