戦慄の展開!「四面の阿修羅」

島根県在住のミステリ作家、吉田恭教さんの
探偵・槙野&女刑事・東條シリーズ最新作、
「四面の阿修羅」(南雲堂)読了。

復讐の連鎖が恐ろしい事件を生む!
そして、東條の愛する姉の死の真相が明らかになる。

男性のバラバラ死体が発見された。
すさまじい拷問のあと、バラバラにし
四肢を積み上げ、その上に「生ごみ」という
貼り紙のついた頭部が置かれていた。

その死体からはすさまじい憎悪を見て取れた。

捜査一課の女刑事・東條は、所轄の女性刑事と
ともに捜査を開始する。
暫くして、被害者の身元が判明する。

東條は、特ダネを狙う女性記者に目をつけ
自分の情報屋として使うことに。
その女性記者は、被害者を知っていると言う。
被害者は、3年前のOL惨殺事件の容疑者として
逮捕された男の別件の事件のアリバイの証言者だった。

その一件から、捜査は動き出す。
東條はあらゆる伝手を辿り、捜査を進めてゆく。

ところが捜査の過程で、未解決だった事件の真相が
浮かんできた。
それは、東條が刑事になるきっかけをつくった
姉の事件だった。

身内がかかわる事件の捜査には参加できない。
それがルールだ。
東條は仕方なくそれをのむが、彼女の真相究明の
執念はそんなことで失われることはなかった。

そして、東條の捜査情報と記者がつかんだネタから
ある事実をつかむ。
それは予想をはるかに超える衝撃的なものだった。

点のように散らばった伏線は、徐々に一つの
線へとつながってゆく。
その過程が非常に面白い。

大切な人を失った慟哭。悲しみを乗り越えて
前に進む人もいるが、理不尽に奪われた
人の悲しみや苦しみは尋常ではない。
憎悪はやがて殺意へと変化する。
そして復讐の鬼と化してゆく。

読み終わり、もう一度タイトルを目にすれば
その意味の深さに戦慄する。

今回もイッキ読み!とても面白かった。

『四面の阿修羅』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂
価格:¥1,980(¥1,800+税)

想像を絶する名探偵登場!「人面瘡探偵」

どの作品を読んでも、必ずアッと驚いて
しまう!!中山七里さんのミステリー。
今度の探偵はなんと!人間の肩に宿った
人面瘡が飛び切り優秀な探偵で登場する!

相続鑑定士の三津木六平は、信州髄一の
山林王・本城家に向かっていた。

本城家は、昭和30年代後半の建築ラッシュで
莫大な利益をあげ、一大木材王国を築きあげた。
三つの会社と三つのゴルフ場をも経営。
しかし、バブル崩壊後を機に経営は
厳しくなっていた。
そして、まったく利益をうまなくなった
多くの山林が残ってしまった。

長らく本城家を牛耳っていた
当主・蔵之介が逝去し、資産の鑑定を
することになった。
蔵之介には、4人の子どもがいた。
息子3人と離婚して子供を抱え出戻った娘が一人。

誰もが遺産は僅かしか残らないことを
覚悟していたようだが・・・・。

ある晩 蔵が火事にあい、長男夫婦の死体が
見つかる。
さらに次男は水車小屋で不可解な死をとげた。
骨肉の遺産争いに隠された真相とは!?

時代が変わっても、その土地のルールや
慣習は変わらない。昭和時代そのままの
土地で、男たちが作った価値観の中で
縛られる女たち。
その犠牲になるのは、やはり子どもたちなのか?
横溝正史の世界観を彷彿とさせる展開にも
魅了される。

次々と起こる連続殺人に、鑑定士と人面瘡が果敢に挑む。
頼りない宿主の鑑定士・三津木を叱咤激励する人面瘡・
ジンさんとのコンビが超絶な面白さを生んでいる!

『人面瘡探偵』
著者:中山七里
出版社:小学館(文庫)
価格:¥836(¥760+税)

ざわざわする怖さ・・・。「ひとんち 澤村伊智短編集」

澤村伊智さんのホラー作品が存分に楽しめる
ホラー短編集が出ました!!
澤村ファンにはたまりません。
気持ち悪い、鳥肌が立つ、ゾッとする、背筋が凍る、
でもすごく面白い!

