著者の多彩な物語を堪能できる短編集「スモールワールズ」

初読みの作家さん。一穂ミチさんの
「スモールワールズ」読了。
著者の魅力が満載の短編集。
本屋大賞ノミネート作品。

夫婦円満を装う主婦と家庭に問題を抱えた少年
との触れあい。
「ネオンテトラ」

「秘密」を抱えて出戻ってきた、「魔王」と
異名がつく姉と弟との絆。
「魔王の帰還」

初孫の誕生に喜ぶ、母と娘。その夫。
しかし、悲劇が彼らを襲う。
「ピクニック」

兄を殺された女性とその兄を殺した加害者
の男性との手紙の交換で芽生えた絆。
「花うた」

素直に向き合うことが出来なかった父と子の
行く末は?
「愛を適量」

大切なことを言えないまま別れてしまった
先輩と後輩。
「式日」

6編の収録作品の中で特に心に残った作品。

「魔王の帰還」。女性とは思えない巨漢の
姉をもった弟。しかし姉はとても優しい
心の持ち主だった。なぜ離婚しなければ
ならないのか?そのあまりにも優しい真実に
思わず涙腺が崩壊した。

「ピクニック」。第74回日本推理作家
協会賞短編部門候補作。
祖母が面倒を見ていた中での子どもの突然死。
悲劇に襲われた家族の慟哭・・・
しかし!?その真実に背筋がさ~っと冷たく
なった。超サスペンスフルな展開に肝が冷えた。

「花うた」。被害者遺族と加害者。決して
相いれない関係の二人が手紙を交換する
ことによって心が繋がってゆく。
周りから見れば許されない関係だとしても
誰かを大切に思う心は変わらない。
それがひしひしと伝わってきた。

「愛を適量」。教師として日々やりすごすだけの
中年男性。しかし、昔別れた娘と突如
一緒に暮らすことになった。娘の秘密と
真っ向から向き合う。二人の新たな旅立ちに
明るく前向きになる気持ちをもらった。

胸が熱くなる、心に沁みるストーリーも
あれば、ゾッっとするサスペンス作品も
ある。多彩な一穂ミチワールドが堪能できる
傑作短編集。

『スモールワールズ』
著者:一穂ミチ
出版社:講談社
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)

ついにあの男の正体が!?「マネーの魔術師ハッカー黒木の告白」

榎本憲男さんの「マネーの魔術師ハッカー黒木の告白」を読了。
「巡査長真行寺弘道」と「DASPA吉良大介」シリーズの
両方に謎の男として登場する、黒木またははボビー。
それぞれのシリーズを読んでいる時に度々登場するが、
一体何者かとずっと気になっていた。
とても興味深い人物像で描かれている!

熊野古道の近くを大きな荷物を
ひいて歩いていた男。
てっきり旅行者だと思い、親切心で
車に乗せた大学院生の柴田澪。

しかし、彼は旅行者ではなく、
これからここに住むと言う。
しかも、伝統工芸の津越木工房
を探していた。
頻繁に津越木工房に出入りしている澪は、
早速彼をそこへ連れて行った。
そして、びっくりするくらいの大口の
注文をした。

謎の男に興味を持った澪は、今自分が
抱えている研究課題「伝統工芸の行く末」、
それが行き詰まっていることを隠さずに話す。
そして男も澪に今まで自分がやってきた
ことを語った。

幼い頃から、コンピューターの
プログラミングに異常に詳しかったこと。
日本では認められなかったこと。
自分のプログラミングに興味を
持ったアメリカに渡ってCIAで
仕事をしたことなどなどetc・・・。
名前も黒木とかボビーとか偽名生活を
送っている。

そして、澪の伝統工芸を何とかしたいと
いう強い思いを聞いた黒木は澪にある提案をする。

金の亡者たちが創り上げた「金融資本主義」
に抗う実験・・・・。
澪はとまどいながらも、彼の実験に従うことに。

圧巻は、今の経済の成り立ちや金融資本主義について、
サブプライムローンは何故崩壊したのか?など
ニュースで知っているけれど、いったい何が
起こってたのか?ということを
黒木が澪にわかりやすく語るくだりだ。
「長い長い夜」という章で丁寧に語られる。
この章がとにかく面白い!

後半ではおなじみのメンバー、真行寺、森園、
サラン、吉良も登場し、澪と繋がっていく
過程も楽しい。

黒木の目論見は成功に繋がるのか?
「金」だけではない。もっと他にも
大切にしなければならないものがあるのではないか?

