百人一首の謎に迫る!「身もこがれつつ小倉山の百人一首」

周防柳さんの「身もこがれつつ小倉山の百人一首」
(中央公論新社)を読みました。
主人公は、「新古今和歌集」の選者を務め、百人一首
を編んだ、平安後期~鎌倉時代に活躍した
歌人・藤原定家。

著者は、「蘇我の娘の古事記」を描いた周防柳さん。
平安貴族のきらびやかな世界を背景に描かれる和歌の世界!

御堂関白・道長に連なる藤原北家の系列ながら
傍流の御子左家は出世とは程遠い家柄。
その次男に生まれた藤原定家は、
子どものころ、2度も疱瘡に罹り、
ちょっとだけ顔にコンプレックスを持っていた。
病により、片方の耳が難聴に。
しかし、定家は並々ならぬ努力でその難聴を克服。
得意の歌で頭角を現す。

そして、親友の藤原家隆とともに
「新古今和歌集」の選者も務めた。

鎌倉幕府は朝廷を侮り、後鳥羽上皇の
闘争心に火をつけてしまう。
腹いせに、鎌倉幕府三代将軍・源実朝を
引き入れようと画策。
定家は後鳥羽院から、実朝の和歌の指南を
するよう命ぜられる。

偉大な人物も時に自身の才能を疑い、
落ち込む、恋に悩む、嫉妬の炎を燃やす。
読んでいる途中、定家が愛おしく思えてきた。

平安末期~鎌倉そして、承久の乱。
激動の時代の中、ただひたすらに歌の道に
邁進した定家の生き方に心が震える。

クライマックス、定家が選んだ百首の歌が
飛び交うシーンが非常に印象的。
そして、ラスト。
定家が政権に阿ることをやめ、すべてを悟り、
決意するシーン。
「真の歌の心がここにある。
歌の心とは、この国に一千年積り積もった
みやび男みやび女の思いの重畳であり・・・。」
そうなんだ!
自分の信じる道を行けば良い。
そのために定家は生きてきたのだから。
歌を愛し続けたのだから・・・。
そう思うと思わず泣けてきた。

「新古今和歌集」の編集。1000年後も
愛される数々の和歌を詠んだ偉人。
歌人・藤原定家の生涯をここまでドラマチックに
描いた作品はない。

そして、百人一首がどのようにして
編まれたのか・・・?
そこがこの作品の最大の読みどころ。
百人一首競技も、もしかしたらこれが始まり・・・?
なんてシーンもある。

百人一首好きなら絶対に読まないと損をする!
華麗なる歴史小説。

『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』
著者:周防柳
出版社:中央公論新社
価格:¥2,090(¥1,900+税)

あまりにも意外な真相に驚愕!「見知らぬ人」

エリー・グリフィス「見知らぬ人」(創元推理文庫)
を読みました。
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長編賞
受賞作。

主人公の女性の周りで不可解な事件が続く。
怪しげな人物が多数登場。
一体誰が犯人なのか?

クレア・キャシディは、中等学校タルガ―ス校の
英語教師で、作家ホランドの研究もしている。

10月のある日、クレアは親友でおなじ英語教師
のエラが自宅で殺害されたことを知る。

その現場には、「地獄はからだ」と書かれた
謎のメモが残されていた。
その言葉は、ホランドのホラー短編
「見知らぬ人」に繰り返し出てくるフレーズだった。

これは、作中作「見知らぬ人」の見たて殺人なのか?

クレア、刑事・バービンダー、クレアの娘・ジョージア。
3人それぞれの視点で事件の詳細が語られてゆく。

作中にたびたび登場する「見知らぬ人」の
文章。それが何を意味するのか?
謎が謎を呼び、どんどん迷い込んでゆく。

そして、後半はサスペンス色が強くり、
ハラハラする展開にページをめくる
手が止まらなくなる。

一体、犯人は誰なのか?全く見当がつかない。

意味深な作中作で惑わされ、
殺害現場に残された不可解な
メッセージが真相解明を阻む。

さらにラストに待ち構える衝撃と
戦慄の展開に背筋が凍る!

