「恐怖小説キリカ」いっき読み!

「ぼぎわんが、来る」で日本ホラー小説大賞を
受賞した澤村伊智さんの最新刊、「恐怖小説キリカ」
を読みました。

物語は、奇想天外なフェイクドキュメンタリー?

大手出版社KADOKAWA主催のホラー小説
大賞に応募し、見事大賞を受賞した澤村電磁。
タイトルは「ぼぎわん」。
妻の霧香とともに喜んだ。
さらに、大学時代からの小説仲間で
「小説書くぞの会」のメンバーからも
お祝いのメールが届いた。

ところが、その中の一人が自分のブログで
「ぼぎわん」については作者自身の不幸な
事件から「ぼぎわん」を生み出したとか、
幸福で平凡な人生を歩んでいるやつに小説は
書けないなど自分勝手な解釈を披露
していることを知る。

ちょっと上から目線ではあったが、友人だと
思っていた人物の悪意ある評価に打ちのめされる澤村。
さらには、「ぼぎわん」の度重なる書き直しに
心が折れそうになる。
徐々に心が荒んでいく澤村を心配する妻の霧香。

しかし、この夫婦には誰にも言えない秘密があった。

平凡な夫婦の生活は、澤村のホラー大賞受賞と言う
予期せぬ出来事から予想もつかない物語へと急展開する。
澤村自らが生み出した「ぼぎわん」に平穏だった
日常を壊されてゆく恐怖・・・!

前代未聞!著者自身が自らの作品をディする小説!
フェイクドキュメンタリーと銘うって描きだされる
人間の恐ろしさ!

澤村伊智、怖いものならなんでも描ける驚異の作家です・・・。

『恐怖小説 キリカ』
著者:澤村伊智
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

デビュー作で年末ミステリランキング3冠達成!「屍人荘の殺人」

今年、第27回鮎川哲也賞を受賞した今村昌弘さんの
「屍人荘の殺人」(東京創元社)が
「このミステリーがすごい2018年版(宝島社」、
「週刊文春2017年ミステリーベスト10」(文藝春秋)
「2018 本格ミステリベスト10」(原書房)
この3つのランキングで1位を獲得しました!
デビュー作の3冠達成は、前代未聞の快挙です。

神紅大学に学ぶミステリ愛好会会員・葉村譲は、
同じ大学の先輩である、ミステリ愛好会会長で
「神紅のホームズ」と異名をとる、明智恭介と
ともに、神紅大学の探偵少女・剣崎比留子を
介して、映画研究部の夏合宿に参加した。

しかし、映画研究会の夏合宿は研究会と言いながら
合コンの要素が強く、毎年小さな事件を起こしていたようだ。
そして、この夏も男女13人が参加していた。

皆が集まり、バーベキューで宴会を始めようとした頃、
そこにいた誰もが目を疑うような光景が迫ってきたのだ!

信じられない光景に全員がパニックに陥った。
冷静さを取り戻したのは探偵少女だ。
すぐに全員を合宿所に誘導し、入口をふさいだ!!

かつてないクローズドサークルで起こる連続殺人事件。
閉じ込められた中で合宿参加者たちが次々と殺害される。
一体誰が?何の目的で?・・・。
参加者たちは殺される恐怖と、合宿所の外で繰り広げられる
おぞましい状況の2重の死の危険に苦しむことになるのだ。

新本格に斬新な設定が施され、今までの新本格ミステリーでは
感じたことのなかった、凄まじいほどの衝撃展開が
読者を待ち受ける。

3冠達成も納得のミステリー作品だ。

『屍人荘の殺人』
著者:今村昌弘
出版社:東京創元社
価格:¥1,700(税別)

幽霊か人間の悪業か?どっちも超怖いホラーミステリー。「可視(み)える」

「変若水(をちみず)」で、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞
優秀賞を受賞し作家デビューした、島根県在住のミステリ作家、
吉田恭教さん。
デビュー作が面白かったので、その後に「堕天使の秤」を読み、
さらに面白かったので、怖そうな表紙の「可視(み)える」に
トライしてみました。