「金」だけでは本当の豊かさを得ることは
出来ない。何が人間の本当の幸せに繋がるのか?

この作品を読むとわかるかもしれない。

『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』
著者:榎本憲男
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥990(本体¥900+税)

前を向いて生きる勇気をもらえる「神のひき臼出直し神社たね銭貸し」

とっても素敵な時代小説です。
櫻部由美子さん著、角川春樹事務所刊
「神のひき臼 出直し神社たね銭貸し」です。
「出直し神社たね銭貸し」シリーズ第2弾。

人生に行き詰り、やり直したいと願う
人びとのための出直し神社。
神様からの贈り物、たね銭を貸し、
もらった人はそのたね銭で人生をやり直す。
神社を守るのはうしろ戸の婆と呼ばれる老女。
そして、この物語のヒロインのおけい。
不器量だが明るく元気で働き者。
そのおけいが手伝いをしている。

ある日、赤ん坊を背負った千代という娘が
出直し神社にやってきた。婆の問われる
ままに悩みを打ち明ける。
搗き米屋の女将である母親の度が過ぎる
吝嗇ぶりに家じゅうが振り回され、
長く勤めてくれた女中らが辞めてしまったこと。
子守や家のことに忙殺され、手習いに
行けなくなってしまったことを話した。

婆はおけいに搗き米屋の手伝いと子守り
するように言った。
そして、おけいは女中として搗き米屋に
住み込むことになった・・・。

また、お千代が通う手習い処の
お師匠さんには秘密があった。

うしろ戸の婆の神通力や、貧乏神の
閑古鳥。ファンタジックな要素を
背景に、人生に行き詰まった人たちの
物語が描かれる。

約束事を反故にしようとした女将には
衝撃的な出来事が襲う。
そう、因果は巡るのだ。

うしろ戸の婆から預かった、吝嗇家の
女将への伝言。手習い処のお師匠さんへの伝言。
その謎めいた言葉の真相を探るミステリー的
な展開も面白い!

優しさと時に厳しい戒めをも込めた物語。
人情溢れるクライマックスは思わず涙を誘う。

超!おすすめのシリーズ!

『神のひき臼 出直し神社たね銭貸し』
著者:櫻部由美子
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥748(¥680+税)

一部松江が舞台の企業サスペンス!「黒い紙」

三十年前に宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
が不時着水した事件を調査するという、
堂場瞬一さんの企業サスペンス小説
「黒い紙」(角川文庫)を読みました。
本作の発表は2016年。
地元住民として松江の描写にワクワク~~~。

企業のリスクマネジメントを請け負う会社
「TCR」に勤務する、元捜査一課の刑事・
長須恭介。警官だった父の突然の死から
立ち直れずにいた。

そんな頃、「TCR」のクライアントである
大手総合商社・テイゲンに旧ソ連との不適切な
関係を指摘する脅迫状が届く。
現会長の糸山が、30年前旧ソ連のスパイ活動を
行ったというものだった。
警察には絶対に知られたくないテイゲンは、
事件解決を「TCR」に委ねる。

30年前、宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
「Su-25MM」が不時着水した。
機体はボロボロ。搭乗していたパイロットは
アメリカに亡命した。

その詳しい調査をするために、長須は同僚の
元弁護士・境美和とともに松江に向かった。
そこで、ロシア人のパイロットが立ち寄った
とされる喫茶店を訪ねるが・・・。
あと少しで松江での調査に動きが出るというとき、
会社から呼び戻される。

最初の脅迫に続き、犯人からは、現金10億円
を要求する脅迫状が届いていた。

長須は、クライアントの利益と元刑事という
立場での正義の間で苦悩し葛藤する。

松江の描写は読んでいて、想像するのが
楽しかった。
蔦の這うカフェ、県庁近くの新聞社、
昔からある松江の有名な洋食屋・・・・
松江に住んでいれば「あ、あの店だ!」
とすぐにわかり思わず嬉しくなる。

巨大企業の闇・・・。
一人の人物に権力が集中すれば起こるべきこと。
そのために理不尽な人生を強いられた人たちの
苦しみ、悲しみ、くやしさが描きだされる。

そしてこの事件解決をきっかけに、長須が
一皮むけ一歩前に進もうとする姿も描かれ、
企業サスペンスでありながらも、登場人物の
人間ドラマに心を揺さぶられた。

『黒い紙』
著者:堂場瞬一
出版社:KADOKAWA
価格:¥880(本体¥800+税)

