53歳ヒラ刑事、政界に斬り込むか!?「エージェント巡査長真行寺弘道」

榎本憲男さんの「巡査長真行寺弘道」シリーズ第4弾
「エージェント」を読みました。
このシリーズ、他の警察小説とは一線を画す、
独特の世界観がある。そこがたまらなく面白い。

読み進めるうちに、どんどんはまっていく。
真行寺の魅力に引き込まれてしまう。

事件の真相究明のためならば、周りへの忖度など
一切しない、巡査長真行寺弘道。
警視庁捜査一課に所属、53歳で巡査長。
警察官で言うと「超」ヒラ刑事だ。
そんなヒラ刑事が捜査一課にいること自体、異例中の異例だ。
出世することを頑なに拒否する「超」変わり者刑事。
しかし、上司で警視庁刑事部捜査一課課長の水野玲子は、
真行寺を信頼している。
彼の捜査能力、事件の筋読みは他の刑事と比較に
ならないほど優秀だからだ。

「令和」初の総選挙当日、首相の経済政策を批判
した新党が議席を伸ばした。

居酒屋で一杯飲んでいた真行寺は、議席を伸ばす
新党に対して大声で暴言を吐いていた男に気づく。
学生たちがその男に何か文句を言い、殴り合いに発展。
真行寺は仕方なく、110番した。
そして、殴られた男は病院へと搬送された。

翌日、真行寺のもとへ新宿署の家入という刑事から
居酒屋での暴行事件について詳しく聞きたいと
連絡が入った。
暴行された男はケガ自体は問題はなかったが、
今朝、新宿駅のホームから突き落とされ、
轢死したというのだ。
犯人は逃走中とのことらしい。

真行寺は家入とこの事件の捜査を始めるが….。

4弾のテーマは、日本の「政治」と「経済」に
焦点を充てていると思われる。

随所に現政権を連想させるキーワードが
ちりばめられ、さらに揶揄っぽく描いてい
あるので、ちょっとハラハラする。

議席を伸ばした新党の党首こそ、現政権で
絶大な人気を誇る若き政治家がモデル!だと思われる。
超大胆なキャラクター配置!本当に面白すぎる!!

そして、この新党の党首が掲げた政策こそ、重要なキーワード。
「MMT 新財政構造改正法案」。
第2章「暴論のような正論のような」のなかで、
真行寺が、経産省の官僚とこのMMTについて議論
する件が、それこそ暴論なのか?もしかしたら
正論であるかも・・・と思ってしまうくらい、
説得力(?)がある。

面白いだけではない。
この作品、実は今後の日本の行末についてとても
大切なことが暗示されていると感じた。

今のままで本当に良いのか?
表に出ていることだけ見ていれば良いのか?
直視しなければならないのに、避けているのではないか?
そんなことを色々考えさせられた。

平和ボケした私にはちょっと刺激が強かったけれど
読んで良かった。
やはりこのシリーズは凄い!

5巻目はどんな内容なのか?楽しみです!

「エージェント 巡査長真行寺弘道』
著者:榎本憲男
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥820(税別)

怒涛の誘拐スリラー小説「ザ・チェーン 連鎖誘拐」

英米で大ヒットを飛ばした、今までにない
「誘拐」をテーマにしたサスペンススリラー
「ザ・チェーン 連鎖誘拐」を読みました。

乳ガン再発を恐れながら、ティーンエイジャーの
一人娘を育てる、シングルマザーのレイチェル。

その日も半年ごとの定期検診だった。

不安を抱えつつ病院へと向かうレイチェルの
もとへ何者かから電話がかかってきた。
娘を誘拐した。返して欲しければ身代金を
ビットコインで送金し、他人のこどもを誘拐
しろと指示された。

いたずらに違いないと思ったが、謎の声はさらに続ける。

レイチェルが誘拐した子供の家族が同じように
身代金を払い、その家族がさらに別の子供を誘拐すれば、
娘は生きて解放される。
失敗すれば殺されてしまうというのだ。
そして、この誘拐の連鎖から決して逃れることはできないと…。

警察へは絶対に連絡できない、したら娘の命はない。
恐ろしいほどに頭の切れる犯人が仕組んだ、
誘拐システム。この連鎖誘拐のシステムに組み込まれて
しまったレイチェルは、まったく無関係の子ども
の誘拐計画を練ることに….。

被害者の悲劇と加害者の苦悩、それでも娘の命には
変えられない。
加害者にならざるを得ない、レイチェルの苦渋の決断!
その緊迫感はいやがおうにも増してゆく!

