スリリング!脳科学捜査官VS連続爆弾魔!『脳科学捜査官 真田夏希』

鳴神響一さんの「脳科学捜査官 真田夏希」読了。

婚活を頑張っている一見普通の女性。
実は、心理学から人を分析する。その能力で
捜査に協力する女性刑事・真田夏希が主人公。
彼女のプロファイリングが犯人を炙り出す!

友人の紹介で出会った男性と
みなとみらい近くのレストランで
食事を楽しんでいた時、爆発事件が
起こった。

捜査のため、その場に臨場した刑事たちを
見てヤバイ!と思った真田夏希。
しかし、相手の男性に刑事だとバレてしまった。

神奈川県警初の心理特別捜査官として
採用された真田夏希は、連続爆破事件の
捜査に駆り出された。

SNSを使い爆破予告を繰り返す犯人に
翻弄される警察。
そんな警察をあざ笑う爆弾魔。
警察の無能ぶりはSNSを通じて拡散されてゆく。

夏希が分析した犯人像や捜査方針への
提案は、犯罪の助長となるとお偉方から
バッサリ切り捨てられた。
どうすれば・・・。と悩む夏希を救ったのは
なんと・・・・!?

犯人は、ARのようなキャッチャーゲームや
ネットゲーム、SNSなどを駆使し犯罪を
繰り返す。
そんな犯人に夏希は果敢に挑んでゆく。
そして、犯人の暴走を止めるため、心の闇に
迫り、寄り添おうと試みるが・・・。

SNSを使った犯人とのやりとりや、
犯人の計画に踊らされる警察の様子など
リアルな描写が興味深い!

ヒロイン・夏希だけでなく、脇を
固めるキャラも面白い!
鑑識の小川、警察犬・アリシア、
夏希をバックアップした曲者などなど
今後の展開にどう絡んでくるのか?

シリーズ2巻「イノセント・ブルー」に続く!

『脳科学捜査官 真田夏希』
著者:鳴神響一
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥748(本体¥680+税)

迷宮入り事件に挑む!第2弾「記憶の中の誘拐 赤い博物館」

昨年12月にもドラマ化された、大山誠一郎さんの
「赤い博物館」(文春文庫)。
その第2弾「記憶の中の誘拐」を読みました。

第1弾と同様に息をのむほど鮮やかな推理で解決される。

警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」は、
警視庁管内で起きた事件の証拠品(凶器・遺留品)
・捜査書類など、一定期間の過ぎた物を所轄署から
預かり保管する場所。その中には、迷宮入りした
捜査資料もある。

資料館に勤務するのは巡査部長の寺田。
直属の上司は、博物館の館長でキャリアの緋色冴子。
頭脳明晰で、これまで迷宮入りした事件、5件も
解決に導いている。

寺田の通常の仕事は所轄から回されてきた
捜査資料などのラベル貼りや整理だ。

冴子は、迷宮入りした捜査資料を読み込み、
疑問が発生した事件の再捜査をする。

今回冴子と寺田が再捜査したのは、

二十三年前に学校の屋上で女子高生が殺害された事件。
容疑がかかったのは、同じ部活動の先輩にあたる男子生徒。
しかし、決定的な証拠は見つからず迷宮入りした。

1990年に起きた府中・国分寺・国立・立川連続放火事件。
平成の八百屋お七事件と言われた。
放火犯は放火することで、ある人に逢いたいと願っていた。

1999年に荒川で起きたバラバラ殺人事件。
容疑者は絞られたが、確たる証拠もなく
結局迷宮入りしてしまう。
ところが資料を読んだ冴子は異様な
バラバラ死体に疑問を持った。

1990年、社内で密かに同僚や上司らに
金を貸し、無謀な取り立てをしていた男が
自宅で殺害された。
犯人と思われる名前が書かれたダインイグ
メッセージが遺されていたが、その人物には、
アリバイがあった・・・。

