あの「モナ・リザ」のモデル誰なのか・・・?アートミステリの傑作「レオナルドのユダ」

大垣書店さんとKADOKAWAがコラボレーションした限定復刻版!!
服部まゆみさんの「レオナルドのユダ」(KADOKAWA)を読みました。

「モナ・リザ」のモデルは誰なのか?美術愛好家の中では
昔から言われていたことのようですが、この作品は
その謎に迫るアートミステリです。

レオナルド・ダ・ヴィンチは世界中で誰も知らない人はいないでしょう。
誰もが知っているのに、謎多き天才。
画家にして彫刻家、科学者、医者、音楽家でもあった。
そして、レオナルド・ダ・ヴィンチで最も有名な絵画
「モナ・リザ」。あの謎めいた微笑みと、どの角度から鑑賞
しても、必ず目があってしまう。美しいけれどある意味とても不思議な絵・・・・。
あのモデルはいったい誰なんでしょう?

この物語は、レオナルド・ダ・ヴィンチの虜になった
二人の弟子、フランチェスコとその下僕であるジャンの
目線で描かれる、レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯。

ヴァ―プリオ・ダッタの後継者で貴族のフランチェスコと
その下僕・ジャンは、ある日領主のゲストとして招かれた
レオナルド・ダ・ヴィンチに幼いながらも魅了され、
後に、フランチェスコは工房(ボッテーガ)の弟子になる。
同じようにダ・ヴィンチを敬愛してやまないジャンは、
フランチェスコへの嫉妬心と憎悪を胸の内に秘めていた。

ダ・ヴィンチの周りには若く美しい弟子たちがたくさんいた。
その中でも群を抜いて美しかったのは、サライ。
傍若無人でありながら、その美しさにさすがの
ダ・ヴィンチもすべてを許していた。

だが、そんな偉大なダ・ヴィンチを良く思わないものもいた。
毒舌の人文学者・パーオロだ。
当時のイタリアやフランスで天才の名をほしいままにしていた
ダ・ヴィンチを、なぜか決して認めようとはしなかった。

そんな3人の愛と憎悪と嫉妬に彩られたこの物語は、
当時のヨーロッパの歴史、街並み、文化などが詳細に描かれている。
特に、ダ・ヴィンチの工房(ボッテーガ)でのシーンは興味深い。
あの著名な名画の数々がいかにして描かれていたのか・・・?
フィクションだというのに非常にリアルに感じる。
登場人物の息遣いまで聞こえてきそうだ。
作中に登場するダ・ヴィンチの絵画を確認しながら読むと
名画の意味や背景もわかり、さらに面白さが増す。

ミステリに焦点を充てれば、天才と呼ばれたダ・ヴィンチには
誰にも言えない秘密があったのではないか?
その秘密を暴こうとする、人文学者・パーオロ。
師の秘密をひたすら隠そうとする、フランチェスコ。

フランチェスコの強い思いはやがて悲劇を生む。
師への深い愛情だけが、生きる糧だったフランチェスコの
心の中を想像するととても恐ろしくなる。

謎多き「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の魅力を真摯に描いた傑作!
アートファンは絶対に読むべし!!

『レオナルドのユダ』
著者:服部まゆみ
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥781(税別)

心が震える美術エンターティメント「暗幕のゲルニカ」

本屋大賞にノミネートされました、
原田マハさんの「暗幕のゲルニカ」を読みました。

読み終わって後悔・・・・。
こんなに面白い作品だったなんて・・・
何でもっと早く読まなかったのか・・・
猛省しました!!

ニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤務する、八神瑤子は、
子どもの頃に見た、ピカソの「ゲルニカ」に心を奪われ、
ピカソの研究の第一人者となった。
愛する夫イーサンとともにニューヨークで暮らす瑤子。
だが、2001年9月11日、世界の崩壊を予言させるような
事件が起きた・・・同時多発テロ。
ニューヨークの象徴ともいえる貿易センタービルに
2機の飛行機が突っ込みビルは崩壊。
多くの人の命が奪われた。そして瑤子の夫・イーサンも犠牲となった。

9.11から2年後、アメリカ政府はイラクへ軍事行為を行うと発表。
瑤子は、憎しみや暴力の連鎖を止めるために、反戦のシンボルであるピカソの
展覧会を企画していた。それには「ゲルニカ」が絶対に必要だ・・・。
米国のイラク攻撃が国連でも受理され、世界はまたもや戦争に
巻き込まれることに!
そして、その声明を国連ビルの演説台で国務長官が行った。
しかし、そこにあるべきはずの反戦のシンボル「ゲルニカ」の
タペストリーがない!
「ゲルニカ」のタペストリーには暗幕がかけられていた・・・。

一体誰が何のために「ゲルニカ」に暗幕をかけたのか・・・?