著者は、「刑事ジョン・ダフィ」シリーズの
エイドリアン・マッキンティ。エドガー賞など
ミステリー界では権威ある賞を受賞した実力派。
ドン・ウインズロウも絶賛の傑作。

連鎖誘拐という過去に前例を見ない恐ろしい
けれど斬新な設定にまず驚愕。
いったいどんなことになるのか?レイチェルは
加害者になってしまうのか?その怒涛の展開に
魅了され、先へ先へと促されるように読み進めた。

翻訳もの、さらに上下巻という長さ。
しかし、それを感じさせないストーリー展開の
面白さに絶句する!

前代未聞のサスペンススリラー!!!

『ザ・チェーン 連鎖誘拐 上下』
著者:エイドリアン・マッキンティ著/鈴木恵 訳
出版社:早川書房(文庫)
価格:上下各¥780(税別)

面白すぎる展開!「警視庁53教場」シリーズ最新刊「正義の翼」

「警視庁53教場」は第3弾「聖母の共犯者」が
あまりにも面白すぎた。
第4弾「正義の翼」も期待して読んだところ、
期待以上の面白さで驚愕!!!

平成最後の年、その秋に警視庁捜査一課に
復帰予定の五味。彼にとって最後の教え子
となる学生が入学してきた。

個性的な面々が集まった五味教場。
場長には、父親が国家公務員で正義感
あふれる深川翼を選んだ。

その同じ日の夜、府中市内で交番襲撃事件が発生!
定年間近の警官1人が殺され、五味の教え子が重傷を負った。
警官殺しの犯人を追うとともに、被害者警官の
周辺を捜査する、府中署強行犯係の綾乃たち。
次第に明らかになる真実….。

方や五味教場では、交番襲撃があった日に
場長の深川が学校を脱走したことが発覚。
五味は、深川を追求する。襲撃事件とは
無関係とされたが、五味は深川に違和感を持つ。

五味教場、これまでにない結束の固さ。
だが、この事件をきっかけに綻びが生じてきた。

交番襲撃事件の捜査と、五味教場で
次々と発覚するトラブル。
二つの視点から展開するストーリーは、
これまで五味が経験したことのない、
深くて暗い闇を暴き出してゆく…。

「聖母の共犯者」の面白さを凌駕する第4弾!
シリーズ最高傑作と呼んでも過言ではない!

『正義の翼 警視庁53教場』
著者:吉川英梨
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)

昭和・平成の豪華作家陣が描く警察小説アンソロジー『葛藤する刑事たち』

警察小説の黎明期から覚醒期まで
3期に分け、その時代の警察小説
作家による傑作短編を集めた。
警察小説がどのようにの進化して
きたのかが読めます!

第一期(黎明期) 
松本清張『声』
新聞社の女性電話交換手は、深夜に繋いだ
電話先から不審な男性の声を聞いた。
耳朶に残る、不審な男の声・・・。

藤原審爾『放火』
ある社長の建築中の家が放火された。
若い巡査は初めての放火事件で張り切るが、
聞き込みをしてゆくと意外な事実が浮かび
上がる。

結城昌治『夜が崩れた』
暴力団と関わりのあった兄を持つ
刑事の婚約者。その兄が強盗殺人
事件を起こした。刑事は単独で事件を
追うが・・・。

黎明期の警察小説の面白さは、刑事たちが
徹底して現場にこだわる捜査。チーム力で
捜査を行う警察小説の醍醐味を味わえる。
特に松本清張の「声」は、印象に残る
ストーリー展開。
また、小説に登場する事件も現在に
通じるところがあり、今読んでも新鮮に感じる。