犯人当ての醍醐味がこれでもか?と
堪能できる衝撃作。

『見知らぬ人』
著者:エリー・グリフィス著/上條ひろみ訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,210(¥1,100+税)

圧巻の展開!「invert城塚翡翠倒叙集」

モンスター級の衝撃を受けた、
『medium霊媒探偵城塚翡翠』。
その続編が出ました。

前作は「すべてが伏線」というキャッチ
でしたが、本作「invert城塚翡翠倒叙集」は
「すべてが反転」。
このキャッチフレーズを聞いただけで
読む前からワクワクしました。

「invert城塚翡翠倒叙集」は
犯人たちの視点で描かれる。

アリバイは鉄壁、隠蔽工作も完璧。
事件はすべて事故として片づけられる
だろう・・・・。

完全犯罪を目論み殺人を犯した犯人たち。
ITエンジニアは、自分の力を認めて
くれない社長を殺した。
小学校の女性教師は、子供たちのために、
盗撮を繰り返す元用務員を殺害。
探偵事務所の社長は、自分の秘密を
知った部下を殺害。

彼らはみな完璧に殺人を行ったと信じていた。

そこに現れた、絶世の美女。
ちょっとドジで間抜け、頼りなさそうな
女性がある日突然犯人の前に現れ、
霊視めいたことをいう。

心当たりのある犯人は一瞬見破られたかと
思うけれど、こんな女に何がわかる・・・?
と油断してしまう。

城塚翡翠がどのようにして完全犯罪
を暴いてゆくのか?
3つの中編は、度肝を抜く展開!

「medium」とはまた違うミステリの
醍醐味が味わえる!傑作倒叙ミステリ。

ミステリファンはまたしても、またしても
城塚翡翠にやられてしまうのだった。

『invert城塚翡翠倒叙集』
著者:相沢沙呼
出版社:講談社
価格:¥1,925(本体¥1,750+税)

ユーモア全開!のオカルトミステリー「スリーピング事故物件」

「七回死んだ男」」やユーモアミステリーの
人気シリーズ「腕貫探偵」でおなじみの
西澤保彦先生の新刊が発売に!

曰くつきの事故物件で起こる、
オカルトチックなミステリー。
「スリーピング事故物件」(コスミック出版)

婚約破棄で仕事もやめた初音は、
婚約破棄の原因となった元職場の先輩・
ユウさんと、彼女の姪で女子大生・真歩と
3人で、曰く付きの事故物件で共同生活を始めた。

事故物件だから家賃は元から破格のお値段
それをさらに3人で分ければただ同然!
苦しいお財布事情の初音は、ユウさんの提案に乗った。

21年前に住人が殺された、その事故物件
には、一台のワープロが鎮座していた。
これまでの入居者は、邪魔なワープロを
片付けてしまった。
ところが、片付けても片付けても出現する
不気味なワープロに、恐慌をきたした過去の
入居者たちは早々にこの部屋から出て行ったのだ。

真歩がそのワープロに文字を入力すると、
21年前に死んだ箕浦奏人が文字を打ち返してきた。
どうやらワープロに奏人の霊が宿っているようだ!?

3人は怯えながらも、奏人とワープロを介し、
情報交換をしてゆく・・・。
奏人はなぜ殺されたのか?
犯人は誰なのか?

頭脳明晰な真歩が、名探偵並みに推理を
組み立てていく。
真歩の周りでしゃべりまくって恐怖を回避
しようとするユウと初音は、あまり
役にたたない、ワトソン役というところか。

過去と現在、複雑な人間関係が絡みに絡んで
事件は起こった。
それをロジカルに解いてゆく真歩。
真犯人解明のくだりは圧巻!
ありえない動機!
ぶっ飛びの真相!

さらに、因縁のふたりのはずなのに、
ユウと初音の謎めいた関係は突っ込みどころ満載!

強烈なキャラクターたちに魅せられる。最高に面白い
ユーモアオカルトミステリー!!!