寺田の友人は幼い頃に誘拐されたことが
あった。誘拐したのは、友人の実母
だった。なぜ実母は自分を誘拐したのか
知りたいと願う友人。寺田は冴子に
事件の再捜査を申し出た。

コミュニケーション能力は皆無だが、
ずば抜けた推理能力を持つ緋色冴子。
これまでは、冴子の命令通りに、
寺田が一人で捜査をしていたが、
今回から冴子が捜査に加わると言った。

関係者とうまくコミュニケーションが
とれるのか?ハラハラする寺田をよそに
的確な質問で、資料にはなかった事実を
引き出してゆく冴子。

徹底的に考え抜かれ緻密に設定された
事件の数々がとにかく面白い。

叙述トリックを巧みに使い、
読み手を翻弄し、あっと言わせる、
飽きさせないストーリー展開に
どんどん引き込まれてゆく。

息をのむほど鮮やかな推理で解決される!

『記憶の中の誘拐 赤い博物館』
著者:大山誠一郎
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥836(本体¥760+税)

ハマの用心棒シリーズ、文庫最新作!「スクエア 横浜みなとみらい署暴対係」

今野敏先生の「スクエア 横浜みなとみらい署暴対係」
を読みました。
今野先生、人気シリーズの一作。
ハマの用心棒こと、諸橋係長と城島
コンビが不動産詐欺の事件に挑む!

横浜・山手の廃屋で、二つの遺体が発見された。
一人は中国人で長く日本に住んでいて横浜中華街の
大物だった。
そしてもう一体はすでに白骨化し身元不明だった。

その事件にマル暴が絡んでいるとの情報があり、
マル暴に強い、みなとみらい署・諸橋係長
と相棒の城島に県警本部長から直々に
捜査に参加するように特命が下った。

被害者は中華街で一財産を築いたが、
三年前から消息不明だったらしい。
ところが、捜査が進むと被害者の中国人
が別人だと判明する。

さらに、所有者不明の土地を利用した
不動産詐欺事件が浮上する。

白骨遺体は何者なのか?
暴力団が詐欺事件にどのように関与したのか?
諸橋たちは真相究明のために奔走する!

捜査一課担当の殺人事件、捜査二課担当の
詐欺事件。そこへさらに暴力団関与となると
どこの課が仕切るのか?揉めそうだが
無理なく話が展開されて、警察小説として
読んでいて興味深い。

諸橋と城島の捜査のやり方に納得が
いかない警務部監察官の笹本は、本部長
命令で捜査に参加する諸橋たちにべったり
張り付く。
しかし、次第に彼らのペースにはまってゆく
過程の描き方は今野先生らしくかっこいい。

また、県警本部長が「神風会」の組長・
神野に興味津々なところがちょっと笑える。

今作も横浜を愛する、諸橋と城島の強い
思いがあふれている。

『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』』
著者:今野敏
出版社:徳間書店
価格:¥891(本体¥810+税)

手に汗握るノンストップミステリー『逃げる女』

骨太な社会派ミステリーを描き続ける
青木俊さんの最新作、
「逃げる女」を読みました。

2017年刊行の「潔白」では、冤罪で一つの
家族を不幸のどん底に突き落としておきながら、
決して「間違い」を認めない、警察、検察
さらに日本の司法の在り方に憤りを感じた。

そして、この「逃げる女」からは、青木さんの
「怒り」のようなものが、ヒロインを通して
感じられた。

青木さんの作品は、フィクションでありながら
ノンフィクションのようなリアルさと迫力が
あり、問題提起されたテーマは心に強く残る。

札幌市内のマンションでフリーの記者が殺害され、
容疑者として、久野麻美の名前が浮上した。
その葬儀に出席した久野に、道警捜査一課の
生方吾郎は張り付いていた。

しかし、彼女は葬儀場を出た後、警察の追尾を
受けながらもその姿を消してしまう。
札幌、旭川、釧路と張り巡らされた捜査網を
かわし、北海道を脱出しようとする久野麻美。