第二期(発展期)
大沢在昌『老獣』
新任の警官が老婆の許を訪ねる。
彼はこの街を守れるか・・・?
不思議な世界観が印象に残った。

逢坂剛『黒い矢』
女性が夜帰宅途中、ボーガンの矢が刺さるという
事件が発生した。御茶ノ水署の斉木と
梢田は捜査に駆り出される。
犯人はすれ違った暴走族のはずだったが・・・
人気の御茶ノ水署シリーズ。

今野敏『薔薇の色』
ジャズバーの一輪挿しに活けてある薔薇の花。
いつもは赤いバラだが、時々、違う色の薔薇が
ある。その意味は?交機隊の速水が出した
問いに、安積班の須田と村雨が推理を展開する。
果たして安積班長はどう答える・・・?
安積の推理に誰もがうなる。
大好きな短編。東京湾臨海署安積班シリーズ。

発展期は、それぞれ警察小説にシリーズ化が
生まれ、そのキャラクターたちの魅力と、
事件要素、そして推理、リアルな警察捜査の
過程が描かれて面白さが増した。

第三期(覚醒期)
横山秀夫『共犯者』
銀行強盗の通報訓練のはずが、実際に
銀行強盗が起こってしまった!
「顔FACE」の平野瑞樹巡査が主人公。

月村了衛『焼相』
対テロ用に開発された歩行型軍用有人兵器を
着用した極悪犯が、児童を人質に立て籠もり
事件を起こした!
SITとSAT、攻防の行方は・・・!
近未来警察小説、「機龍警察」シリーズの短編。

誉田哲也『手紙』
女性会社員が殺害された。姫川玲子は
その捜査本部で女性警官とパートナー
を組む。姫川はこの頃から上昇志向が
強く、コンビを組んだ女性警官を出し抜いて
真相を暴くことに成功する。
女刑事・姫川玲子の若かりし頃のエピソードだ。

この頃は、多くの女性刑事が登場する。
男性社会の警察組織の中でいかに生き抜くか?
平野瑞樹のようなタイプや、姫川の
ようにタフに生き抜く強さが描かれる作品もある。
また、複雑な警察組織内部に焦点をあてた
作品が多く生まれた。「機龍警察」は特に
特捜部と刑事部との軋轢が非常にリアルに
描かれ、さらに近未来のSF的な面が見事に
融合した傑作だと感じる。

思う存分警察小説が堪能できる短編集だ!

『葛藤する刑事たち 警察小説アンソロジー』
著者:村上貴史編集
出版社:朝日新聞出版
価格:¥800(税別)

名探偵たちの謎に挑む!『法月綸太郎の消息』

法月綸太郎さんのシリーズ最新作、読みました。

今回は、世界的に有名な名探偵、
シャーロック・ホームズとエルキュール・ポアロ
など名作に隠された謎に迫る!
これが、とても興味深い内容で、作品にまつわる
周辺のミステリの名作なども引き合いにだされ、
凄く読みたくなりました。

「白面のたてがみ」
ミステリ作家・法月綸太郎は、ホームズ愛好家が
遺したある未発表の原稿から、ワトソン氏が登場
しない一人称で書かれた作品、「白面の兵士」と
「ライオンのたてがみ」2編の短編の裏に隠された
作者、コナンドイルにまつわる意外なトラップを
突き止めようとする。
コナン・ドイルが心霊主義に傾倒した件や、
チェスタトンの「ブラウン神父」シリーズと
比較するなど、ミステリファンが狂喜するような
ストーリー展開が素晴らしい!

「あべこべの遺書」
二人の人間が相次いで不審な死を遂げた。
一人は転落死、一人は服毒死。それぞれに遺書が
遺されていた。ところが、遺書は逆に置かれて
いたのだ。服毒死したほうに転落死したものの遺書が。
服毒死した方には転落死したほうの遺書という具合。
綸太郎は悩む父・法月警視を放っておけず、
あらゆる角度からロジックを駆使し、真相に迫る!
法月綸太郎が安楽椅子探偵に徹する!

