新卒採用がミステリーに!「六人の嘘つきな大学生」

話題沸騰、浅倉秋成さんの
「六人の嘘つきな大学生」を読みました。

今後の人生のすべてが決まってしまう
就活。企業の新卒採用のシステムに
翻弄される学生たちの姿が印象深い。

学生が憧れる、新進気鋭のIT企業
「スピラリンクス」。
初めて行う新卒採用で最終選考に
残った六人の男女。

その六人の就活生に与えられた課題は、
一か月後までにチームを作りあげ、
ディスカッションをするというもの。
六人全員で内定を勝ち取るため、
波多野翔吾は五人の学生たちと
励まし合い交流を深めてゆく。
チームもまとまり、ディカッションの
テーマも決まり、残すは当日に課題を
やり遂げる!というところまできた。

ところが、直前に課題の変更が!
それは「六人に中から一人の内定者を
決める」こと。
信頼し合える仲間だったはずの六人は、
一つの椅子を奪い合うライバルとなってしまった!

内定をかけた議論が進む中で、奇妙な
封筒が発見された!
その中から個人名の書かれた六通の封筒が出現。
それは、六人の罪を暴く告発文だった!
六人の罪とは?告発者は?その目的とは?

告発文を巡る息詰まる心理戦!
そのディスカッションを中心に
目まぐるしく変わる展開。
登場人物たちの人間像。
それらが絡み合い、グイグイと
引っ張られてゆく!
ミステリー小説の面白さが存分に味わえる。

しかし、この本を読んで日本特有の
就活の在り方に疑問を抱いてしまった。

企業の面接は、人間のどの部分を評価
して、合否を決めているのか?
何が正解なのか、わからない。
これも日本社会の一つの問題点ではないかな
と思ってしまった。

『六人の嘘つきな大学生』
著者:浅倉秋成
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,600(税別)

ラストに唖然!長編海外ミステリー「瞳の奥に」

ニューヨークタイムズベストセラー
ランキング1位に輝いたミステリーの
翻訳本「瞳の奥に」が発売中です。

海外大物ミステリ作家からも絶賛の嵐!

一人の男性を巡って起こる二人の女性の愛憎劇!?

一人は男性の妻・アデル。
もう一人は、男性の部下で愛人となるルイーズ。

しかし、ルイーズは妻のアデルとも
友情関係になってしまい、罪悪感を
感じながらも男性との不倫を解消する
ことができず悩み苦しむ。

さらに、女性二人は同じ病気を患っていた。
それは「夜驚症」。一種の精神疾患。

物語はアデルとルイーズ、二人の目線で
語られ、間に「かつて」という章が登場。
それはアデルの過去が語られる。

物語を読み進めると次第に微妙な違和感を感じてくる。
それが何なのか?何が起こっているのか掴み切れない。
何かとんでもない秘密が隠されているような雰囲気が
漂っている。そして、読者は翻弄され続ける。

その微妙な違和感の正体が徐々に明らかになるに
つれ、恐ろしい真実が見え隠れしてくる。

そして、クライマックスは予期せぬ結末どころの
話ではない!言葉では言い表すことのできない
ほどの衝撃が襲う!想像を超えたラストに絶句する!
こんな結末誰が予想できるだろう!?

このラストを創り出した著者の発想力が
凄い!絶対に誰にもわからない!

約500ページ強の大長編、ロマンスが絡んだ
サスペンスミステリー。
しかし、翻訳が非常に良く、アップテンポで
読める。読みだしたら止まらない!