生方は所轄で新米刑事の溝口直子とコンビを
組み、久野を追い続ける。
状況証拠は久野が犯人だと示している。
生方たちは、それを信じ絶対に確保する!
その強い思いを抱きどこまでも追う。

久野麻美と彼女を追う警察との手に汗握る
逃走劇!
だが、その先には思いもよらぬ真実が
隠されていた。

必至で逃げるヒロインと執拗に追う警察。
その構図から察するに、ある事件が隠蔽され、
その秘密を知ったヒロインを警察が抹殺
しようとしている?
それは警察関係者が絡んだ事件、または、
大物政治家か?その関係者か?
様々な推理をしてみるが・・・。

意図的に警察が捜査できない状況に追い込む。
そんな恐ろしいことが実際にあるのか?と
疑ってしまうけれども、この本を読み進んで
いくと、次第にそういうことが本当にあるかも
しれないと思えてくる。
「人を殺しても逮捕できないヤツがいる」
の本当の意味とは?

まさかまさかの真相に驚きの連続、そして
次第に膨らむ、この国の政治に対する怒り。

社会派ミステリー小説だからこそ描けた。
この作品の深すぎるテーマに心を抉られた。

『逃げる女』
著者:青木俊
出版社:小学館
価格:¥1,760(本体¥1,600+税)

オズヌ、再び降臨!「ボーダーライト」

今野敏先生の最新刊「ボーダーライト」を
読みました。
「わが名はオズヌ」のエンノオズヌが
またしても高校生・賀茂晶に降りてくる!
痛快な警察ミステリー。

神奈川県警生活安全部少年捜査課の係長・
堀内が「今月は街頭犯罪が急増している」
とつぶやいた。
それを聞いていた、丸木巡査と高尾巡査部長は、
少年の街頭犯罪が増えてると察知し、早速
情報収集に出かける。

丸木は高尾の気まぐれな捜査につきあい、
ネットカフェでインターネット記事を
検索。神奈川県内で話題のバンド
「スカG」のニュースを読み漁った。
それを高尾は車のことかと勘違いする。

しかし、この時調べたバンド「スカG」が
今後の事件の捜査に関わってくる。

本部に戻った二人を待っていたのは、
組対本部・本部長からの呼び出しだった。
恐縮した二人だったが、本部長の口から出た
「赤岩猛雄」という名前に高尾が反応した。

赤岩は、みなとみらい署のマル暴に
身柄をとられていると言う。
二人はみなとみらい署のマル暴に
向かい、諸橋係長と係長補佐の城島に
会った。
赤岩は薬物の取引現場にいたところを
検挙されたという。
赤岩は事情を話すなら高尾にと言ったのだ。
そして、高尾は赤岩に事情を聞いた。
赤岩は、友人を止めるために現場に居たと言う。
決してや薬物取引には関係ないと言う。
しかし、さらに踏み込んで聞くとたちまち黙秘した。

仕方なく、赤岩はみなとみらい署に拘留された。
そこへ、赤岩の担任・水越陽子が賀茂晶とともに現れた。
高尾は一目見て、賀茂晶にオズヌが降りていると気づく・・・。

オズヌは、神奈川の街で良くないことが
起こり始めていると勘づいているが、
詳細は掴め切れずにいるようだ。

高尾はオズヌらとともにきな臭い事件の
捜査を開始する!!!

またしても、賀茂晶にオズヌが降臨!
彼の不思議な力によって、誰も刃向かう
ことが出来なくなる。
その姿がかっこいい。
また、今作はみなとみらい署のマル暴・
諸橋係長と城島が登場。

賀茂の不思議な力と、オズヌの関係を
真剣に受け止めている二人。
高尾たちをバックアップするところが清々しい!
サービス満点のコラボにファンは狂喜!!

そしてバンド「スカG」はこの事件にどう
関わってくるのか?!

読みごたえ満点の警察ミステリー。
傑作の今野敏ワールド!