3人の女性たちが久しぶりに再会した。
実業家の男性と結婚し、子供が一人いる
女性の家で集まることになった。
懐かしい話に夢中になっていたが、
家の慣わしの話から妙な違和感が・・・。
他人の家のとの「ズレ」が恐怖を呼ぶ!
うわ~っと思わず声が出た。ざわざわ感と
薄気味悪さが半端ない「ひとんち」

3日間連続で悪夢を見た小学生の男の子。
教室で友人たちにその話をすると、まったく
同じ夢を見たと言い出した。
席順にやってくる2つの悪夢が重なった時
どうなる・・・?
悪夢の恐怖がクラスの席順にやってくる
というありえない展開に驚き!巧妙な
仕掛けが面白すぎる!
「夢の行き先」

クラスで浮いた存在で黒づくめの少女
を気にする教師。
家で親に虐待されているのでは疑うが・・。
物語の合間に挿入される不穏なセリフが
戦慄の展開につながる。
こうきたか~と思わず唸った。
「闇の花園」

スーパーマーケットの販促ビデオに死体が
映り込んでいた・・・。
日常のありふれた映像の中に映り込むありえないモノ。
もしかしたら、現実にあるかもしれないと思った。
そう思うと普通にCMとか視るのが怖くなるかも・・・
「ありふれた映像」

同僚の宮本くんの手はいつも痛々しくひび割れている。
それがだんだんとひどくなり、かきむしったあとの
はがれた手の皮が彼の周りに積もっていく・・・。
手の皮が積もるシーンを想像すると気持ち悪い。
いったい何が彼に起こっているのか?
その理由が明かされたときの衝撃が凄い!
「宮本くんの手」

UMAをモチーフにしたロボット「シュマシラ」
を紹介してくれた食玩コレクターと連絡が
とれなくなった「私」は、彼の足跡を辿ることに・・・。
迷宮に迷い込んだ「私」の運命は?
読み進むうちにひたひたと恐怖が忍び寄ってくる
そんな感じだ・・・。
「シュマシラ」

友人から回ってきた水槽。
手入れが簡単だからと言われなんの疑いも
なしに引き受けてしまった。
それが不幸の始まりだった・・・。
不幸の手紙のように回ってきたものとは?
短い物語だからこそ、怖さが際立つ!背筋が凍る。
「死神」

修学旅行が終わり、家に帰ると誰もいなかった。
母が書いた不穏な置手紙。
俺一人残されたのか・・・・?
そして父に電話をした。
そのあとの展開はなんじゃこれ!?
ホラー、ミステリー、SF的展開に唖然!
「じぶんち」

澤村伊智さんの怖い話。なんという引き出しの多さ。
しかもそれがしっかり読者を怖がらせる。
読んだら、絶対に澤村ワールドにはまってしまう。
面白怖いホラー小説のオンパレード!

『ひとんち 澤村伊智短編集』
著者:澤村伊智
出版社:光文社
価格:¥748(¥680+税)

アリバイ崩し第2弾!「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」

大山誠一郎さんの「アリバイ崩し承ります」は、
2019年に、浜辺美波さん、安田顕さん主演で
ドラマ化されました。
面白かったです!!
その第2弾が発売されました。
「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』です。
このシリーズ、アリバイ崩しに特化したミステリー
短編集です。時計屋探偵・時乃さんの鮮やかすぎる
謎ときに思わず膝を打ちます。

ダム湖から引き揚げられた車の中から60代と
見られる男性の遺体が発見された。
詳しく検証すると、ギアがニュートラルの
ままダム湖に突っ込んでいた・・・ということは
何者か車を押してダム湖に突き落とした、つまり殺人だ。
関係者から事情を聴いたところ、怪しい人物が
浮かび上がった。その人物とは、死亡した男性の甥。
しかし、甥には完璧なアリバイがあった。
男性が亡くなったと推定される時間、甥は友人
3人と麻雀をやっていたのだ・・・・。
「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」