「ゲルニカ」は1937年にピカソが故郷のスペインゲルニカを
内戦によって空爆され、その悲惨さと反戦の意味を込めて描いた作品だ。
その絵を観た人は、誰も心を奪われてしまう。
畏怖の念を抱いてしまう・・・そんな作品だ。
太平洋戦争前夜、ナチスドイツがヨーロッパの国々を侵略し始めた。
ピカソはそんな時代に、パリに住み絵画を描き続けていた。
ゲルニカ爆撃のニュースに衝撃を受けたピカソはその悲劇を絵画に託した。
その創作の様子は、当時の恋人・ドラが記録に遺していた。
「ゲルニカ」はパリ万博に出品され、様々な反応を得た。
だが、ナチスドイツからは目の敵にされてしまう。
このままナチスの勢いが止まらなければフランスも危ない!
パリにゲルニカを置いておくことは出来ない!
ゲルニカは、スペイン貴族でピカソの友人がオープンしたばかりの
ニューヨーク近代美術館でピカソの展覧会を開き、そのまま
そこに留まるように交渉してくれたのだ。
そして、スペインが真に民主国家になったときに、スペインに
返還されることになった。

そして、現在「ゲルニカ」はマドリッドにある。
瑤子は「ゲルニカ」をもう一度MoMAに出品するために
マドリッドへ向かった。
しかし、交渉のテーブルへつくことも出来ず、
ニューヨークへ帰ることになった。
失意のどん底で帰国した瑤子に、MoMAの理事である、
ルース・ロックフェラーが妙案があると言ってきた・・・・。

同時多発テロが起きた現在のニューヨークと、
大戦前夜のパリを舞台に、瑤子の悲しみと希望、
ピカソの苦しみがリンクし、「ゲルニカ」に繋がってゆく。
亡き故郷、亡き人への思い、強い反戦への想いが様々な形で
描かれ、胸がジーンと熱くなる。
さらに「ゲルニカ」をニューヨークへ取り戻す過程に
テログループの国際謀略も加味され、スリリングな展開へと
広がってゆく。

「ゲルニカ」タペストリー暗幕事件と、本物の「ゲルニカ」を
ニューヨークへと取り戻す妙案がミステリ仕立てに描かれていて
ワクワクする展開も面白い!
「楽園のカンヴァス」を凌ぐ絵画エンターティメント!

『暗幕のゲルニカ』
著者:原田マハ
出版社:新潮社
価格:¥1,600(税別)

アガサ・クリスティー賞にふさわしい正統派本格ミステリ「致死量未満の殺人」

第3回アガサ・クリスティー賞受賞作「致死量未満の殺人」三沢陽一著
このタイトルに惹かれてついつい手に取って読みました。

「致死量未満」の毒で殺人が可能・・・?
どういうこと・・・?

15年前雪に閉ざされた山荘で、一人の女子大生・弥生が毒殺された。
その時、現場にいた男女4人の大学生は、彼女に対して皆殺害動機があり
容疑者として警察に取調を受けた。
しかし、決定的な証拠はなく、ほぼ迷宮入りで時効が迫っていた。

そして、15年後容疑者の1人、龍太が唐突に自分が弥生を殺したと告げた。
龍太が弥生毒殺をいかに計画し、さらに外界から切り離された密室状況で
どうやって弥生ひとりだけに毒を飲ませることができたのか・・・。
その状況を龍太は、悲壮感を漂わせつつ語った。
それを聞いた当時の仲間・花帆は、龍太が去った後、大学からの恋人で
夫の淳二と15年前の事件を再度検証してみることに・・・。

冒頭の龍太の告白から、15年前の事件現場の回想シーンへと
繋がる展開は無理がなく自然。そして龍太がなぜ弥生を
殺害しようと思ったのか?その動機も共感できる。
弥生という女は、人を不幸にすることで、自分自身が
生きていると感じられる、そんな女だった。

しかし、弥生を憎むものは他にもいた・・・・。

弥生が死んだ雪深い山荘で、そこに集められた男女4人の
大学生たちは、どうやって彼女だけに毒を飲ませたのか?
推理合戦を始める。

龍太の告白で、犯人は龍太だと思わせるミスリードが上手い。
しかし、この作品はそこからの解明が醍醐味。
次々と展開される推理。しかしその推理は易々と覆される。
真相究明まで一体何回覆されるのか・・・?
どんでん返しに次ぐどんでん返し!そして・・・・
毒殺のトリックと想像だにしなかった真犯人に度肝を抜かれる!