『ボーダーライト』
著者:今野敏
出版社:小学館
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)

翔んでる!?警察ミステリー「相棒はJK」

「巡査長 真行寺弘道」(中公文庫)、
「DASPA 吉良大介」(小学館)
など、社会派ミステリーを描く、
榎本憲男さんの新刊「相棒はJK」は
なんと!女子高生が主人公。
意外な設定にちょっと驚きました。しかし、
キャラクターたちがとても魅力的で面白い。

警察大学校を首席で卒業した、鴨下俊輔警部補。
キャリア組の中でも「超」がつくエリートだ。

警視庁刑事部刑事部長から直々に声を
かけられ、刑事部長直轄の組織・
刑事部捜査第一課特命捜査係へ異動となった。

その係には、数々の難事件を解決した実績を
持つ中心人物がいた。
その人物が鴨下とバディを組むのだ。
鴨下はどんな人物なのかとワクワクしながら
特命捜査係に向かう。
ところが、紹介された人物はなんと!!!
女子高生の花比良真理(しんり)だった。

原理原則に忠実な性格の鴨下は驚愕する。
女子高生が事件の捜査をするなんて、
警察組織がそんなことを許すなんて
言語道断!と納得できない。

こんな刑事を真理はどう思ったか。
彼女は、「この世には二種類の刑事がいる。
ドンな刑事とピンな刑事だ」と言った。
鴨下はどっち・・・・
この例えがめちゃめちゃ笑えた。

しかも特命捜査係のメンバーはどうも
落ちこぼれの集まりのような気がするが・・・。

鴨下は半ば強制的に女子高生とバディ
組まされる。そして超個性的な仲間とともに
女性失踪事件の謎を追うことに・・・。

やがて、鴨下は、捜査の過程で真理の隠された
秘密に気づく・・・。

哲学・宗教的な要素も織り交ぜながら
物語は進んでゆく。
また、随所に榎本節が垣間見られ、
「DASPA」「巡査長真行寺弘道」
の社会派ミステリーに通じるものがあり納得。

警察官として「白黒」はっきりつけたがる
鴨下と、それじゃ救える命も救えないと詰め寄る
真理とのやりとりが印象に残る。

イケメン・エリート刑事と訳あり女子高生
の活躍が斬新!
シリーズ化強く望みます!

『相棒はJK』
著者:榎本憲男
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)
価格:¥858(本体¥780+税)

第67回江戸川乱歩賞受賞作「北緯43度のコールドケース」が面白い!

2021年、第67回江戸川乱歩賞受賞作です!
今年は2作品が受賞しました。

10月に発売された伏尾美紀さんの
「北緯43度のコールドケース」。
この作品、著者の伏尾さん、
長編ミステリー初挑戦、そして乱歩賞
初応募で、初受賞の快挙を成した作品。

デビュー作なのに、まるでベテラン作家
のような風格を感じました。

博士号を持ちながら、30歳で北海道警察の
警察官となった沢村依理子は、その異色の
経歴ゆえ、少し浮いた存在だった。

依理子は、北海道警察本部刑事企画課に
所属していたが、警部補昇進を機に
中南署の強行犯係に異動となった。

そこで、ベテラン刑事・瀧本に師事する。
警察は今でも男性優位社会。しかも
異色の経歴を持つ依理子になんとなく
周囲からのあたりはきつい。
しかし、瀧本は依理子に対し男女の区別なく
捜査方法や取り調べのやり方など丁寧
に教えてくれた。
依理子は瀧本を尊敬するようになる。

ところがある事件の被疑者の取り調べで
瀧本の態度が一変する。

それは、5年前に未解決となっていた誘拐事件の
被害者であった少女の遺体が発見されたことが
きっかけだった。
盗犯係が任意で引っ張て来た窃盗犯が
少女の遺体に関する供述を始めたのだ。
瀧本はその取り調べを強引に始めた・・・。
依理子はその姿に激しい衝撃を受ける。