「殺さぬ先の自首」
法月警視がまたまた不可解な事件の話をしてきた。
女性を殺害したという男が自首してきたが、
彼が殺したと言い張る女性は生きていた。
しかし、その女性は男が自首してきたあとに
殺されてしまったという。
綸太郎はまたしても、この難事件に挑戦することになる。
法月綸太郎の安楽椅子探偵っぷりが面白くなってくる。
都築道夫の「退職刑事」シリーズを意識した短編本格推理。

「カーテンコール」
綸太郎は、知り合いの俳優からアガサ・クリスティの
「象は忘れない」を舞台化すると聞かされる。
さらには、そのパンフレットに寄稿してほしいと依頼された。
その後脚本家も含め打ち合わせの時間を設けたが、
その場にきたのは、国際クリスティー評議会の肩書を持つ
男だった。
クリスティーが生み出した名探偵、ポアロ最後の事件
「カーテン」中に出てくるある仮説。
著者のクリスティーが「カーテン」に仕組んだ企みの
真偽を問う。
ギリシャ神話と、クリスティーの数々の名作を背景に
語られる展開に唖然!
これを読めば、クリスティーに詳しくなる!?と
言えるくらい奥が深い、面白い!

数々の名作をリスペクトしている、法月さん。
名作に対する深い愛情が詰まった傑作の短編集。

ドイルやチェスタトン、クリスティーが読みたくなる、
ミステリーの世界にどっぷりと浸りたくなりました。

『法月綸太郎の消息』
著者:法月綸太郎
出版社:講談社
価格:¥1700(税別)

警察学校が舞台「警視庁53教場」シリーズ第3弾「聖母の共犯者」

警察学校を舞台にした警察小説。

主人公の五味教官、その助教で五味の同期・高杉。
所轄の女性刑事・瀬山、五味の娘・結衣など、
魅力的な登場人物の活躍で、シリーズを追うごとに
面白さが増してゆく、「警視庁53教場」。

第3弾の「聖母の共犯者」は、またもや
ありえない展開にページをめくる手が止まらない!

府中警察署強行犯係・瀬山綾乃は、
五味に片思いしていたが、思いを伝え、
念願かなって初デートにこぎつける。
待ち合わせの場所で緊張しながら待っていると
五味からキャンセルの連絡が~。
やけ酒を飲もうとしたところへ、五味の親友・
高杉が、実の娘・結衣とやってきた。

綾乃は高杉とともに五味の家でダウン。
そこへ、囚人が移送中、府中警察署から
脱走したとの連絡が入る。

脱走した囚人は女性。実子に対する過失致死で
服役中だったが、突如脱走を図ったのだ!

緻密に計画された脱走劇。
綾乃たちは、五味の的確なアドバイスで
脱走ルートを追った。

かたや、警察学校では卒業式に向け、式典の
準備が着々と進んでいた。
ところが五味教場の3人の生徒と高杉の姿が
見えない。

五味がそれに気が付いたとき、銃撃音が襲った。
逃亡中の女囚が、4人を人質にとり学校に
立てこもったのだ。

綾乃たちと五味は何が何でも女囚を確保しなければ
ならなくなった。

知略にたけた女囚と五味の推理がぶつかり合う。
警護厳しい学校へどんな手をつかって入ったのか?
なぜ、高杉は女囚を制圧できなかったのか?
謎は深まる!
2転3転する女囚脱走の裏に隠された過失事件の真相。
捜査の過程は読みごたえがあり、非常に面白い。

それに加えて、人間ドラマも熱い!
五味の生徒にかける思い、綾乃に対する決意。
高杉の実の娘に寄せる不器用な愛情。

また生徒たちのドラマも読みどころ満載。

第4弾がどんな展開になるのか?楽しみで仕方ない。

『聖母の共犯者 警視庁53教場』
著者:吉川英梨
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)