大長編だということを忘れるくらいの
面白さだ。

『瞳の奥に』
著者:サラ・ピンバラ著/佐々木紀子訳
出版社:扶桑社(文庫)
価格:¥1,250(税別)

想像を絶する結末!「あの日、君は何をした」

TLで多くの方が紹介されていた、
まさきとしかさんの「あの日、君は何をした」
を読みました。

母親の子供に対する無条件の
愛情、時にそれは狂気へと変貌する。
息子に対する母親の愛情が濃厚
すぎて、読んでいるとむせかえるような
感じがした。

夫と二人の子供に恵まれた平凡な主婦
水野いずみは、幸せの絶頂にいた。

ところがある日、連続殺人犯が警察署
から逃走する。
いずみの息子・大樹は、たまたま深夜に
自転車で出かけていたところ、警官の
職質にあい、その場から逃走し事故死
してしまう。
連続殺人犯と間違われた果ての事故死。

いずみは絶望のどん底に落ち、家族は
崩壊してしまう。
大樹が深夜に家を抜け出し自転車に
乗っていたのはなぜなのか・・・・?

その十五年後、新宿区で若い女性が
殺害され、重要参考人である不倫相手の
百井辰彦に疑惑の目が向けられる。
しかし、辰彦は事件後行方不明になっていた。

夫が行方不明になっても無関心な妻・野々子。
辰彦の母・智恵は嫁の態度に疑惑を
抱きつつ、辰彦を必死で探そうとする。

捜査を担当する三ツ矢刑事は、関係者に
聞き込みをする過程で、無関係に
見える二つの事件を繋ぐ手掛かりを掴む。

緻密に配された伏線が徐々に回収されてゆく。
それらが一本の線に繋がった時
信じられない真相にたどり着く。

二転三転する展開、その裏にある、
最凶の真実に震える!

ミステリーとして最上級の面白さ!

『あの日、君は何をした』
著者:まさきとしか
出版社:小学館(文庫)
価格:¥720(税別)

切ない青春ミステリー。「Ghost僕の初恋が消えるまで」

天祢涼さんの新作「Ghost僕の初恋が消えるまで」
を読みました。

連続殺人犯に殺された16歳の少女・いのり。
いのりを姉のように慕っていた10歳の少年、理人。

死んでしまったはずのいのりはある日
理人の前に姿を現す・・・・。
いのりを想い続ける理人の描写がとても
切なくて心が震える。

第1章「16歳と10歳」
幽霊となって理人の前に現れたいのり。
犯人の顔を見たいのりは、いまだに
捕まっていない犯人の逮捕に協力
して欲しいと理人に訴える。
理人は、いのりのために犯行の証拠を
見つけるため、殺人犯に近づく。

第2章「16歳と13歳」
中学生になった理人の前に、突然いのりが現れる。
理人のクラスメートが自殺と殺人を
計画しているという。
これまでクラスのことを他人事ととらえ
何に対してもクールな態度でいた理人
だったが、改めてクラス内を見ると
教室内でいじめが起こっていることを目撃する。

第3章「16歳と16歳」
高校に進学した理人は吹奏楽部に入部。
コンサートのソリストに指名された1年生の
女の子がそれを拒否。騒動になってしまう。
いのりと理人はその理由を探ろうとする。

第4章「16歳と19歳」
大学に通う理人。年上だったいのりの年齢を
追い越した。幽霊となってずっと理人のそばに
いたいのりは、ついに成仏するときがきたと
告白する・・・。

4編が繋がる連作で構成されたミステリー。
理人と幽霊のいのりがその謎を明らかに
してゆく。

全編を通して感じられるのは、いのりを喪った
理人の大きな喪失感。
13歳になった理人の前に、いのりの霊が
再び現れるた時も、再会できた喜びと
いのりがゴーストだという哀しい現実に
揺れ動く。

4つの物語に張られた伏線。それが
回収されラストに繋がってゆく・・・。
そしてさらにエピローグ「20歳」で
胸がいっぱいになった。

いのりの優しさに涙があふれそうになる。

心に深く残る青春ミステリー。

『Ghost僕の初恋が消えるまで』
著者:天祢涼
出版社:星海社
価格:¥1350(税別)

検察ミステリーに新たなヒーロー登場!?「能面検事」

どの作品を読んでも、必ずアッと驚いて
しまう!!中山七里さんのミステリー。
最近の文庫作品では検事が主人公の
「能面検事」に驚かされた!