料理も謎解きも一級品!シリーズ第3弾「マカロンはマカロン」

テレビドラマ「シェフは名探偵」があまりにも
良かったので、その原作である、近藤史恵さんの
ビストロシリーズ第3弾「マカロンはマカロン」
を読みました。

商店街の小さなフレンチ・レストラン
「ビストロ・パ・マル」は気取らない
本当にフランス料理が好きな客の心と
舌をつかんで離さない。
シェフの三舟は、無口でちょっとぶっきら棒。
髪を後ろで束ね、髭がなかなか特徴的。
外国人に言わせると「サムライ」だ。
そんなシェフの特技はなんと、謎解き!?
シェフを慕うスーシェフの志村。
ワイン好きが高じてソムリエになった
紅一点・金子、そしてギャルソンの高築。

・コウノトリが運ぶもの
フランス料理と和解したい・・・と
「パ・マル」にやってきた、自然食品を
扱うお店の女性店長。
なにやら理由がありそう。
シェフの三舟は静かに彼女の話に耳を
傾ける。

・青い果実のタルト
ある日、パ・マルに来店したお客さんから
ブルーベリーのタルトを注文された。
パ・マルは、そのタルトは焼いていない。
不思議に思ったスーシェフの志村が
SNSを見ると、パ・マルのブルーベリーの
タルトがおいしいとブログに写真つきで
掲載されていた。
店を間違えたのか・・・?心をざわつかせる結末が。

・共犯のピエ・ド・コション
常連の女性客が、再婚することに。
思春期の息子も相手の男性にすっかり
なついているらしい。
ある日3人でパ・マルにやってきた。
豚肉が嫌いな息子が豚足のガレットを注文した。
その理由が、めちゃめちゃ微笑ましい。

・追憶のブーダン・ノワール
ブーダン・ノワールは、豚の血で作るソーセージ。
男性常連客が、ある日婚約者を連れて来店した。
その彼女にブータン・ノワールを薦める。
婚約者は薦められるまま食べるが・・・。
中国人の婚約者には複雑な思いが。

・ムッシュ・パピヨンに伝言を
ある日、おしゃれな大学教授がランチ終了
間際に来店してきた。
ランチを堪能した大学教授。
厨房でプラリーヌ入りブリオッシュの
話をずっと聞いていたようだ。
そこから彼のパリ留学時代の話に
及んだ。悲しい別れ話・・・。
三舟シェフはあることに気づく。

・マカロンはマカロン
美しい女性が二人連れでやってきた。
マダムっぽい女性と背が高くモデルのように
美しい女性。マダムに話を聞くと、女性だけで
営業するレストランをオープンするらしい。
食事が終わり、二人は気持ちよく帰っていった。
ところが数日後、マダムが困り顔で
やってきた。先日の女性と連絡がつかないらしい。
「マカロンはマカロン」という謎の言葉を残していた。

・タルタルステーキの罠
生肉を使うステーキ料理「タルタルステーキ」
を当日のメニューに載せて欲しいと
奇妙な予約が入った。
そしてその日、3人の女性が来店してきた。
一人は妊婦。三舟シェフはハッとする!

・ヴィンテージワインと友情
二十代のグループの中の女性が食事終わりに
ワインの持ち込みが出来るのか聞いてきた。
持ち込み料は一人1,000円。
納得して帰っていった予約の日、ヴィンテージ
ワインを6本持った女性がやってきた。
友人の誕生日だから奮発したらしい。
その日その友人たちがやってきた。
しかし、ワインを持ち込んだ女性がまだきていない。
そして、ギャルソンたちは、いや~なシーンを目撃
することに!

シリーズ第3弾もシェフの気づきにハッとする。
途中でもしかしてこんな展開?と読めたりするが、
その予想をはるかに超える驚き。

家族の話、恋の悩み、複雑な思い。
心に響く感動するエピソードもあれば、
気づきたくなかったと心がざわめく展開もある。

特に女性の「闇」が垣間見られるエピソードは
ちょっと怖い。

それでも、今回も何度でも読み返したくなる。
そんなお話が多くて癒された。

続きは出るのかな~。期待大。

『マカロンはマカロン』
著者:近藤史恵
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
価格:¥792(本体¥720+別)

