ネタバレ厳禁!納得の「世界でいちばん透きとおった物語」

今一番話題のミステリー作品
杉井光さんの「世界でいちばん透きとおった物語」
(新潮文庫NEX)読了。

ミステリー作家の大御所と言われた
宮内彰吾が亡くなった。

宮内は妻子がありながら、多数の女性と
浮名を流した。
その中の一人の女性とは子どもまで作っていた。
宮内に隠し子がいることは業界では誰もが知る
事実だった。

その隠し子が「僕」だった。
亡くなった母親から話を聞いていたが、
会ったこともない父の死には何の思いもなかった。

ところが、本妻の息子から遺作があると
知らされる。
校正をしていた母の仕事仲間で編集者の
霧子も驚いていた。

遺作を出版して販売すればまた売れる!
本妻の息子に、父の遺作
「世界でいちばん透きとおった物語」の捜索を
依頼された「僕」は、霧子の助言をもとに
探し始める。

母とともに穏やかでつましい生活を送っていた
主人公が、父の死で様々な人たちと出会いながら
父という人物を次第に身近に感じてゆく過程は
とっても良かった。
また、遺作捜索で出版を阻む人物は誰なのか?
ミステリー的展開も興味深い。

しかし、この作品にはとても重要なファクターが
隠されている。

あまりにも触れるとネタバレする危険性が
あるのでこれ以上書けないが、読み進めてゆくと
仰天する仕掛けに度肝を抜かれること、間違いない!

『世界でいちばん透きとおった物語』
著者:杉井光
出版社:新潮社(新潮文庫NEX)
価格:¥737(本体¥670+税)

今注目の社会派ミステリー作家・望月諒子さんのデビュー作「神の手」

先日、ドラマ化放送されたばかりの
望月諒子さんの「神の手」読了。
フリージャーナリスト・木部美智子
シリーズ第一弾。
たまたま読み終わっていて、
ドラマを視たので、小説の中の不明な点が
スッキリわかって良かった!

文芸系雑誌の編集長を務める三村のもとへ
広瀬という医師から電話が入った。
「高岡真紀という女性を知っているのか?」と。
三村には記憶のない女性だった。
ところが、その女性名義で小説のゲラが送られてきた。

その作品は、三村が過去に封印した作品。
小説の作者は来生恭子でという女性で、
行方不明になっていた。

なぜ来生恭子の小説を高岡真紀が持って
いるのか?
三村は高岡と会うが、顔は全くの別人。
しかし、しぐさは恭子とそっくりで、、
10年前に三村に話したことと全く同じこと
を話した。

三村は高岡真紀に疑惑を抱く。

フリージャーナリストの木部美智子は、
3年前の誘拐事件でただ一人行方不明に
なってしまった男の子の取材を続けていた。
ある日、同じジャーナリスト仲間の
高岡真紀から、盗作疑惑の情報を得る。

それは、つい先日新世紀文学賞を受賞した
本郷素子「花の人」についてだった・・・。

そして、木部はその盗作疑惑を取材するうちに、
三村に繋がり、やがて来生恭子に辿り着く。

恭子は妹に夥しい数の作品を預けていた。
なぜ彼女は多くの作品を妹に預けたまま
失踪したのか?
そこには恐ろしい真相が隠されていた。

読み進むうちに謎が深まる展開。
誰がどこでどうつながってゆくのか?
迷宮をさまよっているような感覚に陥る。

来生恭子の小説を描くことへの異常なまでの
執着、何かを描かずにはいられない、
生きられない、その業の深さに戦慄する。

この深い謎を、記者・木部とともに
追いかけている気持ちで読んだ。

圧巻のデビュー作!!