議員の秘書の焼死体が発見された。
議員のパーティー中に秘書のもとへ電話が
かかってきたらしく、電話の内容は秘書の父が倒れ
入院したという緊急の要件だった。
議員はすぐに病院へ行くように言った。
秘書の胃の内容物は、パーティー会場で出された
食事。秘書はそのあと殺害されている。
パーティー会場で怪しい人物はいない。
500人もの証人がいる。
一体、誰がなんのために秘書を殺害したのか・・・?
「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」

閑静な住宅街の一軒家で、男性の遺体が発見された。
第一発見者は家政婦。
男性には3人の親族がいた。一人は女優、
あとの二人はレストラン経営者とバスケットボール
チームのコーチをやっている男性たちだった。
警察は遺産目当ての殺人事件だと推察。
そこで3人にアリバイを聞くと、3人とも完璧な
アリバイがあった。しかしこの中で誰かが嘘をついている。
警察を翻弄する二転三転する展開に、犯人を絞り切れず・・・
「時計屋探偵と一族のアリバイ」

那野市連城町の住宅街の一軒家で、女性が亡くなっている
と通報があった。友人の証言では約束した時間に
現れないので、家に様子を見に行って発見したらしい。
女性には離婚寸前で別居中の夫がいた。
事件が起きたと思われる時間、不審な男性が
目撃されていた。それは女性の夫だった・・・。
ところが夫は、別の場所で起こった愛人の殺害でも
目撃されていた。
那野県警と警視庁捜査一課で、夫のとりあいのような
形になってしまった。
真実は一体・・・?
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」

時乃は祖父からアリバイ崩しの特訓を受けていた。
ある夏休み、時乃が通っている高校の美術部で
彫刻コンクールに出品する作品が粉々に
割れるという事件が起こった。
時乃は関係者のアリバイを探ったが、誰もに
アリバイがあった。
悩んだ時乃は祖父にアリバイ崩しを依頼した・・・。
「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」

那野県警捜査一課の新人刑事は、難事件で
頭を悩ませると、鯉川商店街にある
美谷時計店に足を運ぶ。
その店には「アリバイ崩し」をする、店主
がいるのだ。20代半ばの美しい女性。
彼女は、新人刑事から事件の概要を聞くと
容疑者のアリバイを鮮やかに崩して見せる。
「時を戻すことができました、アリバイは崩れました。」

今回の5編の短編はいずれも秀逸。
特に「時計屋探偵と一族のアリバイ」と
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」の二つは
緻密に練り上げられた、さらに捻りの効いた
アリバイトリック。
その謎が解けた時の驚きに思わず「ほ~っ」
とため息が出る。
その衝撃を何度でも味わいたくなるほど凄い!

また、時乃の祖父の謎ときも良かった。
そして、時乃に淡い恋心を抱く新人刑事、
勇気を出して食事に誘ったがその行方は・・・?

この続きが絶対に読みたいです!

『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』
著者:大山誠一郎
出版社:実業之日本社
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)

運命に翻弄される子供たちを描くミステリー。「青い雪」

第25回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作
麻加朋さんの「青い雪」を読みました。
子どもたちが主人公でとても悲しい展開が
胸に突き刺さる。慟哭のミステリー作品。

雪の降る夜に起こった飛び降り事件。
その飛び降り事件に巻き込まれて亡くなった女性。
それがのちの悲劇の始まり・・・。

的場家、柊家、蓮見家の3家族が夏の数日を別荘で
共に過ごしていた。
的場家は主が政治家で息子の秀平と娘の希海。
柊家は娘の寿々音、蓮見家は幼い娘の亜矢。
そして両親と妹を火災で失った大介。
蓮見家の夫婦が大介を息子のように大切にした。

子どもたちは様々な事情を抱えていたが、
皆で集まるこの夏だけは、本当の家族のように
兄弟のように過ごしていた。

男子はヒーローノートに名前を残したいと
張り切り、実際に人助けをしそのノートに
記した。

そんな子供たちも思春期に突入する。
淡い恋の始まりや、思春期特有の悩みなどを
持ちつつ楽しい夏の休暇を過ごすはずだった。

しかし、ある夏の日、蓮見家の一人娘・亜矢が
かくれんぼをしているときに行方不明になって
しまう。
事件性を疑われたが、手掛かりはほとんどなく
幸せだった夏のひとときは永遠に失われてしまった・・・。