雪深い山荘の密室で起こる殺人事件・・・。
設定はオーソドックスだが斬新な毒殺トリックが素晴らしく
面白すぎる正統派本格ミステリ。
このタイトル「致死量未満の殺人」にヒントが!!!!

『致死量未満の殺人』
著者:三沢陽一
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
価格:¥820(税別)

怪しい陰謀が蠢く!バチカン奇跡調査官シリーズ長編版12巻

大人気、大好きな「バチカン奇跡調査官」シリーズの
最新作12巻「バチカン奇跡調査官 楽園の十字架」を
読みました。

今回は、働き過ぎの平賀とロベルトが強制的に
休暇をとらされ、ハイチでの仕事を終え、
偶然に知り合ったアメリカの大富豪・ルッジェリから
豪華客船でのカリブ海クルーズに招かれる。

ロベルトと平賀は、分不相応な豪華客船での休暇に
若干引き気味だが、船のオーナー・ルッジェリの
気さくな対応に、招待を受けることにする。
そして、豪華客船が航海を始めると、船上で
海が割れて巨大な十字架が出現するのを目撃する。
乗客たちは、神の奇跡だと祝福。
ロベルトたちも驚き、奇跡調査を始めることに。

そして、二人が奇跡調査を始めた矢先、甲板で一人の
男性が倒れ亡くなってしまう。
事故か病気か?それとも事件か・・・?

そんなとき、ロベルトに黒人青年が呪われている自分を
助けてほしいと訴えてきた。彼の告解を聞くため夜中に
チャペルを訪れたロベルトだったが、約束の時間になっても
黒人青年が来ることはなかった。

翌日、ヴ―ドゥの儀式を模した黒人青年の惨殺死体が発見される!!
船内には、偶然にもCIAエージェントが乗り込んでおり、
ロベルトと平賀も事件の調査を手伝う事になる!

休暇中にも関わらず、結局、奇跡調査を行うことになってしまった二人。
そしてなぜか奇跡調査には事件がつきまとう・・・。
この奇跡は殺人事件に関連があるのか・・・?
豪華客船を舞台に繰り広げられる、不気味な事件は、
クリスティの「ナイル殺人事件」を彷彿とさせる。

圧巻なのは、船内で催されたマジックショーのシーン。
死人を生き返らせるというマジックは読んでいて息をのんだ。

今回は、巨大な十字架の奇跡、ヴ―ドゥの魔術、マジックショー
バミューダ海域と、謎めいたな展開が次々と描かれてとても面白い!
特にバミューダ海域で起こった事件の羅列は圧巻。
こんなにたくさん事件が起きていたんだと改めて知った。
恐るべし!バミューダ海域。

さらに、クライマックスの衝撃的シーン!
怪しく危険な陰謀が蠢いていたのだ!?
いったいどうなる?平賀とロベルト・・・・!

次は2月下旬に発売‘予定’です。

『バチカン奇跡調査官 楽園の十字架』
著者:藤木稟
出版社:KADOKAWA(角川ホラー文庫)
価格:¥720(税別)

サイコサスペンスの傑作!「氷の双子」

「氷の双子」というタイトルに惹かれて読みました。
久々に海外のサイコサスペンスの面白さにはまりました。

氷の双子

6歳になる双子の娘の一人、リディアを事故で失った
サラとアンガス夫妻は、悲しみから抜け出せないでいた。
一年後、夫婦は一念発起して、新たな生活を営むために
ロンドンから、アンガスの祖母が暮らしたというスコットランドの
孤島へと移住を決めた。

再出発に希望を抱くサラだったが、遺された双子の
一人、カースティがサラに衝撃的な一言を放った
「マミー、死んだのはカーズティだよ。あたしはリディア。」

まさか、死んだ娘を間違えたのか・・・・?
リディアとカースティはあまりにもそっくりな双子だった。
成長しても親でさえ間違える始末。
事故の前は二人でよく入れ替わる遊びをして、サラを困らせていた。

アンガスとサラの夫婦はリディアを失ってから、
お互いに不信感を抱いていた。
サラの胸の内には夫に対する不満が巣食っていた。
アンガスも妻に対して根深い不信感があり、そして秘密を抱えていた。

夫への疑惑、娘の不可解な行動、そして娘の死に対する深い罪悪感・・・。
孤島での生活は、サラの心を蝕んでゆく・・・。

遺された双子の一人、カースティの行動はホラーに近い。
わざとそう思わせるように描かれているのか?とても興味深い。
さらに、孤島という閉じられた世界で、妻の心が次第に壊れてゆく
過程が緻密に描かれていて、読んでいると背筋が凍る。

誰が正常なのか?どこまでが真実なのか?生き残った双子の一人は
リディアか?カースティか?・・・・読んでるこっちも困惑!!