『神の手』
著者:望月諒子
出版社:集英社(文庫)
価格:¥935(本体¥850+税)

悪辣弁護士・御子柴礼司シリーズ最新刊「殺戮の狂詩曲」

中山七里さんの数多くの作品の中で
一番好きなシリーズ。

弁護士・御子柴礼司シリーズ最新刊
「殺戮の狂詩曲」(講談社)読了。

少女を惨殺した過去を持つ、弁護士・御子柴礼司。
悪名高い弁護士で高額な弁護費用、
裁判に勝つためならどんなあくどい手も使う。
しかし、御子柴は少しずつ変化してゆく。

高級老人ホームで働く忍野は、入念な計画を
たて、ある夜実行に及んだ。
それは、この施設に入所している老人34人全員を
抹殺することだった。

しかし、9人を惨殺したところで、
戦闘不能にしたはずの介護職員に取り抑えられ、
現行犯逮捕された。

取調べで殺害動機を聞かれた忍野は、
「生産性のない上級国民。生きていたって
何の価値もない。消えてもらった方が
世のためだ。」と嘯き、反省の態度すら
見せない。

ニュースでは、「令和最悪の凶悪事件」と
報道され、ワイドショー他メディアを賑わせた。

その凶悪犯・忍野の弁護を名乗り出たのは、
悪評名高い、御子柴礼司だった。
御子柴の過去が公になり、依頼人が減っている
のに、こんなバケモノみたいな被告の
弁護などしたらさら依頼人が減ると心配する
事務員・洋子。
そして、顧問先のヤクザ事務所の山崎も
仕事を選べと言ってきた。

そんな雑音に社会正義で真向対決する御子柴。

御子柴は彼なりに忍野に裁判の厳しさ、遺族の
怨嗟の恐ろしさを説くが、取り調べで供述した
ことを繰り返す。
本当に忍野が自分で考えたことだろうかと
疑い始める。

この裁判、御子柴が勝っても負けても
ダメージは大きい。損害は図りしれない。

それなのに、どこに勝機があるのか?
最後の最後までわらない。
ところが、そんなタイミングでとんでもない
どんでん返しがぶち込まれている!
あまりの衝撃に言葉を失う!

またしても、御子柴の激烈な反撃に
やられてしまう。
御子柴って実在するのではないかと
疑ってしまうくらい、強烈な個性を
放っている。

実際にあった事件を彷彿とさせる物語。
ここまで描いた著者の勇気に脱帽だ。

『殺戮の狂詩曲』
著者:中山七里
出版社:講談社
価格:¥1,760(¥1,600+税)

解決篇が袋とじ!?話題のポケミス「死と奇術師」

トム・ミードのデビュー作「死と奇術師」
(早川書房)読了!
解決篇は、なんと!ポケミス史上初の
袋とじ!ワクワクします!

1936年、ロンドン。
舞台女優のデラは、秘密を抱えていた。
彼女はある人物へ相談しようとしていた。

それは、高名な心理学者・リーズ博士だった。
デラは彼の患者Bだ。

その日、リーズ博士は夜遅くに来る客を待っていた。
使用人のミセス・ターナーにも来客の話は通しておいた。
雨の中、その客はやってきた。

リーズ博士から案内は無用と言われていたので、
部屋の説明だけして、ミセス・ターナーは仕事に戻った。

その時、女優のデラが突然やってきた。
ミセス・ターナーは博士は来客中だと言って
デラを追い返そうとしたが、デラは無理やり
家の中に入り、博士の部屋まで押しかけようとした。

博士に呼びかけたが、まったく反応がない。
何か変だと感じたミセス・ターナーとデラは
裏技を使って博士の部屋の鍵を開けると、
喉を掻き切られ、息絶えた博士を発見した。

博士の書斎は密室状態、さらに凶器も見つからず、
死の直前に博士を訪れた謎の男の正体も
不明だった。
外に出るにはミセス・ターナーたちが
いる居間を通らなければならない。
しかし男が通った気配はなかった。
犯人はどうやって逃げたのか?

