深層心理をえぐる!究極の恋愛小説「傲慢と善良」。

「人生で一番刺さった小説」ということで
話題の恋愛ミステリー、辻村深月さんの
「傲慢と善良」(朝日文庫)を読了。

読んでいる間中、ずっと自分自身どうだったのか?
と自身を顧みながら読みました。
面白いし、こんな恋愛小説、読んだことが
なかったので、ずしんと心に響きました。

婚活アプリで知り合った女性・坂庭真実と、
きちんと付き合って2年。
未だに結婚を言い出せず、悩んでいた西澤架の
元へ切羽詰まった真実から電話がかかってきた。
「あいつが部屋にいる。怖い!助けて!」
真実は、ストーカーに付きまとわれていた。

架は、それをきっかけに真実との結婚を決め、
準備のために同棲を始めた。
ところが、結婚式の相談をしようと家に帰ると、
真実の姿が忽然と消えていた。

ストーカーに拉致されたのでは・・・と
警察に事情を話すが相手にしてもらえず、
架は、真実の両親から彼女の過去を聞き出す。

何事も両親の言いなりだった真実。
最初は母親が見つけてきた相手とお見合いをする。
しかし気に入らず2度目は自分が選んだ相手
に会うがうまくいかなかった。
架は、どちらかが真実を拉致しているのでは?
と疑ったが、会って話を聞くとどちらも
そんなことをするような人ではなかった。

そして真実のお見合いをセッティングした
結婚相談所の女性社長から、架は人間の
本性について聞かされることに・・・。

それを聞いた架は・・・・。
真実はなぜ姿を消したのか?
真実は生きているのか?

「恋愛」と「結婚」について深く深く
考えさせられる。

愚鈍なまでの善良さ・・・
自己評価が低いくせに自己愛が半端ない・・

グサッと刺さる言葉にメンタルをやられそう
になるが、どれも現代社会に生きる人たちの
姿を見事に表現していると思う。

そして、否が応でも自分の過去や
生き方、恋愛観に向き合わされる。

ありのままの自分をさらけ出せない、
どうしようもない生きづらさが伝わってくる。

恋愛も生き方も、がんじがらめの自分を
解放して本当の自分で生きる!
それが一番幸せなことなのだと思った。

『傲慢と善良』
著者:辻村深月
出版社:朝日新聞出版社(文庫)
価格:¥891(本体¥810+税)

犬愛が半端ないミステリー!「犬を盗む」

犬を飼っていない、私でもうるっときました。
愛犬家のミステリー作家・佐藤青南さんの
「犬を盗む」(実業之日本社)
読了しました。

高級住宅地で、80歳の老女が殺された。
警視庁捜査一課の植村たちは、老女の
周辺を捜査。
老女は愛犬家だったらしい、家の中では
殺害されるまで、犬を飼っていた形跡があった。
しかし、その犬が消えていた。
事件解決の手がかりを掴めるかもしれない。
植村たちは犬の行方を追うことに・・・。

一方、コンビニでアルバイトをしている
松本は、最近になって犬を飼い始めた。
そこで松本の後輩として接している鶴崎。
実は松本の過去を暴き、スクープを
ものにしようとするある雑誌編集部
から送り込まれたフリーの雑誌記者だった。

松本は少年時代、両親と飼い犬を殺害した
殺人犯だった。しかし、刑期を終え、
更生し名前変えて社会に復帰し片隅で生きている。

鶴崎は、松本が凶悪な事件を起こしたことを
不思議に思った。
穏やかな性格で、犬に対する愛情は半端ない。
自分がシフトの時は、鶴崎に散歩を頼む。
そんな松本が凶悪な事件など起こすだろうか?と。
そう思い始めると、松本の過去の暴露記事など
書けそうにない。しかし編集長からは催促の
連絡が・・・。

ミステリー作家の小野寺真希は、男が
犬を散歩させているところを見かけた。
あの犬は確か老女が散歩させていた犬だ。
なぜ男が散歩させているのか・・・?
不審を抱いた真希は、その男を調べると
信じられない過去にたどり着く。
犬を愛するがゆえに起こした行動が
自分自身の首を絞めることに・・・。

三者三様の動きが事件の謎を深めてゆく・・。
「犬」を巡り、刑事・雑誌記者・殺人という
過去を持った男・狂気に奔る女流ミステリー作家。
彼らが交差し、次第に事件の核心に迫ってゆく
過程は、読み応え満点で非常に面白い!

