今注目の社会派ミステリー作家・望月諒子さんのデビュー作「神の手」

先日、ドラマ化放送されたばかりの
望月諒子さんの「神の手」読了。
フリージャーナリスト・木部美智子
シリーズ第一弾。
たまたま読み終わっていて、
ドラマを視たので、小説の中の不明な点が
スッキリわかって良かった!

文芸系雑誌の編集長を務める三村のもとへ
広瀬という医師から電話が入った。
「高岡真紀という女性を知っているのか?」と。
三村には記憶のない女性だった。
ところが、その女性名義で小説のゲラが送られてきた。

その作品は、三村が過去に封印した作品。
小説の作者は来生恭子でという女性で、
行方不明になっていた。

なぜ来生恭子の小説を高岡真紀が持って
いるのか?
三村は高岡と会うが、顔は全くの別人。
しかし、しぐさは恭子とそっくりで、、
10年前に三村に話したことと全く同じこと
を話した。

三村は高岡真紀に疑惑を抱く。

フリージャーナリストの木部美智子は、
3年前の誘拐事件でただ一人行方不明に
なってしまった男の子の取材を続けていた。
ある日、同じジャーナリスト仲間の
高岡真紀から、盗作疑惑の情報を得る。

それは、つい先日新世紀文学賞を受賞した
本郷素子「花の人」についてだった・・・。

そして、木部はその盗作疑惑を取材するうちに、
三村に繋がり、やがて来生恭子に辿り着く。

恭子は妹に夥しい数の作品を預けていた。
なぜ彼女は多くの作品を妹に預けたまま
失踪したのか?
そこには恐ろしい真相が隠されていた。

読み進むうちに謎が深まる展開。
誰がどこでどうつながってゆくのか?
迷宮をさまよっているような感覚に陥る。

来生恭子の小説を描くことへの異常なまでの
執着、何かを描かずにはいられない、
生きられない、その業の深さに戦慄する。

この深い謎を、記者・木部とともに
追いかけている気持ちで読んだ。

圧巻のデビュー作!!

『神の手』
著者:望月諒子
出版社:集英社(文庫)
価格:¥935(本体¥850+税)

悪辣弁護士・御子柴礼司シリーズ最新刊「殺戮の狂詩曲」

中山七里さんの数多くの作品の中で
一番好きなシリーズ。

弁護士・御子柴礼司シリーズ最新刊
「殺戮の狂詩曲」(講談社)読了。

少女を惨殺した過去を持つ、弁護士・御子柴礼司。
悪名高い弁護士で高額な弁護費用、
裁判に勝つためならどんなあくどい手も使う。
しかし、御子柴は少しずつ変化してゆく。

高級老人ホームで働く忍野は、入念な計画を
たて、ある夜実行に及んだ。
それは、この施設に入所している老人34人全員を
抹殺することだった。

しかし、9人を惨殺したところで、
戦闘不能にしたはずの介護職員に取り抑えられ、
現行犯逮捕された。

取調べで殺害動機を聞かれた忍野は、
「生産性のない上級国民。生きていたって
何の価値もない。消えてもらった方が
世のためだ。」と嘯き、反省の態度すら
見せない。

ニュースでは、「令和最悪の凶悪事件」と
報道され、ワイドショー他メディアを賑わせた。

その凶悪犯・忍野の弁護を名乗り出たのは、
悪評名高い、御子柴礼司だった。
御子柴の過去が公になり、依頼人が減っている
のに、こんなバケモノみたいな被告の
弁護などしたらさら依頼人が減ると心配する
事務員・洋子。
そして、顧問先のヤクザ事務所の山崎も
仕事を選べと言ってきた。

そんな雑音に社会正義で真向対決する御子柴。

御子柴は彼なりに忍野に裁判の厳しさ、遺族の
怨嗟の恐ろしさを説くが、取り調べで供述した
ことを繰り返す。
本当に忍野が自分で考えたことだろうかと
疑い始める。

この裁判、御子柴が勝っても負けても
ダメージは大きい。損害は図りしれない。

それなのに、どこに勝機があるのか?
最後の最後までわらない。
ところが、そんなタイミングでとんでもない
どんでん返しがぶち込まれている!
あまりの衝撃に言葉を失う!

またしても、御子柴の激烈な反撃に
やられてしまう。
御子柴って実在するのではないかと
疑ってしまうくらい、強烈な個性を
放っている。

実際にあった事件を彷彿とさせる物語。
ここまで描いた著者の勇気に脱帽だ。

『殺戮の狂詩曲』
著者:中山七里
出版社:講談社
価格:¥1,760(¥1,600+税)

解決篇が袋とじ!?話題のポケミス「死と奇術師」

トム・ミードのデビュー作「死と奇術師」
(早川書房)読了!
解決篇は、なんと!ポケミス史上初の
袋とじ!ワクワクします!