不可解な事件、いわゆる不可能犯罪に頭を
悩ませた、ジョージ・フリンと警部補は、
元奇術師の私立探偵・ジョセフ・スペクターに
捜査協力を依頼するが・・・。

多重に仕掛けられた不可能犯罪、
練り練られた密室トリック、さらに多数の
妖しい容疑者たち・・・。
登場人物たちの精神病理的な部分にも斬り込んでいて、
興味深い。

古典ミステリへのリスペクトが半端なく、
時代背景や舞台設定など、カーやクイーンの
世界観が好きなミステリファンにはたまらない作品。
おまけに、解決篇が袋とじという読者挑戦もので、
推理する楽しさも味わえる!!
デビュー作とは思えない、完成度の高いミステリ作品。

『死と奇術師』
著者:トム・ミード/中山宥訳
出版社:早川書房(ポケットミステリ)
価格:¥1,980(¥1,800+税)

比嘉姉妹シリーズ初の中篇集!「さえづちの眼」

霊能者・比嘉姉妹が登場するシリーズ。
今作は中編が3篇が収録されている。
どの作品も読むとゾワッと背筋に
戦慄が奔る。

貧しくて諍いの絶えない両親。母親からの呪縛。
それに耐えきれず、犯罪に手を染めるように
なったタクミは、フリースクール
「鎌田ハウス」に預けられる。
子どもたちからおっさんと呼ばれる
男にタクミは次第に心を許し、成長してゆく。
ところが、ある日タクミはおっさんと
「鎌田ハウス」の秘密を知る。
恐ろしい何かが憑いたこの家で子どもたちを
襲うものとは何なのか・・・!?
タクミを助けて欲しいと、比嘉真琴に依頼
してきた少女はかつて真琴が助けた少女だった・・・。
【母と】

子どもの頃にUFOを見たと証言した男の子二人。
当時、雑誌やテレビ取り上げられ、町も
彼らも有名になった。巴杵池(はぎねいけ)事件。
その男の子の一人は大人になり、母と一緒に
旅館を経営していた。ある日そこへ子供つれの
母子が宿泊する。
もう一方の男は、その事件を根に持ち旅館に
やってきて大騒ぎをした。
その翌日、巴杵池で男の死体があがった・・。
当時のUFO事件の真相は、想像を絶するもの
だった。
【あの日の光は今も】

昭和30年代、町の大きな屋敷・架守(カガミ)家に
やってきた家政婦は、その家で起こる奇々怪々な
出来事を家政婦紹介所の所長あてに手紙で送っていた。
廊下に響く何かのはい回る音、深夜に光る赤い目、
やがて架守家の一人娘が失踪。
数十年後には当主が不可解な言葉を残し絶命。
この家は何かに祟られていると感じた
若き当主は、架守家への祟りを鎮めるために
霊能者・比嘉琴子に依頼する。
【さえづちの眼】

得体の知れない強烈な悪意を放つ者と
比嘉真琴との壮絶なバトルシーンが
圧倒的迫力を持って描かれる!

UFO事件の裏にあった予想外の真実。
男性の遠い記憶から当時の事件の
真相に迫る、ミステリー。真実が徐々に
明かされる過程の推理が際立っていると思った。

これは完全にホラーだと思って
読んだら完全に騙される。
人間のどす黒い闇と比嘉琴子の駆け引きが
たまらなく面白かった。

『さえづちの眼』
著者:澤村伊智
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥836(¥760+税)

役者で刑事!?新たなヒロイン誕生!「アクション捜査一課刈谷杏奈の事件簿」

榎本憲男さんの新作「アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿」読了。

榎本さんの描く警察小説シリーズは、
「巡査長真行寺弘道」をはじめ、
「DASPA吉良大介」「相棒はJK」シリーズなど、
主人公はみなくせ者刑事揃い。
本当に魅力的な登場人物ばかりだ。