幽霊と猟奇殺人事件が交差する、ホラーミステリーです。

警視庁組織犯罪対策課の刑事だった槇野は、自信の犯した
過ちから警察をクビになり、元上司だった鏡に拾われた。
鏡は探偵事務所を開いており、槇野を捜査員として雇った。

ある時、「幽霊画」の作者を捜してほしいと画商から依頼を受けた
槇野たちは、その幽霊画が収められている島根県のある神社へと向かった。
世界遺産・石見銀山で有名な土地に佇む「龍源神社」で
「幽霊画」と対面した槇野は、その絵のあまりの恐ろしさに絶句する。

やがてその絵の作者を突きとめた槇野は画家に会いに
島根県松江市に向かった。
槇野は画家と話すうち、何か秘密があるのではないかと疑う。

一年後、警視庁捜査一課の東條有紀は、ベテラン刑事でも目を
背ける残虐な猟奇殺人事件を追っていた。
猟奇殺人事件の被害者が次々発見されるが、いずれも
ひどい拷問のあとがあり、次第にそれがエスカレートしていた。

同じ頃、男性が陸橋から飛び降り、通過しようとした車に
ぶつかり亡くなるという事件が発生した。
亡くなった男は、あの「幽霊画」を描いた画家だった。
警察はその状況から自殺と断定したが、例の画商から、
「彼は自殺ではない、彼と約束していた。調べて欲しい」と
槇野たちのところへ再び調査の依頼が入った。

槇野たちが調査する、幽霊画と画家の事件、
東條たちが捜査している猟奇殺人事件がある1点で結びつく。

警察に未練を残しながら、探偵として生きる槇野と
自身の出生の秘密を抱え、鉄仮面とあだ名される女性刑事
が互いの腹を探り合いながら難事件を追う。

多くの謎が配され、それらがひとつひとつ繋がり
次第に事件の大筋が見えてくる。
読者もあるところでで犯人らしい人物の目星がつくが、
そこからが想像を絶する恐怖の展開が待っているのだ。

怨念がこもった幽霊が怖いか・・・?
それとも、憎しみと、妄執と、妬みと恨みに支配された
生きている人間が怖いのか・・・?
この作品は本当にどちらも怖い、ホラーミステリー。

『可視(み)える』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂
価格:¥1,800(税別)

心霊探偵八雲ANOTHERFILES第4弾、味わい深い短編集。

心霊探偵八雲シリーズは、本編の第10作目が発売に
なりました。(まだ読んでいないのですが・・・・。)
ファンは待ちに待っていた作品。

その発売前に、心霊探偵八雲ANOTHERFILESシリーズ
第4弾「亡霊の願い」が発売になっています。
先日やっと読みました。

八雲と晴香、何だか久しぶりに友達に会ったっていう
感じで読んでしまいました。

八雲と晴香が通う大学では、学園祭が近くなって、何となく
ざわついている。

晴香はサークルの発表の準備で忙しい中、
友人から心霊相談を受け、八雲に助けを求めに行くが
いつものきつ~い言葉を浴びる羽目になる。

演劇部の友人からは、練習中に妙な出来事が続き、
それが霊の仕業ではないかと相談を受ける。

自分は呪われていると八雲に相談する女性。
その二人を偶然見かけた晴香は心穏やかではない。
晴香の方は男性の友人から、霊に憑りつかれている
ような気がすると相談を受ける。

映画サークルで撮影したホラー映画に妙なものが
写り込んでいた。そして怪現象が・・・。
映画サークルの友人から相談を受けた晴香。
呪いのホラー映画ビデオの行方は!?

