監禁パニックホラー!「ママ」

窪田正孝さん主演で映画化が決まった、
衝撃ホラー「スイート・マイホーム」の著者
神津凛子さんの第2弾「ママ」を読みました。

なぜ自分がこんな目に合わなくては
ならないのか?
娘と二人、健気に生きる母親を襲った
突然の恐怖!

シングルマザーの後藤成美はパートで生計を
立て、一人娘のひかりと二人慎ましく暮らしている。
貧しいけれど、ひかりがいれば何もいらない。
愛する人が残してくれた唯一の生きがい・・・。

パート先では、成美と同じ境遇のママ友もできた。

しかし、成美たちが暮らす団地で隣人の行き過ぎた
おせっかいに頭を悩ませていた。
成美はその隣人に、「どうしても母になれなかった女」
を感じ、自分の母親と似ていることで、嫌悪感を
抱いていたのだ。だが・・・。

ひかりから決して目を離してはいけないと
改めて誓ったその後、突然、首を絞められ
意識を失った。
目を覚ませば見知らぬ密室で手足を拘束されていた。
一体なぜ?
成美をよく知ったような態度で迫る、目の前の男は
誰なのか? 娘のひかりはどうなったのか?

なぜこんな目に合わねばならないのか?

恐怖と絶望に支配される成美。
このまま死んでしまったら、ひかりに会う
ことはできない。
絶対にひかりのもとへ行く!
その思いだけが成美を動かす。

成美とひかりの小さいながらも幸せなひとときの
シーン。読んでいると泣けてくる。
だからこそ、この監禁シーンの異常性が際立つ。

男が成美を監禁した目的とは何か?

戦慄の展開だが、圧倒的なリーダビリティで
最後までいっきに読ませられた。

『ママ』
著者:神津凛子
出版社:講談社(文庫)
価格:¥770(¥700+税)

圧巻の展開!「アリスが語らないことは」

ピーター・スワンソン著「そしてミランダを殺す」
「ケイトが恐れるすべて」に続く、サスペンスミステリー
「アリスが語らないことは」(創元推理文庫)読了。

今回はどんな展開が待っているのか?
ワクワクしながら読みました。
まったく!スワンソンは、ミステリーファン
を裏切らない!!
えッ!?と思わず声がでてしまう意外過ぎる展開。

卒業式を数日後に控えた大学生のハリーは、
継母のアリスから父親の事故死を知らされる。
あまりにも突然の出来事で、ハリーは悲しみよりも
驚きの方が強かった。
友人のポールと二人、急ぎ実家へ戻る。

美しい継母アリスは憔悴し、困惑しハリーに
すがった。
刑事によれば、父親は海辺の遊歩道から転落する前、
何者かによって頭を殴られていたという。
ハリーはアリスにそのことを問いただすが、
アリスは事件について話したがらず、ハリーは小さな疑問を抱く。

ハリーの父親はミステリー小説好きで、自営で書店を2店
持っていた。その二つは、ハリーの父の友人たち
に任せていた。
父親は誰かに恨まれていたのか?
ハリーは父親の友人たちに聞いてみるが、そんなことは
ないだろうと言う。
そんな中、父親の女性問題が浮上する。

彼らの過去と現在を行き来する物語。
淡々と描かれるが、その物語は、徐々に狂気を
孕んでゆく・・・。

父の死は悲劇か、それとも巧妙な殺人か? 

読み進めてゆくとあるシーンで今までの世界観が
一変する。それこそ思わず「えっ?」と一瞬
止まる。そして心がざわつき始める。

えええ~~~ッ

予想をはるかに超えた展開は、それまでの作品を
凌駕する。

凄すぎる圧巻のサスペンスミステリー。

『アリスが語らないことは』
著者:ピーター・スワンソン著/務台夏子訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,210(¥1,100+税)

謎の組織に狙われる!?「悪の包囲 ラストライン⑤」

堂場瞬一さんの人気警察小説シリーズ
「ラストライン」。5作目に突入。
立川中央署に勤務する刑事・岩倉剛の周囲で
謎の組織が動き出し、危険度が増してゆく!