読みだしたら止まらないノンストップサイコサスペンス!!

『氷の双子』
著者:S・K・トレメイン/国弘喜美代・訳
出版社:小学館(文庫)
価格:¥900(税別)

急展開!警察の巨大な闇との対決!「クランⅣ 警視庁機動分析課・上郷奈津実の執心」

警察内部に巣食った巨大な闇と
警察の正義を全うしようとする、
密命チームとの激烈なる闘いを
描いた、「クラン」シリーズ第4弾。
「クランⅣ 警視庁機動分析課・上郷奈津実の執心」。

クラン④

渋谷駅を襲ったテロ事件で、部下を失い、自らも傷を負った晴山
だったが、腰に奔る激痛はなぜか退いていた。それが神の手によるものなのか?
さらにヒットマンに撃たれたはずの足ヶ瀬巡査は全くの無傷。
岩沢の胸には足ヶ瀬巡査に対する疑念が広がってゆく。
一体、彼は何者なのか?死なないのか・・・?
岩沢は、足ヶ瀬巡査が育ったという、こども学園の園長に会いに行く。
そこで、岩沢は衝撃の真実を知ることになる!

一枚岩とも思われたチームの結束に微妙な綻びが出始め、神からの挑戦に
彼らの作戦はことごとく失敗。警察官が次々と姿を消していった。

だが、機動分析課の上郷は、新たな作戦を実行に移そうと画策する。
ターゲットを絞り、罠にはめるのだ。
神の正体を炙り出すために、上郷が仕掛けた罠とは・・・?

また、公安部の区界は、過去に自分が大失態を犯した
事件に神の力が働いていたことに改めて気がつく。

それぞれの捜査で次第に真相に近づくなか、上郷の仕掛けた罠に
はまった敵が正体を現した・・・しかし・・・

神の正体、敵・味方、足ヶ瀬巡査の謎、不気味な団体。
今まで点として存在していたものが次々と一本の線に繋がってゆく・・・。

警察内部の巨悪VS密命チーム「クラン」との一進一退の攻防が
物語の面白さをMAXに押し上げる!!

次回、第5弾に期待!!!!

『クランⅣ 警視庁機動分析課・上郷奈津実の執心』
著者:沢村鐡
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥680(税別)

タイムスリップ時代捜査ミステリー「八丁堀のおゆう」第3弾が面白い!

江戸時代を舞台にした時代劇ミステリー「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」の
第3弾が発売されました。
ただの時代小説ではありません!江戸で起こった殺人事件を
現代の科学捜査で解決する。
主人公のおゆうは平成に生きる女性で、自宅にはなんと
タイムトラベルが出来る秘密の場所がある。
そして、殺人事件の証拠物件を現代に持ち帰り、
分析ヲタクの友人の勤める化学分析ラボで調査する。

この凄い発想が面白くて、シリーズにすっかりはまりました。
第3弾は「千両富くじ根津の夢」です。

おゆう③

平成の現代と江戸を往復する2重生活を営む
元OLの関口優佳。江戸ではおゆうと名乗っていて
なぜか頼りにされている。

ある日おゆうは、近所に住む金物細工師・猪之吉の妻、おせいから、
旦那が女と逃げて家にもどってこないから探して欲しいと頼まれる。
おゆうは、ちょっとうんざりしながらも引き受けることに。

何か手がかりは?と番屋に向かったおゆうは、そこで源七親分に出会う。
源七親分は、大枚はたいて富くじを買ってしまい、おかみさんに怒鳴られてしまう。
根津・明昌院で行われる富くじは、史上最高額。江戸ではその話で盛り上っていた。