友人からの相談に、ついつい乗ってしまう晴香。
八雲はそんな晴香から持ち込まれるやっかいな
事件にため息をつきつつも真剣に取り組む。
霊は何らかの意図があり、誰かに伝えたいのだ。
そんな霊の声を聞く。
八雲の優しさと厳しさが魂を救う。

八雲と晴香、相変わらずの関係だが・・・。
本編新作第10作目が気になるな~。
読みたい・・・。

『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 亡霊の願い』
著者:神永学
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥600(税別)

恐すぎました・・・。「黒面の狐」

ホラーミステリの第一人者、三津田信三さんの
「黒面の狐」(文藝春秋)を読みました。

以前、三津田さんの「怪談のテープおこし」を
読んだ時はもろ怪談だったので、恐かったのですが
この「黒面の狐」は、もっと超自然的な恐ろしさを
感じてしまい、小説なのにとても怖いなと感じました。

戦後、朝鮮から引き揚げてきた一人の青年・物理波矢多(もとろいはやた)。
居場所はなく、なんとなくやってきた町でぶらりとしていると、
炭坑の手配師らしき男に声をかけられた。
少し強引なやり口だったが、今なら炭坑夫くらいしか
仕事口はないだろうと思い、ふらふらとその手配師についていった。
その矢先、別の男から声をかけられた。
波矢多は知的で優しそうなその男に、危うい炭坑に連行される
ところを助けられたのだ。
二人は何となく意気投合し、男が務める炭坑で共に働くことになった。

ただ、波矢多は朝鮮の大学を卒業しており、
それが炭坑の上層部にばれるとなにかと目をつけられるので、
黙って炭坑夫を続けた方が良いと言われた。

毎日、暗い穴のような所で汗だくになりながら炭を掘るのは
重労働だった。
しかも、炭坑にはタブーがあり、怪事件に遭遇した男もいた。
その中で特に興味深いのは、狐の面をかぶった美しい女の話だった。
いるはずもない炭坑のなかに出没する、狐の面の美女。
その女に魅入られると男はみんなおかしくなり、消えてしまう。

波矢多が仕事に慣れた頃、大参事が起こった。
ガス漏れが原因で炭坑内で爆発が起こったのだ!
波矢多は助かったが、親友は穴の中へ取り残されてしまった。
助けに行きたかったが、ガスが充満して2次災害が起こる
可能性があるため、会社の指示に従うことになった・・・。
そして、この事故からのち、不可思議な連続殺人事件が起こった。
さらに、事件の現場で目撃される、黒面の狐の姿・・・。
一体何が起こっているのか・・?
波矢多は事件を調べることに・・・。

炭坑内で起こる不思議な怪事件と、後半に起こった連続殺人事件。
2つの事件は繋がっているのか?
調査の過程で見つかったある朝鮮人青年の炭坑での記録!
それは目を覆いたくなるような、朝鮮人に対する日本人の
悪行が綴られていた。
朝鮮人たちの恐怖は、怪奇現象でも真っ暗な炭坑でもない。
日本人こそが恐怖だったのだ。

太平洋戦争中、強制的に日本に連れてこられ炭坑夫として働かされた
朝鮮人たちの無念が物語から浮かびあがってくる。
その叫びのようなものを、このような形で著者は描いた。

まさに背筋が凍るほどの衝撃!!!
覚悟して読んでください。

『黒面の狐』
著者:三津田信三
出版社:文藝春秋
価格:¥1,800(税別)

本当に鳥肌物!!「夜行」

本屋大賞にノミネートされた、「夜行」を読みました。

森見さんの作品は「ペンギン・ハイウエイ」「聖なる怠け者の冒険」
などファンタジックな作品は読んだけれど、今回の「夜行」は
ホラー?
読めば読むほど鳥肌が立つ・・・。

尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、鞍馬。
旅先で出会う謎の連作絵画「夜行」。
その絵は不思議な絵だ。

尾道で妻と連絡がつかなくなった夫が、ある廃屋で
妻とそっくりな女性と出会う。
その女性は妻なのか?それとも違う人物なのか?
ホテルの男性スタッフはそこには誰もいないというが・・・。

奥飛騨に旅行にいった男女4人。
その途中で年配の女性を同乗させた。
その女性は「未来が見える」と言った。
そして、車の中の二人に「死相」が見える
と言ったのだ。
その言葉を誰も信じなかったが、宿についたとき
その二人とはぐれてしまった・・・。