そして今度の主人公は、女優であり刑事という
二足の草鞋で事件と向き合う、かっこいい
女性刑事が登場する。

捜査一課の刑事・刈谷杏奈は、趣味で映画製作と
女優業に励み、警察では少し浮き気味だ。

ある日、山奥で女装した男性の首つり死体が
見つかった。

捜査一課では、LGBTについて問題発言を
し炎上騒ぎを起こした女性議員が、演説中に
男二人に襲撃された事件で
ローラー作戦の指示が出ていた。

刈谷ももちろんローラー作戦に参加できると
思っていたが、上司から別の事件の捜査を
命じられる。
それは、山奥で首を吊って死んだ男の
捜査だった。

上司からあきる野署に勤務する内藤刑事
を訪ねるように指示された刈谷は早速動く。

首つり事件について刈谷は、検屍報告から
得た情報で事件性あり判断。しかし内藤は、
調べもしないで、「自殺」と断定する。
刈谷は内藤のことを事なかれ主義の
無能刑事だと感じた。

しかし、ある状況から彼らの捜査は一変する。
上層部から首つり男は「自殺」と報告しろ
と言われるが、刈谷と内藤は何かと理由を
つけ、捜査報告書の提出を拒んだ。

それは、炎上した女性議員と男の繋がりを
入手したからだった。

男の正体とは?女性議員の真の目的は
何なのか?
刈谷と内藤は推理を展開する。

二人の推理は徐々に核心に迫ってゆくが・・・。
それはとても危険な推理だった。

今の日本社会、政治、ビジネスのあり方に
問題提起する、社会派警察ミステリー。

小説の中に出てくる「ある言葉」がグサッと心に
刺さる。
この作品を読んでいると、確かにこの言葉通りだ。
多分、これが一番言いたかったのではないかと
思ってしまった・・・。

榎本さんの作品を読むと、気づきたくないことに
嫌でも気づかされる。
でも気づかなければならないと思う。

『アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿』
著者:榎本憲男
出版社:幻冬舎
価格:¥825(¥750+税)

都市伝説が人の心を惑わす・・・「みどり町の怪人」

彩坂美月さんの「みどり町の怪人」
(光文社文庫)読了。

以前、「向日葵を手折る」(実業之日本社刊)
を読んで、それがとても素晴らしい作品だったので
他にも読んでみたいと思っていたら、この作品
に出会った。

七つの連作短編で綴られる。

舞台は、1990年代初めで、携帯電話も
スマホもましてやSNSなどない時代。

田園にかこまれた、どこにでもある
郊外の町「みどり町」には、
不気味な都市伝説があった。
雨でもないのにレインコート纏い、女・子ども
だけを殺す?
とても痩せていて、髪はボサボサで目がギョロ
っとしている、日本刀を持っているらしい・・。
「怪人」・・・・。
その大元は、20年前に実際に起きた凄惨な
事件が隠されていた。

そんな伝説があるこの町に引っ越してきた
若いカップル。二人にはある秘密があった。

姑の過干渉に辟易する嫁。夫が単身赴任に
なり、姑の娘と3人で暮らすことになったが、
嫁は、姑の行動に不審を抱くようになる。

ある日から、仕事場で机を並べている隣人の
視線が気になり始め、次第に恐怖を抱くように・・・。

担任の先生を巡る子どもたちの諍い
切ない展開。子どもたちの切実な思い。

大学生たちがみどり町の怪人の正体を
追うと意外な真実に行き着く。

閉塞感漂う、郊外の町で起こる事件の数々。
人の心の中にある不安やうしろめたさが
恐怖を増幅させ人々は疑心暗鬼に陥る。

物語を通じて「怪人」が登場する。
その都市伝説の大元になった事件の真相が
あまりにも切なく衝撃的・・・。

それぞれの物語は自分自身が作り
出した妄想の中で恐怖を感じるが、
真実は意外な形で明らかになり、ホッとする。

ひねりの効いた展開が面白い。

『みどり町の怪人』
著者:彩坂美月
出版社:光文社(文庫)
価格:¥770(¥700+税)

ラストラインシリーズ岩倉剛の軌跡をたどる。「灰色の階段 ラストライン0」

堂場瞬一さんの「ラストライン」シリーズ
最新作「灰色の階段」(文春文庫)を読了。

初めての事件から50代に至るまでの岩倉剛が
出会った事件を短編で綴る。

岩倉剛の初めての事件は、強盗殺人。
窓ガラスを焼き破り侵入した犯人。
先輩から岩倉は意見を求められる。
ふと同じような事件を最近新聞で読んだこと
を思い出す。それは山梨で起きた事件だった。
それを聞いた本部上層部から、山梨の
事件を調べるよう、命じられる
【手口】

