`いじめ’という絶望を描く!「罪人が祈るとき」

「ジャッジメント」で衝撃デビューした、小林由香さん。
2作目の「罪人が祈るとき」を読みました。

社会問題になっている「いじめ」をテーマに絶望の
中を生きる少年と、息子を失った父親の苦しみに
焦点をあてた慟哭のミステリーです。

「十一月六日の呪い」・・・。
主人公の少年が通う学校で、この日に三年連続で
自殺者が出たため、そんな噂が広がっていた。
少年はほぼ毎日いじめにあっていた。
いじめの凄まじさに耐えきれなくなった少年は、
自分をいじめている相手を殺して、自分も
十一月六日に死ぬつもりで殺害計画を考えていた。

そんな時、公園でピエロに出会う。
謎のピエロ・・・。彼は殺害を手伝うと言う。

一方、いじめによる自殺で、息子を喪った
男性は、その後妻も喪い一家が崩壊した。
息子や自分、家族をどん底まで追いつめた
犯人を捜し始める・・・。

日本に巣食う病理は、大人だけでなく子どもたちをも蝕んでいる。
不条理の中で子どもたちの居場所はますます無くなっている。
この小説はそんな大人や子どもたちの慟哭を、
フィクションという手段で描くことによって、
強く訴えているのだと思う。
この現実から眼をそむけてはならない。

終盤の展開には思わず涙があふれてくる。

『罪人が祈るとき』
著者:小林由香
出版社:双葉社
価格:¥1,600(税別)

ロマンあふれるサスペンス小説の傑作!夏樹静子「第三の女」

夏樹静子さんの作品と言えばテレビの
2時間ドラマの原作に使用されることが
多かったように思います。

ドラマを視てしまうとどうしても原作から
遠のいてしまい、なかなか読む機会が
ありませんでしたが、たまたま「第三の女」の
POPを書くことがあり、読みたくなって先日
初めて読みました。

「第三の女」を読んでみて、あまりに面白かったので、
自分の中の夏樹静子観が変わってしまいました。

ある嵐の夜、パリ郊外のバルビゾンで
一組の男女が出会った。運命的なゆきずりの恋。

その時二人が暗黙の内に交わした約束。
それは動機なき殺人事件へと繋がってゆく。

事件は福岡で起こり、その後箱根で起こった。
それぞれの事件には目撃者がいたため、
それらしい人物をマークするのだが、
刑事たちも容疑者が絞り込めなかった・・・。

男の高まる恋心・・・・
女性の気高くも哀しい愛の心理・・・。
格調高いラブロマンスでありながら、
殺人計画というスリリングな展開、
息を呑むどんでん返しの連続は
迷宮に迷い込んだような感覚になる・・・。

「第三の女」とは一体誰なのか・・・?

夏樹さんの描く世界観は非常に格調が高く、
フランスのミステリー作品を読んでいるような
錯覚に陥りました。

夏樹作品、しばらく追いかけてみようかなと思います。

『第三の女』
著者:夏樹静子
出版社:集英社(文庫)
価格:¥533(税別)

警察の闇に焦点を充てた「朽ちないサクラ」

柚月裕子さんの文庫新刊「朽ちないサクラ」を
読みました。
「盤上の向日葵」が本屋大賞にノミネートされ、
物凄く注目されています。そんな時期の文庫化です。

近年、ニュース報道で耳にする警察の不祥事の数々。
なぜ起こるのか?警察の闇とは?

H県警でストーカーの被害者が殺害されるという
事件が起こった。
被害届の受理を先延ばしにしていた捜査員たちが、
その間慰安旅行に行ったとスクープを飛ばした地元新聞。
誰が情報を漏らしたのかと県警内部では疑心暗鬼に・・・。

警察事務職の中途採用で県警広報部に入った泉は、
地元新聞に入社した高校時代の親友に慰安旅行の件を
思わず漏らしてしまった・・・。

スクープは彼女が書いたのではと疑い、責めてしまったが
親友は絶対に違うと言った。
では、スクープを書いた人物は誰なのか?