読み終わると幸せな気持ちになる「ヴァン・ショーをあなたに」

テレビドラマ「シェフは名探偵」があまりにも
良かったので、その原作である、近藤史恵さんの
「ヴァン・ショーをあなたに」を読みました。

とても素敵なお話ばかり・・・。

商店街の小さなフレン・チレストラン
「ビストロ・パ・マル」は気取らない
本当にフランス料理が好きな客の心と
舌をつかんで離さない。
シェフの三舟は、無口でちょっとぶっきら棒。
髪を後ろで束ね、髭がなかなか特徴的。
外国人に言わせると「サムライ」だ。
そんなシェフの特技はなんと、謎解き!?
シェフを慕うスーシェフの志村。
ワイン好きが高じてソムリエになった
紅一点・金子、そしてギャルソンの高築
この4人でお店をまわしている。

●錆びないスキレット
めずらしくシェフと志村が言い争っていた。
原因は、シェフが野良猫に餌付けをしたこと。
幸いにも常連のお客さんに引き取ってもらった。
その代わり、常連さんのスキレットの手入れを
することに・・・。
ある日、引き取られていった猫が同居している
猫と一緒にまたしてもパ・マルに現れた。
2匹の猫の首にはなぜか干し魚の入った袋が
つけられていた。誰が、、何のために?
その真相があまりにも切ない。

●憂さ晴らしのピストゥ
ベジタリアンのお客さんから予約が
入った。結構難題だが、三舟シェフは工夫に
工夫を重ねて出している。
ある日、三舟シェフの元同僚だった
男が店にやってきた。
男の店で彼が作るソースには秘密があった。
それはいったい・・・。

●ブーランジュリーのメロンパン
「ビストロ・パ・マル」のオーナーが
今度は女性二人が作るパン屋を出すという。
軽食も置きたいというパン屋の女性たちは
三舟シェフの料理レシピを習得にやってきた。
こだわりのパンを置きたいと言う女性店長。
「メロンパン」みたいな甘いパンもという
アドバイスを女性店長は頑なに拒否。
何か事情があるようだ・・・・。

●マドモアゼル・ブイヤベースにご用心
常連客の中に、三舟シェフの好きな人が
いるらしい。
いつもブイヤベースをオーダーする、
ニックネームは、「マドモアゼル・ブイヤベース」。
ある日、その女性から予約が入った。
どうも男性連れらしい。
どうする!?金子と高築はヒヤヒヤものだ・・・。
ところが思わぬ展開が待っていた。

●氷姫
ある男性の告白から始まる物語。
それはとてもつらい失恋の物語。
心も体もボロボロになり、パ・マルに
やってきた。結婚するはずだった
彼女はなぜ出て行ったのか?
三舟シェフは、男性の苦悩に心を寄せる。

●天空の泉
ある女性が回想する、若き三舟シェフとの
旅先でのエピソード。
そのたった一度の触れ合いが彼女の
運命を動かす。

●ヴァン・ショーをあなたに
若き三舟シェフの修業時代のエピソード
第2弾。マルシェでとてもおいしい
「ヴァン・ショー」(ホットワイン)
を飲ませてくれるミリアムおばあちゃん。
ところがある時から「ヴァン・ショー」
を作らなくなった。
それは何故なのか・・・?

「タルト・タタンの夢」の第2弾。
謎を解く鍵は料理の中に隠されていて、
三舟シェフがお客さんの話を聞くことで
その謎を解き明かす。

解き明かされた真相に、時に驚き、その想いに
切なくなり、胸がキュンとなる。

そして、シェフが出す料理が、傷ついた心を癒してゆく・・・。

今作では、三舟シェフの修業時代も
描かれる。その意外な一面にほっこりする。

この素敵な物語の数々に、はまってしまった。
何度でも読みたくなる。
何度でも癒されたい。

傑作!フランス料理×ミステリー。

『ヴァン・ショーをあなたに』
著者:近藤史恵
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
価格:¥770(本体¥700+別)

大切なものを守るため、命を懸けた少女たちの熱い闘い「同志少女よ、敵を撃て」

第11回アガサ・クリスティー賞受賞作
逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」
(早川書房)を読みました。
第2次世界大戦で一番激烈な闘いを強いられた
「独ソ戦」。ソビエトは、ドイツに勝利
するために、女性だけの狙撃小隊を編成。
そこに集められた少女たちの命がけの
闘いのすべてを描く。心が揺さぶられる傑作。