津軽へ向かうため、寝台列車「あけぼの」に乗っていた
夫婦とその友人。
その友人が列車で通る時に火事を見たと言った。
さらにそこで手を振る女性を見たと・・・。
そんなはずはない。燃える家を確かめるため、列車を降りた
3人。その途中で友人が見えなくなる。
妻はその家が気なって仕方ないが、夫は不気味な雰囲気に
恐怖を感じ、家から離れるように促すが・・・。

天竜峡に行く飯田線に乗車した時のこと。
女子高生と坊さんと同乗した男性。
女子高生の不思議な魅力に取り込まれそうになる。
かたや坊さんは、その女子高生を恐れているように
見える。
この女子高生は一体何者だろう・・・?
そう考えた時にふとじわっと恐怖が背中を
這いあがってきた・・・。

この4つの物語には連作絵画「夜行」が登場する。
その不気味な絵と物語の不気味な繋がり・・・。
読んでいると次第にぶわ~っと鳥肌が立ってくる。
この本の不気味さになかなか気がつかない。
最終の「鞍馬」を読んだときにホッと一息
つくが、それまでの何とも言えない怖さは筆舌に尽しがたい。

初めて読んだ森見さんの本格ホラー。
何とも不可思議な体験をしているようだった・・・。

『夜行』
著者:森見登美彦
出版社:小学館
価格:¥1,400(税別)

本の学校で「意外な組合せが面白いミステリー」ミニフェア開催パート2

前回に引き続き、本の学校で開催中の
「意外な組合せが面白いミステリー」ミニフェアの紹介です。

今野敏さんの作品には「意外な組合せ」がたくさんある。
「心霊特捜」(双葉社文庫)は、神奈川県警に心霊現象
を専門に捜査する部署があり、個性的な刑事たちが
その現象の原因を突き止め事件を解決するという、
今までの警察小説にはない大胆な設定が面白い!
また、「警視庁捜査一課・碓氷弘一」シリーズは、
ベテラン刑事・碓氷弘一が、事件が起こる度に、刑事ではないが
事件捜査に必要不可欠なスペシャリストとコンビを組まされるという設定。
最近文庫化された「ペトロ」は、象形文字が事件の鍵。
碓氷の相棒はなんと、古代史が専門で日本語ペラペラの外国人大学助教授。
二人の活躍に注目!
さらに「わが名はオズヌ」(徳間文庫)は、軟弱な男子高校生・賀茂晶に
1000年前の修験道の祖・役小角(エンノオズヌ)が転生し、現代の悪を斬る!
という設定。頼りない賀茂晶にオズヌが転生し、悪人を静かに倒すシーンは
めちゃめちゃかっこいいんです。
その系列で言うと、「陰陽」「憑物」(KADOKAWA文庫)は現代の人間の心の闇に
つけ込んだ亡者たちを、祓い師・鬼龍光一が倒す。
こちらもおススメ。

などなど面白くていっきに読める作品を集めています!
ぜひのぞいてみてください。

ゾワッと鳥肌が・・・「怪談のテープ起こし」

三津田信三さんの「怪談のテープ起こし」を読みました。
装丁、恐い・・・・!!!

三津田さんの作品は刀城言耶シリーズを読んだり、
怪談ものを読んでみたり・・・。
好きなのですが、夜眠れなくなるくらい恐いので
控えめにしていたのです。
が・・・「怪談のテープ起こし」は吸い寄せられてしまいました。