上位下達が絶対の組織において、
まったく空気を読まない、一切忖度しない
ひたすら、事件の真相解明に奔る検事。

大阪地検一級検事の不破俊太郎は、
どんな圧力にも屈しない。
誰の前でも微塵も表情を変えない
ことから「能面」と呼ばれている。

その能面の威力で、
警察の厳しい取り調べでも
落ちなかった容疑者が、不破の
前では簡単に落ちてしまう。
不破が担当した事件はほぼ100%
有罪を勝ち取ってきた。

しかし、不破の詳細な調査は
時として、警察組織から疎まれた。

新米事務官の惣領美晴は、不破に
対し、感情を剥き出しにするが、
いつも不破に窘められる。
そんな不破に不満を感じつつも
彼の仕事ぶりには畏敬の念を抱く。

ある時、西成でおきたストーカー
殺人事件の調査を進める中で、
容疑者として送検されてきた
男性のアリバイを証明し冤罪を阻んだ。

しかし、その過程で捜査資料が紛失
していることの気づく。
地検と大阪府警は隠蔽しようとするが、
不破は徹底的に調べあげる。
それは大阪府警を揺るがす一大スキャンダルに
発展する!!

地検と警察、持ちつ持たれつの関係、
警察の面子を守れ!という空気に不破は抵抗する。

不正を許さないというゆるぎない
信念は驚愕の真実にたどり着く!!!

不破検事の度を越えた厳しさに最初は
美晴と同じような気持ちになったが、
読み進むうちに、この厳しさがなければ
不正はなくならないと思った。

不破検事が登場する検察ミステリー
続編も描かれているようなので、
次に読むのが楽しみだ。

『能面検事』
著者:中山七里
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥680(税別)

傑作!!警察小説アンソロジー「矜持」

人気警察小説作家が描くアンソロジー集を
読みました。
傑作短編揃いで、読み応え満点でした。

「熾火」今野敏
強盗犯を逮捕し自白も取れた事件だったが、
新人刑事の安積は、納得できないでいた・・・。
「警視庁臨海署安積班」、安積剛志の若き
刑事時代のエピソード。
周りの空気に流されず、信念を通す姿が
後の安積警部補に通じている。

「遺恨」佐々木譲
札幌の小さな町の交番勤務にはげむ川久保巡査。
ある日牧場主が殺害された。同日その牧場で働いて
いた中国人研修生らがが逃亡。
警察は中国人研修生が雇用問題で揉め、
牧場主を殺害したと判断した。
しかし、川久保はこの町の交番勤務だ。
本部の捜査員よりは町の人間関係を把握している。
川久保は本部とは別の角度から事件を見た・・・。
どれほど町に馴染もうと、川久保は警察官
としての正義を貫こうとする。

「帰り道は遅かった」黒川博行
タクシー強盗で、運転手が行方不明に!?
大阪府警東淀川署の黒マメコンビが事件の
行方を追う。
捜査を進めるうちに、この事件の裏にある
巧妙なカラクリに気づくが・・・。
大阪の刑事さんの漫才みたいなやり取りが
緊迫した事件を少し和らげてくれる。

「死の初速」安藤能明
マンションから男性が墜落したとの通報。
現場に臨場した、鎌田中央署・地域係の
神村五郎と西尾美加。神村は元教師。
高校で物理を教えていた。西尾はその
教え子だった。そんな二人が警察で再会。
まさか、相棒になるとは!!
神村は墜落死体を見て、違和感を感じる。
そして西尾と二人その違和感の謎に迫る
事件の真相があまりにも切なく衝撃的!!

「悩み多き人生」逢坂剛
お茶の水署生活安全係の名物コンビ。斉木斉
警部補と梢田威巡査。小学校の幼なじみで、
いつも小学生みたいな言い争いと手柄の奪い
合いをしている。今回はこの係にもう一人
配属されるという。
焦った二人は、ある事件でまたしても
お互いを出しぬこうとするが・・・・。
ラストは爆笑の展開!