翌日に結婚式を控えた岩倉。しかし殺人事件
が起こってしまい、岩倉は帰るに帰れない状態。
殺されたのはデジタル系コンサル会社の
社長だった。捜査の末、重要参考人が浮上。
捜査は一方向に絞られそうだったが、
岩倉はなんとなく違和感を持つ。
翌日の結婚式に間に合うのか!?
【嘘】

新たに立ち上がった、捜査一課追跡捜査係に
異動になった岩倉剛。
5年前に起こった未解決の路上強盗事件で
犯人だという男が名乗り出てきた。
早速取り調べを開始するが、まったく
要領を得ない。岩倉はこの男は何かを隠して
いると感じる。
【隠匿】

捜査一課火災犯捜査係に異動になった、岩倉剛は、
飲食店が多く入るビルの火災現場にいた。
火元は4階。犠牲者は煙にやられたようだ。
この火災で亡くなった人の身元を調べると
一人だけ不明者が上がった。
周辺を捜査すると間もなく身元が判明するが、
奇妙な事実に辿り着く。
【想定外】

大友鉄に誘われて舞台を観に行った岩倉剛。
その舞台の主演女優・実里から共演者の
男性がファンからストーカーされていると
相談を受けた。アイドル出身というその役者は、
線が細く気弱そうな男性だった。
その時、岩倉は事件を抱えていなかったため、
ボランティアでそのストーカーの件を引き受けた。
ところが・・・・!?
【庇護者】

警視庁捜査一課から南大田署への異動が
決まった岩倉剛。妻との関係も破綻し
別居状態。岩倉の際立った記憶力を研究
しようとするサイバー犯罪対策課から
目をつけられている。
そして、再び火災現場いる。そこで
男性の遺体が発見されたのだ。その現場に
一人の男がやってきた。岩倉は男を見た時
どこかで見た顔だと思った・・・。
【戻る男】

若い時から、こと事件に関しては驚異的な
記憶力を持つ岩倉剛。
彼のその記憶力は、数々の事件を解決に導いてきた。
そして、一つの方向へ暴走する捜査班に
「待った!」をかけられるのは、岩倉剛だけ
だった。
今作の短編6編は、いぶし銀のベテラン
刑事・岩倉剛の活躍を描いた作品集。
仕事もだが、プライベートな部分まで
描かれていて、岩倉という刑事の人柄がよくわかる。
そして、彼の捜査で「意外な真相」に
辿り着く過程は読みごたえがあり、面白い!

「ラストライン」シリーズファンには
たまらない一冊だ。

『灰色の階段 ラストライン0』
著者:堂場瞬一
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥836(¥760+税)

「巨悪」に挑む男!完結編「地検のS Sの幕引き」

伊兼源太郎さんの「地検のS」シリーズ
完結編「Sの幕引き」読了。
宿敵・吉村泰二とどう決着をつけるのか?

「Sが泣いた日」では、
次期与党総裁候補の吉村泰二に闇献金疑惑が
浮上した。
湊川地方検察庁は、その証拠固めを急いでいた。
その金の受け渡しを目撃し、話をすると
約束した二人のホステスが行方をくらませた。

総務課長の伊勢は、盟友である事務官の
久保と独自に調査を始めるが・・・。

盟友を喪い、さらに信頼していた
若き事務員・菊池を吉村の顧問弁護士・
秋元の事務所に潜入させたが、行方不明に
なってしまう。
しかし、菊池は行方不明になる前に
伊勢へ吉村の秘密文書を送っていた・・・。

「Sの幕引き」は、
吉村泰二の父親に殺された母と妹の
敵を討つ!その思いだけを胸にじりじりと
闇献金疑惑に迫る、伊勢雅之だが・・・。

地検の次席検事・本上、特別刑事部長・
鳥海も伊勢を牽制しながら、吉村の巨悪を
暴くことに邁進し、検事たちを鼓舞する。

しかし、吉村泰二には先代から吉村家に
仕え暗躍してきた秘書・須黒清美がいた。
伊勢の前にたちはだかる強敵。
彼女を倒さなければ、伊勢の目的は
達成できない!