1936年、ロンドン。
舞台女優のデラは、秘密を抱えていた。
彼女はある人物へ相談しようとしていた。

それは、高名な心理学者・リーズ博士だった。
デラは彼の患者Bだ。

その日、リーズ博士は夜遅くに来る客を待っていた。
使用人のミセス・ターナーにも来客の話は通しておいた。
雨の中、その客はやってきた。

リーズ博士から案内は無用と言われていたので、
部屋の説明だけして、ミセス・ターナーは仕事に戻った。

その時、女優のデラが突然やってきた。
ミセス・ターナーは博士は来客中だと言って
デラを追い返そうとしたが、デラは無理やり
家の中に入り、博士の部屋まで押しかけようとした。

博士に呼びかけたが、まったく反応がない。
何か変だと感じたミセス・ターナーとデラは
裏技を使って博士の部屋の鍵を開けると、
喉を掻き切られ、息絶えた博士を発見した。

博士の書斎は密室状態、さらに凶器も見つからず、
死の直前に博士を訪れた謎の男の正体も
不明だった。
外に出るにはミセス・ターナーたちが
いる居間を通らなければならない。
しかし男が通った気配はなかった。
犯人はどうやって逃げたのか?

不可解な事件、いわゆる不可能犯罪に頭を
悩ませた、ジョージ・フリンと警部補は、
元奇術師の私立探偵・ジョセフ・スペクターに
捜査協力を依頼するが・・・。

多重に仕掛けられた不可能犯罪、
練り練られた密室トリック、さらに多数の
妖しい容疑者たち・・・。
登場人物たちの精神病理的な部分にも斬り込んでいて、
興味深い。

古典ミステリへのリスペクトが半端なく、
時代背景や舞台設定など、カーやクイーンの
世界観が好きなミステリファンにはたまらない作品。
おまけに、解決篇が袋とじという読者挑戦もので、
推理する楽しさも味わえる!!
デビュー作とは思えない、完成度の高いミステリ作品。

『死と奇術師』
著者:トム・ミード/中山宥訳
出版社:早川書房(ポケットミステリ)
価格:¥1,980(¥1,800+税)

人気シリーズ「行動心理捜査官・楯岡絵麻」の最新刊「ホワイ・ダニット」

佐藤青南さんの人気シリーズ
「行動心理捜査官・楯岡絵麻」の最新作・
「ホワイ・ダニット」(宝島社)読了。

ドラマ化もされ、読んでいると楯岡の
イメージは、主演女優さんに重なって
しまう。

同棲中のカップルが自分たちの日常を
動画配信する「カップルチャンネル」で
人気のある「はるみきチャンネル」。
男性が一人だけで配信し始めた。
ところがその生配信中、何者かが侵入し、
男性を襲った。
視聴者は、「ドッキリ」を疑ったが、
男性は本当に殺されていたのだ。
犯人は早々に逮捕されたが、警察が納得
できる動機を語ることはなく、なぜか
警察をバカにしたような態度をとった。
そこで、行動心捜査官の楯岡が呼ばれる・・・。
【殺人動画にいいねとチャンネル登録お願いします】

ホストクラブ「アレキサンドライト」で働く
山名が遺体で発見された。
警察が捜査を進めると、山名は店のカリスマホスト・
銀河から日々説教を喰らっていたらしい。
山名が殺された日は、店のホスト仲間15人ほどで、
飲み会をやっていた。そこでも銀河は山名に
説教をしていたが、やがて二人の姿が見えなく
なり、銀河一人が店に戻ってきた。
その証言から、警察は銀河を引っ張ってきていた。
そして、取り調べに楯岡が呼ばれたのだ。
美人の警察官がやってきて気をよくした
銀河は、カリスマホストの実力を見せようと
楯岡に向かうが・・・・。
【指名料はおまえの命で】

天才子役・染井佳乃の母親、史子が自宅マンションの
バルコニーから転落死した。
不慮の事故で片づけられたが、楯岡が葬儀の場で
コメントをする夫に疑惑を抱き、それから五日後、
夫を調べるために、マンションを訪ねた。
楯岡が夫に質問するが、嘘を言っているのは
見え見えだった。
一旦、外に出てから、待機させていた捜査一課の
刑事とともに再度夫に事情聴取すると・・・。
【天才子役はミスキャスト】

楯岡絵麻をいたぶって弄ぶ、殺人鬼・楠木ゆりか。
十二人を殺害した犯人。死刑囚だが、
獄中結婚した夫・畑中を使って、殺人事件を
起こしたのか!?と詰め寄る楯岡の聴取を
のらりくらりとかわす。
殺されたのは、元教師で夜の街でたむろする
未成年を補導する活動で有名になった男。
彼のキャッシュカードを使って金を引き出した
男が逮捕された。楯岡たちは、事件のからくりを
暴くため、男を追及するが・・・。
【誰がために鐘は鳴る】

「ホワイ・ダニット」は、殺人の動機が
テーマになっている。
容疑者はなぜ動機を隠すのか?
彼らにはそれぞれ 事情がある。しかしそれは
身勝手な理由だ。それで人を殺していいはずはない。
容疑者がひた隠す、その動機に迫ってゆく過程は
ひねりが効いていてとても面白かった。
特に、楯岡が容疑者を安心させておいて、
次第に核心をついてゆき、真相を語らせる
シーンは爽快。
ただ、子どもが登場する物語は、少し切なくて
悲しかった。

事件解決後、楯岡の相棒・西野や
捜査一課の連中と打ち上げをやる
シーンはホッとする。

『ホワイ・ダニット 行動心理捜査官・楯岡絵麻』
著者:佐藤青南
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥780(¥709+税)