そんなとき、親友が遺体で発見された。
泉は親友の言葉を信じ、事件の真相を明らかに
するため、警察学校の同期・磯川刑事に
秘かに協力を仰ぎ、独自に調査を開始するが・・・。

ストーカー殺人事件、警察の不祥事、親友の死・・・
それは事件の発端に過ぎなかった。
二人の捜査が核心に近づくにつれ、何者かが暗躍
し始めたのだ。

組織の闇を描いているが、謎解きの部分も申し分なく
描かれていて、トリックや謎の人物の設定など、
推理小説としても本当に面白い。

ヒロイン・泉が悲しみを乗り越えて到達した真実は
今まで信じていたものが崩れ去るような衝撃だ。
それでも前を向いて歩き出すヒロインの姿勢に感動する。

女性にもおススメの警察ミステリー。

『朽ちないサクラ』
著者:柚月裕子
出版社:徳間書店(文庫)
価格:¥680(税別)

探偵・槇野&女刑事・東條シリーズ最新刊『亡霊の柩』

大田市在住のミステリー作家、吉田恭教さんの
ミステリー小説、「可視る」「亡者は囁く」
「鬼を纏う女」「化身に哭く森」と順調に
シリーズを重ねる‘探偵・槇野&女刑事・東條’シリーズ。

昨年7月に上梓された「化身の哭く森」に続き、
シリーズ最新作が発売されました。
タイトルは「亡霊の柩」(南雲堂刊)です。

主に松江市・大田市という島根県民には嬉しい!地元が舞台の
ミステリー作品です。

鏡探偵事務所に養護施設の園長から人捜しの依頼が舞い込んだ。
男性の名前は「五十嵐靖男」。

槇野は早速行動開始。するとあっさりと判明する。
五十嵐は結婚して妻と二人で生活していたが、
今夏亡くなっていたのだ。その知らせを受け、五十嵐宅に
お悔みに行った園長だったが、なぜか五十嵐の妻に
罵声を浴びせられ門前払いをされてしまった。

園長から再度依頼を受けた槇野は、五十嵐失踪の理由と
死因を調べる過程で、想像も出来なかった事実にぶち当たる。
これ以上の調査は無理と判断した槇野は、警視庁捜査一課の
東條有紀に情報提供をしたのだった。

簡単な人捜しのはずが、とんでもない事件を
引き当ててしまった槇野。しかしその事件は
自身が警察を辞めることになった事件と繋がっていた!
槇野は自らの忌まわしい過去と決別するため、
何としてでも真相を暴く決意をする。

東京から、島根県大田市・松江市を舞台に
繰り広げられる、迷宮のように入り組んだ事件。
しかし、槇野と東條の信頼関係が生んだ捜査で
次第に事件の真相を解き明かしてゆく・・・・。

シリーズ最高傑作と言っても過言ではない面白さ。
混迷を極める不可思議な事件の解明にはまり、
ページを捲る手が止まらない!
一気読み必至の傑作ミステリー。

『亡霊の柩』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂
価格:¥1,700(税別)

社会福祉システムに警鐘を鳴らす「護られなかった者たちへ」

中山七里さんの新刊「護られなかった者たちへ」を
読みました。

最近のニュースで「生活保護費」増加や生活保護不正受給
についての報道が多く考えさせられます。
生活保護は本当に必要な人に届いているのか?

「護られなかった者たちへ」はそういう疑問に焦点を
あてたミステリーです。

東日本大震災後、復興が進む仙台市。その福祉事務所で働く男性が、
手足や口の自由を奪われた状態の餓死遺体で発見された。
周辺では人格者だと言われ、怨恨の線も薄い。金品目的の
強盗でもない。一体なぜ「餓死」させられたのか?
二人の刑事は「餓死」という最も苦しく凄惨な殺され方
ならばやはり「怨恨」ではないかと疑う。

福祉事務所職員が殺される事件から遡ること数日。
一人の男が出所した。男は8年前に起きたある出来事の
関係者を追っていた・・・。

捜査が難航する中、さらに市議会議員が同じ「餓死」状態で
発見されたのだ・・・。
やがて殺された男性二人の共通点が見つかる。

刑事たちの緻密な捜査はやがて「生活保護」に絡む
悲劇を暴いていく。

増加する生活保護費は誰にどう渡されるのか?
年老いた人たちが受給出来ず、やがて孤独死してゆく
実態と、福祉事務所職員と不正受給者との闘いが
圧倒的臨場感で描かれている。

どんでん返しの帝王と言われる著者の
超絶技巧もこの作品の読みどころ。

このままでは破綻しかねない日本の社会福祉システムに
鋭いメスを入れ、さらに本格ミステリーと融合
させた、社会派ミステリー、傑作中の傑作。

『護られなかった者たちへ』
著者:中山七里
出版社:NHK出版
価格:¥1,600(税別)