障りがないと良いのですが・・・
三津田さんもこの本の中でしきりに読者を心配していらっしゃいます。

テープ起こし

かなり、ノンフィクション的な手法を使っているので、
実際に本当に起こったことなのでは・・?と思ってしまいます。
「水」がからむ怪談の連作短編。

「死人のテープ起こし」は自殺者の最期の声を起こしたものですが、
最初は自分の状況を嘆いたりする声なのが、次第に不気味な音が
入り混じってくる。

一番恐いと感じた「留守番の夜」はバイト代につられて
ある大きな洋館で一晩留守番をする女性の話。
3Fに夫婦の伯母が同居していて、顔を合わせなかったら
大丈夫だと念を押される。そしてその夫婦が出かけた後、
3Fからやたらともの音が!同居の伯母はすでに亡くなっている
と妻の方から聞いていたのに・・・。
広い洋館にたった一人留守番する恐ろしさに鳥肌が・・・。

「集まった4人」、友人の誘いで登山ををすることになった青年。
だが、駅に行くと友人はおらず、その友人から誘われたらしい
登山者たちがいた。そこで青年の携帯に自分は行けないが
リーダーとして他のものを連れて行って欲しいとの連絡が入った。
見知らぬ人たちとの登山が始まった・・・。
そして、不気味なメールが入る。そのメールが届いてから
他の登山者たちの様子がおかしくなり始める。
クリスティの「そして誰もいなくなった」を意識した創り。

「屍と寝るな」これも不気味な話。
不気味な老人の語る話がめちゃめちゃ恐い。
子どもの時に家のお使いで、香典を持って行かされたときに
祖母がコックリさんで占ってくれたら、
「しかばねとねるな」と出た。いったいどういう意味・・・?
老人の口から飛び出す意味不明の言葉がとんでもなく気持ち悪い。

「黄雨女」。大学生が出会った不気味な女。
雨が降っていないのに黄色い合羽を着込み,
長靴も黄色。全身黄色づくめの女。
その大学生の彼女が「黄雨女」と名付けた。
なぜ彼のもとに現れるのか・・・?

「すれちがうもの」は全く身に覚えなのない一輪挿しがマンションの
ドアの前に置いてあった日から、黒い人影が視えるようになった
OL。踏み切りの向こう側から毎日見える。それが次第に自分に
近づいてくるような気がする・・・。
一体なぜ??

最後の2編は怖すぎて、自宅に帰るのが恐くなったほどだ。
また短編の合間に挿入される、作家と担当編集者との
やりとりが、この短編集が実話なのかそうでないのか
という疑惑を持たせる。

どの短編もぞわ~っと鳥肌が立ってきて
こんなことに出会ったら絶対にイヤ!と思ってしまう。

『怪談のテープ起こし』
著者:三津田信三
出版社:集英社
価格:¥1,600(税別)

幻の名作!究極のホラーミステリー「血の季節」

この度、幻の名作として復刊された『血の季節』の著者は
あの名作ミステリー『弁護側の証人』の著者、小泉喜美子さんだ。

『弁護側の証人』は、強烈な大どんでん返しで、
古今の読者の度肝を抜いた法廷ミステリー。
これの初出は、昭和38年。著者のデビュー作でもある。
小泉さんはこのあと、女流ミステリー作家として活躍!
さらに、海外のミステリ作家(P・Dジェイムズなど)
の作品の翻訳も手がけた。

『血の季節』はなんと、吸血鬼伝説がテーマになっている
ホラーミステリーだ。
ホラーと言ってもそれほどの恐ろしさは無く、
むしろ、切なくなると言った方が良いかも知れない
女性ならではのタッチが素晴らしく、格調高い。

血の季節

昭和五十×年、女児殺害の容疑で一人の男が逮捕された。
男は、まじめで知的、凶暴な面はなく、罪を逃れる
ために嘘をついたりしない、物静かに刑の確定を
待っていた。男の弁護士は何とか死刑だけは
免れさせてやりたいとの気持ちで、精神科医の権威に
男の再鑑定を依頼した。
弁護士は「どうもどこか正常ではないと思われるのに
どこがどう正常でないのか説明がつかず、医学的にも
法律的にも実証し得なかった」と言った。