章の間に挿入される、犬目線と思われる
つぶやきによって、次第に犬が飼い主に
信頼を寄せてゆくところが凄く良かった。

クライマックス、仰天の真相に絶句!
さらに「犬」への愛情が凄すぎて
ホロっときてしまった。

『犬を盗む』
著者:佐藤青南
出版社:実業之日本社
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)

静かなる完結編!「後宮の烏7」

シリーズいよいよ完結となる
白川紺子さんの「後宮の烏」。
シリーズ第7弾を読みました。
これで終わってしまうと思うと
寂しい気持ちになってしまう。

自分は自由になれる・・・
それは喜ばしいことなのに。
自由になった自分の未来を思い描いた時、
強烈な喪失感を感じる寿雪。
複雑な思いに戸惑う。

神の境界である、界島へ渡ろうとする
寿雪だったが、海底火山の噴火で海路は
閉ざされてしまった。

噴火の原因が、鼇の神が楽宮の海神を
怒らせたことだとすれば、鼇の神を
倒すことで怒りは収まる。そのためには、
烏の半身である黒刀を手に入れなければならない。
しかし、海底噴火により海を渡ることは出来ず、
それでは鼇の神を倒すことができないという
堂々巡りだった。

一方、界島を歩く白雷の手に烏の半身である
黒刀が握られていた!?
寿雪の運命はどうなるのか?
寿雪の夢は叶えられるのか?

そして、解き明かされる沙那賣一族の謎。
沙那賣一族兄弟の行く末も描かれる。

クールな関係の高峻と寿雪のように
穏やかなラストに感動した。
二人にふさわしい結末だと思った。

でも少し物足りないので、番外編とか
出してくれると嬉しいかも。

アニメ化で10月から放送なので、視てみたい!

『後宮の烏 7』
著者:白川紺子
出版社:集英社オレンジ文庫
価格:¥660(本体¥600+別)

県警のアマゾネス最大のピンチ!「越境刑事」

県警のアマゾネスの異名をとる、高頭冴子警部が
主人公の警察小説。「逃亡刑事」に続く、
「越境刑事」を読了。

今回、高頭警部は命の危機にさらされる。
そんな中でも、彼女の芯である、「正義」
を全うしようと命がけで闘う姿に心を打たれる。

千葉県警捜査一課で検挙率トップの班を
率い、アマゾネスと異名をとる、
強行犯係の係長の高頭冴子警部は、
正義感が強く、信念もって捜査にあたる
絶対的な上位下達で係をまとめる。
捜査能力にも長け、部下からの信頼も厚い。
身長180㎝、柔道・剣道いずれも強い
そんじょそこらの男どもなど朝飯前に片付ける!

そんな、高頭警部は、最近留学生の不審な
失踪が相次いでいるという噂を耳にする。
その真偽を確かめるために動き出した高頭班。

だが、その数日後、中国国籍で新疆ウイグル
自治区出身の留学生カーリの死体が発見された。
本格的に捜査に乗り出した冴子は、事件の裏に
ある国の捜査機関が絡んでいることを掴む。

そんな矢先、カーリの雇い主のカーディルも殺害された!
さらに、自分の身に危険を感じ、冴子に保護を求めていた
カーリの同僚女性・レイハンが何者かに連れ去られてしまう。
その容疑者を特定した高頭だったが、逃亡されてしまった。

レイハンを救い、事件の真相を暴くため、
冴子と部下の郡山は、中国への捜査を強行するが、
そこで合流した新聞記者とともに、襲撃を受け、
冴子は拉致されてしまう。
そこで冴子は、ウイグル民族が置かれた恐るべき
状況を目の当たりにする。

冴子のおかれた状況は想像を絶する!
日々、命の危険にさらされ高頭は死んでしまうので
ないかと、ハラハラさせられる。
こんな残酷なことがあっても良いのかと、
眼をそむけたくなる。

そんな中でも、絶対に「レイハンを救い出す」という
冴子の強い思いと優しさに泣ける。

著者が命の危険を顧みず、真っ向勝負に出た、
傑作、警察小説!