「水仙」大沢在昌
新宿署の鮫島は、ある中国人女性から
殺人事件の重要情報を得る。
しかし、それには中国人女性の
思惑があった。
孤高の刑事・鮫島の刑事の勘が
冴えわたる。傑作短編。

どの作品も警察ミステリー面白さが
際立ち、事件の真相を追う刑事たちの
真摯な姿が描かれた傑作アンソロジー集。
警察小説ファン垂涎の1冊。

『警察小説傑作選 矜持』
著者:今野敏/佐々木譲/黒川博行/安藤能明/
   逢坂剛/大沢在昌
出版社:PHP研究所(文庫)
価格:¥780(税別)

探偵・海老原浩一シリーズ「怨み籠の密室」

小島正樹さんの文庫新刊「怨み籠の密室」
を読みました。
心優しき探偵・海老原浩一が登場する
シリーズ8作目となります。

家族の愛が悲劇に繋がってしまった
事件。胸が締め付けられる。

飛渡優哉は、父が死の間際に
残した言葉が気になった。
「謂名村・・・殺され・・・」
優哉が4歳の時、母は謂名村で
亡くなっていた。
もしかしたら、母は何者かに
殺されたのか?父はそれを伝えようと
したのか?
母の死の真相を探るため、優哉は
一人謂名村へ向かう。
しかし、その村の住民たちは皆
優哉に冷たかった。
誰もが父母のことについて口を
閉ざした。
たった一人、「逆らってはいけいない
人に逆らった」と教えてくれた。

この状況に耐えきれず、優哉は、
過去に自分を救ってくれた、
探偵・海老原浩一に助けを求めた。

そんな時、村の焼き物工房で首吊り
死体が発見される。
それは、優哉の母がかつて勤めて
いた工房の主の妻だった・・・。

優哉の父母の過去、彼らをとりまく家族の悲劇。
封建的な村だからこそ起きてしまった数々の隠蔽。
そして、明らかになる優哉の母の死の真相。

海老原の推理により解き明かされた
真相はあまりにも悲劇的だった。

そして、緻密な密室トリックに驚嘆する!

海老原のさりげない優しさが際立った本作。
数奇な運命に翻弄された青年の心を癒す。

『怨み籠の密室』
著者:小島正樹
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥740(税別)

衝撃展開!「イエロー・エンペラー 警視庁捜査一課八係警部補・原麻希」

吉川英梨さんの「警視庁捜査一課八係警部補・原麻希」
シリーズ最新作「イエロー・エンペラー」を
読みました。

ちょっと待って!何この展開!待って~
うそ~・・・!
と思わず叫んでしまった。
なんとなんと「新東京水上警察」の最新作
以上の衝撃が待っている!

殺人事件を首謀したと思われる極右組織の
捜査をすすめている、原麻希ら捜査一課八係。
ある日、自宅で偶然ショッキングな
動画を発見する。
催眠ショーの生配信中、催眠術をかけられた
人物が他の人物に出刃包丁を振り下ろす
場面を目撃した!
あわてて現場に駆け付けるが!

その後、高尾山中で車の中で横たわる
6人の男性の遺体が発見される。
不可解な体勢の遺体もあり、これは
自殺に見せかけた殺人ではないかと疑う。

広田達也は、八係の係長だが、
娘がある事件に巻き込まれたことで
PTSDに陥りパニック障害を発症し、
苦しんでいた・・・・。

原麻希たちが、事件の捜査に奔走する
過程と同時に、広田はパニック障害の
原因を探るため、催眠療法を受けていた。

凄惨な事件、その裏側には恐ろしい
敵の姿があった・・・。

衝撃的な事件の真実にも驚愕するが、
この作品の最大の読みどころは、
麻希と達也の過去が交錯する切ない展開。

原麻希ファンにはたえられない、
切なさに涙が止まらない。

『イエロー・エンペラー 警視庁捜査一課八係警部補・原麻希』
著者:吉川英梨
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥730(税別)