悲劇から数年、それぞれの家族の形が徐々に変化してゆく。
そんな時現れた一通の告発状。
それが幼女失踪事件の真相を暴く鍵となる・・・。

前半は子供たちに焦点を充てた青春物語。
後半は幼女失踪事件の謎を解いてゆくミステリー。

緻密に設定された幼女失踪事件の謎を解く過程が
非常に面白く読める。

家族の愛とは絆とは何かを考えさせられる、
また、孤独にのみこまれてしまう恐怖のような
ものを感じた。

デビュー作とは思えない完成度。凄く面白かった。

『青い雪』
著者:麻加朋
出版社:光文社
価格:¥1,870(本体1,700¥+税)

警察小説新シリーズ登場!「ボーダーズ」

「検証捜査」「共犯捜査」など「捜査ワールド」
6作品を描く、ほかにも「ラストライン」、
「警視庁犯罪被害者支援課」など多くの警察
小説を生み出す、堂場瞬一さんの新シリーズは
「ボーダーズ」。警視庁特殊事件対策班(SCU)
の活躍を描く、本格警察小説。

1か月前、八神警部補は捜査一課から
特殊事件対策班(SCU)に異動となった。
事件現場に臨場すると所轄の刑事から
「何しにきたんだ?」的な目を向けられ、
いまだに自分の配属先に慣れない日々を
送っている。

新橋で銀行立てこもり事件が発生し、
男性客が刺殺された。
そして、犯人はすぐに逮捕される。

その後、八神は公安出身である、
キャップの結城から刺殺された被害者・
藤岡を調べるよう指示される。

実は藤岡は、40年前の成田闘争で
機動隊員を殺害、指名手配され公安に
追われた男だった。

過激派が藤岡の闘争を支援していたのか?
謎に満ちた藤岡の過去を捜査してゆく。
さらに、同時並行で大学教授宅放火事件も
追及する。

それらの捜査が進んでいくと、予想だに
しなかった事実にぶちあたる!

SCUのメンバーは、八神警部補、将来有望な
女性刑事・朝日奈由宇ほか、人間兵器の異名がつく
綿谷亮介、八神の後輩で運動神経抜群の
最上功太。そして、何を考えているのか
わからない、キャップの結城新次郎。
八神は捜査一課時代に、悲劇を体験している。
それぞれに事情があるメンバー。個性的なキャラで
物語を盛り上げている。
特にかっこいいのは朝比奈刑事。
現場でさっさと仕切ってしまうそのリーダーシップに
思わず、ついてゆきます!!!と言ってしまいそうになる。

登場人物の際立った個性と物語の面白さで
警察小説ファンを魅了する!
シリーズ2巻も期待大!

『ボーダーズ』
著者:堂場瞬一
出版社:集英社(文庫)
価格:¥990(本体¥900+税)

心震える展開!『陽だまりに至る病』

「希望が死んだ夜に」「あの子の殺人計画」で
子どもの貧困や虐待を描いてきた、天祢涼さん。
最新刊「陽だまりに至る病」はコロナ禍、貧困、
ネグレクトを背景に追いつめられる少女たちの
姿を描く、またしても切なさが心をえぐる作品。

新型コロナウイルスの流行による、
緊急事態宣言のなか、小学五年生の
咲陽は、両親から、
「困っている人がいたらなにかしてあげないと」
と言われていた。

日ごろからネットでニュースをチェック
している咲陽は、町田のホテルで起きた
女性殺人事件を気にしていた。
その目撃者が現れたらしいとのニュースが
入っていた。

咲陽は、クラス中で浮いた存在だった
同級生の小夜子が「父親が仕事で帰ってこない」
と聞き、心配して家に連れて帰ってしまう。

ところが、コロナ感染を心配する母親に
小夜子を連れて帰ったことを言い出せない。
仕方なく自分の部屋に匿うことに・・・・。

翌日、小夜子を探しているという刑事が
咲陽の家を訪ねてくる。
咲陽はどぎまぎしながら警察の質問に答えるが・・・。

咲陽は、町田の事件の件で小夜子と話をしたとき、
小夜子が思わずつぶやいた言葉から、あの殺人
事件の犯人は、小夜子の父親でではないかと
疑いを持つ。

たくさんの大きな秘密を抱えてしまった咲陽。
小夜子への思い、殺人事件の犯人、両親に
嘘をついているという罪悪感、さらに父親の
経営するレストランがコロナ禍で営業危機に
なり、貧乏になってしまうという恐怖感・・・。