5年前の女児誘拐事件の犯人と思われる
男はすでに死亡している。誰もが共犯者
を疑った。そして再び捜査本部が設置
されたが、またしても未解決に終わってしまう。

しばらく後、5年前の誘拐事件の捜査資料が
漏洩してしまう。
あろうことか、依理子は漏洩犯としての
疑いをかけられる。

自分の身の潔白を証明しようと、必死で
捜査にあたる依理子。
その過程で、依理子は信じがたい事実を知る・・・。

組織の不条理に翻弄されつつも、正義を
追い求める依理子。
それは孤独な闘いだ。

彼女の切なすぎる過去、家族との確執、
同僚との絆、先輩刑事への思い。

誘拐事件の謎解きの過程が緻密な伏線を
配し描かれると同時に、依理子の背景も
丁寧に描かれ、グイグイと読ませられる。

一人の女性の葛藤と、苦悩を乗り越え
刑事として成長してゆく主人公の
姿がまぶしい。

これがデビュー作か!?と突っ込みたくなる
くらい読み応えたっぷりで読後の満足感も
半端ない!

傑作!!!!本格警察ミステリー。

『北緯43度のコールドケース』
著者:伏尾美紀
出版社:講談社
価格:¥1,925(本体¥1,750+税)

堂場作品初!女性刑事が主人公「聖刻」

これまで数々の警察小説のシリーズを
描いてきた堂場瞬一さん。
この「聖刻」(講談社)で初めて
女性刑事が主人公として描かれます。

朝のワイドショーで長く司会を務める
人気司会者の息子が、元恋人を殺害した
として自首してきた。

捜査一課の女性刑事・柿谷晶は、
取り調べを行うが半落ちだった。
犯行は自供するが、動機の追求を
すると黙秘してしまう・・・。

晶は、犯行動機を探るため、被疑者の
家族を聴取する。
しかし、家族はネットの誹謗中傷に
悩まされていた。
さらに、被疑者の父親は、息子の
事件の責任をとり、ワイドショーの
司会の仕事を辞め、テレビの仕事も
引退すると宣言した。
それでもネット上では説明責任が
果たされていないなど、身勝手な中傷が
まるでこれこそが正義だといわんばかりに
拡散されていたのだ。

事件を起こしたのは加害者なのだ。
その家族だからと言って、理不尽に
責められる・・・。そんなことが
許されていいのか?

「正義」という名のもとの「悪意」
がどんどん拡散され、加害者家族を
追い詰める・・・。

事件の真相を探るため、被疑者の家族に
張り付く晶だが、自らの過去と重なり、
いつの間にか心を寄せるようになる。

そして、犯罪被害者支援課の村野たちと
協力し、尽きることのない被害者家族への
「悪意」と闘いながら捜査を続ける晶。

だが、またしても悲劇が起きてしまう!

加害者と被害者の狭間で苦悩する柿谷。
事件の真相にたどり着くことは出来るのか?

事件の被害者に寄り添う村野たち支援課
メンバーの働きから事件の真相に迫った
「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ。

しかし、犯罪被害者遺族と同じくらい
加害者家族にも寄り添う必要がある
のではないかと問題提起をした本作。

加害者家族に向け、ネット内で繰り
広げられるすさじい誹謗中傷。
何の権利があってそこまで貶めるのか?

加害者家族をも護らなければならない。
著者の切実な思いがあふれる。

そして、「警視庁犯罪被害者支援課」が
新たな局面をむかえる。
傑作警察サスペンス!

『聖刻』
著者:堂場瞬一
出版社:講談社
価格:¥1,870(¥1,700+税)

最強の女スパイ小説第4弾!『十三階の母』

吉川英梨さんの人気シリーズ、
最強の女スパイ・黒江律子が主人公の
「十三階」シリーズの最新作
「十三階の母」を読みました。

黒江律子は、公安の中でもエリート中のエリートが
集められた精鋭部隊、組織は警視庁の「十三階」に
属し、国家をテロリストや異分子から守るため、
時に非合法で非情な手段に出る。
盗聴・盗撮・身分偽装など何でもやる。

前作「十三階の血」で衝撃のスパイ夫婦となった
黒江律子と上司の古池慎一。
しかし、天方首相の娘・天方美月に狙われ
アメリカに逃亡し、息子と3人で束の間の
平和を味わっていた。
しかし、アメリカ滞在中、黒江は何者かに
つきまとわれる。

同じ頃、十三階のトップのもとに黒江の名を
騙った時限爆弾が届き、事態は一変!!