岩倉剛は、あらゆる事件を記憶するという
特殊能力があり、その能力を研究材料に
狙う、サイバー犯罪対策課の福沢が殺害された。

事件直前、本部へ寄った時福沢に
つかまり、岩倉は衆人環境の中で
福沢に暴力的な態度をとってしまった。

捜査一課から、容疑者扱いされた岩倉は
捜査本部からはずされる。
犯行時刻、岩倉にはアリバイがあったが、
それは公にできない。
事情聴取した、取調官・大友鉄は岩倉を信じた。

それでも身の潔白を証明すべく、独自に捜査を
続ける。
ところが、謎の人物に尾行されたあげく、
襲撃される。
周囲は岩倉を心配するが、本人は逆に
絶対に真相を暴くと覚悟を決める。

捜査が進む中、やがて事件の背後に謎の
武器密売組織METOの存在が浮かび上がる。

徐々に事件の恐ろしさが増す、スリリングな展開。
岩倉はなぜ狙われるのか?
METOの目的は何なのか?

今後の展開がとても気になる!

ハラハラドキドキする中、失踪人捜査課の高城、
捜査一課の大友鉄、岩倉の後輩・伊東彩香が
登場し、読んでいてとても癒された。

『悪の包囲 ラストライン⑤』
著者:堂場瞬一
出版社:文藝春秋
価格:¥880(本体¥800+税)

奇想天外な誘拐!?「午前0時の身代金」

第8回新潮ミステリー大賞受賞作、京橋史織さんの
「午前0時の身代金」を読みました。

古今東西、ミステリー小説に登場する
「誘拐事件」。犯人の莫大な身代金要求に
被害者・警察は頭を抱える。しかし身代金
受け渡しの時が犯人確保のチャンス!
ところが、犯人に翻弄され、犯人確保に
失敗する・・・という設定が多かったように思う。

今作「午前0時の身代金」は、誘拐犯から犯行宣言と
身代金一〇億円をクラウドファンディングで日本国民
から募集するという前代未聞の荒業が見事!

新人弁護士の小柳は、上司の国際派の企業弁護士・
美里千春から、詐欺事件の相談に来る本條菜子の
力になってほしいと頼まれる。
現れた菜子は、事件に巻き込まれたのではなく
自分自身が詐欺を働いたというのだ。

友人からちょっと頼まれた仕事。それは受け子の
バイトだった。菜子は友人の彼氏である、
詐欺リーダーの男の罠にまんまとはまり、
犯罪に引きずり込まれてしまった。
それを止めようとした菜子の友人は男に
殺されてしまう。

菜子は友人の仇をとるために、大掛かりな取引の
妨害をしようとするが失敗。逆に男たちに
追われる羽目になってしまう。

それを助けたのが、美里だった。
話を聞き、菜子を送る道々、菜子が行方不明に
なってしまった。

翌朝、美里のクライアント、IT企業サイバー
アンドインフィニティ社に誘拐犯からの犯行宣言と
身代金10億円をクラウドファンディングで日本国民
から募集しろという脅迫メールが届く・・・。

特殊詐欺事件から端を発した誘拐事件。警察
マスコミを翻弄する劇場型犯罪。大手IT企業を
襲った奇想天外な身代金要求!
どんでん返しに次ぐどんでん返し。
そして、想像を絶する真相に驚愕する。

群を抜くリーダビリティと時代の最先端をゆく斬新な設定。
最高に面白い、企業サスペンスミステリー。

『午前0時の身代金』
著者:京橋史織
出版社:光文社
価格:¥1,650(本体1,500¥+税)

重厚なリーガルミステリー!「刑事弁護人」

薬丸岳さんの「刑事弁護人」(新潮社)を
読みました。

凶悪な犯罪を犯した容疑者に対しても、
弁護をする必要はあるのか?という問いに
真向から挑んだ意欲作。とにかく最高に
面白かった。

事件が起きて重要参考人となり警察で
取り調べを受けることになると、法律も
なにもわからない者がたった一人で
国家権力と向き合うことになる。
警察の厳しい取り調べに根負けし、やっても
いないことをやったと言わざるおえない状況に
追い込まれる。
日本は、起訴されてしまうと99.9%有罪になってしまう。