『越境刑事』
著者:中山七里
出版社:PHP研究所
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)

史上最年少受賞!第68回江戸川乱歩賞受賞作「此の世の果ての殺人」

第68回江戸川乱歩賞受賞作は「此の世の果ての殺人」
著者は、なんと23歳の女性。乱歩賞史上最年少での受賞。

さらに内容は、人類滅亡を数か月後に控えた
日本で殺人事件が起き、女性二人が事件の謎を
解いてゆくという斬新な物語。

2022年残暑、小惑星が熊本県阿蘇郡に衝突
すると発表された。
衝突まで残された時間はわずか半年。
人類滅亡がほぼ確定された中で、人々は
衝突地点から少しでも遠ざかろうと
大移動を始めた。
世界中で大パニックが起こっていた。
日本もそのそのニュースに衝撃を受け、自殺
する人が大量に出た。
そして、街からは人々が消えた・・・。

小春はある目的のために、自動車学校に
通っている。両親は自殺してしまった。
道端には、死体が転がっている。
食物を置いている店は、荒らされ何も
無くなっていた。
小春の家はコンビニを営業していたため、
人類滅亡のニュースを聞いた父親が
食物を貯めこんでいたので、小春は食べ物には
困っていなかった。

自動車教習所の女性教官も、逃げださず、
なぜか小春の指導をやってくれる。
そんなある日、教習車のトランクの中から
メッタ刺しにされた女性の遺体が見つかった。

教習所の女性教官は、元警察官だった。
小春は彼女と二人、管轄の警察に通報に向かった。
そこで、同様の手口で殺人事件が各地で起きている
ことを知る。

此の世の終末に、殺人を楽しんでいる奴がいる!?

理不尽この上ない殺人鬼に対し、警察官魂に火が付き、
激しい怒りを感じた元女性警察官。
絶対に許さない・・・その思いで、小春と二人
事件を追って移動を開始する。

街から人が消える、自殺者の死体が転がっている・・・。
スーパーやコンビニからは食べ物が強奪される。
此の世の終わりの街の描写があまりにもリアル。

移動を続ける中で、逃げ遅れた人々との繋がりも
出来るが、心が壊れてしまった人もいる。
社会生活を営む上でのルールが崩壊したとき
人はどこまで壊れてしまうのか?
どこまで、醜い本能があらわになってしまうのか?
想像を絶する展開が続く。

そして、小春と女性教官、その仲間たちが
調べあげた事実を積み重ね、事件の謎をロジカルに
解き明かしてゆく。
その真相とは・・・・!

圧倒的筆力で描かれる此の世の終焉!
驚くべき斬新な設定、魅力的な登場人物、
ロジカルに解明される謎。
凄すぎるパワーとインパクトで迫る!
その面白さがこれでもかと堪能できる

『此の世の果ての殺人』
著者:荒木あかね
出版社:講談社
価格:¥1,815(本体¥1,650+税)

若きキャリア警察官の正義と矜持を描く「祈りも涙も忘れていた」

警察官、検事、役人、一貫して彼らの「正義」
を貫く姿を描く、伊兼源太郎さんの新作は、
若きキャリア警察官が主人公の
「祈りも涙も忘れていた」(早川書房)だ。

著者が愛読する、ハードボイルドと
警察組織を舞台に描かれるミステリー
との融合が奇跡の面白さを生んだ傑作!

26歳という若さで、V県警の捜査一課に
管理官の一人として配属された、新人キャリア
警察官・甲斐。

V県警は、犯罪認知件数が20年連続で、
全国ワーストファイブに入る。
さらに、警官一万人以上が所属する大所帯。

実地経験のないまま、管理官として放火事件の
陣頭指揮を執ることになった。
着任の挨拶をしたとたん、ノンキャリアの
ベテラン警官から嫌味を言われる。

しかし、甲斐は、慣れない捜査の中でも
めきめきと頭角を現す。
その捜査能力を認めない、ノンキャリアの
ベテラン刑事たちに足を引っ張られるが、
甲斐は、覚悟を決める!
キャリアとノンキャリアの対立、
この対決は読みごたえがある!
やがて、甲斐は県警内で捜査の主導権を
掌握してゆく!

しかし、管内では凄惨な殺人事件が次々と
発生する。
まるで見せしめのような死体遺棄、
さらに捜査関係者の不審な死。
その背後に見え隠れする警察関係者。

一連の事件には黒幕がいるのではないか?
そうにらんだ甲斐は、さらに捜査を進めようするが、
彼を待ち受けていたのは、十二年前の警官焼死
事件に端を発する、V県の警察・政界を揺るがす
一大疑獄だった。

そんな中、甲斐の心をいやしたのは
一人の女性との出会いだった。

警察官としての矜持を貫き通す、甲斐。
捜査の過程で大切な人たちを喪い、絶望に打ちひしがれ
ながらも、決してぶれずに事件の真相を暴く、男の
信念に心が震えた。

『祈りも涙も忘れていた』
著者:伊兼源太郎
出版社:早川書房
価格:¥2,200(本体¥2,000+税)

廃駅鉄のための、究極ミステリー!「帝都地下迷宮」

移動は空よりも、陸。鉄道に限る。
特に鉄オタではないが、鉄道警察ものや、
トラベルミステリーはよく読んでいた。
でも、「地下」にはこんな世界があったなんて!!