『スリーピング事故物件』
著者:西澤保彦
出版社:コスミック出版
価格:¥1,760(本体¥1600+税)

正義の心が熱い!「女副署長 緊急配備」

松嶋智左さんの「女副署長」に続くシリーズ
第2弾「女副署長緊急配備」を読みました。

警察官としての矜持がどんな些細な罪も
見逃がさない。

県警初の女性副署長として、日見坂署に
赴任した田添杏美。
台風襲来の日、県警を揺るがす大事件が
勃発!杏美の機転で事件は解決。しかし、
不祥事の責任を問われ、日見坂署よりも
さらに規模の小さな、県郊外の佐紋署に
左遷された。

ところが、杏美の赴任直前、署長が
急病で緊急入院。署長代理も任されて
しまう。
そこは、ほとんど重大事件の起きない
のんびりした田舎の署だが、その分
地元の有力者たちとの距離が近く、
杏美は赴任早々憂鬱な気分になる。

しかし、それどころではない事件
が次々と起こる。
バイクによるひったくり事件が発生し、
緊急配備が発せられた。
そんな折、なんと18年ぶりに管内で
殺人事件が発生する。
さらに、ほぼ同時刻、海岸で警備課所属の
若手巡査が意識不明の重体で発見された。

いくつもの事件が同時並行で起き、
殺人事件は県警捜査一課が出張って
くる。杏美のライバルである、花野警部
の登場に心がざわつく杏美。

また、杏美と三十年来の因縁がある
巡査部長の動きも不穏な空気を醸し出す。

杏美の温かな声掛けで、シングルマザーの
女性巡査や、父親の介護に悩む総務課
巡査が、地道に捜査を続け、それぞれの
事件はやがて一つに繋がってゆく。

今まで表立って捜査をすることがなかった
若手警官や、女性警官が杏美の下で
自らの職務に目覚め、新たな目標に
進もうとする姿に胸が熱くなった。

女副署長・田添杏美の活躍に益々期待大!

『女副署長 緊急配備』
著者:松嶋智左
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥737(¥670+税)

家族を襲った悲劇の結末は!?『雷神』

道尾秀介さんの「雷神」を読みました。
「雷神」は、「龍神の雨」「風神の手」
など、「神」シリーズ三部作完結編。

優しい父母、仲の良い姉弟の4人家族。
どこにでもいる、善良で普通の家族。
しかし、母を襲った事件が家族を
不幸のどん底へ突き落す。

マンションで暮らす若き夫婦を
悲劇が襲った!
夫の目の前で妻が車に跳ねられて
亡くなったのだ。その事故の原因は
幼い娘の善意だった・・・・。

それから十五年。

埼玉で父の店を継いで小料理屋を
営む藤原幸人のもとに一本の脅迫電話が
かかってきた。
恐怖にかられた幸人。
なぜあの秘密を知っている?

それは、さらなる悲劇の始まりだった。

昭和の終わり、東北の羽田上村で
小料理屋を営み、平和に暮らしていた藤原家。
しかし、ある祭りの前日母親が行方不明に。
父によって探し出されたときは意識がなく、
病院で亡くなった。
その時そばにいたのは娘の亜紗美。
弟の幸人は悲しみのあまり眠ってしまっていた。
そして、村の伝統祭「神鳴講」に出された
キノコ汁を飲んだ村の有力者4人のうち2人が
亡くなった。そして幸人の父がその事件の
疑惑の渦中に・・・。

「母の不審死」と「毒殺事件」。
幸人は姉の亜紗美と娘の夕見とともに
真相を解き明かすべく、30年の時を経て、
因習に囚われた故郷へと潜入調査を試みる。

それは、19歳の一人娘・夕見を守るためだった。

母はなぜ死んだのか。
父は本当に「罪」を犯したのか?
事件の日、姉と弟を襲った雷撃!

そして現代で起こった新たな悲劇。
その連鎖は止まらない!

ささやかな善意は悲劇に変わり、
隠された悪意は、激しい憎悪を
含んで惨劇を繰り返す。

過去の秘密と現代の秘密がクロス
したときあまりにも哀しい真相にたどり着く。

ページをめくるたびに、驚きと悲しみが交互に襲う。
止められない、驚愕の道尾マジックに翻弄された。

『雷神』
著者:道尾秀介
出版社:新潮社
価格:¥1,870(¥1,700+税)

この世に未練を残した霊の心を癒す「霊視刑事 夕雨子2」

青柳碧人さんの「霊視刑事 夕雨子1」
があまりにも良かったので、第2弾
「霊視刑事 夕雨子2 雨空の鎮魂歌」を
読みました。

事件や事故に巻き込まれ、この世に心が
残ってしまい、成仏できない人たちの霊を
癒す物語。

中野署の刑事、大崎夕雨子は、小さいころから
この世に未練を残す霊と会話が出来るという
特別な能力があったが、祖母からもらった
色あせたストールを巻いている時だけは
霊の気配は感じられないでいた。