刑事弁護人とは、被疑者や被告人の権利を守り、
その利益を何よりも優先させること。
さらに冤罪の悲劇を避けるためにも、被疑者を
支えることは重要なことなのだ。

人権派弁護士事務所で働く、若き弁護士・持月凛子は、
弁護を担当した事件関係者に殺された父の後を追い、
刑事弁護士となった。
相棒は、元警察官という曲者弁護士・西大輔。
ぶっきらぼうで法廷でも被告人の利益を考慮しない
弁護態度が災いし、仲間から浮いている。

凛子は、現役の女性警官がホスト殺しで
逮捕された事件の担当になった。
彼女は真面目で仕事熱心。犯罪被害者の心に
寄り添う優しさで感謝されていた。
容疑は殺人だったが、ホストの部屋で襲われ仕方なく
やってしまった、いわゆる正当防衛を主張し
容疑を否認した。

女性警官は、4年前に息子をなくし夫との
関係は冷え切っていたようだ。
心のわびしさを埋めるためにホスト通いに
至ったのか?

しかし、女性警官に接見した凛子は、
なんとなく違和感を抱く。
西と二人で彼女の身辺調査を開始。
ホストに入れあげるというイメージとは
ほど遠いと感じた。
さらに、供述調書と証言の食い違いが見られる。

女性警官とホストとの関係は何なのか?
なぜホストを殺害するに至ったのか?

凛子と西が調べを進めてゆくと、この事件の
想像を絶する真実にたどり着く・・・。

弁護士と被疑者の接見から、弁護士が被疑者のために
詳細に調査をする過程。真実を隠蔽しようとする
被疑者との対決など、非常に丁寧に描かれていて
刑事弁護人の執念が伝わってくる。
罪を犯し、激しく揺れ動く被疑者に語る
言葉は心に響いた。

被疑者が事件を起こした本当に理由を探る
過程はミステリーとして十分に堪能でき、
この謎解き部分が非常に面白い。

圧巻は、クライマックスの法廷シーン。
実にリアルに描かれていて、実際に法廷に
いるかのような臨場感がある。

弁護士と被疑者のやり取りから裁判までの過程を
ここまでリアルに描いた作品はないと思う。
近年まれにみる、重厚なリーガルミステリー。

『刑事弁護人』
著者:薬丸岳
出版社:新潮社
価格:¥2,145(¥1,950+税)

衝撃の面白さ!「幸村を討て」

「塞王の盾」で直木賞を受賞された今村翔吾
さんの受賞後第1作「幸村を討て」(中央公論新社)
を読みました。

大坂夏の陣・冬の陣で活躍した、真田幸村。
大坂方は、数少ない豊臣恩顧の武将たちや
浪人の集まりで、徳川方を迎え討つ。
烏合の衆と侮っていた徳川方は、なぜか
苦戦を強いられることになった・・・。

徳川家康の宿敵・真田昌幸。家康は、
若い頃から昌幸が苦手だっった。
昌幸が死んだと聞き、この戦は勝てると
踏んだ家康だったっが、大坂城の南に
築かれた城、真田丸の戦い方に
昌幸の影を感じ戦慄する・・・・!

織田信長の弟、織田有楽斎は、この戦で
総大将となったが、覚悟を決められず
悩む日々だった。なぜならば彼は徳川方の
スパイだったからだ。兄・信長を偲ぶ有楽斎。
織田信長の意外な優しさが伝わってくる。

さらに、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永、
南条元忠らの思惑が交錯する大坂の夏・冬の陣。
七人の男たちが、口々に叫んだ――幸村を討て!
彼らには、討たなければならないそれぞれの理由があった。

真田正幸、真田信之父子は、多くの武将たちに
一目置かれる存在だったが、真田信繁(大坂城入りで
名を幸村と改める)は、徳川家康ら主だった武将からは
軽んじられていた。だが、大坂夏・冬の陣で
徳川方は幸村の知略を尽くした戦に翻弄されることとなる。

大坂入りした武将たちや浪人らは、豊臣方に勝ち目は
ないと思っていた。
名を残したい、武士としての誇りを胸に戦場で
散りたいと覚悟を決めたもの、それでも生きたいと
望む者たちの戦。

敵も味方も翻弄し続けた、真田の戦とは
どのようなものだったのか?