廃駅になった、地下鉄を舞台に繰り広げられる
サスペンスミステリー。
これは、面白い!!

生活保護の申請や受給を担当する市役所
職員・小日向。
実は鉄道マニアだ。特に廃駅となった
地下鉄を見るのが好きだ。
しかし、廃駅はそういうツアーに参加
しないと見られない。

それだけでは満足できず、ある日とうとう
我慢しきれずに、廃駅で立ち入り禁止となっている
地下鉄銀座線萬世橋駅へ潜り込む。

誰もいない廃駅を一人堪能していると、
一人の少女と出会う。
なんと、彼女はこの廃駅で暮らしているという。
違法な手口で潜り込んだ小日向に疑惑の
眼を向ける。

その駅には、少女のほかに100人もの人たちが
隠れて暮らしていた。

彼らは政府の「ある事情」により地下での
生活を余儀なくされた謎の集団
「エクスプローラー」だった。

彼らの事情を聞いた小日向は、公務員としての
正義感がむくむくと沸き上がり、特別に
「エクスプローラー」の一員となった。

ところが、仲間の女性が地上で殺害された。
小日向は、捜査一課・公安から事情を聞かれた。
一体何が起こっているのか?
小日向は「エクスプローラー」に危険が
迫っていることを感じ、彼らのために
一世一代の大勝負に出ることを決心する!!

国家を揺るがす「エクスプローラー」が
持つ秘密とは何か?
仲間の女性を殺したのは誰なのか?
その謎を追うミステリーと、政府、警察を
巻き込んだハラハラドキドキの逃走劇!

サスペンスミステリーの面白さと、廃駅
が舞台という、廃駅鉄をも満足させる
究極の鉄道ミステリー。

『帝都地下迷宮』
著者:中山七里
出版社:PHP研究所(文芸文庫)
価格:¥924(¥840+税)

前代未聞!タイムリープ×法廷劇「幻告」

五十嵐律人さんの「幻告」(講談社)読了。
SF的展開とミステリーと法廷劇がミックス
され、今まで読んだことのない衝撃が
味わえる!

裁判所書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)。
ある日、法廷で意識を失って目覚めると、そこは、
父親が有罪判決を受けた、5年前の裁判のさなかだった。
傑が幼い時、父親が母親が離婚し、父親は
別の家庭を持った。
その父がなんと娘に強制わいせつを働いたというのだ。
傑にとってその事実はあまりにも衝撃的だった。
父は無罪を主張したが、判決は変わらなかった。

傑は、当時の事件資料を読み込み、
父親が冤罪である可能性に気づく。
そして、タイムリープを繰り返しながら真相を
探り始める。

タイムリープは、過去に影響を与えるため、現在が
少しづつ変化し、これまでの仲間たちをを喪ってしまう。
それでも、過去と未来を往復する中で、相関関係にある
いくつかの事件の存在も明らかになってくる。

傑がタイムリープするたびに真相に近づいてゆく。
父の冤罪を晴らしたい、その思いが強くなって
ゆくが、最悪の事態が傑を待ち受ける。

緻密な時間軸設定、複雑に絡み合う事件、人物たち。
これほどまでに複雑な物語を見事に着地させて
しまった手腕に瞠目する!

父親の冤罪を明らかにする、その先の理不尽な
死が待つ未来を変える!

SF的タイムリープ×ミステリー×迫真の法廷劇
×どんでん返しに次ぐどんでん返し!
究極の面白さが詰まった前代未聞のリーガルミステリー。

『幻告』
著者:五十嵐律人
出版社:講談社
価格:¥1,870(¥1,700+税)

石田三成のイメージを覆す!「八本目の槍」

今村翔吾さんの「八本目の槍」(新潮文庫)読了。
「じんかん」で戦国一の極悪人と呼ばれた松永久秀の
イメージを覆され、「幸村を討て!」では、
真田信之・幸村兄弟の新たな魅力に気づかされた。

そして、この「八本目の槍」では、怜悧すぎる能吏で
人望に欠け、結局は「豊臣家」を滅亡に追い込んだ
男・石田三成というイメージをことごとく覆された。

賤ヶ岳の7本槍とは、加藤清正(虎之介)、糟屋武則
(助右衛門)、脇坂安治(甚内)、片桐且元(助作)、
加藤嘉明(孫六)、平野長泰(権平)、福島正則
(市松)らのこと。
彼らは、石田三成(佐吉)とともに、豊臣秀吉の
小姓でもあった。

小姓時代から群を抜いて頭が切れた、佐吉こと石田三成。
彼は、実は途方もない夢を抱いていた。

その壮大な夢を、佐吉は虎之介に語っている。
この時代にそんなことを考える佐吉とはいったい
何者なのか?