心が震える!北欧発「超」傑作ミステリー第4弾「湖の男」

アイスランドのベストセラー、
レイキャヴィク警察が舞台の
犯罪捜査官・エーレンデュルシリーズ第4弾
「湖の男」を読みました。

「湿地」「緑衣の女」「声」とシリーズ
3作品を読みましたが、はまさきはこの
4作目の「湖の男」が一番心に響きました。

犯罪小説で感動した!心が震えた!という表現は
誤解を生む表現かもしれませんが、
アーナルデュル・インドリダソンの作品は
ただ事件が起きた、捜査した、犯人が判明した、
というシンプルなストーリーだけではない、
物語の底辺にある「テーマ」に心を動かされるのです。

人間の心の奥深くにある生の感情が何かのはずみで
迸った!そして悲劇が起きた。
その背景とそこに至るまで過程、人間の心の葛藤が
これでもかと読み手の心に訴えかけてくるのです。

そしてこの「湖の男」はシリーズ中で一番強く訴えかけた
作品だと思います。

干上がった湖の底から人間の頭蓋骨が見つかった。
その頭蓋骨には穴が空き、さらにソ連製の盗聴器の
ようなものまで巻きつけられていた。

レイキャヴィック警察のベテラン犯罪捜査官・
エーレンデュルは、同僚のエリンボルクや
シグルデュル=オーリらと共に捜査を開始する。
鑑識の結果、発見された骨は三十年前の男性の
骨と判明する。

エーレンデュルたちが三十年前に行方不明になった
男性を丁寧に調べてゆくと、一つの失踪事件にいきあたる。
一人の農機具セールスマンが婚約者を残し消息をたって
いたのだ。その男性は偽名を使っていたらしく
アイスランドに彼の記録はいっさいなかった。
果たして男は何者で、なぜ消されたのか?
過去に遡って捜査を続けると、やがて当時の社会的背景の
中に呑み込まれた若者たちの悲劇に辿り着く・・・。

エーレンデュルたちが失踪した男の過去を捜査する現在と
一人の大学生のモノローグが交互に描かれ、事件との
関連性を示唆してゆく。
その展開に読み手はぐいぐいと引き寄せられてゆく。

エーレンデュルのプライベートも変化する。
娘のエヴァ・リンドとの確執から、今回は息子・シンドリの登場で
エーレンデュルの心は乱れてゆく。
彼の心を癒すのは、女ともだちのヴァルデュルゲル。
友達以上恋人未満の微妙な関係が心地よい。しかしそれも
彼女の夫の干渉で危うい・・・。
エーレンデュルが行方不明事件に情熱を燃やす意味も
少しずつ判明してゆく。

今回は「大切な人を失う」悲しみが切々と描かれ、
「深い愛」を感じた。
読み終わった後、心に余韻が残る傑作。

『湖の男』
著者:アーナルデュル・インドリダソン
出版社:東京創元社
価格:¥2,100(税別)

通訳捜査官の光と影を描く「叛徒」

「闇に香る嘘」で江戸川乱歩賞を受賞した
下村敦史さんの「叛徒」を読みました。

何度も乱歩賞にトライし、9回目で受賞された下村さん。
ミステリーのネタはかなり豊富だと思いますが、
この作品の主人公は通訳捜査官。

外国人犯罪者が年々増加の一歩を辿る日本の警察で
いまやなくてはならぬ存在。
でも一般的にはあまり知られていない。

通訳捜査官の苦悩が描かれています。

新宿署に勤務する、通訳捜査官・七崎隆一は、通訳捜査官として
尊敬していた義父の不正を告発したため、警察内部では身内を売ったと
蔑まれ孤立した状態にあった。
そのことで、妻との間には大きな溝ができ、大好きな祖父を失った
悲しみから引きこもってしまった息子は、最近悪い友だちと
付き合い始め、夜になるとどこかへ出掛ける毎日だ。