第2次世界大戦中、ソビエトはヒトラー率いる
ドイツと激しい闘いを繰り広げていた。

モスクワ近郊の小さな農村で母と暮らす少女・
セラフィマは、猟を得意とし捕った獲物は、
村の皆に分けていた。隣近所も家族のように
仲が良かった。

ところがある日、突如村に現れたドイツ兵に
よって彼女の平和は崩れ去った。
村の皆は殺され、焼かれ、母も惨殺された。
セラフィマは射殺される寸前、赤軍の女性兵士
イリーナに救われる。
だが、セラフィマの目の前で母の亡骸は冒涜された。
イリーナを憎むセラフィマ。
そんな彼女にイリーナは問う。
「戦いたいか、死にたいか」と・・・。

イリーナが教官を務める少女狙撃隊に入隊した
セラフィマは、同年代で同じような境遇の少女たちと
ともに厳しい訓練に耐え、一流の狙撃兵へと成長してゆく。

セラフィマの思いはただ一つ、復讐だ。
母を殺したドイツ兵と、母の遺体を焼いたイリーナに。

やがて、セラフィマたちは独ソ戦の転換となる
スターリングラードの前線へと送られた・・・。

訓練生たちと深い友情の絆を結んだセラフィマ。
しかし、死は否応なく訪れる。
目の前で銃弾に倒れる、仲間・・・。
凄まじい死の恐怖に怯えながら、それでも
復讐のために必死で敵を倒す。

圧倒的筆力で描かれる、戦争の非情さ、地獄。
そして、少女たちの心のゆらめき。
地獄にあっても、未来に夢を繋げる健気な
少女たちの心の強さが胸に突き刺さる。

この作品がデビュー作?
とても信じられない。凄すぎる、上手すぎる。

読後の余韻がいつまでも残る。
心を掴んで離さない、傑作中の傑作。

『同志少女よ、敵を撃て』
著者:逢坂冬馬
出版社:早川書房
価格:¥2,090(本体¥1,900+税)

美味しくて、ほっこりする「タルト・タタンの夢」

テレビドラマ「シェフは名探偵」があまりにも
良かったので、その原作である、近藤史恵さんの
「タルト・タタンの夢」を読みました。

読んでる途中も読み終わってもとっても
幸せな気分に浸れる、そんな作品でした。

商店街の小さなフレン・チレストラン
「ビストロ・パ・マル」は気取らない
本当にフランス料理が好きな客の心と
舌をつかんで離さない。
シェフの三舟は、無口でちょっとぶっきら棒。
髪を後ろで束ね、髭がなかなか特徴的。
外国人に言わせると「サムライ」だ。
そんなシェフの特技はなんと、謎解き!?

●タルト・タタンの夢
小劇団の人気女優が結婚のため、引退を
決めた。彼女の婚約者は「ビストロ・パ・マル」
の常連。ある日体調が悪いにも関わらず、
接待のため店にやってきた。
そんな中、店の様子をうかがう一人の
女性がいた・・・。

●ロニョン・ド・ヴォ―の決意
極度の偏食がある男性常連客。彼からの予約
が入るとシェフほかスタッフみな緊張する。
予約の日、女性を連れ立ってやってきた。
偏食の彼が注文したのは超癖のある
「ロニョン・ド・ヴォ―」。絶句するシェフ。
しかし皆の心配をよそに結構気に入ったようだ。
閉店後、彼の連れの女性が一人でやってきた。
シェフはそこで彼女の決意を聞くことになるが
シェフは意外な反応をする・・・。

●ガレット・デ・ロワの秘密。
「ビストロ・パ・マル」のスーシェフ
と彼の美しい妻とのエピソード。
フランスで出会った二人。あるクリスマス。
ガレットに仕込まれるべきはずのフェーブが
行方不明に・・・。
いったいどこへ行ったのか?

●理不尽な酔っ払い
店の女性常連客の連れはエッセイスト。
フランス人の彼と別れ、北海道で
エッセイを書いている。
彼との別れ話のいきさつを聞いたシェフは、
あることに気づく。

●割り切れないチョコレート
その日、ちょっと険悪ムードのカップルが。
さらに、男性の方が食事終わり、シェフに
ボン・ボン・オ・ショコラがまずいと
言い放って立ち去った。
その男性は新しくできたチョコレート店の
店長だった。クレームを受けたので
試しにその店のチョコレート買う。
チョコのセットはなぜか奇数ばかり。
後日再び例のカップルが店に訪れた・・・。

こんなミステリーがあったのかと感心した。
フランス料理×ミステリー。
料理の中に謎解きの鍵が隠されていた。
シェフはお客の話を聞くことで、
そこに秘められた思いを解き明かしてゆく。