そして、伊勢はある驚愕の決断を下す。

暗躍する影の実力者VS地検を影で操る男
何が何でも吉村をを潰す!
伊勢はどう動くのか?

激しい諜報線、そして駆け引き。
切れ者たちの策謀が渦巻く。

息もつかせぬ展開と身を斬られるような
頭脳戦に翻弄される!

究極の社会派検察ミステリー!

『地検のS Sの幕引き』
著者:伊兼源太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥968(¥880+税)

シリーズ三作目はミステリー仕立て!? 「妖しい刀 出直し神社たね銭貸し」

櫻部由美子さんの「出直し神社たね銭貸し」の
シリーズ3作目「妖しい刀」(ハルキ文庫)を読了。

貧乏神に見込まれ、出直し神社でうしろ戸の
婆に仕えるおけい。今度はちょっと大変な
目にあっちゃう・・・!!

出直し神社に、袋物問屋・茜屋のお松が
物騒な願いを訴えた。
「一刻も早く相手の女を呪ってください」と。
婿に入った店主で夫の茂兵衛が、叔父から
相続した家に入り浸るようになり、女を
呼び入れているのではとお松が疑っているのだ。

さらにその家には大黒様のお化けが出るとの
噂が広がり、借り手がつかなくなっていた。

うしろ戸の婆は、お松に夫の浮気を
確かめるため、神社の手伝いをしている
おけいを連れて行くように言った。

そして、茂兵衛の手伝い人として、その家に
潜入したおけいは女の出入りを見張った。
しかし、何日過ぎても、女の出入りなどない。
茂兵衛はまじめに仕事をしている。
働きすぎではないかと疑ってしまうくらいだ。
そして、茂兵衛の夢枕には確かに大黒様が
立つ。そして、茂兵衛は肩こりがひどくなり
仕事が出来なくなってしまう・・・。
夢枕に立つ大黒様の謎とは・・・?

江戸は流行り風邪で大変なことになっていた。
イケメンで弱者の味方、人気の町医者・
諒伯先生の医院にはひっきりなしに患者が
やってくる。

諒伯先生は寝る間を惜しんで、患者のために
働いていた。
しかし、医院内でも風邪で倒れる者が続出。
少しでも手伝いになればと、おけいは今度は
諒伯先生の手伝いに行くことに・・・。

そこへ、大店の娘・おみつがやってきた。
最近は毎日やってきて先生を呼ぶ。
おみつは嘘つきという悪癖で、近所からも
家族からも見放されていた・・・。

名刀には目がない定町廻り同心・依田丑之助は、
刀の柄巻師から「珍しい刀を預かった見に来ないか?」と
誘われ店を訪れたが、柄巻師の具合が悪く
そのまま帰ってしまった。
その翌日、柄巻師が死んでいるのが見つかる。
さらに、あの嘘つきのおみつも何者かに殺される。

茂兵衛を苦しめた、大黒様の謎・・・。
おみつの嘘、柄巻師とおみつ殺害の謎。
解明された真相は、なんとも切なさがこみ上げる。

現代ででいうところの、承認欲求だったり、
名家の想像を絶するプレッシャーに負けそうに
なったり・・・。
人の弱さが事件を起こしてしまう。

おみつが嘘をつかなくてはならない
理由を誰かにわかってもらいたかったのか?
悪癖を治してほしくて、誰かに助けて
欲しかったのかな~。
そう思うと胸に迫る。

江戸っ子の人情話にミステリーの味付け。
とても面白い展開だった!

『妖しい刀 出直し神社たね銭貸し』
著者:櫻部由美子
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥814(本体\740+税)