七崎はそんな状態でも、義父から言われたことを守り
仕事に邁進していた。

そんな時、新宿署に男の他殺体が見つかったと通報が入った。
第一発見者は中国人?。そこで七崎が通訳に入った。

話を聞いてゆくと他殺体の発見場所から中学生か高校生くらいの
男が飛び出してきたらしい。
その男の服装は龍のイラストが入ったブルーのジャンパーだったという。

七崎が帰宅したとき息子は帰っていなかった。
心配になり、息子の部屋へ入るとベッドの下から血で汚れた、
龍のイラスト入りのジャンパーが出てきた。
なぜ息子がこのジャンパーを・・・?
ショックで倒れそうになりなりながらも、息子の
パソコンを開く。そこには仲間と息子とのチャットの
やりとりが残っていた。
そこから浮かんできたのは、「中国人狩り」。
息子は仲間たちと中国人を見つけては暴力を振るっていたのだ。
そうであれば、息子は殺人を犯して逃げている可能性がある・・・・。
なんとしてでも息子を守らなければ・・・。
警察官の正義をかなぐりすて、七崎は決心する。

不正を行った父を告発したのに、自分は息子のために
取調官に嘘の通訳をする・・・。あれほど不正を憎んでいたのに・・・。
一体何だったのか?

通訳捜査官の仕事と、警察の正義と我が子を助けること、
そのはざまで揺れ続ける七崎の苦悩が臨場感たっぷりに
描かれている。
また、現在の日本が抱える問題も非常に深いところまで
斬り込んである。

重厚な社会問題をあえてテーマに取り上げる著者の真摯な姿勢には
いつも驚かされる。

『叛徒』
著者:下村敦史
出版社:講談社
価格:¥1,728、文庫版:¥842(いずれも税別)

松江・出雲も登場する!アクションエンターティメント「特殊防諜班」シリーズ

今野敏さんの「特殊防諜班」シリーズは、
松江・出雲が登場する、アクションエンターティメント作品。

「連続誘拐」「組織報復」「標的反撃」
「凶星降臨」「諜報潜入」「聖域炎上」
「最終特命」の7作品。

このシリーズは、紀元前10世頃、十支族に治められていたイスラエル王国が
アッシリアの侵攻によって崩壊。残された十支族は歴史から消えますが、
なんらかの伝手で、日本に渡来したのでは・・?という
「ユダヤ人渡来伝説」がバックボーンにあります。

そしてその十支族が持ち続けた「秘密」が日本の何者かに
伝承されたのではないか?
その「謎」と「秘密」をめぐり、秘密組織「新人類委員会」が
日本に闘いを仕掛けてきます。

それに立ち向かうのが、このシリーズのヒーロー・真田武男です。

主人公の真田は陸上自衛官。過酷な訓練で知られる
レンジャー部隊の実地訓練でたった一人で戦車部隊を
制圧してしまうほどの実力を持つエリートだった。

だが、孤高を貫く真田は軍ではやっかいもの扱いだった。
そんな真田に興味を抱いたのは、陸幕第二部別室・室長の
早乙女だった。
早乙女は、スパイ天国と言われる日本を他国からの間接的侵略や
テロの脅威から守るために、ある組織を立ち上げようとして
いた。それが、「特殊防諜班」だ。
早乙女は真田をスカウトし、二人だけの組織を立ち上げた。
そしてその組織は、日本の最高責任者と直結しており、
「首相の代理人」と異名をとる。

シリーズ第1弾では、宗教団体教祖の奇妙な誘拐事件を
探る真田。そこで雷光教団の東田夢妙斎と出会う。
東田夢妙斎を探るその過程で、真田はイスラエル大使館ザミルと
出会う。一方、雷光教団の教祖に危険を感じた、
出雲在住の謎の修験者・芳賀舎念は雷光教団に孫の恵理を
潜入させた!

真田・ザミル・恵理はこの事件をきっかけに運命的に
出会い、十支族の「秘密」を狙う、謎の集団との
死闘に巻き込まれていく!!

東京・出雲・松江を舞台に次々と襲い来る強敵。
しかし、真田とザミル、そして、芳賀舎念・孫の恵理は
闘いを経るごとに絆が深められてゆく!

勧善懲悪のシンプルでわかりやすいストーリーに
神秘的な歴史を織り交ぜ、読ませる作品。
さらに空手の師範である著者が描くアクションシーンは
まるで映画のようにかっこよく、息づかいまで聞こえてきそうな
臨場感!

シリーズ1作目を読むと、はまってしまう!
アクションエンターティメントの傑作。

「特殊防諜班」シリーズ全7巻
著者:今野敏
出版社:講談社(文庫)
価格:¥600~¥680(税別)