刑事課に配属された夕雨子の相棒は、
本庁の捜査一課から異動になった、
辣腕女性刑事・野島友梨香。

日本語学校の校長が殺害された現場で、
死んだ校長本人から犯人の名前を
聞いた夕雨子。しかし、別の霊が
それを否定する!
「アリガトウという言葉」

自己肯定感の低い漫画家が事故死した。
その現場で本人から事情を聞いた
夕雨子。両親との確執、売れない
漫画。自分なんて・・・・
そんな彼女の心を救おうと必死に
彼女の願いを果たそうとする。
「涙目のさよなリーヌ」

ある日、署長から呼ばれた夕雨子と
野島。必ずエレベーターを使って
署長室へ来いと、妙な注文をつけられる。
そしてエレベーターに乗ったとたん
男の霊が二人の前に現れる。
そして、「俺の名前を思い出せ」
思い出さなければ、ずっと閉じ込める
と脅される。この男、一体誰?
「俺の名は。」

上司から、女性が行方不明になった
と知らされる。その女性は野島が左遷
されるきっかけとなった因縁の事件の
関係者だった。上司から二人はこの
事件に首を突っ込むなと釘をさされるが。
「ハチミツの雨は流してくれない」

「俺の名は。」での野島の手柄話が
ユーモアたっぷりに描かれていて面白い。
最終話の「ハチミツ~」は、絡みに絡んだ
事件の真相を、野島が解きほぐしてゆく。
その真相があまりにも残酷。
野島の相棒の死の真相も明らかになる。

予想だにしない犯人像、衝撃的結末。
心優しい霊たちに助けられる二人。
癒し、そして癒される。
このシリーズが大好きだ。

また、夕雨子は幼い頃行方不明になった
親友・公佳を探し出すまであきらめない。

夕雨子の霊視と野島の行動力と鋭い
推理力で難事件に挑むシリーズ第2弾
とても面白かった。

『霊視刑事 夕雨子2 雨空の鎮魂歌』
著者:青柳碧人
出版社:講談社(文庫)
価格:¥748(¥680+税)

冒頭からの衝撃展開に唖然!「境内ではお静かに神盗みの事件帖」

天祢涼さんの「境内ではお静かに」シリーズ
第3弾を読みました。
前作では、壮馬が雫に告白するか否か?
えんえんと悩むところで終わった。

大学を中退し人生迷走中の壮馬。兄が神職を
務める横浜の有名な神社「源神社」で働くことに…。
信仰心ゼロの壮馬は、眼を瞠るほど美しい
巫女・雫の弟子となり、神社の業務を学ぶ日々…。

巫女の久遠雫と様々な事件やトラブルを
解決してきた壮馬。
前作からえんえんと思い悩み、
ついに雫に想いの告白を決意!

しかし、告白直前、なんと雫が
カレシを連れてきた。
そのカレシとは人気アイドルの清宮聖哉だった!
あまりのショックに呆然とする壮馬。

ところが二人の様子を見ていると、
雫はなにか隠している様子だ。
そして、聖哉にも何か事情がありそうだ。

そんな中、源神社の大事な御神体・今剣が盗まれた!
兄から今剣の捜索と事件解決の依頼をされた壮馬。
雫に対し複雑な思いを抱きながらも
一緒に事件の行方を追うことに・・・
なぜか聖哉も事件に首を突っ込んできた。

冒頭の展開があまりにも衝撃的すぎて、
物語の内容がなかなか頭に入らない。
雫と壮馬のこの先が気になる、気になる。

ご神体は密室状態の中、盗難にあった。
一体どういうこと・・・?
雫と聖哉はどうなる!?
謎が謎を呼ぶ展開に!

恋愛パワースポットの源神社を舞台に
恋と事件の行方を追う究極の胸キュン
ラブコメミステリー。
第4弾が待ち遠しい!

『境内ではお静かに 神盗みの事件帖』
著者:天祢涼
出版社:光文社
価格:¥1980(¥1,800+税)