最終章「真田の戦」は徳川家康&本多正信VS
真田信之の構図。
大広間での彼らの息詰まる攻防戦は、ひりひり
するような圧倒的な緊張感が漂っていて、
読み手も息が詰まってしまう!

今までの真田幸村・信之像を覆す!
面白すぎる、異色の戦国連作短編ミステリー。

『幸村を討て』
著者:今村翔吾
出版社:中央公論新社
価格:¥2,200(¥2000+税)

百合小説オンパレード!「彼女。百合小説アンソロジー」

今、大注目の「百合小説」。女性同士の
恋物語を描く小説だが、それだけを集めた
アンソロジー集が出ました!
「彼女。百合小説アンソロジー集」
(実業之日本社)。
著者のラインナップに驚く!!!
相沢沙呼、斜線堂有紀、織守きょうや、
乾くるみ、武田綾乃、青崎有吾、円居晩。
この著者を見たら絶対に読みたくなってしまう~。

「椿と悠」織守きょうや
秋山椿は、クラスメートの塩野悠に惹かれてゆく。
いつも一人だけど、それを全く気にしない悠。
人とのつきあいがあまり得意ではない椿だったが、
勇気を出して悠に声をかける・・・。
椿と悠の勘違いから何かが始まる・・・。

「恋澤姉妹」青崎有吾
あるゲームで「最強」を欲しいままにしている、
恋澤姉妹。彼女たちに会いに行くと言って
去った、除夜子。彼女は死んだのか?
彼女たちを探す中で、壮絶なバトルが
繰り広げられる。
女子たちが強すぎる、ハードボイルドな復讐譚。

「馬鹿者の恋」
まっすぐに気持ちを伝えてくる幼馴染の萌。
萌の気持ちを知りながら、なかなかそれに
応えられない千晶。
しかし、ある転校生の登場で、二人の関係が
微妙にずれてゆく。
自分に素直になった時、初めて本当の気持ちに気づく悲劇。

「上手くなるまで待って」円居晩
大学時代の文藝部で、憧れの先輩に「うまく
なるまで待ってるから」と言われた私。
社会人になって、大学時代の友人から
私が書いたと思われる小説が投稿されてると
知らされる。身に覚えのないことに
私は悩まされるが・・・。
女性同士の複雑な感情をサスペンスタッチで描く。

「百合である値打ちもない」斜線堂有紀
人気FPSゲーム「ガンズへイル」の美しき
プロモーター美優島乃枝とペアを組む私。
でも常々、私は醜い人間。美優島乃枝の
恋人である資格がない。今の自分は百合
である値打ちもないと思っていた。
そしてとうとうある決意をする。
恋人とのギャップに悩む切ない心がリアルすぎる。

「九百十七円は高すぎる」乾くるみ
ソフトボール部の愛する先輩がいなくなり
京華と敦美は、相手を先輩に見立て、恋愛ごっこ
を楽しんでいた。ある日モールで買い物中の先輩と
その友人を見かける。彼女たちの会話が聞こえてきた。
「え、そんなに?」「917円?」。
京華と敦美は憧れの先輩と同じ金額のものを
買おうと計算し、モール中を駆け巡る・・・
先輩が買ったのものとは?
乾くるみワンダーランド炸裂!!!面白い!

「微笑みの対価」相沢沙呼
高校時代に出会った優香と紫乃。優香の方から
積極的に声をかけた。やがて二人の気持ちは
通じ合う。社会人なった二人は疎遠になっていたが、
ある日、紫乃から連絡があった。
その内容とは・・・?
仮に裏切られたとしてもなお、愛する人のためならば
何でも出来るのか?究極の選択を迫られる。
愛しすぎた末の悲劇。

凄い!凄い!ラインアップ。ミステリーファン
歓喜のアンソロジー。

『彼女。 百合小説アンソロジー』
著者:相沢沙呼/青崎有吾/乾くるみ/織守きょうや/斜線堂有紀/武田綾乃/円居晩
出版社:実業之日本社
価格:¥1,925(本体¥1,750+税)