仲田刑事は、そんな咲陽を心配し、心を
寄せる・・・。

町田女性殺人事件の捜査過程と咲陽と小夜子の
交流の過程が同時並行で交互に描かれる。
その二つが交差したとき、事件は意外な終結を見せる。

それまでお互いに気を使って本音を言えなかった
咲陽と小夜子。二人の気持ちをぶつけあうクライマックスは、
涙腺崩壊・・・。

子どもたちの思いに心が震える、社会派ミステリー第3弾!

『陽だまりに至る病』
著者:天祢涼
出版社:文藝春秋
価格:¥1,870(¥1,700+税)

神奈川県警刑事部長・竜崎を脅かすライバル出現!『探花 隠蔽捜査9』

神奈川県警に刑事部長として異動になった
竜崎伸也にまたまた難題が持ち上がった!?
横浜中華街の次は横須賀で事件が・・・・。
今野敏先生の代表作シリーズ最新刊
「探花 隠蔽捜査9」を読了。

神奈川県警刑事部長として着任した、竜崎伸也は
まだまだ慣れない日々を過ごしていた。
警視庁大森署でもかなり変わった署長として
有名だった竜崎。こちらでもやはり変人扱い・・・?

竜崎のもとに横須賀の有名な公園・ヴェルニー公園で
男性の変死体が発見されたと知らせが入った。
阿久津参事官は殺人事件のようだと報告。
米軍基地が近いため、米軍からみの事件だと
やっかいだと言う。
捜査本部の件も考えるべきだと進言する。
竜崎は検視官の報告待ちと判断。

その後、佐藤本部長に呼ばれた竜崎は、
福岡県警から警務部長として、八島が異動して
くると知らされる。八島は伊丹と竜崎の同期だった。
三人の中で八島がトップ入庁だった。
優秀な八島だったが、彼には黒いうわさが
つきまとっていた。

殺人事件と断定され、横須賀署に捜査本部がおかれた。
しばらくして、事件の目撃者が現れた。
ナイフを持った白人らしき男性が米軍基地
あたりに逃走したという。

阿久津の懸念があたってしまった。
竜崎は米軍基地へ出向き事の仔細を話した。
そして、NCISから捜査協力という
名目で日系人捜査官・キジマが捜査に加わることに・・・。
だが、竜崎の周囲のものたちは明らかに迷惑顔だった。

神奈川県は、中華街に米軍基地など下手を打つと
国際問題になりかねない事情を抱えた、
警察にとってはやっかいこの上ない県だった。
しかし、竜崎はここでも警察の原理原則を押し通す。

さらに、この事件と同時並行で竜崎を悩ませたのは、
息子が留学先で逮捕されたのでは・・・?という
娘からの連絡だった!

竜崎の頭にあるのは、警察官としての職務だ。
殺人事件が起きたら捜査し、容疑者特定し逮捕する。
実にシンプルだ。それをややこしくしているのは
出世・保身・打算・忖度だ。
なぜ、そんなものにこだわるのか?
竜崎の思いはいつもそこにつながるのだと思う。

竜崎自身も新たな地で新たな役職を得て右往左往するが
やることは決まっていると割り切っている。
それを少しずつ周囲の者たちが理解してゆく。
その過程をスリリングな事件捜査とともに読める。
面白くて仕方ない。

刑事部長として、仁義を通すため八面六臂の活躍を
する竜崎。どんなに変人と言われようと、かっこいい。

今回も竜崎他、魅力的キャラたちとの掛け合いが心地良い。
特に、竜崎をやりこめた阿久津参事官、掴みどころのない
佐藤本部長とのやりとりがちょっとコミカルでいい味を
出している。

『探花 隠蔽捜査9』
著者:今野敏
出版社:新潮社
価格:¥1,815(本体¥1,650+税)