読み進めると美味しそうなフランス料理が
次々と登場する。まるで自分も味わっている
ような感覚に陥る。

そして、シェフが解き明かした人々の思い。
それに気づかされた時、ハッとする。

読み終わった時に、温かい思いが染み込んでくる。

優しい気持ちになれる、何度でも読みたい
そんなミステリーだ。

『タルト・タタンの夢』
著者:近藤史恵
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
価格:¥770(本体¥700+別)

寿雪の秘密が明らかになる!?「後宮の烏6」

シリーズを重ねるごとに面白さが増す
白川紺子さんの「後宮の烏」。
シリーズ第6弾を読みました。

5巻のお話は、
高峻は様々な伝手をたどり寿雪を
烏妃から解放する術を探る。
絡まった糸をほぐす・・・。
初代烏妃・香薔の過ちを正すこと。
それは香薔が烏妃の中に閉じ込めた
烏蓮娘娘を解放すること。

自分は自由になれる・・・
それは喜ばしいことなのに。
自由になった自分の未来を思い描いた時、
強烈な喪失感を感じる寿雪。

そんな複雑な想いを抱きつつ
その日がやってきたのだ。

寿雪が解放される!?
ところが、思いもよらない事態が発生した。

そして6巻は、
噴き出した水によって黒く染められた
寿雪の髪はその色がすべて洗い流され、
銀髪が衆目にさらされてしまった。
前王朝の血をひく証・・・。
寿雪と高峻がひたすらに隠し続けた
秘密が知られてしまったのだ。

さらに、寿雪の魂は何処かへと去り、
代わりに烏が宿った。

誰もが寿雪の心配をする中、
衣欺ハが行方不明になってしまう。

寿雪の魂を呼び戻すためには肉親の存在
が必要だとされたが、彼女の両親はすでに
亡くなり、高峻は寿雪の肉親の捜索をするが・・・。

さらに、烏の半身探しに誰もが躍起になる。

寿雪が全王朝の血を引いてると知った
沙那賣がどのような出方をしてくるのか?
高峻は沙那賣の長男に探らせることに・・・。

これまでは、後宮内で起こる物語が中心だったが、
王朝全体、そして神々の因果にまで物語は
広がり、壮大なスケールになってゆく。
そして、新たな局面へと繋がる!

怒濤の展開が待っているのか?
7巻が楽しみだ。

『後宮の烏 6』
著者:白川紺子
出版社:集英社オレンジ文庫
価格:¥660(本体¥600+別)

険しき道に未来を見出そうとする。「後宮の烏5」

シリーズを重ねるごとに面白さが増す
白川紺子さんの「後宮の烏」。
シリーズ第5弾を読みました。

前作では、烏妃・寿雪をなき者にしようと
する動きがあり、高峻は益々寿雪を烏妃の
身分から解放する手立てを考えるようになる。
しかし、それは寿雪にとって真の解放に
なるのか?

宮中では、二人の側室が同時に懐妊し、
慶事に沸いていた。

その一人、燕夫人の侍女が夜明宮を訪れる。
懐妊し位があがり鵲妃となる燕夫人は
新たな宮へ移るのを頑なに拒み、侍女たちを
困らせているという。
移転先の宮は横死した元・鵲妃の住まいであった。
その宮を烏妃・寿雪に祓ってほしいとのことだった。

そんな中、高峻は様々な伝手をたどり寿雪を
烏妃から解放する術を探る。
絡まった糸をほぐす・・・。
初代烏妃・香薔の過ちを正すこと。
それは香薔が烏妃の中に閉じ込めた烏蓮娘娘を
解放すること。

ある烏妃の地元の伝説、夜明宮に伝わる烏妃の
首飾りなど・・・。細い糸のような手がかりから
真相につなげるといったミステリーもあり、
読み応えが十分だ。

寿雪は皇帝・高峻の側室二人が懐妊した
ことで、自分の心が揺れるのを感じた。

高峻は自分のために険しき道に挑もうと
している。
そして自分は自由になれる・・・
それは喜ばしいことなのに。
自由になった自分の未来を思い描いた時、
強烈な喪失感を感じる寿雪。

高峻の妃・花娘が彼らの関係性を見事に
言い表す。
それがあまりにも切ない。

果たして、香薔の結界を破り、寿雪は
自由を得ることが出来るのか?

クライマックス、あまりにも意外な
方向へと導かれてしまう!?

混迷の展開は6に続く!!!

『後宮の烏 5』
著者:白川紺子
出版社:集英社オレンジ文庫
価格:¥682(本体¥620+別)