戦慄の展開!「四面の阿修羅」

島根県在住のミステリ作家、吉田恭教さんの
探偵・槙野&女刑事・東條シリーズ最新作、
「四面の阿修羅」(南雲堂)読了。

復讐の連鎖が恐ろしい事件を生む!
そして、東條の愛する姉の死の真相が明らかになる。

男性のバラバラ死体が発見された。
すさまじい拷問のあと、バラバラにし
四肢を積み上げ、その上に「生ごみ」という
貼り紙のついた頭部が置かれていた。

その死体からはすさまじい憎悪を見て取れた。

捜査一課の女刑事・東條は、所轄の女性刑事と
ともに捜査を開始する。
暫くして、被害者の身元が判明する。

東條は、特ダネを狙う女性記者に目をつけ
自分の情報屋として使うことに。
その女性記者は、被害者を知っていると言う。
被害者は、3年前のOL惨殺事件の容疑者として
逮捕された男の別件の事件のアリバイの証言者だった。

その一件から、捜査は動き出す。
東條はあらゆる伝手を辿り、捜査を進めてゆく。

ところが捜査の過程で、未解決だった事件の真相が
浮かんできた。
それは、東條が刑事になるきっかけをつくった
姉の事件だった。

身内がかかわる事件の捜査には参加できない。
それがルールだ。
東條は仕方なくそれをのむが、彼女の真相究明の
執念はそんなことで失われることはなかった。

そして、東條の捜査情報と記者がつかんだネタから
ある事実をつかむ。
それは予想をはるかに超える衝撃的なものだった。

点のように散らばった伏線は、徐々に一つの
線へとつながってゆく。
その過程が非常に面白い。

大切な人を失った慟哭。悲しみを乗り越えて
前に進む人もいるが、理不尽に奪われた
人の悲しみや苦しみは尋常ではない。
憎悪はやがて殺意へと変化する。
そして復讐の鬼と化してゆく。

読み終わり、もう一度タイトルを目にすれば
その意味の深さに戦慄する。

今回もイッキ読み!とても面白かった。

『四面の阿修羅』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂
価格:¥1,980(¥1,800+税)

アリバイ崩し第2弾!「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」

大山誠一郎さんの「アリバイ崩し承ります」は、
2019年に、浜辺美波さん、安田顕さん主演で
ドラマ化されました。
面白かったです!!
その第2弾が発売されました。
「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』です。
このシリーズ、アリバイ崩しに特化したミステリー
短編集です。時計屋探偵・時乃さんの鮮やかすぎる
謎ときに思わず膝を打ちます。

ダム湖から引き揚げられた車の中から60代と
見られる男性の遺体が発見された。
詳しく検証すると、ギアがニュートラルの
ままダム湖に突っ込んでいた・・・ということは
何者か車を押してダム湖に突き落とした、つまり殺人だ。
関係者から事情を聴いたところ、怪しい人物が
浮かび上がった。その人物とは、死亡した男性の甥。
しかし、甥には完璧なアリバイがあった。
男性が亡くなったと推定される時間、甥は友人
3人と麻雀をやっていたのだ・・・・。
「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」

議員の秘書の焼死体が発見された。
議員のパーティー中に秘書のもとへ電話が
かかってきたらしく、電話の内容は秘書の父が倒れ
入院したという緊急の要件だった。
議員はすぐに病院へ行くように言った。
秘書の胃の内容物は、パーティー会場で出された
食事。秘書はそのあと殺害されている。
パーティー会場で怪しい人物はいない。
500人もの証人がいる。
一体、誰がなんのために秘書を殺害したのか・・・?
「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」

閑静な住宅街の一軒家で、男性の遺体が発見された。
第一発見者は家政婦。
男性には3人の親族がいた。一人は女優、
あとの二人はレストラン経営者とバスケットボール
チームのコーチをやっている男性たちだった。
警察は遺産目当ての殺人事件だと推察。
そこで3人にアリバイを聞くと、3人とも完璧な
アリバイがあった。しかしこの中で誰かが嘘をついている。
警察を翻弄する二転三転する展開に、犯人を絞り切れず・・・
「時計屋探偵と一族のアリバイ」