急遽日本へ帰国した黒江と古池。
彼らの子供は信頼する協力者に預けられた。

息子との別離で心を痛める黒江は、
自らの後継者を育てあげることで
バランスを保とうとした。
だが、古池から紹介された女性警官・
鵜飼真奈は、なんと黒江が失敗した
新幹線テロの犠牲者だったのだ。

黒江は鵜飼にテロ失敗は自分に責任が
あったと正直に告白。
彼女に罵倒されたが、その後は黒江を
受け入れ黒江の後を引き継ぐ覚悟を
決める。

「イレブン・サインズ」による
新たな新幹線テロの情報を得た十三階は
鵜飼真奈を投入した。
しかし、鵜飼の必死の捜索にも関わらず
確たる証拠が掴めず、鵜飼のミッションは
終了する。

十三階爆破未遂、怪しいテロ情報など、
十三階はこれまでにないほど不確かな
情報に振り回される。

それは「何者かの意図」によるもの
ではないか・・・?
十三階を潰そうとする黒幕とは?
壮大な「悪意」が十三階に牙をむく!

それを迎え撃つ古池。そして、黒江の母
としての覚悟が、彼女をさらに強くしてゆく。
緊迫のスパイサスペンスシリーズは
新たな局面を迎えた!?

夫婦となった古池と黒江。息子と引き離された
悲しみが黒江の心を押しつぶそうとする。
そんな黒江を深い愛情で支える古池の姿が
ひと際心に刺さった。

次回作が楽しみで仕方ない。

『十三階の母 警視庁公安部特別諜報員・黒江律子』
著者:吉川英梨
出版社:双葉社
価格:¥1,540(¥1,400+税)

第3回警察小説大賞受賞作『転がる検事に苔むさず』

第3回警察小説大賞受賞作、直島翔さんの
「転がる検事に苔むさず」(小学館)。
元新聞社勤務で、社会部記者時代東京地検を
担当した著者だからこそ描けた、検察、
そして検事のリアル。

東京区検察庁浅草分室。略して区検。

そこで若手検事の指導官を務める
検事・久我周平は、飲み仲間の
刑事課長から手を貸して欲しいと
相談を持ち掛けられた。

ある夜、若い男が鉄道の高架から
転落し、猛スピードで走る車に
衝突し死亡した。
その男は自動車ディーラーの営業マンだった。

自殺か?他殺か?高架には他殺と
思われる痕跡が残っていたが、
殺人事件と断定できない。

仕方なく久我たちは自殺の線で遺書探しに専念する。
ところが、調査の過程でこのセールスマンの
周辺からグレーな部分が次々と明るみに出る。

ペーパーカンパニーを利用した輸入外車取引、
ロッカーから見つかった麻薬と現金・・・。

死んだ男は一体何者なのか。

久我は、交番巡査や新人の女性検事
とともに事件の真相に迫ってゆく。

検事が現場の刑事とともに捜査を行うと
いう展開はとても新鮮に映った。

また、事件捜査の現実や、正義が行われる
場所での内部抗争の実態がとてもリアルに
描かれていて面白い。

そして、主人公・久我検事の生き方が印象深い。

同僚から見下され、家族からは軽んじられる。
そして出世も見込めない。
検事なのに、仕事は地味で軽微な事務仕事。

そんな中でも、検事としての正義を全う
しようと奔走する姿に胸が熱くなる。

さえない中年検事が主人公の物語。
地味に感じるかもしれないけれど、
良い意味で「渋み」が際立つ、警察ミステリー。

『転がる検事に苔むさず』
著者:直島翔
出版社:小学館
価格:¥1,760(¥1,600+税)