そんな男に興味を持った精神科医は、その男が語る物語を静かに
聞きはじめる・・・。
40年前、男が小学生だった頃、ある国の公使館で金髪碧眼の
兄妹と交遊した非日常の想い出。
美しくはかなった彼らの母の死、そして、その母に
想いを寄せた、公使の部下。
やがて中学生になった男は、成長する友の妹の美しさに
惹かれ始める。だがある夏、彼らは避暑に出掛けたきり
帰国したらしくその後二度と逢うことが出来なかった。

戦争中に青年期を過ごしたと男は、奔放な友人の話に
はっとする。
友人は、男が子供の時通いつめた公使館の前を通ったら、
白い服の女性に抱き着かれ、いきなり首筋をかまれたという。
男はその友人に激しい嫉妬を感じた。
しかし、その友人は空襲で焼け死んでしまう・・・。

彼の語る物語は、狂気に満ちていた・・・・。
一体どこまでが本当なのか?それともすべて幻想なのか?
やはりこの男は頭がおかしいのか・・・?

男が語る物語があまりにもミステリアスで幻想的!
怪しい魔力に満ちていて、とても面白い!!
吸血鬼伝説をものの見事に現代の犯罪と結び付け、
さらに社会派の事件として描いた!
まさに、「吸血鬼+サイコパス+警察小説」(恩田陸)!

1982年に発表され、復刊希望が相次いだ、
幻の名作と言われたホラーミステリーの大傑作!復刊。

『血の季節』
著者:小泉喜美子
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥660(税別)

ぼぎわんの次に、「ずうのめ人形」が、来る!!?

「ぼぎわんが、来る」で第22回日本ホラー小説大賞を受賞した
澤村伊智さんの第2作目「ずうのめ人形」が発売されました!

「ぼぎわん」に登場する、ライター・野崎とその恋人で
霊能力者の真琴がこの作品にも登場するので、
シリーズになってゆくのではないかなと期待しているところです。

「ぼぎわん」が民俗伝承から生まれた怪物ならば
「ずうのめ人形」は都市伝説から生まれた怪物と言えそうです。

ずうのめ人形

オカルト雑誌でアルバイトしている藤間は、校了間際になっても
連絡が取れないライターの湯水を探すため、同僚の岩田とともに
湯水の自宅を訪ねた。だが二人はそこで湯水の死体を発見する。
その死体は顔中に「糸」のようなひっかき傷があり、自ら目を抉り
出したような状態だった。

その1週間後、湯水の葬儀の後、岩田が藤間に何かの原稿のコピーを
押し付けた。それは湯水の部屋に遺された手書きの原稿で、湯水の
死の原因はこの原稿にあると言った。
藤間はその原稿を半信半疑で読み始めた。

その原稿に描かれていたのは、「ずうのめ人形」という不気味な
都市伝説で、その原稿を読んでから藤間の周辺に顔中を「糸」で
覆われた喪服姿の人形が現れるようになる。
そして、原稿を押し付けた岩田も湯水と同じような姿で死んでしまう・・・。

「ずうのめ人形」の原稿を読んだ者が次々と亡くなっている。
その呪いは伝染するのか・・・・!?

藤間は自身への迫りくる怪異を防ぐために、湯水の後任のライター
である、野崎と彼の婚約者で霊能者の真琴に原稿の事を相談するのだが・・・。

「ずうのめ人形」の都市伝説の物語と、その原稿を読んだ者たちの
物語が交互に描かれていて、不気味さと緊張感が漂う。
都市伝説から生まれた「ずうのめ人形」の物語は‘ホンモノ’なのか?
怪異の元を断つことが出来るのか?

「ぼぎわん」も家族の隙間に入り込んでくる化物だったが、
この「ずうのめ」はそれ以外の全く関係のない人にまで呪いを
かけてしまう凄い奴!

さらに、「ぼぎわん」よりもミステリー性が高い。
絶妙なタイミングで張られる伏線。クライマックスでは
その張り巡らされた伏線が見事に回収され、さらなる
どんでん返しに‘超’驚かされることになる。

「ずうのめ人形」も最大の怖さで迫ってくる、‘超’面白怖い
ホラーミステリーだ。

『ずうのめ人形』
著者:澤村伊智
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,650(税別)