那野市連城町の住宅街の一軒家で、女性が亡くなっている
と通報があった。友人の証言では約束した時間に
現れないので、家に様子を見に行って発見したらしい。
女性には離婚寸前で別居中の夫がいた。
事件が起きたと思われる時間、不審な男性が
目撃されていた。それは女性の夫だった・・・。
ところが夫は、別の場所で起こった愛人の殺害でも
目撃されていた。
那野県警と警視庁捜査一課で、夫のとりあいのような
形になってしまった。
真実は一体・・・?
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」

時乃は祖父からアリバイ崩しの特訓を受けていた。
ある夏休み、時乃が通っている高校の美術部で
彫刻コンクールに出品する作品が粉々に
割れるという事件が起こった。
時乃は関係者のアリバイを探ったが、誰もに
アリバイがあった。
悩んだ時乃は祖父にアリバイ崩しを依頼した・・・。
「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」

那野県警捜査一課の新人刑事は、難事件で
頭を悩ませると、鯉川商店街にある
美谷時計店に足を運ぶ。
その店には「アリバイ崩し」をする、店主
がいるのだ。20代半ばの美しい女性。
彼女は、新人刑事から事件の概要を聞くと
容疑者のアリバイを鮮やかに崩して見せる。
「時を戻すことができました、アリバイは崩れました。」

今回の5編の短編はいずれも秀逸。
特に「時計屋探偵と一族のアリバイ」と
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」の二つは
緻密に練り上げられた、さらに捻りの効いた
アリバイトリック。
その謎が解けた時の驚きに思わず「ほ~っ」
とため息が出る。
その衝撃を何度でも味わいたくなるほど凄い!

また、時乃の祖父の謎ときも良かった。
そして、時乃に淡い恋心を抱く新人刑事、
勇気を出して食事に誘ったがその行方は・・・?

この続きが絶対に読みたいです!

『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』
著者:大山誠一郎
出版社:実業之日本社
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)

運命に翻弄される子供たちを描くミステリー。「青い雪」

第25回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作
麻加朋さんの「青い雪」を読みました。
子どもたちが主人公でとても悲しい展開が
胸に突き刺さる。慟哭のミステリー作品。

雪の降る夜に起こった飛び降り事件。
その飛び降り事件に巻き込まれて亡くなった女性。
それがのちの悲劇の始まり・・・。

的場家、柊家、蓮見家の3家族が夏の数日を別荘で
共に過ごしていた。
的場家は主が政治家で息子の秀平と娘の希海。
柊家は娘の寿々音、蓮見家は幼い娘の亜矢。
そして両親と妹を火災で失った大介。
蓮見家の夫婦が大介を息子のように大切にした。

子どもたちは様々な事情を抱えていたが、
皆で集まるこの夏だけは、本当の家族のように
兄弟のように過ごしていた。

男子はヒーローノートに名前を残したいと
張り切り、実際に人助けをしそのノートに
記した。

そんな子供たちも思春期に突入する。
淡い恋の始まりや、思春期特有の悩みなどを
持ちつつ楽しい夏の休暇を過ごすはずだった。

しかし、ある夏の日、蓮見家の一人娘・亜矢が
かくれんぼをしているときに行方不明になって
しまう。
事件性を疑われたが、手掛かりはほとんどなく
幸せだった夏のひとときは永遠に失われてしまった・・・。

悲劇から数年、それぞれの家族の形が徐々に変化してゆく。
そんな時現れた一通の告発状。
それが幼女失踪事件の真相を暴く鍵となる・・・。

前半は子供たちに焦点を充てた青春物語。
後半は幼女失踪事件の謎を解いてゆくミステリー。

緻密に設定された幼女失踪事件の謎を解く過程が
非常に面白く読める。

家族の愛とは絆とは何かを考えさせられる、
また、孤独にのみこまれてしまう恐怖のような
ものを感じた。

デビュー作とは思えない完成度。凄く面白かった。

『青い雪』
著者:麻加朋
出版社:光文社
価格:¥1,870(本体1,700¥+税)