それを実現するために、佐吉はこの7人衆に、
さりげなく「密命」を与えた。

権平は、関ヶ原から十数年後、家康がとうとう
豊臣家を滅ぼすために立ち上がった時、家康を訪ね、
佐吉が導き出した「戦の理」を滔々と語って聞かせた。
家康が侮っていた、佐吉の凄さを、家康よりも
優秀だったことを知らしめ、恐れさせた。

豊臣家存続のために徳川方から三つの条件を持ち帰った
助作だったが、豊臣方は三つとも跳ねのけた。
それを知った市松は大坂城へ乗り込む。

関ケ原で散った佐吉の悲願は、結局実を結ぶことは
なかった。
市松が大坂方に最後に放ったひと言が胸を抉る。

八本目の槍とは誰のことか?
このくだりを読むと、心を激しく揺さぶられる。

いままでにない、石田三成の姿が浮かび上がる、
傑作戦国時代小説。

『八本目の槍』
著者:今村翔吾
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥880(¥800+税)

女子高生捜査官の活躍!「相棒はJK」第2弾「テロリストにも愛を」

「巡査長 真行寺弘道」(中公文庫)、
「DASPA 吉良大介」(小学館)
など、社会派ミステリーを描く、
榎本憲男さんの新刊です。
女子高生捜査官が主人公の「相棒はJK」
第2弾が出ました。やった!シリーズ化!
「テロリストにも愛を」読了。

警視庁刑事部刑事部長から直々に声を
かけられ、刑事部長直轄の組織・
刑事部捜査第一課特命捜査係へ異動となった、
キャリア組の中でも「超」がつくエリート・
鴨下俊介警部補は、なんと!女子高生捜査官・
花比良真理(しんり)とバディを組むことに!

女性失踪事件を解決し、一段落した現在でも
女子高生が事件の捜査をするなんて、
警察組織がそんなことを許すなんて
言語道断!と納得できていない。

しかし、真理の本当の能力を知ってから、
時にこれでいいのかと疑問を持ちつつも
真理とバディを組むことを受け入れようとしていた。

特命捜査係に公安から捜査協力の依頼があった。
実は、日本の総理大臣がエジプトを訪問
した際にIG(イスラム過激派テロ)を刺激する
演説をしてしまい、その演説に反応した
IGがとんでもない画像をネットにあげた。
日本のジャーナリストを誘拐・拘束し
日本政府に身代金の支払いを命じるという
とんでもない動画だった。
その対策を練るための協力要請のようだ。

ところが、この難題に頭を突っ込んできたのが、
鴨下のガールフレンドで記者の愛里沙の
上司・沢渡だった。彼は過去にIGに潜入
したことがあり、IGのことをよく知っていた。

そして、沢渡はテレビにゲスト出演し、
自分がIGと交渉して、日本人ジャーナリストを
救出すると言った。

このくだりは、「九時のニュースはみんなで」の
章で詳しく語られている。
この章は、欧米・日本VSIG(イスラム過激派テロ)の
構図が非常によくわかるように描いてあるので、
モヤっとしたことがクリアになる感覚だった。

日本でテロを目論むイスラム過激派。
彼らの暴挙を、鴨下&真理率いる特命捜査係
阻止できるのか?

今回は、特命捜査係の女性スナイパー・
吉住かなえが、かっこよく活躍する。

また、日本に潜むテロリストとの息詰まる
攻防戦も読み応えあり。

鴨下・真理の距離も少しづつ縮まってゆく感じ。
鴨下、いろいろ言っているけれど、真理を心配
しているところ、良いなあと思った。

今作もなかなか難しいテーマを扱っているけれど
とても面白かった!
こういうテーマをきちんと描いてくれる、
榎本さんに感謝です。

『テロリストにも愛を』
著者:榎本憲男
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)
価格:¥902(本体¥820+税)