そんな時、呉服商の大店に盗人が忍び込み、千両箱を盗まれてしまう。

同心の鵜飼伝三朗に捜査能力を買われているおゆうは、今回も
盗人事件の捜査に加わることに。
同心・鵜飼、源七親分、さらに、女だてらに十手を扱うおゆうにやたらと厳しい、
ベテラン岡っ引き・茂三を加え荒らされた現場を検めると、
その鮮やかな手口を見て、一人の盗人の名前があがった。
その名は、「疾風の文蔵」だ。
だが、文蔵は七年前に八軒の蔵を破り、そのまま行方がわからなく
なっていた。しかし今回の事件で、文蔵が戻ってきたと確信する。

一方、おゆうは、長屋のおせいから依頼された旦那探しと
並行して、盗人事件の捜査も続けることに・・・。
現場に残った証拠品とあっさり破られた和錠を持って
現代のタイムスリップし、現代科学を駆使し伝三郎と
とともに捜査を続けるが・・・・。

今回の事件、なかなか犯人に辿り着かない。
そんなとき、一人の岡っ引き・長次の怪しい動きが目立つ。
長次が度々明昌院を訪れていることを掴んだ伝三郎たちは、
その明昌院の住職の周辺を調べ始めるととんでもないことが
わかってきたのだ!!

物語の随所に点のように張り巡らされた伏線。
おゆうたちの捜査によってその点は次第に線となり、
真相に近づいてゆく。
そして、現代の科学捜査がまたしても大どんでん返しを手繰り寄せる。

情緒あふれる時代小説と本格推理の見事な融合、そしてタイムスリップと言う
SFも加味、さらにはちょっとコミカルな恋愛模様も描かれて、とてつもなく
面白い仕上がりになった「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」第3弾です!

『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢』
著者:山本巧次
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥600(税別)

読む度に味が出る警察小説「埋れた牙」

2017年になりました。
イマショミステリー小説探偵はまさきのブログ
今年もよろしくお願い致します!!

さて、新年最初に紹介するのは!
はまさきの大好きな警察小説です!!

堂場瞬一さんの「埋れた牙」(講談社文庫)

埋もれた

堂場さんの作品はシリーズが多く、なかなか全て読めないのですが、
シリーズでない作品の中に面白いものも多いです。

「埋れた牙」は吉祥寺を舞台に、所轄刑事が活躍する本格的警察小説です。

精力漲る市会議員の父親が、脳梗塞で倒れ、
右半身麻痺でリハビリを続ける日々。
そんな父親の介護もしなくてはという思いから、自ら地元の
所轄への異動を願い出た、50歳の警部補・瀧刑事。

異動先の武蔵野中央署は、閑静な住宅街が多いため、
それほど凶悪な事件は起こらず、瀧は少なからず「暇」を持て余す日々。

そんなある日、姪の行方がわからなくなったので、探して欲しいと旧友から
依頼を受ける。それほど緊急な案件を抱えているわけでもない、
瀧はすぐに引き受け、相棒の若手女性刑事と共に、捜査を開始する。

旧友の姪は、地方出身者で大学に通いながら、教員を夢見て塾の
バイトに励んでいた。ところが、ある日から連絡がとれなくなったという。
まじめな性格で、連絡がとれなくなる、などということは今まで一度も
なかったというのだ。
しかし、それだけでは事件とは言えない。

瀧はまず女子大生の周辺から調査をすることに。そして友人から
興味深い事実を聞き出す。
塾のバイトの他に、秘書のバイトをしていた事が判明する。

そんな事件を調べ始めたと言うと、父親が妙な事を言い出した。
前にも似たような事件があったと言うのだ。
瀧も地方出身の女子大生が行方不明になったということを思い出した。

署内のファイルを調べると、30年前から10年おきに旧友の姪と
同じ状況で同じ年代の女子大生が行方不明になっていることに気づく。
もしかして連続失踪事件・・?でも10年に一度ってそんなことがあるのか・・・?

疑惑を深めてゆく瀧と相棒。
そして、過去に失踪した女性の足取りも追っていると、ある人物に行き当たった・・・。
瀧は驚愕を通りこし、背筋が凍った!

トリッキーなどんでん返しがあるわけでもない、地道な
捜査過程が淡々と描かれているが、刑事としての矜持を持った
主人公が、後輩の女性刑事を育てつつ、旧友の苦悩と向き合い、
さらに頑固で本音を見せない父親と対峙する姿に胸を打たれる!

地元に誇りを持つ、一人の刑事の生き方、刑事としての在り方。
そこには滋味があふれている。好きだなあ。

読むほどに味が出てくる本格警察小説。
本格警察小説ファンにはたまらない1作。

『埋れた牙』
著者:堂場瞬一
出版社:講談社(文庫)
価格:¥750(税別)